魔法のような時間
「っーーーー……。ユミフネ、急にずいぶんと……あぅ……ええと、格好つけだな?」
「ダサいよりはいいだろ。……それで、賛同してくれるか?」
「うーーーぁーーー…………!!」
シロロンは悩むようにわしゃわしゃと髪を掻いた掻いて呻いた。ぶんぶんと激しく尻尾を揺らしていく。
――悩むということは少なからず敵であったはずのユミフネを悪くはないと思っているってことで……そう考えると顔が赤くなってきて、誤魔化すみたいに。
「……わかった!! けどワタシが教えている魔法をマスターしろ!! それが条件だとも!」
そう言い切ってしまった。そこからはもう開き直りで、べしべしとユミフネの背を叩いて、教える側という立場的優位に立っていく。
「痛い、痛い……! お前力強いんだよ……!」
「ふふ……先生になんだね? その生意気な口は。ほら、姿勢を正せ。お前の魔臓を拡張してやる」
「あれ痛いんだよな。本当に効果があるのか?」
「あるとも。生まれつき魔臓がない生物が魔法を使えるようにするには、魔力そのもので殴られなきゃいけない。そうして体のなかに理解できないエネルギーが蓄積すると、肉体は異物を受け止めるために変化する」
随分と乱暴な手法だが、これがヴィクトリエ帝国で魔法を取得する最善の方法らしい。
「生まれつき、もしくは成長の過程で自然に魔臓を形成し、魔力を行使できる生物が魔物と定義されるわけだ。参考になったかね?」
聞いてもいないうんちくをしたり顔で話してくるなか、痛みを覚悟するように、ユミフネはぎゅっと目を瞑った。
背に手が触れ、そして強い衝撃が突き抜けてくる。
「がひゅ……!? ごふっーー……!!」
呼吸が引き攣るような衝撃が全身を伝い、魔力とやらが体内に巡っていく。火にも電気にもなる万能の力が心臓から指先にまで広がると、堪え難い苦痛が迸った。
「ふふん。今ばかりは君が弱々しく見えるね」
シロロンはこの痛みをとっくに乗り越えているからか、悶えるユミフネを見て勝ち誇っていた。
「ああ、耐えられないから抱きしめてくれ。胸をこう、ぎゅっと押し付ける感じで。シロロンは優しいから、弱い俺を労ってくれると信じてる」
「ふふ……本当に余裕がないな。いつもよりキモイぞ。だがー……まぁ、……これで頑張れ」
痛みを誤魔化すための下品な軽口だったのだが、穏やかに顔を引き寄せられて、柔らかな感触に息を埋めた。
「…………あ?」
思わず間抜けな声が漏れた。
人肌の熱を帯びた柔らかさに息が詰まる。完全に思考がフリーズし、ユミフネはそのまましばらく微動だにもしなかった。
「……お、おい。これはいつまでそうしている気なのかねぇ……?」
シロロンは恥ずかしさから開いた口をわなわなと震わせた。
「……い、いや。本当にするとは全く思ってなかった。真面目にしろと。喝を入れられるものかと」
「君が言ったんだろう!? 言葉には責任を持ちたまえ。ワタシは”仲間”には優しいからな!」
シロロンの耳は真っ赤だった。
ぶんぶんと激しく尻尾が揺れ、落ち着きなく寝台を叩いている。
それでも引き離さないあたり、妙に律儀だった。
「……はは」
「な、なんだね? その笑いは」
「いや、集中しないといけなくなった。痛みはもう問題ない。むしろもう少しくれ。真面目な講義もして欲しい」
「……急に変だぞ。魔力酔いでもしたのかね?」
人の気も知らないで、シロロンは無邪気に顔を覗き込んでくる。
「いや……」
ユミフネは悟られないように距離を取り、少し前のめりのまま視線を逸らした。
儀式を再開するように再び背に手が触れた。心臓が強く跳ねたが、体内に魔力が流れ込むと、痛みだけが全身を満たしていって、雑念が焼かれていく。
「ッ…………」
「耐えたまえ。君は今、魔法使いになるための準備をしているんだからね。それに痛みはそろそろ慣れる頃だ。我慢大会も暇だろうし、魔法についての知識を教えてあげよう」
そういってシロロンは後ろから頭を撫でてくる。
教える立場になったせいか、彼女の今の態度は優しい教師のようだった。雰囲気から入るタイプらしい。
そこからしばらく、シロロンの講義は続いた。
魔法には四属性しか存在しないこと。
熱、凍、雷、星。
素人が想像する風や土といった属性は存在せず、それらしい現象の大半は星の力、……力場操作で説明できること。
「ワタシは熱と星の魔法について教えてあげよう」
「なんでその二つなんだ? それしかできないからか?」
シロロンは質問を無視して魔法の説明を再開した。
こうした自然現象魔法の扱いに長けた者は、やがて個々人で異なる固有魔法を発現させるようになるらしい。それについては既知であった。
ヴィクトリエと戦争をするうえで習う必修課程だ。皇国では超能力だなんて呼ばれていた。その人その人で使える力が唯一無二だから、皇国は扱いを嫌い、魔法を法で禁じていた。
もっとも。魔力痛で意識が飛びそうな状態で聞かされたせいで、こうして理解できた知識は説明された内容の半分ほどだったが。
「……さて、ここまで一時間ほどしゃべらせてもらったが、ワタシが星と熱の魔法だけを教えること以外に、なにか質問はあるかね?」
「……全身が痛い」
「それは質問ではないと思わないかね?」
シロロンは呆れたように耳を伏せた。




