四 死神のつくり方
峰夫の周りの空気がにわかに変わった。薄汚れた廃工場の中を思い思いに動いていた異形の者たちが、一斉にある方向に意識を向けたのが分かった。峰雄も彼らに倣い、その方向を向いた。そしてあの少女の姿を発見した。
彼女の周りには三十代半ば程の背の高い男と、二十代前半ほどの長い髪を縛った女、そして日本人ではない、金髪蒼眼の少女がいた。
峰雄は自分を殺そうとした少女の姿に一瞬体を強張らせたが、すぐに緊張を解いた。相手はたった四人、それに比べてこちらは荒くれ者のような外見の男たちばかり三十人は超えている。どう考えても負ける要素はなさそうに思えた。
しかし、彼はこの予想をすぐに覆される羽目になった。
まず先行して彼らにかかって行った二人の人狼と吸血鬼が、紫の少女の抜打ちによって上半身と下半身とを分離させられ、血飛沫を撒き散らして地面に崩れた。
それを合図として両者が一斉に動いた。たった四人の敵を相手に、怒声なのか歓声なのか分からない奇妙な叫び声を挙げながら狼男や吸血鬼たちが飛び掛かって行く姿は、草食動物の子供を集団で襲う肉食動物を思い起こさせた。
四人は一気に分散し、集団の攻撃を避けた。紫の少女が黒い毛の人狼の首を飛ばしながら叫ぶ。
「良介、朱音、頼んだわよ!」
「はいよ」
「お任せください!美琴様」
背の高い男と髪の長い女が答えた。峰雄は物影に隠れながら、戦いを見守っていた。とても自分が介入できる状態ではない。とにかく自分に矛先が向けられないことを祈るしかなかった。
「朱音、行くぞ!」
「いつでもどうぞ、良介さん」
良介と呼ばれた男が両手を広げると、その掌に青い炎が発生した。良介が腕を横投げするように振うと、炎が巨大な帯状になって彼と朱音と呼ばれた女に向かって行く異形たちを襲った。
青い炎に包まれ、オルロックの部下たちの動きが鈍る。その熱気の向こうで、朱音が両手に持ったいくつもの白い杭のようなものを宙に放り投げた。右手で髪を縛っていた紐を解くと、一斉に髪が拡散した。それらが上に向かって触手のように伸び始めたかと思うと、投げた杭にひとつずつ髪が巻き付き、落下が止まった。
「さあ、針山地獄の時間です」
にやりと朱音が笑みを見せた直後、白い杭が雨のように降り注いだ。峰雄が見る限り、的確に吸血鬼と思わしき者たちの胸を貫いている。朱音を止めようと彼女を狙う人狼たちは、全て良介に打ち負かされ、地面に転がった。
峰雄は体が震えるのを堪え切れずに、柱の陰からその光景を瞳に写していた。
「一人だけ隠れているなんて、良い御身分ね」
峰雄は倒れ込むほどの勢いで振り帰った。あの金髪の少女が、蔑むような眼で自分を見下ろしていた。右手には両刃の剣が握られている。
「情けないわね、これが同族とは、あんまし思いたくないわ。まあ、もうすぐこの世からいなくなるから良いけど」
そう淡々と言いながら、少女は剣を振り上げた。殺す側から殺される側に転じた峰雄は抵抗する術を探したが、包丁が一振りあるだけだった。こんな短い刃物では相手の持つ剣には対抗できそうになかった。
しかし剣を振り下ろそうとした金髪の少女を、突然何者かが弾き飛ばした。驚いて顔を挙げると、憤怒に顔を歪めたオルロックの顔が目に入った。
「全く、こんなところまで追って来るとは!貴様もしつこい輩だ夜の魔女よ」
どうやらオルロックの蹴りを受けたらしい少女は、大したダメージも負っていない様子でオルロックを睨みつけている。
「しつこいのはあんたでしょ?いい加減死になさいよ」
「ふん、ヨーロッパで私に及ばなかったのを覚えていないのかな?」
「あら、それならちゃんと止めは刺して置くべきね。じゃなきゃこんなところであたしに会うことはなかったのよ?」
「御忠告聞いておこう。そしてここで実践させてもらおう」
オルロックが地面を蹴った。同時に少女の体から黄色の光が放たれ、銀色の甲冑に所々黄色の装飾を施したような衣装に変化した。少女は左手に盾を構えると、オルロックの斬撃をそれで受けた。
