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《ep.2》ドッペルゲンガー※前編


「……ねぇ、知ってる?」


食堂の丸いテーブルを囲んで、数人でランチを取っていたメイドAが、カトラリーをカチャリと皿に置いて言った。


「え、何々?修羅場?」


メイドBが、面白そうに身を乗り出す。


「誰の修羅場?もしかして、魔王陛下とあの二人?!絶対何かあるだろと思ってたのよねー」


メイドCがあちゃーという仕草で、片手を額に当てる。


「年頃の男女だもんね、痴情のもつれの一つや二つ……


って!そうじゃなくて!」


思わずノリツッコミをしたメイドAが、丸テーブルを両手でタン!と叩いた。


「私が言いたかったのは、……ドッペルゲンガーの伝説!」


メイドAがそう言うと、周りのメイドは皆きょとんとした顔で固まった。



「……ドッペ?……何?何て?」


メイドCが怪訝そうな顔で聞き返した。


「私、図書室でたまたま読んだのよ。ドッペルゲンガーっていって、自分と同じ顔をした他人と、一日で三人出会うと………」


「三人出会うと?」


メイドBが聞き返す。



「………死んじゃうんですって!!」


メイドAが切迫した声でそう言うと、一瞬の静寂の後、メイドCがぷっと吹き出した。


「あっははは!そんなの嘘に決まってんじゃーん!!」


周りのメイドも釣られるように笑った。


「ええ〜っ、そうかな……?」


メイドAは頭をポリポリかきながら眉尻を下げた。


「そうよ、だってそもそもアンタさぁ、」


メイドCが、片手に持っていたフォークをピッとメイドAに向ける。


「今まで自分と同じ顔した奴、一人でも会ったことある?」


メイドCが揶揄うような口調で、楽しそうに言う。



「う〜ん………………ないわ」


腕を組んだメイドAが、ボソリと零した。


「でっしょ〜?二十数年生きてきて、一人も会ったことないのにさぁ、一日で三人なんて会えるわけないって!」


メイド達は「確かに〜!」と言いながらケラケラと笑った。



「…………………そうよね〜〜〜!!」


そう言ってメイドAが後頭部に手を当ててヘラッと笑う。


賑やかなメイド達の笑い声が食堂に響き渡った。




────同じ頃、魔王城の執務室。


「請求書です」


老齢の執事はギドに請求書を手渡すと、何も言わずに胃薬と水も差し出した。


「……0の桁を2つ間違えてる」

請求書を見たギドが顔を顰めて言う。


「いいえ、寸分の狂いもなく合っております」

老執事は顔色一つ変えずに答える。


ギドは思わず「はあぁぁ……」と深いため息をついた。



その時、執務室の扉が思い切りバーン!と開き、自由人二名こと、メルとダリルが執務室に入ってくる。


「ギド!お仕事おつかれさま!」

「おつかれさまーーー☆」


二人はなぜか両手にピザ生地を持っている。


「えへへ、今日はお疲れのギドのために、ピザ生地でパフォーマンスをしまーす!からの、ボクの魔力で美味しくピザを焼き上げちゃいま〜す!」


メルがテンション高く宣言すると、横からダリルが「ヨッ!魔王様!」と囃し立てる。


「それじゃあ……りるりる、トップバッターよろしくぅ!」と言ったメルが、ウインクをして親指を立てた。


フッ、と不敵に口角を上げたダリルが、無駄に大袈裟な動きで華麗なターンを決めながら、実に鮮やかな手付きでピザ生地をクルクルっと回す。


勢いよくピザ生地が回転する度に四方八方にまき散らされる小麦粉と、パフォーマンスの間にちょいちょいと挟まれるダリルのドヤ顔に、ギドは貧乏ゆすりを早めた。


