3
本当沢山の方に読んでいただいているみたいで、怖じ気づいています。
でも、嬉しいです。読んで下さった方々に心から感謝を!
一目惚れねぇ。そんなの信じられないわ。
私の容姿は母親譲りの銀髪に紫紺の瞳を持ち、貴族令嬢達がうらやむ肌の白さと美貌を持っていると言われているけど、面の皮一枚のこと。美しいことにこしたことがないだろうけど、それでも私の周りの人たちは離れていったのよ。何の役にも立たない。それを一目惚れされたと言われてもね。あやふやで曖昧すぎて誰が信じられるか、というものよ。
阿呆な冒険者に絡まれるなんてまっぴらだから、さっさと必要な物を買ってこの町を離れることにした。が、旅立とうと預けていた荷車を引き取りに行くと、その阿呆な冒険者であるオズヴァルトが待ち構えていたのである。それも重装備の旅支度をして。
「何をしているの?そこをのいて」
仁王立ちして荷車に立ちふさがっているから邪魔だ。不機嫌を表しているというのに、この男はけろっとしている。
「俺も付いていくぞ!」
「いらない、邪魔、必要ない。男なんて大嫌い!」
「グフタスも男じゃねぇか」
「彼は彼なりの理由があり、その理念で付いてきているの。貴方と種類が違うのよ!」
旅と研究に役立つグフタスは信頼と言うよりも協力者と言った位置関係にいる。いつ私から離れても支障は無い。研究内容を持ち逃げされても別に構わないと思っている。出来上がった物に未練は無いし、後は危険な物が多いからきちんと再現できれば、だけどね。失敗すると確実に周囲10メートルは吹っ飛ぶ代物があるのだ。もしグフタスが誰かに情報を売ったとしても、町中で再現して失敗するととんでもないことになるだろう。
話はそれてしまったけれど、私の倍以上の年齢であるグフタスを男だと思ったことはないので、オズヴァルトと訳が違うのである。
「私は男が嫌いなの。自分勝手だし、単純脳細胞だし、下半身で生きているし、本当にろくでもない!!一番嫌いなのが人間の男で、一番信用がおけない心底嫌う理由が惚れたと抜かす恋愛がらみなの!よって、貴方は底辺よりもっと深い深淵に位置づけされているのよ!そんな男と一緒に旅なんて出来ないでしょう!」
ここまで言われると上っ面だけを見て一目惚れした程度なら幻滅して、関わるのが面倒と立ち去るだろうと予測したのに、
「アリアの周りにいた男はろくでもないな。下半身で生きていると言われたら否定できないところもあるけど、そんな男ばかりじゃないことをこの旅で教えてやるよ」
さわやかすぎるほどの笑顔でニカッと向けられたら、こっちが呆気にとられるしかない。
この男、本当に阿呆だわ・・・・・・私の本性を知ればその内離れていくだろうと、この場では無視することにした。だって疲れるのだもの。
ところが男、勝手に私の旅に付いてきて、確かに他の男とは違うというのが嫌と言うほど分かった。下半身で生きているのを否定しなかったというのに、「欲」というのが全て「力」に変換されているようだ。
「わははははっ!見たか、アリア!さっきのミノタウロス、10メートルは吹っ飛んだぞ!」
筋肉もりもりのマッチョというわけではないのに、半端ないパワーを持っていて、魔物が現れるたびに私より先にやっつけてしまう。流石に冒険者ランクAだけはある。
しかし、魔物をやっつけるたびに、
「アリアはどれぐらい吹っ飛ばせるのだ?」
と問うてくるのだ。それも俺の方が凄いだろう?ときらきらと輝かせながら。
「いや、私一応女なんですけど?魔物を吹っ飛ばす趣味はないんですけど?」
『何を言う。アリアは毎回魔物を吹っ飛ばしているぞ。それもオレが気持ちいいと思えるぐらいに見事に吹っ飛ばしているぞ』
「ほう、そうかそうか、今度はアリアに譲ろう。存分に吹っ飛ばしてくれ」
毎回毎回、否定しているというのに、ルプスが絶賛しオズヴァルトが感嘆の声を上げる。この一匹と一人はあれから仲良くなってしまったのだ。
多分、阿呆と馬鹿で気が合うのだろう。
「あのさぁ、あほ・・・じゃなかった、オズヴァルトは私に惚れて付いてきているんだよね?何処に惚れたのかって聞いてもいい?」
旅が始まってから、言い寄ってくるとか口説きに来るとか想像していたんだけど、それどころか食事するとき以外は殆ど一緒にいない。
道中はあっちにふらふらこっちにふらふら、その度に魔物や動物の肉を持って帰ってくるから食材には困らなくなったけれど、言っていた目的とどうも行動が伴っていないような気がする。寝るときも離れているし。断じて期待していないからね!
