果てしなく長い異世界ラノベ道を
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「初登場で販売数ランキング2位! これは大いなる勝利である!」
「「「かんぱーい!」」」
編集長のアル・ファーヴェットさんが宣言すると、皆がいっせいに祝杯をあげた。
編集部では今、ささやかな出版記念パーティが開かれている。
僕の書いたライトノベル、『幼なじみ大戦・エボリューションズ』の書籍版の発売を祝うものだ。
いつもカオスな編集部の中には、近所の定食屋さんからデリバリーした食べ物や、果物や飲み物が沢山あり、野原でチャイが摘んできた花やよくわからない植物なども飾られている。
「さぁ、何か一言。ワタル」
ダークエルフの編集長が、ドクロ型の銀の盃を傾けながら促す。
「うん……! まずは、ありがとうリムル。君のお陰で、この世界でも通じる文章が書けたんだ」
「よかったなワタル! 長年の夢がついに叶ったじゃん!」
編集担当のリムルが、ガッシリと肩を組んで笑顔。悪魔みたいな尻尾で僕の背中をなぞってくる。
とりあえず甘くていい香りがするけれど、胸があるような無いような。相変わらず「男の娘」疑惑が解けないなサキュバスとはとても仲良くなれた。
彼女の編集は的確だった。この世界の青少年が読み易く、楽しいようにと文章を推敲、変更するアドバイスをくれたのだ。
「チャイも、素敵なイラストをありがとう」
「ワタルが耳付きキャラにしてくれたおかげなんだナー」
実は一番の改変ポイントはここだ。
登場人物はこの世界の「魔法学校暗殺科」に通う生徒になったし、何故かキャラが全員耳付きの半獣人になった。
まぁ、これはあまり抵抗がなかった。
けれど、これに勝るとも劣らない紆余曲折、波瀾万丈な出来事が沢山あった。
妹に異世界出版がバレて、バラされたくなかったら言うことを聞けと脅されたり。
白い鎧に身を包んだ女騎士さんが「焚書だ!」と怒鳴り込んできたり。
フハハハ! と高笑いをするライバル社の召喚作家、「たまりまくる」と、店頭での宣伝イベントでラノベ知識対決したり……。
ともあれ。
なんやかんやと、ようやく販売に漕ぎ着けた僕の作品だったけれど、結果的に売上は「上々」な滑り出しを見せている。
初版本5000部は既に王国の全土で売り切れ続出。
既に重版が決まっていて、王都内の魔法印刷業者が増刷し始めているらしい。
なんたってこの世界で「ライトノベル」を出版したのは僕達が2社目になる。つまり二匹目のドジョウ、雨後の筍。まだライバル社が少ないのだ。
もちろん、金字塔を打ち立てたのは僕と同じ、異世界から来たという書き手『たまりまくる』だ。
たまり先生の作品、『賢者ウィッキペルンの優雅な日常』は健全な冒険、正統派ファンタジーとして、とても人気がある。
けれど、僕の作品は評論家や書店員から「近代出版では稀に見るブッとんだ想像力!」「先が読めない展開に息もつかせぬ」「ハチャメチャだが面白い」「騎士道精神に反する焚書すべし!」「禁書ギリギリ」「子供に読ませたくない悪書」と、良くも悪くもさまざまな評価を頂いている。
ライバルの出版社『聖者出版社クリスタニア・ナイツ』の本は綺麗な白い装丁は手に取りやすい。だけど魔王出版社はダークな「黒」に金の縁取りがされている。
だが、結果的にこれがウケた。
なんたって帯の謳い文句が、「背徳の面白さ『地下ライトノベル』ここに登場!」である。
いきなり「地下ライトノベル」扱いに、背徳……。僕自身は健全な青春バトルライトノベルのつもりだったのに、編集部の意向というものには逆らえないらしい。
文庫本スタイルの表紙には、浮き上がるように可愛らしい少女たちのイラストが描かれている。これがパッと目を引いたのも良かった。
これは編集長の英断だと思う。
僕は万感の思いを込めて、本を手に取る。ちゃんとした紙の感触と、魔法インクの不思議な香りがする。
「編集長。僕をこの世界に召喚してくれて……選んでくれてありがとう」
僕は深々と笑顔で頭を下げた。
もう、エンディング気分。
このまま足の先から光の粒子になって身体がキラキラキラ……と、消えていくような気分だ。
「ワタル……!」
編集部には何冊もの本が積まれている。
第一巻の表紙は、忍者暗殺者の志乃と金髪の貴族暗殺者エミリーだ。
可愛い幼なじみを毎巻、2人ずつ描いてい行く構想だ。
つまり……すでに続刊が決まっている。
「次巻以降も頼むぞみんな! 私達の戦いは今、始まったばかりだ!」
「「「おう!」」」
――僕は上り始めたばかりなんだ。
この果てしなく長い異世界ラノベ道を……!
<完>
【作者よりの御礼】
異世界でもいいから本を出せたらいいな……。
という実験作ではありましたが、
なかなかライトノベル感が出たのかなと思いますw
ワタルの冒険はまだまだ続いてゆくでしょう。
書き手はみんな夢追い人です。
皆様、ありがとうございましたっ!




