四 杉沢村
村にはもう、能面を付けた男の姿しかなかった。何人かは村の外に逃げられたようだが、多くの者たちは変わり果てた姿になって転がっている。男も女も老人も子供も関係なかった。血と肉片に塗れた杉沢村の中心で、男が恒と美琴の方に振り返った。そしてその薄笑いに固定された顔が、不意に消えた。
男の姿が消えると同時に、村の情景も変化した。建物は朽ち、雑草が辺りを覆い、街灯の明りが消える。ただ死体だけがその場に残ったまま、何十年も経ったようだった。
美琴はその暗闇の中で呟くように言う。
「かつて、この村で大量殺戮があった。その結果、ここは人間界とは切り離され、異界と化した」
美琴が右の掌を広げると、紫の妖気と共に黒い鞘に収まった日本刀が現れた。同時に服装が和装に変化する。
「憎しみと穢れに囚われた住人達は、終わらない殺戮を求め続ける、そんなところかしら」
村の中で住人達の死体が蠢き始める。足のない者、首のない者、頭が割れたもの、全ての死体たちが立ち上がり、美琴と恒の方を見る。それぞれが手に鎌や斧を取り、二人に向かって歩いてくる。誰もが虚ろな表情をしていながら、殺意だけは存分に伝わって来た。
恒は思わず父の形見である横笛を握った。村人たちの存在感は、先程に比べてはっきりとしていた。間違いない、既にあの村人たちは現実のものだ。もう村の記憶は終わりを告げたのだ。この後は、また新たな殺戮の記憶を刻むだけ。
これは幻ではない。あの手にある凶器を振われれば死ぬことになる。恒は背筋に汗が流れるのを感じながら美琴を見た。美琴は迫る屍たちを見据えながら、冷たい声で言った。
「目を閉じていた方がいいわよ。きっと気持ちのいいものではないから」
恒が瞼を閉じるより速く、美琴は動いた。向かって来る村人との距離を一瞬で詰めると、抜刀と同時に何人かを横に真っ二つにした。血飛沫が掛かるのも構わず、刀を逆手に持ち変えて、背後に回った老婆の腕と首を刎ねる。
恒はその姿を茫然と見ているしかなかった。屍とはいえ、美琴が人の姿をしたものたちを殺すのを見たのはそれが初めてだった。今の美琴はつい数時間前までの優しげな少女とは反対の、鬼気迫る様相をしていた。恒は初めて彼女のことを少しでも恐ろしいと感じてしまった。
それと同時に、恒は自分の無力を感じた。自分の手を汚すこともなく、ただ呆けて見ているしかない。美琴がいなければ自分はとうに死んでいるのに、自分の分まで戦っている彼女を怖いと思ったことを恥じた。しかし、今仮に美琴の助太刀に向かっても、それこそ殺されて終わりだ。どうすることもできない不安感に、ただ気持ちだけが焦る。
その時、美琴がこちらを向いた。その目が恒の後ろの何かを捉え、見開かられる。ほぼ同時に恒も寒気を感じるような気配を覚えて、振り向いた。
無機質な薄笑いが恒を見下ろしていた。ぼろぼろの黒い和服には乾いた血痕がこびり付き、腐臭のような甘く鼻を突く匂いを発している。
「恒、逃げなさい!」
美琴の声で恒は我に返った。固まった体を何とか動かし、目の前の殺人鬼から逃れようとする。
男の振り下ろした鉈が恒の背を掠った。服の一部が切り裂かれる感触を覚えながら、恒は落ちている鍬を拾って男に突き刺した。だが男は怯むことなくそれを体から引き抜くと、再び鉈を振り上げた。恒はとにかく男から離れるために走ろうとする。しかし不意に目の前の景色が歪んだ。視界がおかしくなったのかと考えたが、違った。これは美琴が境界を開いたときの景色と似ている。
次の瞬間には、恒は全く違う場所にいた。広い外ではなく、どこか狭い建物の中で、黴臭い空気が充満している。明りはないが、床は木でできていることが感触で分かった。
周りには恒の他には誰もいないようだった。先程の殺人鬼も、村人たちも、美琴の姿もない。一体何が起こったのかは分からないが、自分はさっきまでとは別のどこかに飛ばされたらしい。