「俺がアリアに惚れたところかぁ・・・実はな、アリアとの初対面は町ではないんだ。それよりももっと前、依頼を受けた帰りの迷いの森の手前だったかな。そこで魔物と戦っているアリアに遭遇したんだ」
「・・・え?」
全然気づかなかった。
「その時はおっちゃんと嬢ちゃんはいなかったが、魔物10体に囲まれながらも平然と木々をなぎ倒しながら、そしてクレーターを作りながらも、最後は恐ろしくて逃げ惑う魔物に容赦なく魔法を浴びせる姿に惚れたんだ」
「・・・・・・・・・」
「女性の大半は男にこびるとか、すり寄ってくるとか、恥じらうことが多い、そしてこういう場面は助けを求めるとかするもんだろ?このルプスも大概強いというのに助けすら求めずに一人で立ち向かう姿は美しいとさえ思った。周りや後のことを気にすることなく破壊する様に、魂が震えたんだ。俺の今までのやり方は間違いだった。自由に力を震えば、俺はもっと強くなるんだと。一瞬の出会いで魂が震えたんだ。なら、アリアと一緒になれば、常に刺激を与えられ高見に上れるんじゃないのかと」
「・・・・・・・・・」
阿呆だ、馬鹿だ、脳筋だけでなく身体の至る所、内臓から爪の先まで筋肉に犯されている!
一目惚れなんて言うもんだから、私の母親譲りの容姿に惚れたんだと勘違いした私が恥ずかしいじゃないか!
ああ、そうかい、そうかい。私の非道なまでの容赦無さをお気に召したんだね。だったら容赦なくこき使ってやるわよ。幸い私達の目的は大物魔物がうじゃうじゃ住んでいる深魔の森だし、丁度試したい研究があったのよね。強くなりたいのなら人体実験させてもらおうじゃない。
深魔の森までの数ヶ月、魔物退治はオズヴァルトに任せ、身の回りと食事はリアーヌにお願いし、私は研究と実験に明け暮れた。成功すればグフタスに土台となるものを作ってもらい、手が空いているときにはこれから必要となるだろう家の構造なども考えてもらいつつ、荷車をもっと快適になるように手を加えてもらった。
この荷車、見た目は2畳ほどしかないというのに、中に入れば左右にドアが三つあり、そこを開ければ空間魔法で作った部屋がある。各部屋の大きさは4畳半ほどだけど、グフタスが作ったベッドもあるし収納棚やタンスもあるのだ。荷車の床にもう一つ入り口があり、そこには同じく四畳半ほどの広さに、食料や魔核、魔物や動物の毛皮、薬草などが所狭しと入っている。
空間魔法で部屋を作る魔法陣が出来たけれど、まだ四畳半の広さが限界なのだ。他にも広げた空間が重なり合わないようにしなければならないという制限もあるので、この荷車では繋げられる限界がここまで。お風呂を作りたかったのに・・・・・・。
それは新居に作ることにしよう。楽しみは後で、である。
せっかく前世の記憶があるのだからと、この世界にない食べ物をリアーヌに作ってもらっている。唐揚げやハンバーグ、コロッケ、シチュー等々、旅の間でも出来る簡単なものしかないけれど、皆には好評だ。
だけど、私は甘い物が食べたい!ケーキやプリン、アップルパイなど。ケーキやプリンは材料がそろって落ち着ける場所があればなんとかなるだろうけど、アップルパイは・・・
リンゴがこの世界にないのだ。
だから、植物促進でなんとかならないだろうかと、人体実験の合間に試行錯誤している。手応えを感じているから、深魔の森に着く頃にはなんとかなるだろう。あ、後モンブランも食べたいわ。
他にも米やブドウなんかも出来上がった。こっちは元となるもがあったからね。早かったのだ。
ああ、楽しみだわ。私の新天地。
「うおおおおおっ!力がみなぎってくる!山を全力で走りきることも出来そうだ!」
研究をしている私の元に、雄叫びを上げているオズヴァルトの声が届く。
「これはいけるぞ!アリア!今度は成功だ!!」
「煩いよ。オズヴァルト、荷車の近くで叫ばないで!成功だと思うんだったら近くに潜む魔物でも狩ってきたら」
「おう、そうする。このみなぎる力を試したい!では早速」
ズドドドドという走り音が徐々に音が遠ざかっていく。本当に筋肉馬鹿ね。後先考えずに走り出したわ。
「ルプス、後はお願い」
魔物の魔核に刻んだ魔法陣をオズヴァルトに与え発動させ、どのような結果になるのかを人体実験させてもらっている。今は体力と筋力アップの魔法陣を作っている途中だ。
あの様子じゃ限界まで力を振るい、倒れるだろうと思われるので、オズヴァルトの回収を頼んだ。
戦士や剣士は身体能力アップというスキル持つことがあるようだが、簡単に訓練次第で身につくような代物ではない。オズヴァルトは持っているようだけど、私達は持っていない。これから先、魔物が多発する深魔の山に入れば力尽きることもあるだろう。まして、リアーヌとグフタスは多少戦えるとはいえ、きつい。力尽きたらそれで終わりとなるのだから、万全で挑みたい。だから、スピードアップや結界等、戦闘と身を守る術を万全にしようと開発中なのだ。
王都では開発にも制限があったから、やりたくても出来なかったことばかりだ。まず、人体実験が許されていなかったものね。
身体に影響する実験で失敗しても、鋼のように強い筋力を持っているオズヴァルトは多少吹っ飛んでも、けろっとしているからうってつけである。
恥をかかされたけれど、良い出会いをしたものだ。私で実験したら、木っ端みじんとなっていたことだろう。おお、怖っ!!つうか、私もそれを分かってて人にさせているんだから自分自身怖っ!!
