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6、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第6章 優しさは、また誰かの帰る道になる   作者: Nao9999


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第162話 風を追いかけた日

同じ道でも、歩く人と走る人では見える景色が違います。


それでも風だけは、誰にでも同じように吹いていました。

休日の朝。


国道は平日より少し穏やかだった。


優斗は玄関を出る前に、壁へ立て掛けてあるロードバイクを見つめた。


あの日から何度も乗ってきた。


泣きながら漕いだ日もあれば、何も考えず風だけを追いかけた日もある。


今日は久しぶりに、少し遠くまで行こうと思った。


「行ってきます。」


「気を付けろよ。」


父・拓海の声が背中を押す。


ペダルを踏み込む。


タイヤがアスファルトを噛み、風が頬を撫でた。


歩く時とは違う景色が流れていく。


ガードレール。


標識。


コンビニ。


古い歩道橋。


全部、昔と変わらない。


変わったのは、自分だった。


しばらく走ると、小さな河川敷へ着いた。


ロードバイクを降ろし、土手へ腰掛ける。


川面が朝日にきらめいていた。


その時だった。


「あれ?」


後ろから声がする。


振り向くと、高校生くらいの少年が自転車を押していた。


前輪が妙な方向を向いている。


「パンク?」


「はい……。」


困ったように笑う。


「修理できる店、ありますかね。」


優斗は自分のバッグを開いた。


昔、老人から教わって持ち歩くようになった携帯工具が入っている。


「見せて。」


タイヤを外す。


空気を入れてみる。


小さな穴。


「直せそう。」


少年は目を丸くした。


「本当に?」


十分ほどで修理は終わった。


「すごい……。」


「俺も昔、人に教えてもらっただけ。」


少年は何度も頭を下げた。


「お礼したいです。」


「じゃあ。」


優斗は少し考えて笑う。


「今度、困ってる人がいたら助けてあげて。」


少年は真剣な顔で頷いた。


「約束します。」


その一言に、優斗の胸が少し熱くなる。


老人も、こんな気持ちだったのだろうか。


何かを渡すこと。


見返りじゃなく、繋がっていくこと。


少年が走り去る。


風を切る音が遠ざかっていく。


優斗は再びロードバイクへ跨った。


ふと空を見上げる。


青い。


どこまでも高い。


「あの日。」


国道の脇で眠っていた自分は、この景色を見上げる余裕なんてなかった。


腹が減って。


足が痛くて。


黒糖飴だけを握り締めていた。


それなのに。


あの日の一本道は、ちゃんと今日へ続いていた。


帰り道。


国道沿いの小さなベンチの前を通る。


誰もいない。


それでも優斗は自然と少し速度を落とした。


「また誰か来る。」


そんな気がした。


この場所は、終わる場所じゃない。


誰かの人生が始まる場所だから。


風が背中を押す。


優斗はペダルを踏み込み、国道の先へ走っていった。

第162話を読んでいただきありがとうございます。


今回はロードバイクを通して、第1話の「走ること」の意味を少しずつ回収し始めました。


老人から受け取ったものが、今度は優斗から少年へ受け継がれていく。


黒糖飴だけでなく、知恵や優しさもまた、誰かへ渡っていくものだと描いています。


第5章はいよいよ終盤です。国道という一本の道が、すべての出会いを繋いでいたことを、最後まで丁寧に描いていきます。

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