「美しいが、食欲がそそられない、そんな女性は君が初めてだよ、リリス君」
「あたしだってあんたみたいなのの栄養になるつもりはないわよ。あとリリスって呼び方は止めなさい!」
リリスと呼ばれた少女の剣戟をオルロックは軽くかわした。峰雄はその闘いを横目に気付かれないよう逃げ出した。あのリリスという少女の標的になるのはごめんだった。とにかく戦闘が終わるまでここから逃げよう。
しかし、やはりそうは簡単には行かなかった。今度は彼の近くで何かが爆発するような音が響いた。続いて人狼の死体が彼の目の前に転がった。
彼の目の前を違う人狼が通り過ぎて行った。彼が向かう先を見るとあの紫の少女がいた。表情一つ変えず、向かってくる獣人にリボルバー式の拳銃を向けると、引き金を引いた。
胸の中心を貫かれ、血飛沫を上げながら毛むくじゃらの死体が峰雄の前に倒れ込んだ。美琴と呼ばれていた少女は峰雄の姿を認めたようだったが、やはり眉ひとつ動かさずゆっくりと歩いて来た。
「小僧、どけ!」
次は吸血鬼が二体、峰雄の横をすり抜けて美琴の方へ向かって行った。しかし美琴は一瞬で刀を鞘に、銃を帯に差すと、着物の袖の中から滑らせるようにあの白い杭を出し、両手に掴んで二人の吸血鬼の胸に突き立てた。喉の奥から絞り出すようなか細いうめき声を上げ、吸血鬼たちは息絶えた。
まさに死屍累々の状態だった。見渡す限りの死体と血溜まり、それに悲鳴や怒声が入り混じる。今までの一方的な虐殺とは違う、殺し合いだった。その真っ只中に自分はいる。こんなことになるなんて、つい一時間前には思ってもいなかった。
美琴が峰雄の前に立った。表情を変えず尻もちをついた峰雄を見下ろしている。峰雄は急いで包丁を構えた。しかし、その手が震える。美琴は何も言わず、左手を腰に佩いた刀の鞘に置いた。
「僕を、殺すのか……?」
美琴を睨みながらそう言うと、美琴は小さく頷いた。
「ええ」
「僕が何したっていうんだよ、お前と僕は何も関係がないじゃないか!」
「死神というのはそういうもの。あなたも分かっているでしょうに」
美琴は冷たくそう言った。
「死神って何なんだよ!僕が死神だから君は僕を殺すのか?」
「違うわ。知らないのなら教えてあげる」
美琴は鞘から手を放した。峰雄はそれを見て、少しだけ安堵する。
「死神というのは、他者が背負った怨嗟を知覚して、その者を殺すためにいるの。あなたも匂いは感じるでしょう?」
峰雄が頷く。しかしその理由は分からない。
「なんでそんなことをしなければならないのさ」
「諸説あるわ。一番有力なのは、怨嗟の感情は霊気になり、最も瘴気になりやすい。瘴気が満ちればこの世に様々な害が発生する。だから、それを失くすために私たちは生まれる、いえ、もしかしたらつくられるのかもね」
「それじゃあ僕が死神とかいうものになった理由がわからない」
峰雄は時間を稼ぐためさらに質問を重ねた。もしかしたら、あの時のようにオルロックが助けてくれるかもしれない。
「私に言えることは、死神になる者たちに共通しているのは皆ひどい怨みを抱いて死んでいった者ということよ。その怨みが私たちを死神へと変えた」
峰雄は父と母、そして義則や、彼と一緒に自分を虐げていた者たちの顔を思い浮かべた。あいつらのせいで自分は死神になったのか。あいつらのせいで自分は再び死の局面にある。一度死んだ身ではあるが、自分はもう生きるための目標を見つけたのだ。こんなところで二度目の死を迎えるのは嫌だった。
「さあ、もうおしゃべりは良いかしら」
美琴が太刀の柄に右手をかけた。峰雄はそれを見て、慌てて言う。
「まだ僕が殺される理由を聞いてない!一体僕が何をしたって言うんだよ!君は何もしていない奴を殺すのか!」
それを聞いて美琴は眉をひそめ、峰雄を睨んだ。初めて彼女が表した感情に、峰雄はたじろぐ。言いようのない冷たい視線が彼を貫いていた。
「分かっているのにまだ言うのね。良いわ。あなたは何も知らない赤ん坊を殺したのでしょう」