ま、保険として先に治癒の魔法陣を作っているけどね。私も他のメンバーも治癒魔法が使えないんだもの作るしかないでしょ。
さて、さて、また数ヶ月かかってようやくたどり着いた深魔の山は、見るからにおどろおどろしい山だった。山というか山脈だね。その一番高い山が深魔の山と呼ばれている。
魔物が強いということは、魔素が多く餌が豊富で蹂躙されることがないということなのだろう。確かに、見るからに険しい部分が多いので、人が住むには適していなさそうだ。
「では、深魔の山に入りましょうか。皆さん用意は良いですか?」
各自の装備は、スピード、筋力、体力、魔力、防御アップの魔法陣を刻んだ魔核を仕込んだ靴にブレスレット、指輪、服を装備している。使いすぎて壊れたときのために、20セットほど予備もある。
私には結界魔法があるから良いけど、他の彼らにはいざという時のために簡易の結界を張る魔核をこれまた20セットほど袋に入れて常備してもらっている。
魔物が多いといわれている山で、私達が住めそうな、ある程度なだらかな広がりがあり、水源が近くにあって、魔物が少ない場所を探すだけで、魔物の殲滅をするわけではない。
土地が見つかったら、結界魔法を刻んだ魔核を埋め込んで、魔物が入ってこないようにするだけでいい。
その実験は今までやってきたけれど、どの程度上位魔物まで効果があるのかも調べたいところだ。ルプスまでなら跳ね返すことは出来たけど、何十回と攻撃されたら壊れてしまった。
その問題も上位の魔物である魔核があれば改良できるので、この深魔の山に期待している。
「うお~~~っ、腕が鳴る!」
『オレも久々に暴れてみるかな』
「新しい食材・・・・・・」
「ところでアリア、この荷車はどうするんだ?」
深魔の山を見上げてそれぞれが思っていることを口にしているが、誰一人として恐れることはない。余計な力がないというのは良いことだ。後は油断しないだけだね。
あ、そうそう、荷車の話しになっていたわね。
「荷車はもちろん持って行くわよ」
約十ヶ月一緒に旅をしてきた荷車を山が登れないという理由で置いて行くはずがないじゃない。
「「「『は?どうやって?』」」」
どうしてそこで皆の声がそろうのよ。簡単なことなのに。
「険しい山であっても、木を根こそぎ切り倒し、岩が立ちはだかれば砕けば良いだけで、道は作れるわよ。荷車にも衝撃吸収と軽量、強化の魔法陣を刻んでいるし、壊れることがないわ」
「「「『・・・・・・そうだった、アリアはこんなやつ(人)だった』」」」
何?今まで大人しく研究に明け暮れていたから忘れていたの?好きなように生きるんだから、周りなんて気にしないわよ。
山の形が変わるなんて気にしていられないわ。魔物が逃げて他の地に逃げたとしても、そんなの知らない。
まあまず、強い魔物が多いのなら、逃げるよりも住処を荒らす私達を狙うでしょうね。そうなれば魔核を取り放題。研究し放題。ふふふ、何て素敵な山なのでしょう。
ただ、寝るのも好きな私だから、睡眠時間の邪魔をするような場所に住まいを作るつもりはない。
まぁ探してなければ無理やり地形を変えて作るつもりでいるけどね。
「さぁ貴方たち、勝手に付いてきたんだから、しっかりと働いてちょうだいね」
「「「『・・・・・・・・・』」」」
何よ、文句あるの?
