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レイの魂

グロリアが生きているかもしれない。そう思ったレイは彼女の住処をたずねにいくのだが…。

 そのうちあっけなく見つかってしまうのだろう、とレイは諦観の念を抱いた。フローベルらはまるで神のような視点で遙か上空からこの世界を睥睨し、監視しているのだ。もし、その監視システムに意志があれば、私たちに味方してくれるだろうか。レイが住宅地を抜け、暗闇の中を歩いていると、ギルバート教会の尖塔が空高くそびえ建っているのが見えてきた。上空に煌めく星々の中に目が移ると、彼らの衛星がこの空のどこかに飛んでいるのだと、反射的に考える。手が届きそうで届かないまどろっこしい思いだ。衛星と地上は見えないラインによって結ばれているが、私はそこにアクセスできない。唯一フリックだけがその機能を有していたのだ。彼女を亡くしたのは、大きな痛手だ。

 レイはギルバート教会のグロリアとフリックの小部屋に向かっていた。外気が冷えた今日の夜は人がまばらだった。誰も彼もがコートを羽織っている。薄着をしている人を見かけると、今日の気温の変化は急激で予想外の寒さなんだとレイは思った。

 レイは小型携帯銃を懐に携え、三位一体広場前で歩調を緩めた。まだ彼らがいるかもしれない。そうだ。罠なのかもしれないのだ。フリックの死はニュースなどの報道機関で報されてはいたが、グロリアに関しては何もなかった。グロリアが生きているかもしれない、とレイは思ったのだ。おそらく私たちが四人で行動していたことを先方は知っていたのだ。故に誰かがこの罠に引っかかると見込んで、わざと報道をしなかった。

 たとえそうだったとしても、グロリアが生きていれば連れ戻し、死んでいれば彼女が持っていた《視力調節装置》を持ち帰るのだ。グロリアは周囲に警戒しつつ、ギルバート教会に忍び込んだ。中は一層気温が下がり、総毛立つ思いがした。それが寒さからなのか、恐怖からなのかは分からない。四肢が凍ったように冷たかった。上手く動かせない。グロリアとフリックの部屋にたどり着くまでの一歩を前に出すことがこわごわとしたが、滑るような速さでたどり着いた。部屋にはだれもいなかった。暖炉の火がくすぶっている。ついさきほどまで誰かがいたのだろうか。

 レイは部屋の外に目を走らせ銃口を四方八方に向けたあと、小型携帯銃を懐にしまい部屋をくまなく探し始めた。グロリアの体はなく小型携帯銃がどこにあるのかと探していると、ベッドの下に光るものを見つけた。小型携帯銃だった。おそらくグロリアのだろう。手に取ると、持ち手がただれているのが分かった。毒でやられたのだ。やはりグロリアはフローベルに毒殺されたのだ。しかし、いくら探しても彼女が持っていたはずの《視力調節装置》が見つからない。いや、そもそも私は《視力調節装置》の形状を知らない。だが、掌以上の大きさではないだろう。グロリアはきっとフローベルに奪われないためにどこかに隠しているはずだ。グロリアならどこに隠す? 本棚の裏か? それとも暖炉の中か? 見るだけではだめだ。もし隠すなら絶対に見つからないようにホロをかけているだろうし、砂漠の中から米粒を一つ見つけるような根気が必要だろう。しかし、私には時間がないのだ。そろそろリッカードが私を呼びに来るだろう。戻らないと。

 レイは腰をあげ振り返った。目の前にグロリアがいた。音もなく彼女は近づいてきた。彼女の手には小型携帯銃が握られている。ぬるっと足を運びグロリアはレイに銃口を突きつけた。「誰? 人間ではなさそうね。もし懐に手を入れたら撃つわ、じっとして質問に答えて」レイは思った。彼女はグロリアではない。姿形はグロリアだが、その性格はグロリアではないのだ。私を見てレイだと分からないのであればなおさら、彼女はグロリアではないのだ。だがこの胸に沸き立つ思いを抑えるのに、レイは時間をかけた。レイは数秒ほど固まってしまった。向けられた銃口に恐れをなしたのでもなければ、驚いたわけでもなく、彼女に聞きたいことがあったのだ。「《視力調節装置》はどこなの?」と今すぐ問い詰めたかった。どうしてあなたの部屋に持ち手がただれた小型携帯銃があるの? するとグロリアは答えるだろう。「《視力調節装置》は我々、アンドロイド管理会社が頂いたわ。失望しなさい。私の本体はすでにフローベルの手によって壊されてしまったの。今あなたの目の前にいるグロリアそっくりの人物はグロリア第二号なの。そう、あなたの読み通りこれはグロリアの生死を確認してくるであろうお仲間さんを陥れるための罠。それにあなたはまんまと引っかかったの」グロリアは顔一つ動かすことなく、そうして真実を語るのだ。

 レイは金縛りが解けると、ようやく口を開いた。「私はレイ。グロリアの味方。私はグロリアしか持っていない《視力調節装置》を受け取りに来たの。持ってるのでしょう?」グロリアは一瞬たじろいで見せたが、引き締めた顔の力を抜き相好を崩した。「アンドロイドはいつも上辺だけしか見ていないのね。いや、人間も同じかもしれない。私と以前の私に違いはなかった?」いいや、あるさ。レイは歯ぎしりした。上辺だけしか見ていないのはグロリア、あなたもそうじゃないか。「あなたはグロリアじゃないのは薄々分かっていたけど、言わなかっただけ」とレイは言った。「違う! 私が言いたいのは私がアンドロイドではないということ、どうしてレイは私がアンドロイドだと思ったの? その証拠は? ないじゃない。もしかして透視ができたりするの? でもそれはありえない。だってあなたは驚かなかった。私を見ても、驚かなかったわ。まあ、それがあなたを殺すか生かすかの判断をすぐに決めることができる理由の一つになるのだけど」グロリアは銃を下ろした。チャンスなのではないか、とレイは思ったが彼女の言わんとしていることを察し始めた。彼女はアメーバなのだ。エイリアンなのだ。「現段階における地球上でエイリアンが存在しないことを頑なにあなたたちは信じ続けている。その根拠を覆すものが目の前に現れたときのあなたたちの反応を楽しみにしていた。ねえ、おしえてよ。実の親を目の前にしてあなたは何を思ったの?」実の親だと?そんな!まさか!私たちの創造主がアメーバだというのか?レイは言った。「誰が作ったのかについて興味がないの」グロリアはひどく落胆した。「退屈な反応ね。期待を裏切らず、予想の域を出ない最も退屈な反応よ、レイ」グロリアは再び小型携帯銃の銃口をレイの鼻先に突きつけ、トリガーを引いた。目映い閃光が連続的に炸裂し、レイの体と反応した電磁波が周囲に散っていった。すべてが焼け焦げたあとに残ったのは頭のなくなった機械人形のくず鉄だった。

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