峰雄は包丁の持ち手を握り占めた。この女は何もかも知っている。無邪気に笑いかけてきた小さな妹を、自分はこの手で絞め殺した。あの匂いはしなかったが、母親と、男との間にできた子供というのがどうしても許せなかったのだ。
「まだ怨みという感情が何なのか知らない子供でも、言葉を使わない動物でも、怨むということはできるのよ。それともあなたは、小さな赤ん坊を殺したことさえも正当だと言い張るの?」
「うるさい!それじゃああんたも同じじゃないか!僕はあんたにとっちゃ赤ん坊も同然だろう?それでも僕を殺すっていうのか!」
「この状況を見て、何も分かっていないのね」
美琴は静かに太刀を抜いた。その鋭い刃を見て、峰雄が短く悲鳴を上げる。
「明確な罪を犯した以上、私は誰であろうとこの手で殺す。例え相手にどんな理由があろうとも、自分が死ぬかもしれない状況でもね。その覚悟もなく、罪を認めることさえせず、ただ怯え嘆いているあなたじゃ、どうせこれから生きて行くことなんてできはしない」
美琴が刃のさっ先を峰雄に向けた。その唇から少女の顔には似合わぬ氷のように冷たい声が発せられる。
「死神を舐めないで」
「う、うるさい!」
半ば狂乱して、峰雄は包丁を振り上げ、美琴に襲いかかった。このままこいつを生かしておけば、絶対に自分が殺される。抵抗しなければ逃げることもできない。峰雄は包丁を振り下ろした。だが、その刃は美琴に掠ることもなかった。
勝負は一瞬で付いた。太刀が体を通り抜ける感覚と共に、峰雄の意識は闇に落ちた。
美琴は太刀を振って血を落とした。そして息絶えた峰雄から目を離す。この少年も、普通では考えられないような苦しみの中で死神となったのだろう。それは同じ種族として痛いほど分かる。しかしだからと言って見逃す訳にはいかない。それもまた死神だ。
美琴はオルロックがセリナと闘っているのを見て、後ろから彼女を狙おうとしている人狼に向かって銀の弾丸を撃った。頭を引き飛ばされ、人狼が仰向けに倒れる。人狼は銀で殺せばもう再生することはできない。
見た限りではセリナは押されているようだった。オルロックの攻撃を盾で防ぐのが精一杯で、攻撃に転じることができていない。
プライドの高い彼女のことだから言わなかったのだろうが、恐らく欧州でもこんな状態だったのだろう。セリナが眷属を連れていなかった理由は、彼との戦いの傷跡が残っていたからだろうか。そのためオルロックは相手の息を止めることができず、逆にセリナは実力が及ばずに決着がつかなかった。
オルロックもある程度の実力がなければ、ここまで生き残ってはいまい。戦闘から離脱するにも相手によっては簡単にはできないはずだ。特に欧州は複数の国が陸続きになっている分、逃げやすいが敵も多い。日本に来た理由もそれがあるのだろう。
美琴は自身の眷属である良介と朱音を見た。まだ雑魚は残っているが、あらかた片付いている。後は彼らに任せておいても問題はない。美琴はオルロックに向かって、両足で地面を蹴った。
真横から迫る凄まじい妖気に、オルロックはリリスを弾き飛ばして飛び上がった。直後、紫の妖気を纏った斬撃が彼のいた空間を切り裂いた。あれを受けていれば死にはしないものの、動けなくなる程度のダメージは受けただろう。彼らが白木の杭を持っている以上、それは死を意味する。
紫の死神が地上で太刀を上段に構え直すのが見えた。このまま地面に降りれば伊耶那美の斬撃に切り裂かれる。一瞬でそう判断したオルロックは、背中に黒い羽毛のない翼を広げた。リリス一人なら問題ないが、さすがに伊耶那美を相手にするとなると余裕という訳にはいかない。確実に勝つために、空中から闘う必要がある。
オルロックは剣の先を美琴に向け、一気に急降下した。美琴はそれを足を一歩動かしただけで避けた。やはり、この死神はリリスとは違う。オルロックは再び空中に飛び上がり、美琴と対峙した。
「伊耶那美、やはり貴殿は強い。そこの魔女とは違うな」
「褒められても容赦はしないわよ」
美琴の濃い紫色の瞳がオルロックを睨む。オルロックはその瞳から光が失われることがひどく残念であり、また妖艶なことに思えた。それは究極の芸術だ。しかし不協和音が彼の思考を切り裂いた。