ルプスには十分楽しませてあげたわよ?魔物を吹っ飛ばし、地形を変え、研究や魔法の実験で生きるか死ぬかの瀬戸際を。生きる喜びを上げたじゃない。
グフタスには私の研究を一緒に手伝い、その土台を作ることが出来たじゃない。これからも新天地ではもっともっとその技術が役に立つことになるわよ。
リアーヌも見たこともない料理を知り、見たこともない食材を真っ先に調理できるという権利があり、私がしでかす一部始終を安全な荷車から見ることが出来て満足でしょう?
オズヴァルトは魔法陣で強くなったでしょ?彼に関しては以上、言うことなし。
勝手に付いてきた人たちに部屋を与え、ご飯を与え、娯楽を与え、安全を与えた私に感謝して、恩を返すのは当たり前じゃない?
「ほら、さっさと動く!日が暮れるわよ!」
深魔の山の入り口は、冒険者が時折訪れるのか途中までは荷車も一緒に通ることが出来た。だが、半日もしないうちに険しくなり、木々が邪魔で進めなくなってきたので、風魔法で木の根元のから切り倒し、同じ風魔法でこちら側に木が倒れないように調整する。出来上がった道は最低2メートルの幅がありで50メートルの道が出来た。地面すれすれを切ったので、荷車の邪魔にならない。
木々が倒れる音に吃驚して鳥や獣が逃げ惑い、魔物が集まってくる。その魔物達はルプスとオズヴァルトでやっつけていく。リアーヌはエルフらしく弓で応戦し、グフタスは土魔法で魔物達の足止めをしている。私は空から魔物に向かって水の矢を100本ほど放った。
狙って討っているわけではなく乱射である。よって打ち抜かれた魔物はボトボトと地上に降り注ぐのだ。
「アリア!!俺を殺す気かっ!!落ちてくる魔物で圧死するだろう!気をつけてくれよ!!」
「嫌よ。なんで気にしないといけないの。それぐらいよけてよ。というか、それ位で死ぬような装備を作ってないわよ」
『なんだか懐かしいような言葉のやりとりだ』
私達に死角無し。なかなかに良いチームワークだと思わない?
そんこんなを続けながら10日間、丁度良い場所を見つけた。多分なんだけど、深魔の山とそれに連なる山の間ぐらいに、ある程度なだらかで、小さいながらも湖がある素敵な場所だ。
「木が密集して鬱そうな雰囲気だけど、この辺りを真っ新にすればなんとか住めそうね」
ここに来るまでに魔物ランクBのリザードマン、ブラッドタイガー、ジャイアントスネーク等々が襲ってきた。幸いなことに特殊能力である、毒や痺れ、石化などの力を持っていない物ばかりで私達でも進むことが出来たのである。
ただうんざりするほどの数だった。手のひらサイズの大きな魔核が私の部屋の半分を占めているのだから、相当だろう。
よく生きているね。私達!それも五体満足で。
「さぁ~て、今日はゆっくりと休むとして、明日からはこの地に楽園を作るためにきりきり働くわよ!」
「「「『はい、はい』」」」
私は余りある魔力を魔法に変えてぶっ放しているだけなので、それほど体力は使ってないが、他のメンバーは神経と体力をすり減らしてへとへとになっているようだった。
仕方ない。明日も一日休息にするか。
ま、土地の障害物を取るのはもっぱら私の魔法だしね。他の人たちはその片付けぐらいしか出来ない。
そうして三日かけて、必要の無い木を切り倒し、切り株を掘り起こし、鬱蒼と茂る草を焼き払い、土を耕して畑を作る。
切り倒した木はグフタスの指示に従い切断していく。こられはその内、家になる素材だ。
楽しい、楽しい新天地!始終ニコニコで私は仕事を続けた。
魔物除けの結界は、この深魔の山で取った魔核を使い作ったので、今のところ魔物の侵入はない。ルプスも魔物だけど、対象外となるように魔法陣を刻んだペンダントを付けているので結界に入ることが出来るようになっている。
私って何て面倒見が良いのでしょう。
家も建ち、この家は見た目は前世でいう一軒家ぐらいの大きさだが、空間魔法を多用しているので、見た目よりも3倍は広い。それぞれの部屋を作り、念願のお風呂も出来上がった。テラスも作ったので、優雅にお茶することも出来る。
畑にはこの世界にはない、トマト、唐辛子、サトウキビ、イチゴ等々数十種類が飢えられており、もちろん離れて米も作っている。
