22. 不本意な再登場
トールは町の中心部へと向かう。大きな袋を担いだトールは目立っており、トールはなんとなく気まずかった。
町の市場に着くと、トールは市場の窓口がある建物に赴いた。
市場は人で賑わっていたが、そのわりには品物が少なく見えた。町中にウォーウルフが出たことで、危ない場所だと認識され商人に近づかれなくなってしまったのだろう。
「すみません、これ、換金できますか」
トールは職員に尋ねる。
職員はトールから袋を受け取ると、中身を見てぎょっとする。
「え、これ、全部ホーンラビットですか」
「はい」
呆気にとられる職員に、はは、とトールは笑う。
--まあ、こんなに持ってくることないもんね。
職員の反応に共感するトール。
「ちなみに、これはどちらで…」
「ここから東に三日くらいの村です。メルベックの近くの」
「なるほど。これは、お一人で?」
「いや、今はいないんですけど、もう一人と」
「わかりました。換金しますので、少々お待ちください」
職員は袋を預かり、奥に戻っていく。
トールは近くに掲示板を発見し、そこに近付いて行った。一枚の大きな新聞が自己主張していた。
そこには、大々的な"ロベルト・ダナウェン男爵、逮捕"の文字が踊っていた。
「!」
トールはその記事に食いつく。
"クールノー商会の支店長であるロベルト・ダナウェン男爵が闇取引に手を出したとして逮捕"
"クールノー商会は関与を否定、男爵の暴走か"
"領主職も解任、新たな領主はフレデリック・アルメリオ子爵に"
一面にわたる記事には、このようなことが書かれていた。
--よかった、ちゃんと解任されてた。
トールはロベルトと円卓の試みが失敗したことにほっとする。
「お待たせしました、準備が整いました」
「あ、ありがとうございます」
声をかけられ、トールは窓口の方へ向かう。
トールは、新聞の下の方に書かれていた記事を見落としていた。
さっきまでトールが見ていた記事の下には、"反逆の英雄、アーサー・ラングレット現る"の文字が黒々と刻まれていた。トールがそれに気付くことはなかった。
「今回は量が多かったため、この金額になります」
職員はトールに領収書と貨幣の入った袋を差し出す。トールは領収書に記載された金額に、目を疑った。
「え、こんなに…?」
そこに書かれていたのは、二ヶ月は旅をするのに困らない金額だった。
「予想外の魔物被害がありましたからね。今は、狩っていただけるとありがたいんですよ」
ウォーウルフのことを言っているのだろう。
「騎士団も来てはくれてるんですけど、近付かなくなった商人の呼び戻しはしてくれないですからね。品不足なんですよ」
やれやれという調子で職員が言う。
トールに不安が襲ってきた。
「騎士団、ですか」
「ええ。ウォーウルフの時も駆けつけて来たんですけど、それより前に誰かが倒してくれたみたいで。ウォーウルフの出現原因と合わせて、誰が倒したか調べているらしいですよ」
嫌な予感がした。トールは自分の顔が曇るのがわかった。
トールは代金を受け取り、お礼を言うと市場から駆け出した。
--アーサーさんが、見つかっちゃう。
騎士団がいて、しかも人探しをしているとなると、アーサーが見つかるのは時間の問題だろう。アーサーが見つかる前に、トールはアーサーを町から連れ出したかった。
夢中で走っていたトールだが、ふと自分の向かう先にいる人々に気づくと、思わず建物のかげに隠れた。
そこには、紺色の制服を来た人々がいた。トールには見慣れた格好だった。
--…騎士団だ。
トールは息を飲む。
--どうしよう。
思わず隠れてしまったはいいが、この後どうすればいいかわからないトールだった。
ふと、道の向こう側にある掲示板がトールの目に入った。貼り付けられた一枚の新聞に目が留まる。そこに書かれていたのは。
"反逆の英雄、アーサー・ラングレット現る"
「…え?」
思わず声が漏れた。
トールは呆然として、その記事を眺める。
そこには、逮捕されたロベルト・ダナウェンが、自分を嵌めたのはアーサー・ラングレットだと述べている、という内容が書かれていた。
--やられた。気付かれた。
トールの首筋を、焦りで汗が流れる。
騎士団が探しているのは、ウォーウルフを倒した人物だけではない、反逆の英雄もなのだとトールは気づく。とてもまずい状況になっていることに、トールは焦った。
「…アーサーさん」
トールは呟くと、騎士らのいない道を通ってアーサーの待つ酒場へと駆けていった。
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次回更新は10/31です。