背景に薔薇の花を背負ったダリルはキザなポーズでパフォーマンスを締めると、得意気な顔でギドを見る。


今しがたパフォーマンスをしたのはダリルなのだが、なぜかダリルと同じポーズを決めたメルまで、ダリル以上のドヤ顔でギドを見ている。


ギドは顰めっ面で腕を組んだまま石のように動かなかったが、老執事のささやかな拍手だけが執務室に小さく響いた。


ギドの様子を見たメルが、


「む!ギドはまだ満足していないとみえるっ!ここはボクの出番だよね!」


そう言って得意気な顔でピザ生地をスタンバイすると、「それーっ!」という掛け声と共に思い切り上へと放り投げる。


豪快に放り投げられたピザ生地はヘニャヘニャと落下し、ポスっという音を立ててメルの頭の上に着地すると、彼女の頭部は小麦粉で真っ白になった。



既に胃が痛くなってきたギドは、


「……できねぇのかよ!!!!」


というツッコミを、胃薬と共に飲み込んだ。



「うええ〜ん、ボクにはピザ職人としての才能がないんだあああ」


と言って白塗りのような顔で泣き真似をするメルに、ニコニコと楽しそうに笑うダリルが、甘く艶やかな声で誘惑する。


「…めるめる、“あれ”を使えばいいんじゃない?」


ダリルの“あれ”という言葉にピクッと反応したギドが、「……おい、まさか」と思わず椅子から腰を浮かす。


「おお!さすがりるりる!あったま良い〜☆」


メルが右腕を上げて指を鳴らそうとする。


「おいコラ待てっ……!!」


大慌てで椅子から立ち上がり、メルに駆け寄って右腕を掴もうとしたギドだったが、無情にもメルの指がパチンと乾いた音を立てるのが先だった。



するとメルの頭に乗ったままになっていたピザ生地が、ブゥゥゥンと昆虫の羽音のような低い音を立てて急速回転しながら浮かび上がる。


爆速で回転し始めたピザ生地は、執務室の中を縦横無尽に飛び回り始めた。


ピザ生地は勢いよくシャンデリアを破壊し、燭台や花瓶をガシャーン!となぎ倒し、鏡にパリン!とヒビを入れながら、なおも止まらず爆走する。



「メル!!!この野郎、今すぐ……」


騒動を巻き起こした張本人であるメルに何とかさせようと怒号を上げたギドの視線の先に、グラグラと揺れて今にも金具が千切れて落下しそうになっているシャンデリアが映る。



ギィ……ギィ……という音を立てながら揺れていたシャンデリアの金具は、ついにその重みに耐え切れず、あっけなくもプッツリと千切れた。


シャンデリアの真下には、上半身を屈めて両手で耳をふさぎ、ギュッと目を閉じているメルがいた。




「……チッ!!」




考えるよりも先に身体が動いたギドは、必死の形相で一目散にメルに駆け寄ると、自身の左腕の肘の中に、グイッとメルを抱き寄せる。




ギドは右手でメルの頭を抱え込むと、咄嗟にシャンデリア側に自分の背を向けて、硬い腕にギュッと力を込めた。




次の瞬間、



ガシャーーーーーン!!!!!!という大きな音を立ててシャンデリアが落下した。





暫くの静寂の後、


ギドの腕の中にいたメルが、申し訳なさそうに眉尻を下げ、蚊の鳴くような声で「ギド、あの……」と漏らした。



メルの声に気付いたギドがふと顔を上げると、猛スピードで飛んできたピザ生地が、パァン!!!!!!という凄まじい破裂音を立ててギドの顔面に直撃した。



不意に訪れた豪速の衝撃に耐え切れず、ギドは顔面でピザ生地を受け止めながら、そのまま後ろにバターン!と倒れ込んだ。




「ギドーーーーー!!!!!!」




メルは涙目でギドに駆け寄ると、床に倒れ込んだ彼をパニックになりながら必死にゆさゆさと揺さぶっている。



二人の様子を案じたダリルも駆け寄ってきて、ギドの顔面に貼り付いたピザ生地を剥がそうと片手を伸ばす。


