真心と尊敬を得られた男
夜食は一緒に食べるつもりで手配をしていた癖に、ミアに尊敬を込めた目で見上げられたそこで俺は自分を崩壊させてしまった。
心臓は早鐘を打ち、顔は真っ赤にほてり、脳みそも口も酔っぱらい以下にしか回らなくなってしまったのだ。
さらに、夜食を一緒にしようと声をかけねばならないのに、俺はおやすみなさいと彼女達に声をかけてしまったのである。
俺は部屋の扉を閉めると、そのままその場にしゃがみ込んでしまった。
「情けない。何事もない顔でご飯を食べに行くべきか、格好つけて飯を抜いてしまうべきなのか。」
俺がうじうじしていると、誰かが俺の名前を呼んだ。
ニーナだ。
ああ!戸口でお喋りなんて駄々洩れだってことを知らないうっかりさん達よ!
さあ、俺に君達の秘密を聞かせてくれ!
「ねえ、お姉さま。明日からはフォルス様って呼んで差し上げなさいな。」
俺はニーナ応援隊となった。
そうだ、もっと君の姉を煽るんだ。
「結婚式が終わった後よ。…………あなたの奥様にになりましたって、そういう気持ちを知ってもらえたらいいかなって思うのよ。」
俺は扉と体が一体化するほどに体を扉に押し付けた。
明日の彼女達は俺の右耳がひらひらに潰れている所を見ることになるだろう、というぐらいに俺は扉に耳を押し付けたのだ。
「あんな素晴らしい方がわたくしに真心をくださるならば、わたくしもあの方に真心を返したいと思っているの。」
俺の耳は扉から離れ、ゆっくりと立ち上がった俺はフラフラとベッドに近づき、そしてそのままベッドに倒れて沈みこんだ。
真心など要らない。
尊敬などもしなくていい。
俺が欲しいのは君が名も知らない男に向けている恋心だけだ。
「それでも俺は君に好かれたいばかりに、無害なもしゃもしゃ君で居続けるだろうよ。せっかく素顔でいい格好が出来るチャンスだったのに!ああ、どうして俺は扮装してしまっていたのだろう。」
少将にまで昇りつめた戦術家で戦略家だった俺なのに、ミアに恋して貰う方法が一つも思いつけないとは。
これが恋の病というものなのか。