「馬鹿にしてんの!?あんた!」
「君には話しかけていない、夜の魔女よ」
リリスが蹴り上げるように黄色の妖力を飛ばした。しかしオルロックは片手でそれを弾く。この程度では火傷にもなりはしない。
「セリナ、少し冷静になりなさい」
「分かってるわよ」
むっとしたようにリリスが言った。やはり彼女はまだ子供だ。寿命の概念が種族毎に大幅に変わる異形の世界では、精神的な年齢が相手を図る指標となる。オルロックは子供には興味がなかった。
「とりあえず美琴は手を出さないで!あいつはあたしが倒すから!」
「……危なくなったら助けるわよ」
美琴はそう言って、リリスから離れた。どうやら残った部下の討伐に向かったらしい。どうせ使い捨ての駒だ。全滅しようが気にもならない。それよりまずこの生意気な小娘を殺すのが先決だ。ヨーロッパにいた時から、こんな日本にまで付け狙ってくる、蠅のように煩わしい敵だ。こいつとその眷属に幾人の部下と計画を壊されたか分からない。殺そうにも眷属が邪魔をして中々殺せなかった。今この小娘は一人、殺すには格好の機会だった。
オルロックは滑空して、一気にリリスとの距離を詰めた。そして彼女が反応するより早く左腕を抉った。斬り落とすまでは行かなかったが、リリスは短い悲鳴を上げ、盾を落とした。
「貴様あ!」
「油断していた自分が悪い」
オルロックは地面に降り、リリスと向き合った。左腕を回復しようと妖力を集中させる彼女に向かって、剣を振う。リリスは左腕を庇いながら剣でそれを防いでいる。しかし盾のない状態でいつまで持つかは怪しかった。
遊戯にも飽きた。止めの一撃を放とうと、オルロックは妖力を通わせた剣をリリスに向かって突き立てた。
「何?」
しかしリリスの体を貫くはずのその攻撃は、ただ空気を抉っただけだった。今まで攻撃を全て防ぐことに徹していたリリスが初めて回避を見せたのだ。
踵を軸に素早く回転し、突きによって無防備になったオルロックの体にリリスの長剣が叩きこまれる。
「あたしのことを舐めてるからこうなるのよ。この国の言葉で言うなら、油断大敵ってやつね」
脇腹から心臓にかけてを斬り裂かれ、地面に膝を突いたオルロックに対してリリスが言った。確かに油断した。こんな小娘と高をくくったのが間違いだったようだ。オルロックは妖力を身体の回復に集中させようとするが、視界の端にリリスの持つ白い杭が映った。
「これで、終わりよ!」
リリスが叩きつけるように白木の杭を振った。背中に鋭い衝撃が走り、胸を杭の先が突き破る。体から妖気が消えて行くのを感じながら、オルロックは埃塗れの床に倒れた。美しいものを追い求めていた最後がこれかと、オルロックは自嘲して口の端から血を吐き、そして最後の息を吐き出した。
「あんたのお陰でやっとあいつを倒せたわ。あんがと」
縁側に座ってぼんやりとしていると、セリナにそう声をかけられた。良介に貰ったのか、盆に串団子を乗せている。
「セリナ、あなたは相変わらず無茶な闘い方をするのね」
隣に座ったセリナに美琴は静かに言った。
「あんたも言ってたじゃない。自分が死ぬような状況でも闘うのが死神だって」
「自分から死ぬ状況を作るのとは違うわ」
美琴は言って、セリナの持って来た茶を啜った。オルロックが倒れたため、彼女は今日は日本で過ごした後、明日にはフランスに帰ることになっている。
「ねえ美琴、死神ってさあ、何なんだろうね」
団子を頬張りながら、しみじみとした調子でセリナが言った。
「どうしたの、急に?」
「同じ種族じゃないと、あんまりこういう話はできないじゃない?だからいい機会かなって。それにあの少年の死神を見てね。あたしももしかしたらあんな風になってたかもしれないって思ったのよ。今でこそ、こうやって生きてるけどさ。」
「そうね」
美琴は頷いて、再び茶を啜った。少しだけ苦い味がした。