すると、ギドの手がいきなりダリルの片手を力強くガシッ!と掴んだ。


「……?!」


仰向けに床に倒れ込んでいた大男に急に手を掴まれたダリルは、思わずビクッと肩を揺らす。


ピザ生地を顔面に貼り付けたままのギドは、ダリルの手をギリギリと握ったまま、ゆらりと上半身を起こした。


ギリギリと握り締められた手から、ギドのただならぬ怒気を感じ取ったダリルの口角がピクピクと引き攣る。


ピザ生地で目の前が見えていないはずのギドは、次の瞬間、メルとダリルの首根っこをガシッ!!と掴むと、片膝を立てながら死霊人アンデッドのようにユラユラと立ち上がる。


首根っこを思い切り掴まれたメルは「ぐえっ」と情けない声を出した。



「…すごいねギド、君の目は顔以外にも付いてるのかな?」


ギドに首根っこを掴まれズルズルと引き摺られながらダリルが冗談めかして言う。



「お前らがいるとロクなことがありゃしねぇ……



さっさと出ていけーーーーっ!!!!!」



ギドが怒号を上げると彼の顔面に貼り付いていたピザ生地は勢いよく飛んでいった。


ギドの顔は小麦粉で真っ白になっていたので、怒り狂う彼のボルテージと顔面の迫力が噛み合わず、見る者を脱力させる虚しさがあった。



ギドは、メルとダリルを執務室の外にポイポイっと放り投げると、扉を破壊する程の勢いでバターン!!!と思いきり締めた。




────────────

────────

────




ギドに執務室から放り出されたメルとダリルは、二人並んで中庭のベンチに座っていた。


ダリルは小麦粉だらけで真っ白になっていたメルの顔をハンカチで優しく拭っていた。彼の美しく長い指が、慈しむようにメルの顔を往復する。



「……また失敗して、怒らせちゃった。ギドに喜んでもらいたかっただけなんだけどなぁ」


ほんのり赤くなった鼻の頭をすんすんと鳴らしながら、メルはしょんぼりした顔でうなだれている。


「あはは、ピザは失敗しちゃったけど、俺はそんな風に誰かのために一生懸命になれるめるめるが大好きだよ」


そう言ったダリルが、陽だまりのように柔らかく目を細める。



「……りるりるぅぅぅ〜〜〜」


ダリルの言葉を聞いたメルは、目をうるうるさせて、高そうな香水が上品に香るダリルのハンカチで、ズビーーーッ!!!と鼻をかんだ。


自身のハンカチを盛大に汚されたはずのダリルだが、その様子を楽しそうにニコニコと眺めていた。



「ありがとう、おかげで元気出てきたよ。りるりるがいてくれて、ボク本当に幸せ」



メルがそう言って朗らかな笑顔を見せると、ダリルは一瞬だけ驚いた顔をして、切なげに眉尻を下げて笑った。



「俺は君らよりも少しお兄さんだからね」


そう言ってダリルはメルの頭に優しくポンと手を置き、頭を撫でられたメルはエヘヘ、と無邪気に笑った。


「ギドにも早く謝らないとね!


……よぉーし!ギドのお仕事をお手伝いして、早く三人でご飯食べよーう☆」


そう言ったメルは、両手を空に突き上げて元気いっぱい立ち上がる。


“ギドの仕事を手伝う”というメルの台詞を聞いたダリルは、それまでの優しい微笑みから一転し、彼の口角は怪しくも楽しそうにニヤリと上がった。



「う〜んでもなぁ、ギドを手伝いたいのは山々なんだけど、前に『お前は何もするな!!』って怒られてから、何も手伝わせてもらえないんだよね〜……」


メルは腕を組みながらウンウン唸っている。



そんなメルの様子を見ながら、ダリルは愉悦の表情で言い放った。


「めるめる、君がギドの仕事を手伝えないなら、ギド自身の分身がたくさんいたら、仕事が早く終わると思わない?」



「…………!!!!


