犬っころ
俺は森の散策をする。
解毒ポーションを作った時に思ったが素材は多いに越した事はない。
ちなみにラティアンの実はあれ以来一個も発見してないから、相当レア素材だったようだ。
「シロウはなんでこんなところにいるの?」
「五日後に知り合いが草原でケルベロスってモンスターに殺される。俺はそれを阻止したいんだ」
国境を越す目処はたった。食べ物もコックに買い出しを任せているため、種類は少ないがそれなりの量を確保できている。
ここに留まっている理由は同郷の彼らのピンチを救いたいというただそれだけ。
その後の人生の面倒まで見る予定はないから、本当に自己満足だ。
翼も危機感を抱いて街を散策しながら、全員で助かる道を探してるようだしな。
「五日後……? 草原……? ケルベロス? シロウ、ごめん! そのモンスターはたぶん私のところの犬っころ……」
「はっ?」
ケルベロスが犬っころ?
犬っころって小型犬を指す単語じゃないの?
「もっと詳しく!」
「この国に魔王様と内通している人がいるのね? 私は直接面識がないんだけど……。その人から強いモンスターを一体売ってくれって問い合わせがあったらしいのよ。それで魔王様の命令で魔族領から犬っころを一体連れて来ちゃったの……。ごめんなさい!」
シルが盛大に頭を下げて謝る。
「犬の散歩って言ってたのはそれか……」
「うん。まさかそれでシロウに迷惑がかかるとは思ってなくて……」
シルが泣き出してしまった。
俺はシルを抱き寄せる。そして優しく頭を撫でて慰める。出会う前の行動まで責任を持たなくてもいいのに……。それに魔王に命令されて自分の任務を全うしただけだ。
その結果ケルベロスを討伐するために討伐隊が組まれ、たくさんの人間が命を落とす事になるのだが……。俺に言わせれば、内通者が一番悪い。
「大丈夫だから。シルは何も悪くない」
何より重要なのは、まだ事件は起こっていないという事だ。
しかし不思議なのは、魔王を倒すはずの勇者を魔王の手を借りて倒させるという内容。
計画的な陰謀が隠れているようだが、俺には関係ないか……。
シルが徐々に落ち着きを取り戻す。
「ケルベロスって、犬っころなんだろ?」
「うん。頭が三つあって三倍モフれるんだよ! すごいでしょ!」
そう言われると犬好きにはたまらないだろうが、小説とサイズに食い違いがあるのか?
「飛びっきり可愛い子を持ってきたよ」
可愛い子とか言われても犬の顔の良し悪しはよくわからん……。
ましてやケルベロス自体を見たことがないからな。
「モンスターの種類は先方に伝えてある?」
「伝えてないよ。連絡先知らないもん」
その契約は大丈夫か?
不備があったらどうするんだ?
「今草原に行ったらケルベロスと戦える?」
「できなくはないかな……、でも今倒しちゃったら、代わりのモンスターがいなくなっちゃうよ……」
「ブルーベア・オープン」
「クマちゃん! へぇー、青いのがいるんだね。赤いのしか見たことなかったよ」
レッドベアの事かな? それならブルーベアの進化後だ……。
最低でもそのレベルから始まる魔族領。ちょっと興味が出てきた。
「今日中にレッドベアにして当日に備えよう」
「おー!」
シルが遠足に行く気分で元気よく右手を上げて返事をする。
草原に行くのは下見のついでだ。
位置的には街を出て右手。俺が最初に進んだルートの先に見えてくる。
盗賊のアジトからだと南東。俺の魔法練習場も南東。延長線上に草原があると思っていい。
草原から魔法練習場は近い。近いからこそ、シルはあの場所に気が付いて水浴びをしていた。
草原までのモンスターはブルーベアに処理させる。相変わらずクマの進化条件には動物の命を奪う項目があり、それがクリアできていない。
基本は爪で急所を一突きだ。下手に何度も斬られると素材がズタズタに切り裂かれるため、高く売れなくなる。
「シロウ! あっちにクマちゃんがいるよ」
「ようやく二体目だな。クマって個体数が少ないのか?」
目を凝らしてクマのステータスを見る。
「あれは♀だな。俺が欲しいのは♂だから、倒しちゃおう」
ステータスを見ると残念ながら♀だった。
今ブルーベアになっているクマも♀だ。
モンスターボックスに限りがあるわけじゃないが、性別の被りは遠慮したい。
「モフモフは正義! シロウ、テイムしよ?」
ケルベロスの話を聞いた時にも思ったが、シルはモフモフ好きだ。
「それにあの子、目がパッチリしてて、可愛いよ?」
俺には違いがわからん。
「シルがそこまで言うなら……」
「やったー! クマちゃんゲット!」
喜ぶのは早い。まだテイムに成功してないぞ?
ブルーベアを後ろに下がらせて俺が前に出る。
前回は槍で一発殴っただけで瀕死になった。
どうしたものか。
俺はアイテムボックスから槍を取り出してブラウンベアに急接近する。
目の前でジャンプして三メートルの巨体を飛び越えた。
ブラウンベアは俺を捕らえようと手を上げるが、上げた時にはもうそこにはいない。
「動くな。テイムに応じれば殺さない。もし、まだ戦いたいならその時は容赦しない」
慌てて振り返ったブラウンベアの胸に槍の穂先を押し当てる。
毛皮がふさふさしてるから皮膚までは届いていないが、急所を一突きする準備は整った。
頭に槍を向けなかったのは単純に届かないからだ。
【ブラウンベアが仲間になりたがっています】
「よろしくな。ブルーベアも後輩ができて良かったな。仲良くするんだぞ」
クマ同士が頷きあっている。
シルはブラウンベアに飛び付いて仲間入りを歓迎した。
草原に到着。
所々に木は生えてるが、草しかない。
見通しが良すぎて逃げ隠れに困る。
ここで突然襲われたら、勇者たちは小説通りの結末になるだろう。
シルが草原を見渡して走っていく。
地面の石を避けて下の土を軽く退けて魔石を掘り出す。
「犬っころは時限式で設置されてるから解除するね?」
「テイムってできる?」
「わからない」
「やってみるか……。いつでもいいぞ」
戦闘時以外ではアイテムボックスに仕舞っている槍を再び取り出してシルに声をかけた。
「解除っと!」
小説に食い違いはない。三メートル台の超巨大な犬が現れる。
おー。かなりデカいぞ。
これを犬っころと呼ぶシルはどうかと思う。
でも、魔族領に一〇メートル台の犬がいたとしたら、コイツは間違いなく犬っころだ……。
「テイム、テイム」
「いきなりテイムって……」
「強かったら従うってさ」
ケルベロスにダッシュして近付く。ケルベロスの目が俺を捉えてる。
さすが魔族領の犬! 是非うちの番犬にしよう。
三つの頭は独立思考か? 六つの目から逃げ切るのはキツそうだ。
俺は一旦距離をとる。
「うーん、テイムは難しいな……」
「やっぱり?」
「場所変えていい?」
「場所?」
「ここじゃ本気で魔法が撃てない」
「いいけど、例の森?」
「うん」
「わかった。ほら、行くよ」
ケルベロスはシルの後を追って駆け出した。
シルに絶対服従の犬っころ……。なんだか可哀想だけど、これってテイム状態じゃないの?
もともと魔族領のモンスターは魔族に従うのか?




