・第三話・なぞのどうくつ
あのアドミラルさんのシナリオにしては雑すぎる。夕暮れに染まる森の中、目の前にある洞穴じみた場所を前に俺達は難しい顔をしていた。苔に覆われた石が幾つも連なり、半端潰れかけた穴の奥に空間が広がって居るであろう洞窟。どう考えてもなんかの遺跡と思しき造形物。
いや、少なくとも知識がなければ気付かなくともおかしくないレベルだが、盗掘済、いや調査済のうえ放置されているものだろうか?
『どうする? 雨風の心配はせずに済みそうっぽいが』
「そうだな。モンスターが潜んでいないか確認しよう」
入り口から中を調べる。こんな時も怪獣病の時に得ていた身体能力があれば臭いや風の揺れだけでも状況が解るのだが、現状での武器と言えば、空が飛べる偵察役である俺と、多少の体術と魔術が使える竜樹の能力が精々。
武器もない。道具もない。ないない尽くしで運さえない。
それでいて最終目標は、怪獣の討伐、それに加えて怪獣の目的の調査が必要とか無理ゲー極まりない。
まずは生き残るところからとか困る。
二年が短いのか、長いのか。
つくづくだな。
しかし、竜樹はもっともどかしいのだろうな。
身体能力こそ失ったが、培った能力も備えてあり、あの時の『経験』が残っている。薄められた記憶が残っている俺でもキッツいのに、あの希釈される前の後悔やら無力感やら哀しみが染み付いているとして、どれだけ辛いのか。
それでも、今度は魔力の拡散波なんかを試して、ソナーとして使えないかとなんか妙な技術を編み出そうとしている。確か、体外への魔力の放出って、周辺環境によって力を借りる、要は属性を伴ったものじゃないと難しいって話を某魔女に聞いた気がする。竜樹の中に居た時に。
それを人が考え込んで居るときにえらいことをしとるぞこの御仁。
「獣の気配はない、と思う」
『ま、出てきたらそん時に考えよう』
「それもそうだな。とりあえず焚き火の準備でもしようか」
『薪拾いは無理だから勘弁な』
「そこまで期待はしていないから安心しろ」
そのまま小一時間ほど薪を集めているとやがて日も暮れた。
小枝と枯葉、あとは倒木などをかき集め、火の元はゴブリンに貰った火打ち石である。記憶を頼りにしていたわりには案外と手際よく火が点き、そのまま炎を燃え上がらせていく。最初は煙に燻されてしまうかとも思ったが、不思議なことに煙は洞窟の奥へ吸い込まれていき、外には僅かにしか漏れない。
「これ、風の流れがあるってことか?」
『だろうな。空気穴でもあるのか、それとも奥に構造物でもあるのか』
「探るか?」
『ま、どうせ暇だしな』
それでは探検準備。
まず松明を作る。用意するのは適当な長さの木の棒に、剥がした木の皮。なんか、異世界特産の不思議植物かもしれないが、裏側から剥がした繊維が、実にモジャモジャしていて糸くずのように柔らかい。それを幾重にも巻いていくと、なんか大型の綿棒のようなシロモノが出来上がった。
焚き火から火を移してみる。一気に燃え上がらず、上手い具合に火が点ったままになった。
器用だなおい。
『とりあえず、光を生み出す魔術とか覚えておくべきだったな』
「前の身体だと暗闇でも見えていたからな。優先度が低かった」
第三者、いや、第三者もどきとして見ると、以前の状況も良し悪しが多いな。
利点は五感が優れていたことで魔術も体術も短期間で取得できたことだろう。
欠点は今言ったとおり、取得が容易であっても不要な技術を除外してしまっていたこと。
そのおかげで異世界であっても生き残れたこともよかったことだが、なんにしても武器が必要だった。技術でもいい、武器でもいい、なんでもいい。とにかく何もかもが必要だ。アドミラルももう少し援助してくれればいいものの。
いや、援助?
………なにか引っかかる。何がおかしいのかはいまいち解らないが。
洞窟の奥へ進む竜樹の肩の上、いまのところお荷物で居るしか役割のない俺は思考に沈む。
「行き止まりだ」
そうこうしているうちに洞窟の奥へ辿り着いたらしい。崩れた石が積み重なり、それ以上は進めそうにない。
これもまた変だ。
何故「進めない」と感じたのか。普通はここで終わりであり竜樹の言った通り「行き止まり」というのが普通の感想ではないのか。違う結論を口にしているのか不思議で仕方がない。
「なぁ、気のせいかもしれないが」
『何?』
「この先がありそうな気が、しないか?」
いや、どうも同じ感覚を抱いていたらしい。
これもまた怪獣病だった頃の弊害の一つだろう。感覚が捉える情報が多過ぎて頭の中で推測を弾き出すより直感的な結論が出てくる方が早くなってしまう。その理由の部分が、なんとなくとかそんな風に感じるとか曖昧過ぎて困る。
昔なら結論が即正解な場合が多かった為に問題なかったが、今だと勘違いで終わりかねない。
これまた面倒くさい欠点だ。
『そんじゃ、何か理由があるか、検証してみるか?』
「そうだな。それで解らなければ諦めればいいし」
そう口にはしていたものの、一人と一匹が揃って違うとは思っていない。
さて、それでは検証だ。
『まず、現状だ。入り口は岩を組んだようにも見え、人工的な様子があった』
「そうだな、実際、ここまで辿り着くまで実に簡単だった」
『次に、この崩れた岩が、執拗なくらいぎっしり敷き詰められている』
「触れば崩れそうなくらいに、だな」
『さて、そこで一つ賭けだ』
「賭け?」
『ここぶち抜いちゃおうぜ』
「………生き埋めとか勘弁して欲しいが」
『そん時は《地中移動》で』
「あぁ、それがあったか」
さて、意思統一は完了。あとは瓦礫をぶち抜くだけ。
「やるとすれば、《落穴》かな」
『だな。左右は岩だから無理だが、下は土だ。掘り下げて瓦礫をどかしてしまえば通れるんじゃないか?』
「よし。やってみよう」
立て続けに《落穴》を使って地面を陥没させ、岩と、岩らしきものを穴の中に落としてしまう。延々とその作業を繰り返す竜樹だが、魔力の総量は少なくとも継続しての作業となるとこの男は強い。なにせ、効率に特化した魔術式の組み立てを得意とする特徴上、時間をかけて魔術式を精査し、そのうえで効率的なものを淡々と繰り返していく。魔術式の構築技術といい、体術の経験といい、お前の職業は何なんだとツッコミを入れたくなるのはお約束。
さて、劇的な効果はなかったものの、一時間もすれば瓦礫は全て落とし穴の中。
目の前には、延々と続く深い洞穴の続きが広がっていた。
『んじゃ、奥へ進むか?』
「まぁ、そのつもりだからな。ところで、ちょっと気になったことがあるのだが」
『奇遇だな。俺もある』
「これ、岩に紛れて何かの破片、瓦礫があったんだが」
『そうだよな。これってコンクリートじゃないのか?』
「まさかなぁ」
『まさかだよなぁ』
「…………………」
『…………………』
「ちょっと準備だけしていこうか」
『そうだな』
ともかく『多少』の準備を完了させると、そのまま奥へ進むことにした。
次回も明日更新(08/16)です




