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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
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20. 急展開

「今日も何もないな」


「ないですね」


騎士団メルベック駐在所のとある部屋の一角。そこでは、二人の騎士が暇そうにしていた。


窓の外から見える町の様子は、いたって平和だった。大通りを、たくさんの人が行き交っていた。


裏道に目を向ければ、全く暇ではなくなるのだろう。しかし、暇つぶしにするには重すぎる案件だった。裏世界には簡単に手を出してはいけないというのが、騎士団での暗黙の了解だった。円卓が裏世界を牛耳るようになってから、ひときわ手が出しにくくなっていた。


「まあ、平和なのはいいんだけどな」


「でも、最近、他の町ではウォーウルフが出たらしいじゃないですか。警戒すべきですかね」


「した方がいいんだろうな」


そんな会話が繰り広げられていた時だった。


突然、パリン、という音とともに、何かが窓ガラスを突き破って来た。ガラスの破片が散る。


「!?」


二人はびっくりして座っていたソファから跳ね起きる。


部屋の床には、封筒のくくりつけられた飾り矢が刺さっていた。


「…え?」


二人は呆気にとられる。


「これ、飾り矢だよな」


「はい」


「飾り矢って、ガラスを割れるほど速さ出せるか?」


「魔法でも使わない限り、普通は無理ですね」


「魔法の使用跡、ないよな」


「ないですね」


「…」


「…」


二人は目を見合わせる。


若い方の騎士が、窓際に寄る。外を見渡した彼の表情は、困惑していた。


「この矢、飛んで来た方向的には、商会からなんですけど…」


「…なぜ、しかも商会から、こんなものが飛んで来る?」


「わかりません」


若い方の騎士は困り果ててしまった。


年配の方の騎士が飾り矢にくくりつけられた封筒を手に取る。中身を取り出し目を通した途端、彼は目を見開いた。驚きと動揺で、瞳が揺れる。


「…嘘だろ」


「え、何が書かれてるんですか?」


年配の騎士は若い方の騎士に書類を見せる。すると、若い騎士の顔から血の気が引いた。


「え、これって…」


若い騎士はおそるおそる年配の騎士の方を見る。


年配の騎士はゆっくりとうなずいた。


「誰がよこしたのかは知らんが…。間違いなく、円卓と商会支店長の、闇取引の契約書だ」


若い方の騎士はごくりと息を飲む。


「隊長に報告だ。荒れるぞ、これは」


年配の騎士は険しい表情をした。






隊長に報告を上げてからは、早かった。


飛んできた封筒の中身が動かぬ証拠として、騎士団はロベルトの捕獲に商会へ向かった。


突然やってきた騎士団に、商会は騒然とする。


「騎士団だ。支店長に違法取引の容疑がかかっている。支店長は、どこに」


騎士の一人が店員に尋ねる。


「おそらく、支店長室に…」


店員は震えながら答えた。


「支店長室はどこにある」


「この奥の、五階です」


「ご協力、感謝する」


騎士たちはすぐさま五階の支店長室に向かう。


「…!なぜ、騎士団がここに」


五階に集まっていた商会の警備員らが、騎士団の姿を見てどよめく。


「支店長は、いるか」


「…」


沈黙が答えだった。騎士らは警備員を押しのけて、部屋の中へと入る。騎士らははずれて床に横たわっているドアに怪訝な顔をした。


部屋の中では、ロベルトが顔を真っ赤にして警備員たちに怒鳴っていた。


「お前たちは、何をやっていたんだ!あれは、あれだけは、盗られてはいけなかったんだぞ…!」


「それは、これのことで?」


声の方向にロベルトは顔を向ける。


「え…、なぜ、それを…」


そこに騎士団の隊長が封筒を持ってにこやかに立っているのを見て、ロベルトの顔は真っ青になった。


ロベルトははっとすると、すぐさま封筒を取り戻そうとする。


隊長はそれをひょいとよけた。


そばに控えていた騎士が、すかさずロベルトを取り押さえ、後ろ手に縛った。


「何するんだ!」


「どの立場で言ってます?」


わめくロベルトに、隊長が冷たい声を浴びせる。


「どなたか親切な方が、これを騎士団に届けてくれましてね。いやあ、支店長、貴方、すごいことをやっているようで」


隊長は封筒の中身を取り出し、ぺらぺらとめくった。


「円卓と供託し、あろうことか魔王の痕跡を使った魔法薬の複製を行う手助けをするとは。堕ちたものですね」


隊長はロベルトに軽蔑の眼差しを向けた。


「違…っ、それは、誰かが作った偽物で…!そうだ、私は嵌められたんだ!」


「言い訳がましいですね。ほら、この部分。貴方の署名から、貴方の魔力が検出されましたよ?」


「それは…」


震えるロベルト。


はあ、と隊長はため息をついた。


「残念です、ロベルト・ダナウェン支店長。この時刻を持って、違法取引の容疑で貴方を逮捕します」


「なっ…」


ロベルトは動揺で口をぱくぱくとさせたが、希望のないことを悟ると、がっくりとうなだれた。


「さあ、騎士団まで来てもらいましょうか」


「-だ」


「?」


ロベルトが何かを呟くのに、隊長は気付いた。


「思い出した…。あの顔、どこかで見たことあると思ったんだ」


「なんのことです?」


ぶつぶつと呟くロベルトに、隊長が眉をしかめて訊ねる。


「アーサー・ラングレットだ」


ロベルトの言葉に、その場の全員が固まる。


場に緊張が走った。


「あいつさえいなければ…!あいつさえいなければ、こんなことには…!」


「…その話、騎士団で詳しく聞きましょうか」


隊長の目が鋭く光った。


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は10/29です。

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