果樹園には念願のリンゴだけでなく桃と栗も出来上がった。食べたかったアップルパイとモンブランが食したときには、私は久々に泣いたね。あの時とは違いもちろんうれし泣きである。
ここまでくるのに、この地にたどり着いてから約1年かかった。その間に、迷い込んだボロボロの冒険者がやってくることもあった。
その冒険者がこの地を見たときの感想が
「とうとう俺は死んでしまって天国に来たのか」とか「桃源郷って本当にあったんだ」等々。ポカンと呆気にとられて動けないことが多かった。その後は決まって気絶するという、なんともはた迷惑な冒険者達だ。放置しても良かったんだけど、そのまま結界の入り口で朽ち果てられて異臭をまき散らされても困るので、一通り手当てをして、食料と、ちょっとはまっている薬草学の研究途中である体力回復薬、いわゆるポーションを与えて帰ってもらった。
そして2年目には冒険者達の間にこの地が有名になり、一攫千金に深魔の山に訪れるのではなく、夢のような食べ物があり、回復や装備まで与えてくれる女神がいると噂になり、この地を探す冒険者が増えた。
段々と増えていく訪問者に面倒くさくなって結界の外に、エルフ直伝の方向感覚を狂わす結界を張ったのだが、この山を目指す冒険者達はそれなりの実力を持っているので、効かないこともある。
さっさと帰ってもらうために彼らの望む物を与えれば、その日のうちに帰ってくれるので、出会って直ぐ「願いは何だ」と聞くようになった。
なんだか、とある龍になった気分だ。
大抵はこの世の物と思えない食べ物を食べたいという至って簡単な願い。時折、装備が欲しいという奴もいるが、それもグフタスが暇さえあれば作っているアーマーやブーツなどがあるから、後は強化や神速などの魔法陣を刻んだ魔核を付けるだけ。こちらも簡単。
迷い込んでくる奴は仕方ないにしても、オズヴァルトが鍛錬だ!と深魔の山に一人で入って、ボロボロになった冒険者を拾ってくるのだ。それだけではく、最近じゃ商人や旅をしている一般人まで山に入り、ボロボロになっているところをオズヴァルトが回収してくるようになった。
商人は珍しい食物の種を欲しがったり、仕入させて欲しいと言ったり、一般人は親が病気になったので回復薬や薬草が欲しいとやってくる。
対応が面倒くさいので、グフタスとリアーヌが私の許可を得て、欲しいものを与えてさっさと帰ってもらっている。
時折、今の私では技術的に出来ないことも請求され、出来ないとなったら私のプライドが許さないので、出来上がるまで逗留してもらうか、一度帰ってもらい、空間魔法の応用で作った転移を使ってそいつ(依頼主)の元へ行くこともある。
こんなことを続けていると、本名を知らない彼らに二つ名を付けられるようになった。
「あ、そうそう、最近賑やかになってきたから、私は旅に出ようと思う。ついてくるか?」
暫くこの地を離れて留守だと分かれば、来なくなるかも知れないと期待するのもあるが、安住の地を得た後にやりたいこともあったので丁度良い時期だと思う。
「アリアの監視も兼ねているからもちろん一緒にいくさ」
『最近暇していたからもちろん行くぞ』
「食材探しに一緒に行く」
リアーヌは段々と元の目的と違ったものとなっていってるよね?気づいてる?
「この辺りの魔物には飽きたから俺も付いていく!」
リアーヌと違いぶれない人もいるよね。何にしろ、皆が一緒に来るんだ。また暫くあの荷車の出番だね。
前の旅とは違ってこの二年の間でバージョンアップしている荷車は、フロだけでなく台所まで付いているのだ。見た目は小さいけど快適だよ!
そして安住の地を出た私達は、私の目的である生まれ育った国へと旅だった。
もちろん、私が元気に生きていることを知らしめるためである。せめてもの仕返し。
このいつものメンバーだけでなく、この二年で知り合った、魔術馬鹿であり、とある国の第三王子のカミールと、お金に関しては凄い情熱を見せる商人のジルベール、いつの間にかオズヴァルトの弟子となっていたケヴィンにも旅に出ることを連絡すると、三人とも付いてくることになった。
魔術馬鹿には私と通じる物があり、意見のやりとりをたまにしている。商人のジルベールには、安住の地では手に入らない物を仕入れてきてもらうこともあるので重宝しているのだ。オズヴァルトの弟子になっていたケヴィンは論外だけど、私達が住む土地に立ち入ることを許された数少ない人たちだ。