さっっすがりるりるぅぅぅ〜〜〜!!!!!」



ダリルの提案を受けて雷に打たれたような表情をしたメルは、興奮気味に彼の珍案に食いついた。



「よーし!!それじゃ、ギドの分身作っちゃうもんね〜!!……ギド、ギドの分身……ソイヤ!」


メルがドヤ顔で指をパチンとすると、ポフン!という間抜けな音と煙に包まれて、魔力で作られた偽物ギドが現れた。



「テメェ!この野郎あぁん?!文句あんのかゴルァ?!ぶっ殺すぞ!!」


「「………」」



現れた偽物ギドは、チンピラも真っ青な顔で逃げ出しそうな厳つい相貌でメンチを切り始める。


本家を凌ぐあまりのガラの悪さに、メルとダリルは思わずスン…と口をつぐんだ。



「何見てんだよコラ、あぁ?ヤキ入れっぞ」


偽物ギドはメンチを切りすぎてもはや白目寸前だった。



「う〜ん、顔が怖いよぉ……」


「……めるめるのギドに対するイメージってこんな感じなの?」


ダリルが笑いを堪えて肩を小さく震わせながら言葉を漏らす。



「これじゃあ、本物のギドのお仕事を手伝うどころじゃないかも……」


下を向いてしょぼん…とするメルを見て、ダリルがすかさずフォローを入れた。


「じゃあ次は、もっとジェントルマンで大人な感じのギドをイメージしてみたらどうかな」


「ジェントルマンで大人……?りるりるみたいってこと?」


「う〜ん、まぁ……そんな感じ……かな?」


一抹の不安を抱いたダリルが歯切れ悪く答える。



「りるりるみたいなギド………う〜ん、えい!」


メルが指を鳴らすと、再び間抜けな音と煙に包まれて、偽物ギド②が現れた。



「さぁ、今日も素敵な一日の始まりだね♡23時間の自己陶酔タイムから始めようか」


不敵な笑みを浮かべた偽物ギド②が、妖艶な仕草で髪をかきあげながら言った。



「……めるめる、俺泣いていいかい?」


片手で顔を覆い下を向いたダリルが、うつろな声でボソリと呟いた。


「どうしたのりるりる!


………はっ!そうだよね、23時間も自己陶酔されたら、またギドのお仕事手伝えないね」


メルは顔を覆って俯くダリルを心配しつつ、ガタイの良いギドの肉体でセクシーなポージングを決め、自分に酔いしれている偽物ギド②を見ながら言い放った。



「お仕事を手伝ってくれるギド………うわあぁぁ、ボクは一体どうすれば!!」


そう叫んだメルが自身の髪をぐちゃぐちゃっとかき乱すと、ダリルが顔を覆った指の隙間からボソッと呟いた。


「……素直でお利口さんなギドなら手伝ってくれるかもね……?」


「………!!かーーーっ、りるりるってば、天才だね!!」


メルはその手があったか、と言わんばかりに膝を打った。


「素直でお利口さんなギド………今度こそ、お願いっ!!」


メルの切実な祈りとともに現れた偽物ギド③は、不思議そうに辺りをキョロキョロと見回し、メルを見つけると嬉しそうに顔を輝かせた。


「メル様!?メル様だあー!わ〜い☆」


厳ついギドの外見で幼児のようにはしゃぐ偽物ギド③に、ダリルは耐え切れず吹き出した。


「で、ボクは何をすればっ?!メル様のお靴を舐めればいいのですかっ?!」


偽物ギド③は、おやつを目の前に出された大型犬のように目をキラキラとさせ、舌を出してハッハッと言いながら、巨躯を折り曲げ四つん這いになった。


その光景を見たダリルは、さっきまでの落ち込みようはどこへやら、目に涙を浮かべて笑い転げている。


「う〜ん、お靴は舐めなくていいから本物のギドのお仕事を手伝ってあげてくれる?」


「オシゴト、ですかっ?!それは美味しいですかっ?!……あっ、ちょうちょ!!」


偽物ギド③は、四つ足のまま蝶々を追いかけて城の方へと走り出してしまった。


「あ、ちょっと待ってよぉ……!」


メルが偽物ギド③を追いかけようとした時、偽物ギド①の怒鳴り声が聞こえてきた。


「テメェもう一回言ってみろよゴルァ、あぁん?!」


「俺は自己陶酔の時間だから、早く鏡を探しに行かなくちゃいけないんでね。悪いけどチンピラと遊んでる暇はないんだ、バイビー♡」


そう言うと偽物ギド②は、ギドの外見でセクシーに投げキスをし、ヒラリと優雅にバク宙を決めて城の方へと駆け出していった。


「……ぶち殺す!!!!」


何をそんなに怒り狂っているのか、偽物ギド①はキレ散らかしながら偽物ギド②を追いかけて走り出した。



「うわぁぁ〜ん、みんな、ボクの話を聞いてよぉぉ」


メルは半べそで彼らを追いかける。



偽物ギド②を苦笑いで見つめていたダリルも、「やれやれ」と肩をすくめるとメルを追いかけた。


※後編に続く


後書きコーナー

【Q.黄色と言えば?】


メル「バナナー!!!」


ギド「黄色は黄色だろ、他に何があんだよ」


ダリル「黄色い歓声かな、最近毎日浴びてるかも。やれやれ、モテる男はツラいね♡」


ギド「……(無視)」


(ダリルがメルに耳打ちする)


メル「えと、ギドもカッコいいよ♡」


ギド「…………っ!!」

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