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怪獣狩らないと滅ぶ世界について  作者: ザイトウ
【第三章】二週目開始のデスパレード
42/50

・第四話・銃

 謎の洞窟。奥へ進むたびに妙な違和感が増大していく。

 出入り口付近はそうでもなかったのだが、奥へ進んでしばらくすると途端に歩きやすくなった。地面が平坦になり、次第に直線となっていく。そのまま更に進むと、再び岩の壁が目の前に立ち塞がる。


「これって、ウェザリングみたいなものか?」

『プラモで汚したり傷を作ったり加工してリアリティを出すあれ?』


質感を確かめると砂っぽいザラザラした感じはあるものの、重量が見た目に比例していない。例えるなら段ボールや発砲スチロールを材料にした舞台セットのようなイメージを感じる。暗がりである為見分けは点き辛いし、そういった知識がなければ脆い岩くらいにしか思わずに終わっただろう。

むしろ、軽い石なんざ天井が崩れる予兆じみて感じ、触れたくもないだろう。

 そのまま岩の形を触っていると、継ぎ目と思しき場所を探り当てる。

 隠された取っ手らしきものを引くと、重々しい軋みと共に岩が手前に開いた。引き戸かよ。

 そのまま扉に隠れるようにしばらく時間を置く。襲撃なし、迎撃の気配なし。

 あとは、風の動きなどからトラップの有無も可能な範囲で探る。

 松明の先端を扉の中へ突き出すと、僅かながら奥から風の動く気配がした。

 そのまま中へ踏み込む。ざりざりと汚れた革靴の裏に砂が擦る感触がしたが、壁を触るとひんやりとした扁平な感触が返ってきた。


『おい、マジでコンクリらしいぞ』

「まさか、異世界の施設が、丸ごと転移したのか?」

『それはどうかなぁ? コンクリートなら製法解っていればこの世界でもどうにかなるだろ?』

「あぁ、そうか。そっちの方が可能性は高いか」


ぼそぼそと相談しながらも奥へ進もうと周囲を確認。

石櫃を思わすコンクリで四方を囲まれた通路だが、壁にぶら下がる古びたランプを発見した。

 ありがたく失敬させてもらうと、油があることを確認、所持していた草の蔓を使って松明から火を移した。

 明るさが倍くらいになった。

 映画からの記憶を頼りにツマミを動かし明るさ調整。

 照らす量がちょうどよく落ち着くと、松明をその場に残して奥へと進んだ。

 距離としては20m程度といったところだろうか? 奥には鉄製の扉、隔壁じみたものが備わっていた。鍵でもかかっているかと思いきや、艶の無い汚れたドアノブは簡単に回る。おそるおそる中へ踏み込んでみると、狭苦しい部屋に薄汚れた机と椅子が一揃いだけある。

 奥にまた扉があるが、どうやら遺跡というより放棄された住居、または駐屯地か何かだったようだ。ただし、住んでいたのは異世界の人間らしい。机の上には経年劣化でボロボロの書類が置かれており、日本語らしき文字は、手で触れると同時にぱさりと崩れた。

 そのまま扉を開けて奥へ進む。

生活空間であれば罠を仕込む馬鹿もいないだろうと竜樹も警戒レベルを一段下げだようだ。

 そのままランプで周囲を照らしながら中を確かめる。

 今度は意外と広い。天井は5m弱、さきほどより随分と天井が高い。

周囲には棚やらの他、箱型の小部屋、コンテナじみたものが並んでいる。そして壁には見慣れた、いや、正確には『竜樹』にとって見慣れていたスイッチがあった。

 躊躇いながらも切り替える。

 すると天井に電気が点いた。電気だよ電気。どうやって発電しているんだこれは。

 度々のことに驚きながらも中を眺める。やはり、コンテナじみた大型の鉄製個室が幾つか並んでいる。そのうえで、黴臭い空気の中に鉄だの油だのの臭いがどこからともなく混じっていた。