ちなみにケヴィンにはオズヴァルトが勝手に連絡したので、私は彼の面倒は見ない。
勝手に付いてくることになったとはいえ、元々はカミールとジルベールは私にとっては客人だ。それなりのおもてなしはするが、魔物に襲われて倒れることまでは面倒は見られないので、自分の身は自分で守ってもらうつもりだ。
カミールとジルベールはそれぞれ自国の家、もしくは城から私が与えた転移陣から深魔の山に来ていたのだが、私の旅の道すがらを考えると彼らの自国を通るので、旅の始まりからではなく途中から合流することになった。
そして私、ルプス、グフタス、リアーヌ、オズヴァルト、カミール、ジルベール、ケヴィンの8人が目にしたものは、変わり果てた王都であった。
城下町には活気がなく、建物も至るとこの壁が剥がれ、屋根も穴が空いている。修繕した後がないということは、立ち退いて人が住んでいないのだろう。道もいつもなら石畳が綺麗に敷き詰められていたのが、土がむき出しになっていた。
道は民からの税金で修繕できるはずなのに、これは一体・・・いくら三年半ぶりとは言え、この衰退は異常である。王のお膝元である城下町が見るも無惨になっている。
余りにも変わりように唖然としつつ貴族街に入ると、そこはまだマシなようだけど、やはり活気がない。
なんだか嫌な感じがするので、一度町の外に出て念のために保険をかけておいた。
私が元気で生きていることを知らせるためだけなので、城の門番にでも声をかけておこう。そして1日この街で泊まって何もなければこの地を去るつもりだった。
それが何故か、今現在、城からの招待が届き王様や王子の前にいるのだ。それだけでなく、弟のリカルド、騎士のハンス、同級生のリカルド、先生とあのミズキまでいるではないか。
それも私を招待しておきながら、どいつもこいつも何故私がここにいる?と驚きと疑念を浮かべている。
「アリアって、貴様だったのか!!」
謁見の間でお偉いさんが並んでいるというのに、王子であろう立場の者が大声を出すのはどうかと思うが、三年半たっても変わっていないと言うことだな。
「貴方たちが私を呼んだんでしょう?まぁ、私も貴方たちに丁度用事があったので助かりました」
「いや、ちょっとまて、私達は深魔の山に住む『銀月の陣術士』もしくは『救いの銀の女神』を招待したのだぞ。なぜお前が来る!」
うわ~恥ずかしい二つ名を本人を目の前にして叫ばないで欲しい。
深魔の山に遭難して帰って行った冒険者達が勝手に付けて広まった名前だ。ここまでくるのに何度もそう言って拝まれたから、アリアと本名を教えたんだけど・・・それらの二つ名と『アリア』は同一人物だと紐付け出来たけれど、私だとは思わなかったようね。
死んだと思っていたから気づかなかったのかな?銀髪でアリアといえば、貴方たちにはなじみ深いと思うだけど、それだけ私が軽い存在だったということか。
「私はとうの昔に死んだと思っていたようだけど、残念ながら生きているし、その(恥ずかしい)二つ名は私に付けられたものよ。貴方たちが私を疎んじて死んでしまうように仕向けたみたいだけど、私は生きている。それも自由にやりたいことをやって気ままな楽しい人生よ。私に無実の罪を押しつけてくれたお陰で手に入れたから、一言有り難うと言いたかったの。では、さようなら」
一刻もこの場を去りたくて、言いたいことをまくし立てる。王様が一言も話すことなく、用は終わったとばかりにくるりと踵を返して歩き出す私達。
「おい、アリア今まで事情は聞いていなかったが、無実の罪で死にかけていたのか?」
歩きながら、こっそりとグフタスが声をかけてくる。
「ええ、そうよ」
『主をおとしめるなんてけしからん、滅ぼすか?』
「楽しそうな話をしているな。城を壊すのか?」
「桃というのを独占させてもらえるのなら手伝うよ。どうやら腐っている国みたいだから、取引できそうにないしな。いっその事、頭がつぶれた方がこの地では取引しやすくなりそうだ」
何て言うか、物騒なメンバーばかり集まっている。そういう点では私以上に非情じゃないだろうか?