とにかく美琴を探さなければ、そう思い、恒は出口を探す。明りがないため、手探りの作業だったが、そのうちに窓が見えた。あそこから出られるかもしれないと、足元を気にしながら近付く。
どうやらここは二階だったらしく、窓の外に広がる地面は数メートル下だった。落胆するとともに外の様子を確認しようとしたとき、近くから女性のものと思われる悲鳴が聞こえた。その方を見れば、スーツを着た女性が後ろを振り返りながら走っている。そしてその視線の向こうには、あの能面の殺人鬼がいた。
考える暇もなく、恒は窓から飛び降りていた。足に鈍い痛みを感じながら、何とか立ち上がる。
「こっちです、早く!」
女性は突然現れた恒に驚いていたが、生身の人間と分かると駆け寄って来た。男が投げてきた手斧を、恒は近くにあった鋤で叩き落とす。そしてその手斧を手に取り、ありったけの力で男の首に叩きつけた。しかし斧は首を切り落とすことなく、その半ばで止まってしまった。男は左手で斧を掴むと、首から引き剥がし、地面に投げ捨てる。自分では勝てない、そう判断した恒はその一瞬の隙に女性の手を引くと、一目散に走り出した。
女性の名は、三原蓮実と言った。恒と同じようにいつの間にか電車がきさらぎ駅という駅に着き、その後通りかかった車に乗せてもらったところ、ここまで連れて来られたらしい。
「それからあの変なお面の男や、ゾンビみたいなのに追いかけられて、逃げてるんです」
男から隠れるために入った荒屋の中で、蓮実はそう語った。
「僕も同じです」
「やっぱり……、一体ここはどこなんでしょう?」
「少なくとも、普通の人間が住んでいるような場所ではありませんね」
「そうですよね……。早く帰りたい」
蓮実は呟いて、項垂れた。恐怖に打ちのめされてぼろぼろなのだろう。半分妖怪で、異界や異形の存在を知っている自分でさえこの状況は恐ろしい。何も知らない蓮実の恐怖は、想像に難くない。
恒は窓から外を覗く。周りに人の影はない。どうやら一時的には逃げられたようだ。恒は蓮実の方を見た。壁に寄り掛かって座りながら震えている。
「これからどうすればいいんでしょう。私、もう何時間も逃げ回っているのに、この村から出られないんです」
泣きそうな表情で蓮実が言う。少しでもこういった状況に慣れている自分が、この人は守らなければならない。
「きっと何とかなります。諦めたら何もかも終わりです」
励ますように言って、恒は蓮実の隣に座った。まずは彼女を落ち着けるべきだと思った。
「三原さんは、一人でここに来たんですか?」
「はい。仕事の帰りに電車に乗ったら寝過ごしてしまって。慌てて降りたらあのきさらぎ駅とかいう駅で。池上君は、どうしてここに?」
「僕も同じです。電車に乗ったら急に意識が遠くなって、でも、僕はある人と二人でここに来たんです。だけどはぐれてしまって」
「それなら早く見つけに行かないと」
「分かっています。でもその人は、僕よりもずっと頼りになるから。多分ここから出る方法を知っているのも彼女だけなんです」
まずやらなければならないのは美琴を見つけることだ。他人本位な自分が情けないが、この状況を切り抜ける方法を知っているのは彼女しかいない。
しかしどうすればよいのだろう。恒はこの異界のことを全く知らない。闇雲に走り回るだけではあの能面の男に見つかって殺されて終わりだ。
だけど自分が弱気になってしまっては駄目だ。蓮実は青白い顔をしながら震えている。ずっと恐怖に駆られながら逃げ回っていたのだろう。彼女には外の世界を見てもらいたかった。
「大丈夫ですよ、きっと帰れます。とにかく一度出ましょう。ここにずっといても見つかるのを待つだけです」
「はい……」
よろよろと立ち上がる蓮実の手を掴んで、支える。そのまま暗い村に足を踏み出した。明りと言えるものが月光しかない中、どんな小さな物音も聞き逃さないように耳に全神経を集中させ、物影に隠れるようにして進む。