「倉庫?」

『っぽいな。ただ、それだけでもなさそうだが』


 しかし、この世界では一般的でない臭いの残滓も感じた。


『あと、これって硝煙というか火薬?』

「花火の後に似た匂いだ」


試しに個室の扉を開いてみる。そこは作業室らしき部屋。

年季の入った手動フライス盤やら旋盤やらが並び、作業台に用途の解らないパーツが並んでいる。それにしても、普通科の人間がなんでそんな工業機械の見分けがつくような知識を持っていたのか不思議でしかたねぇ。

 ひとまず、しばらく稼働していないのか、機械に塗られた油は乾き、触ると僅かに軋んでいた。

 そのまま隣の部屋に移る。

 今度は今度で解りやすいほどヤバいものが安置されていた。

「銃だ」

『待てや。所有者不明の銃器がダース単位とかヤバいじゃねぇか。フラグ臭ぷんぷんじゃねぇか』

「最近、フラグ臭って単語が口癖になってないか?」

『ツッコむのはそこじゃねえだろ………』


疲労感がひどい。肉とかない鴉ボディなのにゴリゴリ何かが削られています。

 とにかく、とにかくだ、仕切り直したうえで銃を確認する。

 造形は俺も竜樹も知る長銃、ライフルらしきものだ。

 ただ、近代的なものではなく構造は一昔前のボルトアクション式。木製ストックに太めの銃身を支える下部フレームまで備えひたすら頑丈に作ってある。あ、銃剣用の固定金具まであった。そんな重そうな銃であるが、竜樹は軽々と扱っている。


「軽い。ハリボテかと思った」


あ、実際に軽かったらしい。

 それにしても何故か。


『あー、銃弾入ってないからか?』

「いや、単純に銃身の金属が鉄じゃないな。これ、オーロックさんの研究室でも見たクイックシルバーを使った合金か何かっぽいけど。あと、ストックも普通の樫やら胡桃やらでもないようだし」

『異世界金属で合金とか製法が不明過ぎる。強度とか大丈夫なのか?』

「多分、おそらく、メイビー」

『不安過ぎる』


ダベってはいる間に実包(だんがん)を発見。口径は不明だが結構大きい。

 竜樹が装填する。適当に触って暴発しないかひやひやしていたが、そもそも入れる場所が解らないらしい。

 あー、日本人だものな。そりゃ知らんか。拳銃ならなんとかなりそうだったが。

 とりあえずボルトを引いたら蓋が開いたので押し込んだといったレベルなのがすごい怖い。

 それでも、やっているうちにコツでも解ったのか、かしゃかしゃと八発ほどライフルの中に放り込んでいった。


「よし、撃ってみよう」

『いや、マジで大丈夫か? 使い方なんて知らんだろう? うろ覚えの知識でどうにかなるものじゃないぞ? 人間って、基本的に記憶だけで動けるほど精度の高い存在じゃないぞ?』

「よし、撃ってみよう」

『………そうだな、撃ちたいんだな』


途中で諦める。

まぁ暴発しても、ポーションがあるから重傷以下ならなんとでもなるだろう。

 意気揚々とライフルを担ぎ、薄ら笑いを貼り付けた竜樹が銃の保管室から出る。

 そのまま、入り口方向へ銃を構えた瞬間に撃ち放っていた。


 轟音。


 もう止めるどころか構える暇もなかった。いきなりの音に唖然としたものの、元々どうやって音を聞いているかも定かでない不思議存在であるところの俺は、鼓膜痛いだのキーンとするだのの悪影響一つなく弾丸の結果を確認してみる。

 弾丸の種類は不明だが、佇んでいた相手の横顔を掠め、背後のコンクリにクレーターじみた巨大な弾痕が刻まれていた。

 って、あいつさっきの体が銀色の女じゃん。魔物? だっけか?