横で既に術の詠唱を上げているカミールに肘をついて止めさせる。
私は別に復讐なんてする気が無い。すっかりと興味が失せた国なのだ。ただ私が生きていることを知ってもらい、計画が失敗したことを悔しがってもらいたいだけなのだ。
もう、これで十分と思って自分から扉に手をかけたところに、
「待って下さい!アリア様!」
私を「様」付けして呼び止めたのは、お妃修行でよく顔を合わせた宰相だった。
「この国はもう立ち直る力が無いくらい衰退しています!ミズキ様の贅沢な政策のお陰で国庫に底がつき、民から絞るだけ税金を絞って賄っているから民は離れていく。耕す民がいなくなれば土地が荒れる。作物が育たないから飢えがしのげない。悪循環に陥って手が出しようがないのです。どうか、助けて下さい!」
「そ、そんな・・・私は・・・民が幸せになるようにと・・・宰相様・・・っひどい・・・」
「ミズキは貧しい人のために炊き出しを施したり、病人のために施設を作ったり頑張ったじゃないか。運営が上手く出来ないからと言ってミズキに当たるのは的外れだろう!」
「それだけではありませんよ。人と同じドレスが嫌だからと豪華絢爛なドレスを夜会ごとに仕立て、楽しく笑いが途切れないようにと、シーズン以外に舞踏会を開催し、その度に貴族達は領地から赴かなければならないのですよ?領地経営も出来なくしておいてよく―――」
そりゃ、国が傾くわ。聞いていたらミズキも馬鹿だけどそれを許す王子達も馬鹿すぎる。帝王学も王となるべく勉強もしていて、どうしてこうも好き放題に手を貸すのか。
私も好き放題しているけれど、全部自分の手でやっているわよ。一緒にしないでね。虫ずが走る。
「それで、私に何をしろと?」
「アリア・・・・・・」
横にいたグフタスとジルベールが、振り向きもせず宰相に返事した私の態度を正確に理解した。
「貴方は植物促進の魔法陣を完成させたと伺いました。それで植物を、民の飢えを救っていただきたい」
「国庫管理からは貴重な唐辛子とサトウキビを頂けたら、それを元に外交を行い街を修繕出来ます」
「この国の責任において、お前の能力を存分に使い国に貢献したのなら、公爵の位を授けよう!」
『お、お、お、アリア・・・こりゃ、やばいぞ。皆逃げる用意をしておけ』
「おう」
「わ、分かった」
扉を持つ手がぷるぷると震える。このまま取っ手が熱した飴のようにぐにゃりと曲がってしまいそうなほど力が入る。
「アリア、良かったな。汚名返上出来るチャンスが来たじゃないか」
「アリアさん、民が困っているのです。助けてくれますよね?」
宰相と管理者、王の提案に、王子とミズキが的外れな言葉を吐く。この二人の頭には花しか埋まっていないのだろうか?
「貴方たちは私に無実の罪を着せて、死ぬ思いをさせたのを忘れていませんか?私が『銀月の陣術士』と呼ばれるに至る経緯は、生きて行くに必要だったからですよ!ただ願えばほいほいと叶えてくれるものではありません!血と努力の結晶のたまものです!努力もしないで何を言っているの!私が願いを本気で願いを叶えるとでも?」
魔力が高まり、私の周りでは陽炎のように空気が揺らめいているだろう。上位の魔物であるプルスも私から一歩後ずさる。
「何を言っているの、アリアさん。貴方は幸せな人生を歩んでいるじゃない」
「確かに、自由に生きていけるのは貴方たちのお陰だわ」
「違うわよ。そんなことを言っているんじゃなくて、貴方、美形ばかりのハーレムを作っているのだから、そんなに苦しい思いなんて嘘なんでしょう?でないとそんなに美形ばかり集められないわ」
「・・・・・・は、い・・・?」
このミズキは一体何を言っているのやら?こんな切迫している場面で的外れも的外れの台詞の羅列。どんな顔で言っているのかと振り返れば、ほらほらと指をオズヴァルト達に向けている。
へ?
彼らが何?
「皆美形じゃない!」
今まで容姿なんて関係なく接してきていたけど、オズヴァルトは野性味ある触れる男前だし、カミールは麗人と呼べる美貌を持っていて、ジルベールは知的な青年で、ケヴィンは可愛さの残る健康的な軽やかさ、リアーヌは女性だけど、エルフの血が入っているので言わずもがな。儚げな美人だ。グフタスはドワーフ族だと身長が低いイメージがあるのだけど、割と長身で無駄な脂肪がない素敵なおじさま。そして魔物であるルプスは王様の前に出るのだからと人型に変化していて、これまたミステリアスな雰囲気の出で立ちなのだ。
うん、今気づいたけど皆が皆美形だったわ。
「ずるい、主人公の私以上の美形ばかりのハーレムじゃない!」
あ、・・・・・・・・・今、思い出した。この世界は『恋の魔法陣』とかいう乙女ゲームに似た世界だ。そして私は本当に悪役令嬢だった。
ふ~ん、なるほど。このミズキはハーレムを作るために、私を無実の罪で追放したのね。そしてそれを悪いと思っていない。
んで、ミズキの周りにいる男性陣よりも、私の周りにいる仲間の方が美形度が上なんだ。だったら・・・・・・
「それでは自己紹介をしましょうか。グフタスはドワーフの長老であり伝説の彫金師でもある。リアーヌは美形から察すことが出来るようにエルフ族よ。オズヴァルトは冒険者ランクAであの有名な『剛炎の戦神』と呼ばれる者よ。カミールはアーノルド帝国の第三王子でジルベールは今力を付けているディック商会の息子。そしてルプスは『森の破者』と呼ばれる上位魔物よ。どう?皆素晴しいでしょう?皆が皆個性的で私(の色々な部分)に惚れている人達よ。貴方が色仕掛けしても誰一人となびかないわ」
紹介の途中で名前が挙がる度に会釈をしていく皆に、ミズキはぽーっと見とれていた。そして最後の私の言葉に悔しそうに顔をゆがめる。
可愛いだけの取り柄であるミズキに、この強すぎる個性の人たちには物足りなくて誰一人と付いていかないだろう。
「簡単に切り捨てられるような、薄っぺらな繋がりではないのよ」
これは私を見捨てたここにいる人たち全てに向けてのメッセージ。宰相や魔法省の長官など心当たりがあるようで、渋い顔をしている。自分可愛さに、私が無実だと王子に言えなかったんだもんね。私の言葉で出十分に心を痛めなさい!
