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魔力ゼロの落ちこぼれ令嬢ですが、魔法帝国の魔帝陛下に寵愛されそうです  作者: いづみ
精霊王は剣と魔法の異世界でスローライフを満喫したい!
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47 陛下とデートと学院祭②




帝国立リンドヴルム魔術学院、学院祭。


年に二回、初夏と初冬に開かれるこの祭事は、この地に魔術師達の塔が建っていた頃、循環する魔力の安定化および、日頃力を借りている精霊達への感謝を込めて行われた感謝祭が起源だとされている。


季節の恵みを街に集め、食べ、歌い、踊り、笑い、人間の心の生み出す正の感情のエネルギーを、精霊達の良き糧に捧げるのだ。祭の期間中、帝都に面した学院街の外門は解放され、貴族、平民問わず多くの人々が訪れる。


そんな、楽しくも厳かな祭りで賑わう学院街の一角ーーティーハウス〝月の扉〟にて。


本来ならば丁重にたてまつられる立場である精霊達の統治者、精霊王たるルシウスは、ソレイユ、ロベルト、レジーナ達とともに、混雑時の飲食店ならではの怒涛のオーダーの嵐を必死にこなしていた。


「ルシウス! ラムネの売り子達が戻って来たわ! まだ在庫はあったかしら!?」


『ありがとう、ソレイユ! そこの棚にあるので最後だよ! 瓶が無いだけで中身は作れるから、グラス販売に切り替えよう!』


「分かったわ、皆に伝えてくる!」


「ルシウス! かき氷用の氷と、炭酸水が足りなくなった! 追加を頼めないか?」


『ごめん、ロベルト! 今手が離せないんだ! 庭の池からクトゥルフを引きずり出して頼んでくれ!』


「やってみるよ!」


「ルシウス! バニラと水蜜桃、苺のアイスクリームがそろそろ無くなりそうですわよ! 〝ペン太君〟の五号機はまだ出来上がりませんの!?」


『アステルとレアンドロス殿下が頑張ってくれてる! 完成次第、稼働させるから。レジーナ、他のフレーバーで対応をお願いできるかな!?』


「了解しましたわ!」


カウンター上や客席の上も作業台がわりに利用して、店全体がキッチンのような有様だ。本日のホールは、計画通りに休憩所となっている学院街の広場である。


商品の販売はルシウスの化身たる売り子達に任せているが、補充が必要なものや、売れ行きの様子などはソレイユ達がチェックして、今のように伝えに来てくれている。


ちなみにさっきの回答は、店内に五人いるルシウスのうちの三人が行っていた。クトゥグァはキッチン、クトゥルフは庭の池、ニグラスは皇宮から精霊果や保存食を運んでくれている。ハスターだけは絶対に手伝ってはくれないだろうと誰もが思っていたのだが、完全に仲間外れにされるのも嫌らしく、広場に設置されたパラソル付きのテーブルに陣取り、蜂蜜酒ミードを傾けつつ、客人達に涼しい風を提供する役目を承諾してくれた。


人手は充分と踏んでいたのに、いざ学院祭が始まってみると到底足りない。それもそのはず、学院祭前に広まった銀の手押し車の売り子の噂は誰もが知っており、その売り子達が今までに見たこともない飲み物や食べ物をーーしかも、この暑さを吹き飛ばすような冷たいスィーツをーー販売するとあって、客足は広場に一点集中、いくらさばいてもさばき切れない事態となったのだ。


ここまでの大盛況は、流石のレジーナでさえ読めなかった。


『ああ、もう駄目だ!』


と、ついに五人のルシウスが天を仰いた瞬間、パッと消えた。


キッチンから出てきた本体が、パンパン、と手を叩く。


『皆、ありがとう!! いったん、休憩しよう!! もうすぐお昼だし、客足もレストランに流れるだろう。売り切れたものはそのままでいいよ。三時ティータイムに備えるために、休憩!!』


その言葉に、バタバタと忙しく走り回っていたソレイユ達三人は、一気に脱力し、各々、カウンター席に倒れ込んだ。


「つ……疲れた……!!」


「それがいいと思いますわ……朝九時から始めて、今までずっとこの調子でしたもの。流石のわたくしも、商い疲れてしまいましたわ……!」


「本当なら、今頃は精霊杯が始まっていて、屋外演習場に観客が集まるから、混み合いもマシになるはずだったのよ……もう昼前だというのに、ご訪問がまだだなんて。ディアナったら、まさかとは思うけど、寝坊でもしたのかしら?」


『いや、可能性があるとしたら、ディートリウスの方だね。あの子は昔から朝が弱いから』


とはいえ、ディアナが一緒に床に入っている現在、闇の精霊達が悪さをしたとは考えにくい。夜更かしをしたのは別の理由だろうと、ルシウスがほくそ笑んだ時、カロン、カロン、とドアベルが鳴った。


入ってきたのは、アステルとレアンドロスだ。


「ルシウスさん! 新しい〝ペン太君〟をお持ちしました! 広場は大盛況みたいですね!」


「五号機、六号機、七号機だ。試作を兼ねて、中の基盤や合金のバランスを少しずつ変えている。あと、こちらがかき氷器タイプ〝ペン太君弐式〟だ」


レアンドロスの淡々とした言葉とともに、空いたテーブルの上に雪白のペンギンの群れが並ぶ。かき氷器型の〝ペン太君〟だけは、漆黒の羽根を持つ皇帝ペンギンの姿をしている。お腹の部分が空洞になっていて、ここに器を置き、頭のボタンを押すだけで氷が削れ、ついでに器も回転してこんもりと氷を盛ってくれる優れものだ。