幸い能面の男は姿を現さなかったが、村の景色が途切れることはなかった。似たように朽ちた家や、枯れた木々がずっと続く。
「もう、足が……」
蓮実が息を切らしながらそう言った。恒は一度止まって、彼女の方を見た。息を切らして蹲っている。もう何時間もこの村をさ迷っているのだ。無理もないだろう。
恒は近くの廃屋を探し、そこまで蓮実を背負っていった。中に入り、蓮実を近くの壁に寄り掛からせる。一度休んでから、もう一度美琴を探そう、そう思いながら、蓮実に背を向け、窓の外を確認する。男の姿はない。安堵して恒は地面に座り込んだ。その時、手に何かが触れた。
見れば古い新聞らしかった。その見出しには「杉沢村で殺人事件」と書かれている。興味を惹かれ、恒はそれを手に取った。
日付は昭和十四年八月十三日となっている。内容は、この杉沢村で二人の男が刃物によって惨殺されたというものだった。犯人は浅田茂夫で、現在逃走中だと書かれている。殺人動機は、彼の妹がその男二人に強姦され、殺されたためだとされていた。
恒は不快感を覚えながら紙を捲った。日付が変わり、八月十七日となっている。見出しは浅田一家が殺されたというものだった。記事には、、殺人犯である浅田茂夫のことを村の外に漏らさないため、口封じのために殺されたと書かれている。つまり、事件を村の中で隠蔽しようとしたのだろう。さらに気分が悪くなりながら、恒は紙を捲る。
次は、あの杉沢村の大虐殺の記事だった。浅田茂夫が村に戻って来て、真夜中の内に村人を襲ったと書かれている。内容は先程見た映像の通りだった。
それから先はこの村に迷い込んだ人間がどう殺されたのかが詳細に書かれた記事だった。恒は嫌になって、新聞を放った。だが恒はその新聞の裏面に目が釘付けになった。
そこには、最後の犠牲者として三原蓮実の名前と、その顔写真が載せられていた。
背中に鋭い痛みが走ったのはその時だった。何かで皮膚と肉を抉られる痛みを覚えながら、恒は前に倒れ込んだ。振り返ると鎌を持った蓮実が立っていた。その胸には大きな傷口が開き、固まった血がこびり付いている。目は白く濁っていて、辛うじて右目が恒を捉えているが、左目はあらぬ方向を見ていた。
それは、生きている人間の姿とは言えなかった。
「ごめん、なさい……」
右の眼から一筋涙を流しながら、蓮実は鎌を振り上げた。蓮実は既に殺されていたのだ。そしてあの村人たちのように、屍として動かされていた。しかも生前の意識はそのまま恒に近付けさせ、油断したところで殺すために。
恒は目を開いた。そして父の形見である横笛を握った。蓮実の斧が振り下ろされるのと、白い光が小屋の中を照らすのは同時だった。
白光とともに恒の手の中の笛が重く、そして太くなった。恒は咄嗟にそれを頭の上に掲げた。金属音が鳴り、両手に衝撃があった。
見れば、恒はあの父親の槍で蓮実の鎌を防いでいた。そのまま両手に力を込め、蓮実の鎌を弾く。恒が立ち上がると同時に、蓮実がバランスを崩した。
蓮実が仰向けに倒れる。チャンスは今しかなかった。これで蓮実を攻撃すれば、自分は助かる。だが、槍を持つ手が震えた。死んでいるとはいえ、この人は人間だ。さっきまで自分と話し、怯えていた。
きっとひとりでこの異界に迷い込んで、必死に逃げ回って、恐怖の中で殺されたのだろう。それなのに、死んでからも利用されるなんて。
槍を振り上げる。しかし、最後の踏ん切りがつかなかった。その間にも鎌を手にした蓮実は起き上がろうとしている。
恒は目を瞑って、槍を振り下ろした。しかし、その手を誰かによって止められた。
「あなたはそんなことをしなくても良いの」
目を開けると美琴の姿があった。右手に持った刀の先が蓮実に向かって伸びている。首を刺された蓮実は今度こそ目を閉じ、動かない。恒は心の中で、彼女の魂が救われることを祈り、美琴を見た。
「美琴様……」
「無事だったみたいね。安心したわ」
そう言って、美琴は微かに口元を歪ませるように笑った。