「セーフ?」

『いや、もしかしてお前気付いていたのか?』

「いや第六感が囁いたというか」

『人間辞めかけているお前』

「若干その懸念を拭えないし否定できない」


 半端ないな。怪獣病なしでこの反応って。

 とはいえ、壁を背に、鉛玉放り込む危険物手にした危険人物が相手である。

素直に彼女は両手を上げていた。誰だってそうする。俺だってそうする。


「停戦を提案しても? あ、両者合意なく途中で破棄したらどんな手段でも使うけど」

「じゅ、じゅじゅyじゅじゅdく、受諾すつわ」


噛んでる噛んでるビビッてる。

 危険性の塊こと精神性というか思考形態が凶器の日本人の言葉に諾々と頷く。

あれだぜ、包丁がないなら木の棒で刺せばいいじゃない? くらいの戦闘思考を備えていることが発覚しつつあるのが竜樹である。これはどう考えても平和な日本に放置していたらテロリストになっていたんじゃないかってくらいにヤバい。

 今回は結果オーライということで素直に黙っておこう。

 さて、相手の情報が判明する。

 

「私はクラパーチの氏族、コリーダのハルペよ。」

クラパーチ・ディアボロス。ゴブリンの集落でも話のあった暴れている若い者ともめた相手である。事前知識としては召喚術を学んでいた時に記憶していたものが幾つかあるが、そちらが確かであればもっと虫っぽい外見をしていたかと思うのだが。

 書物に曰く、虫のような外殻に包まれた悪魔種。

背中を覆う甲羅一面に飛翔と耐魔の効果を持つ魔術式が刻まれた特異な種族。近接戦闘の凶悪さから出現地では『悪魔の喧嘩屋』とも呼ばれている。一方で、弱い相手と戦闘意思のない相手に対しては攻撃を行わないという特徴を併せ持つ。



「飛翔紋? あるわよ?」


そうして髪を書き上げる。すると、身体同様、背中にも赤い紋様がうねり、まるで血管や刺青のように自在に這い回っている。というか、背中ざっくり開いた前掛けみたいな服だった事に初めて気付いた。ギリシャのトーガっぽくあるが、重要な点はそこではない。


彼女はノーブラだということだ!


 鴉と人間がアイコンタクトで熱いパトスを交し合うという謎のイベントが発生。

 この瞬間だけはまず間違いなく俺はアイツの精神から生まれたのだと実感した。

 いや、15歳舐めんなよ? ちょっとしたエロワードでも滾るぜ?

 俺は生後0歳だけどな!

 

「それじゃ外殻は?」

「あれは若いクラパーチじゃ形成できないのよ。逆に年長者になると甲殻化した身体の一部が戻らなくなるけど」


 クラパーチの寿命は知らないが、少なくとも彼女は若年層であるらしい。

 さて、それはともかくダベっている間にある程度の警戒が解けたのか、竜樹とハルペから力が抜けている。

 ぱたぱたと指定席である竜樹の肩から移動し、部屋に生えた手摺のような鉄製の突起に着地。

 二人を俯瞰できる位置に来た。


『それで、さっきの人達は誰? 追われていたみたいだが』

「知らない。どうも聖王国の僧侶兵らしいけど、なんでこんな田舎くんだりまでクラパーチに喧嘩を売りにきたんだか」

『ここに来た理由は?』

「このあたりで隠れそうな場所がここしか思いつかなかったから。それより、ここなんなの?」


 ハルペに話を聞いたもののなんのじょうほうもえられなかった。

 一先ず竜樹は、この隠れ家について解った範囲で説明し、対してハルペは銃という武器が初見で珍しいのか、触らないよう竜樹のまわりをくるくる回りながら観察している。なにあれ可愛い。

 いちいち話の腰が折られるが、とにかく使えそうなもの捜しを続けようと提案した。


「そうだな。ハルペはどうする? こちらは戦うつもりはないが」

「こっちだって敵意のないものを襲うようなことはしないわよ。戦士非ざるに威を振るうべからず、だから」

「じゃあ帰った方がいいとは思う。この銃のような危険物が他にもありそうだ。下手に触ると吹き飛ぶぞ?」

「それ、あんたは区別つくの?」

「見た目で解るものであれば」

「じゃあ着いていく。私も探検する。兄さんと合流できないままウロウロするのも嫌だし」

「Oh………」


なんか竜樹が呻いている。あれは断りたいけど断るともっと面倒になることを理解して嘆息しているようだ。いっつも貧乏くじ引いているけど、どんな星の元に生まれたらあんな感じになるのだか。

 それでも探索は再開され、奥へと二人と一羽で進んでいく。


次回も明日更新予定です(08/17)

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