『二人とも、どうもありがとう! これで三時ティータイムも乗り越えられるよ! 午前は今売り出しているものでおしまい。休憩にしたから、二人もここで休んでくれ。頑張ってくれた皆のために、取っておきのデザートを用意したんだよ!』


ルシウスの言葉に、アステルはパァッと笑顔を咲かせた。心なしか、レアンドロスも嬉しそうな様子だ。


ルシウスはキッチンに行き、今日のために用意しておいた取っておきのデザートを冷却箱から取り出して、カウンター席に並んだ面々の前へと並べた。


途端、今の今まで魂が抜けたようだった皆の顔が、みるみるうちに精気を取り戻す。


特に、レジーナは今にもしがみつきそうな勢いだ。


「な、な、なんですの、この大胆かつ豪華で煌びやかなスィーツは……!! 縦長のグラスの中に重ねられた、アイスクリームに、生クリーム、カットフルーツに、コンポートに、ジャム、クッキーに、スポンジケーキ……!! 完璧ですわ!! 乙女の夢が、この透明なグラスの中に全て詰まっていますわよーーっ!!」


『すごいだろう! 〝パフェ〟っていうんだよ。異国の言葉で完全を意味する〝パルフェ〟が元になっているんだ。生クリームに、砕いたクッキーやサイコロ状に切ったスポンジケーキ、ジャムやコンポートなどを重ね合わせて、頂上には君達の好みに合わせた果物をふんだんに盛り付けた、スペシャルな一品だ!! お手伝いを頑張ってくれた君達のために作ったんだよ。お腹いっぱい、楽しんでくれ!』


ルシウスの言葉に、彼等は歓声を上げてスプーンを取り、パフェに飛びついた。


「んーーっっ!! 美味しいわ! この長いスプーンですくって食べるのも新鮮だし、食べる場所によって全然味が違うのが、とても楽しいわ! わたしのパフェは、地のーーメロンが使われているのね!」


「一人一人、材料が違うんですね。僕のは火のーーいえ、苺を中心としたベリー類がふんだんに使われていて、甘酸っぱくて、さっぱりとして美味しいです!」


「私のパフェは苺と水蜜桃、殿下のパフェは水蜜桃と蜜柑ですね! 色々な種類のアイスクリームと、果物が何重にも重なってーーこんな豪華なスィーツ、グランマーレでも見たことがありません!」


「ああ。僕も、ここまで煌びやかな氷菓子は食べたことがない。興味深いな。この硝子の器に全てを収めてしまう発想も、運びやすく、食べやすく、合理的で好ましい」


「美しいですわ……!! 素晴らしいですわ……!! なんてゴージャスで美味しい、夢のようなスィーツなんですの!? ルシウス、このパフェも、是非わたくしのティーハウスで提供させて頂きたいですわ! オリジナルの組み合わせを開発したいんですの!」


『いいよ。美味しい組み合わせがあったら教えて欲しいな』


嬉しそうにパフェをぱくつく皆の顔を見ていたら、背中にゾクリ、と寒気を感じた。振り向くと、クトゥグァをはじめとする四人の精霊獣達が、恨めしそうな様子でルシウスを睨んでいる。


『そんな顔しないの! もちろん、君達の分も用意してるから! 皆、本当にありがとう。助かったよ』


クトゥグァ達のパフェを運んでいるうちに、ソレイユ達は自分の分のパフェをすっかり食べ終わっていた。先ほどまでの疲れた様子が嘘に思えるほど、魔力に満ちた、生き生きとした顔をしている。アステルとレアンドロスがいる手前、詳しくは説明しなかったのだが、このパフェには火を通していない精霊果がふんだんに使ってある。魔術師が食べれば魔力に満ちあふれ、力の巡りもスムーズになる。しかも、今回は一人一人の魔力特性に合わせて数種類の精霊果を絶妙に組み合わせた、精霊王ルシウス特製のスペシャルパフェだ。


一体、どんな精霊達を呼び寄せてくれることやら。


色んな意味で、今日の精霊祭が楽しみだとルシウスは密かに含み笑う。


「ありがとう、ルシウス! これで、午後からの精霊杯も頑張れるわ!」


『応援してるよ。仕込みを終えたら、僕も君達の試合を観に行くから、頑張ってね』


ルシウスがにっこりと微笑んだ時、時鐘でもないのに、カランカランと学院塔の鐘が鳴り響いた。


鐘の音と一緒に、高らかなファンファーレが聞こえてくる。


ソレイユ達は一斉に立ち上がった。


「きっと、ディートリウス陛下とディアナが来たのよ! 早く、野外演習場に行きましょう!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 始まりましたね!精霊杯&学院祭!とっても楽しみです(*'∇'*)ワクワク かき氷機型のペンタ君欲しいですね。容器が自動で回るとかスグレモノすぎませんか!?私の家のかき氷機は氷が周りにとびま…
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