「この城どころかこの国を滅ぶまで私に手を貸してくれるわ。これ以上、私を怒らせないことね」
今度こそは誰一人として止める物無く出て行けると思っていた。でも王が「取り押さえろ!」と命令して騎士達が私達を囲う。
「もう、本当にどうしようもない人たちね。国民が哀れで仕方ないわ。カミール幻影で時間を稼いで、皆は私の周りに」
カミールが操る炎の幻影で慌てふためいている間に、私は転移の陣を完成させ、保険として準備していた転移の陣に飛び、街の外に出た。
そのまま、物陰に隠してあった荷車に乗り込み、深魔の山に向けて旅立ったのである。
あのミズキの悔しそうな顔。それだけ見れたら満足だ。
思わぬところで一矢報いることが出来たのだから。恋愛のもつれで追い出した私が彼女以上のハーレムを作って(嘘だけど)帰ってきたのだから、彼女にとっては負けた気分になるわね。
ふふふ、私は気分が良いわよ。
王都に着くまでの間、疫病が流行っている町に入ってしまい、自分が疫病にかかるのが嫌で、町全体に治癒の魔法陣を展開して疫病を鎮めた。あるところでは川が増水して橋が流され孤立している村に遭遇してしまい、迂回するのも面倒なので、グフタスと一緒に橋を作ったこともある。
行く先々で困難に遭い、自分の旅の邪魔にならないように排除しただけなのに、人々の間では『救いの銀の女神』が助けてくれたと広まっていた。
それが、王都では救いの手を伸ばしたにもかかわらず、助けてくれなかったことに、『救いの銀の女神』に見捨てられた。女神を怒らせた。この国にいると慈悲をくれなくなる。神の怒りを買った国。と広まり、一年も立たずに国の殆どの民は他国へと流れていった。
残ったのは・・・ミズキとその取り巻きの貴族達だけ。後は国を出ることが出来ない貧しい人たち。
そうして小さな国の一つが滅んだのだ。
ミズキ達がどうなったのかなんて分からない。国を出たのか、それとも残った国民に殺されたのか、深魔の山に籠もっている私達の耳には入ってこない。
「ラーメンを作ったし、今度はカレーが食べたいよね!」
深魔の山は私達が、というよりは殆どが、オズヴァルトとその弟子であるケヴィンが魔物を狩っていくから数を減らし、結構住みやすくなっている。一部の大物魔物はルプスの配下となって私達を襲うことはない。
私の安住の地は初めに作ったまま何も変わらずにそこにあるのだけど、深魔の山の麓ではかなり様変わりしていた。
衰退していく国に留まるしか出来ない民を哀れだと嘆いていたカミールが自国を動かし、手を貸してこの深魔の山の麓に連れてきて、小さな貧しい村を作った。初めはテント生活だったのが、そこにグフタスが手を貸して村になり、オズヴァルトにあこがれる冒険者達が集まりだしてギルドが出来た。リアーヌが作りすぎたデザートや食べ物が勿体ないからと、村で売り、そこから真似して屋台が出来た。商売の臭いをかぎつけたジルベールが商会の支部を作ったものだから、村が町になり、そろそろ街になる勢いだ。
山の麓に出来た町の人たちは、女神のお膝元と言うだけで満足して、山に入ってこないので私は見て見ぬふり。実験は山の反対側で行えば良いことだし、それほど不便ではない。それどこか屋台が出来て、いつでも好きな物が食べられるような環境になったから私もちょっと満足している。リアーヌが美味しい食事を用意してくれているのは有り難いが、たまに口が違う物が欲しいときあるよね?そういうときにリアーヌが料理を教えて広まっていった屋台が役に立っているのだ。
ようやくラーメンが広まり、町の人たちで改良をして色んな味のラーメンを食べることが出来るようになったけど、庶民の味で皆様の好物のカレーがないのだ。食べたいと思ったら食べたい!なんとしても食べたい!だったら・・・
「んじゃ、カレーを作る旅に出るけど、付いてくる人はいる?」
食材を探し作るしかないよね?
いつものメンバーはいつものように突然の提案にため息をついた。
気ままで自由で、そして至って平和でのどかな光景である―――
これで最終話です。
ここまで読んで下さって有り難うございました!!