「私たちは恨みを消すために生まれたのでしょう。肉食動物が草食動物を食べ、草食動物が植物を食べ、死んだ動物たちが植物の養分になって生態系を維持しているのと同じこと。怨恨の念は最も霊気になりやすいから、それが瘴気と呼ばれる妖気になれば今度は生物や霊に作用して様々な悪影響を及ぼす。それを減らすために、私たちは生態系の中に作られるのでしょうね」
そう、理屈で言えばただそれだけだ。死神という種族は、ただ怨嗟というものを抹消するために存在している。無論逆恨みなどの根拠の薄弱な憎しみではなく、誰かが傷付き、怒りや悲哀を覚えたことで生まれた怨み。それが死神の感知できる恨みだ。
「まあオルロックみたいに、そんな怨みを買ってる奴は碌なのがいないから、そういうのを減らしてくって意味もあるんでしょうけどね」
団子を茶で流し込んでから、セリナが言った。
「そうね、私たちのやってることも、少しは役に立っていれば良いと思うわ。自己満足かもしれないけれど」
そう言って、美琴は串団子を一つ手に取り、口に咥えた。
「まあたそんな辛気臭いことばっか言って。ところでさあ、仕事も終わったことだし、今日はどこか連れて行ってくれない?皆もつれて。あたしも明日には帰るんだしさ。どうせあんた引きこもってるんでしょ?」
「引きこもってるつもりはないのだけど、分かったわ」
美琴は団子を持ったまま立ち上がった。セリナは同じ死神である前に、友人だ。久し振りに会った友人の頼みを聞くというのも悪くはない。
「どこに行きたいの?」
「さあ、どこでもおすすめの場所で、っていってもあんたは良く知らないんでしょうから、良介君とか朱音ちゃんに聞くわ。他にも小町ちゃんも恒君もいるし」
「そうね。賑やかなのもたまにはいいか」
「そうよ、遊んで、おいしいもの食べて、それだけのための外出ってのも、いいものよ」
美琴は頷いた。まだ時間は昼になったばかりだ。今日は良介に昼ご飯を作ってもらうのはやめよう。
美琴は屋敷にいる皆を呼ぶために、歩き出した。
異形紹介
・吸血鬼
人狼、フランケンシュタインの怪物と並び称される、世界三大モンスターのひとつ。元はヨーロッパ地方の伝承から生まれた異形だが、現在想像される吸血鬼像は、近年の創作物によるものが大きい。
現在の吸血鬼像に最初に影響を与えた創作物は、ジョン・ポリドリが1819年に書いた『The Vampyre』であったとされている(ただしそれ以前にも吸血鬼を題材にした詩はあったようだ)。ちなみにこの小説は、ある五人の人々が一つの館に集まった際に各自怪談話を書こうという提案から生まれており、その五人の中にはメアリー・シェリーもいた。彼女はこの会合の中で後の『フランケンシュタイン』を書いている。
ポリドリの小説の中に書かれた吸血鬼、ルスヴン卿は、青白い肌、美青年、貴族という要素を持った最初の吸血鬼だった。これは後の吸血鬼小説に大きな影響を与えた。次に書かれた吸血鬼小説は1847年の『Varney the Vampire』で、著者は明らかでないが、この小説で初めて牙を持つ吸血鬼という姿が確立された。そしてその後、『吸血鬼カミーラ』が書かれたのが1872年のである。
この小説を書いたのはレ・ファニュという人物で、その大学の後輩にブラム・ストーカーがいた。そしてストーカーは後に、これらの小説(作者は不詳だが、『謎の男』という吸血鬼小説の影響が強く見られる)の影響と伝承の吸血鬼を題材に、『吸血鬼ドラキュラ』を書きあげた。ドラキュラは名門出であるというところに過去の吸血鬼小説の影響が見られるが、血を吸われたものは吸血鬼になるというスラヴの吸血鬼伝承を有名にしたのは、この作品である。
そしてドラキュラはユニバーサルスタジオで1931年、『魔人ドラキュラ』として映画化される。この映画においてドラキュラを演じたベラ・ルゴシによってドラキュラのイメージは決定付けられ、また同じユニバーサルによって製作された映画『フランケンシュタイン』、『狼男』などに出てくる怪物たちとともに、吸血鬼は世界的に有名なモンスターとして成長して行く。