「この人もやっぱり、ここで殺されたんでしょうか」
「多分そうね。私たちより少し前、この村に迷い込んだのでしょう。気の毒にね」
労わるような口調でそう言って、美琴は刀を鞘に仕舞い、床に落ちた新聞を手に取った。
「一体なんで、蓮実さんが殺される必要が……」
怒りで拳が震えるのを抑えながら、恒が言った。それに、美琴は新聞を読みながら憎々しげな口調で答える。
「簡単な話よ。ただの暇潰し」
「暇潰し?」
「そうよ。この異界は、この村自体が異形なのよ。この新聞を読んで合点が言ったわ。この村は、穢れに満ちている。村人たちが互いに憎み、殺し合って、最後はあの能面の男の大虐殺によって滅びた。悪意が悪意を呼ぶ世界。それによって生まれた異界だから、ここはそれしか知らない。だからこの異形のものは獲物を呼び込んで、殺すことを繰り返すのよ。それを実行するあの能面の男は、この村人たちの集合体であり、異界の象徴なのね」
そう語る美琴の声を聞きながら、恒は蓮実の顔を見た。この女性に自分を殺させようとしたのも、その余興の一環だったのだろうか。そうだとしたら許せなかった。
「そんなことに、意味なんかあるんですか」
「ある訳がないじゃない。世の中にはね、何の意味もなく悪意だけで行動する存在がいるの」
美琴はそう言って小さく息を吐いた。
「そんなことは、知らないで生きて行く方が幸せなんだけどね。私の側にいるせいで、ごめんなさい」
美琴は悲しげにそう言った。
「何で美琴様が謝るんですか。悪いのは、あの男ですよ」
「そうね、分かっているわ。じゃあ早くここから出ましょうか。ここに迷い込む犠牲者は、私たちで最後にしましょう」
美琴は刀の柄に右手を乗せて、前方に鋭い視線を向けた。恒もそちらを見る。そこに、この異界の象徴が立っていた。
「この悪夢は、今夜で終わりにする」
美琴は静かに刀身を抜いた。そして、こちらに向かって歩いてくる殺人鬼に向かって走り出す。
美琴は男の撃った猟銃の弾を刀身で弾き、それを翻した。刃はまず猟銃を掴んでいた能面の男の左腕を斬り飛ばした。しかし、男は一切痛がる様子も見せずに今度は右手の鉈を振り下ろす。その一撃が美琴の右肩を抉った。
苦痛か、それとも怒りによるものか、顔を歪ませて、美琴は再び刀を振う。今度は男の首が宙を舞った。しかしそれでも男は倒れない。横に振った鉈が美琴の帯を掠める。美琴は体を翻してそれを避けると、左手を使って凄まじい速度で刀を三度振った。
その攻撃で、男の右腕、左足が飛び、さらに美琴の反撃を許さない猛追撃が続いて、男の体は段々と機能を失って言った。最後は上半身と下半身が真っ二つにされ、それでやっと男は動かなくなった。恒は右肩を抑える美琴に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「ええ。これできっと、この異界から出られるわ。それにあの男に殺されたものたちの魂も解放される」
彼女の言葉とともに、空間が歪み始めた。村の景色が消えて行くと同時に、無数の霊魂が空へと昇って行くのが恒にも見えた。あの白い光の中に蓮実もいるのだろうかと思いながら、恒は霞んでいく空を見上げた。
こうして杉沢村の事件は終わりを告げた。気が付けば、恒と美琴は市川駅の前に立っていた。空を照らす赤い夕焼けと、人々の喧騒が現実に戻って来たことを教えてくれる。まるで悪い夢だったように思うが、背中の傷の痛みがそれを否定する。
「忘れた方が良いと言っても、簡単には行かないわね」
沈んだ口調で美琴が言った。恒は黙したまま頷く。杉沢村で起きた事件は、全て人間によって引き起こされたものだ。悪意が悪意を呼び、最後には村の人間によって村の人間が虐殺され、その後には異形と化した異界が新しい犠牲者を求め続ける。そんな世界があるなど信じたくはなかった。
電車がやって来て、高い金属を鳴らし、止まる。美琴が怪我をしていない方の恒の肩を軽く叩いた。
「帰りましょう。その怪我も早く治療した方が良いわ」
「はい」
電車に乗り、座席に座る。人々は皆それぞれ動いていて、話し声も聞こえた。この電車は罠ではないであろうことは、それで分かった。
「あなたを危険に晒してしまったことは私の責任だわ。ごめんなさい」
そう言って、美琴は小さく頭を下げた。恒は慌ててそれを否定する。
「美琴様が悪い訳ではないですよ。むしろ僕がもっと何かできれば、美琴様の助けになれたかもしれない」
自分ではあの時、何もできなかった。ただ逃げて美琴を頼るばかりで、自分の身さえ守れなかった。恒はそれが悔しかった。あんな罪もない人間を次々と殺めていった相手に対し、自分は逃げることしかできなかったのだ。
しかし美琴は首を横に振り、言った。
「あなたはそんなことを考えなくても良いの。私はあなたの父と母から、あなたを守ると約束したのよ。あなたのお母さんは、息絶える寸前に私に小さかったあなたを託して、この子をお願いしますと言ったの」
美琴は短く息を吐いた。恒は黙って聞いている。
「あなたは私に、どうして黄泉国の皆と親しくしないのかと問うたわね。その理由は、私の近くにいると、この世の醜い部分を目の当たりにして、その上で命さえ危うくなることもある。今日のあなたのようにね。こんな醜い世界を見るのは、私だけでも十分なのよ。皆には幸せな、綺麗な世界で生きて欲しい。私は黄泉国の主だからこそ、その責任があるの」
「美琴様はそれでいいんですか」
恒は美琴に言った。そうやってこの人は色々なものを自分の中に閉じ込めたまま生きてきたのだろうか。黄泉国の主としての役割をこなしながら、自分のことだけは自分一人で処理してきたのだろうか。それでは、あまりに寂しい気がした。
「いいのよ。自分の不幸を他人に押し付けたって何もならないもの。それに、私には良介や朱音、小町やあなたのように、こうして少しでも心の内を話せる人がいるから、私はそれで十分よ」
そう言って、美琴は儚げに笑う。その横顔を、車窓から刺した夕焼けの光が照らしていた。
異形紹介
・杉沢村
かつて青森県にあったとされる村にまつわる都市伝説である。
昭和初期、この村に住む一人の男が突然発狂して住民全員を手斧で殺害、男も犯罪の後自ら命を絶った。そして、事件を覆い隠そうとする自治体により、杉沢村は地図から消え去った。
しかし、この村のことは地元の老人たちによって語り伝え続けられていた。そしてこの村は今でも存在し、迷い込んだ人々の命を奪うのだという。
杉沢村へ続く道の途中には「ここから先へ立ち入る者、命の保証はない」と書かれた看板があり、その入り口には朽ちた鳥居と、髑髏のような石があるとされる。
また、村の家には大量の乾いた血がこびり付いていたり、車に逃げ込むとフロントガラスを血に染まった真っ赤な手が激しく打ち付けるなどの現象が起き、村から帰ることができても数日後には失踪してしまうのだという。
異界系の都市伝説のひとつ。似たような都市伝説には「犬鳴村」や「巨頭オ」、「ジェイソン村」などがある。
元は青森県の一部にひっそりと伝わっていた都市伝説だったようだが、『奇跡体験!アンビリーバボー』で取り上げられたことで全国的に有名になったようだ。
この杉沢村の元になったのは恐らく「津山三十人殺し」事件であろう。杉沢村の事件が横溝正史の『八つ墓村』の元になったと語られることもあるが、これも「津山三十人殺し」を元にしているので、全く違う。また、この事件は岡山県で発生した事件であり、青森県とは全く関係がない。
ただし、杉沢村と呼ばれていた村は実際にあったとの説もある。その村は事件があった訳でもなんでもなく、住民の過疎によって自然消滅してしまったようだ。そのため、心霊スポットでもなんでもない。もし杉沢村が本当にあるのだとしても、それは現実世界ではないどこかに繋がっているのかもしれない。




