エピソード2
『最初に始まりの男探しして、カラオケ行く流れだよね?』
谷口が再確認の意味をこめて言葉にする。事前に決めたわけではないので、各々が勝手に決めつけていたのかもしれない。
『僕も噂の検証してからカラオケの流れだと思っていました。』
正直、俺は二人と逆だった。一刻も早く微妙に音痴な歌声に酔いしれたかった。
ただ、俺の生まれ育った国は民主主義。社会に出ることを想定してより多い意見に従おう。
『いや、カラオケでテンション上げてから探した方が盛り上がらない?』
時々自分が怖い。考えよりも先に口から本心が出てしまう。いや、本当の友達だからこそ本心が言えるし、何より歌いたい。
『例え春香でも引き下がれません。この1秒の間にも誰かに捕まっていたり、逃げ出している可能性もありますし。』
本当にやる気に満ち溢れているな。矢田部はこういった感情もあまり出さないからこそ素直に嬉しい。
『うん。10憶でカラオケ貸し切るのも面白そうだね。』
『クスッ。良いですね。分担は3億山分けで、1億は豪遊しましょう。』
『その1億でカラオケ貸し切っても、まだまだ使いきれないね。キャバクラでも行ってみる?』
などと、宝くじあるあるを矢田部と繰り広げていると、先頭を歩いていた男が急に立ち止まる。
『言いたいことが二つある。一つは3億中、1億は貯金。1億で家と家具揃えて、残り1億は趣味に使う。二つ目に俺は噂の場所なんて知らない。』
『一つ目に関して言えば同感だか…お前どこに向かってたの!?』
『ぶっちゃけ、ノリ?玄関から出た時点で先頭の俺が誘導しないと。って使命感が。ただ、今は罪悪感に代わってるから安心して。』
この決め顔が可愛いな。包丁持ってくればよかった。
『僕も谷口、どこ向かってるんだろうな。と度々思ってました。』
もう…バカばかり…
『冷静に考えれば分かることだった。矢田部、案内して。』
『承知しました。』
どうしても救えない未来しか見えないので心の中で『古い。』と突っ込んでミタ。
谷口とも目が合う。おそらく同じことを考えたに違いない。
先頭を楽しそうに歩く二人を見守ることにして、どうせなら先ほどのページを閲覧してアダム事件の勉強しておこうと思い俺は黙って鞄からスマフォを取り出す。。
『矢田部。そういえば中学生は女の子?女性?』
『…何文字以内ですか?無制限ですか?』
『そうだな…文字と言うよりも、時間かな。着くまでに上手くまとめて。』
『では。そもそも女や男という単語は性別を表すもので、性別に人としての尊敬を込めたうえで女性、男性、女の子、男の子。となります。ここから本題に入りますが、世間一般的にいえば女の子は幼い~…』
これが矢田部の残念な理由の一つ。中二病、下ネタ、UMA、心霊など、ありとあらゆる特に必要のない知識に埋め尽くされすぎて、少々常識に乏しい。
そこも俺は好きな部分ではあるが、人によっては好き嫌いが分かれる性格なのもうなずける。
『ので、女性の乳房には右に優しさ、左に未来が詰まっていると仮定されますね?』
『先生。個人的には右に未来、左に優しさかと。』
『いいところに気付きましたね。さすが谷口。ですがこれはロリブルマーの最終定理で~』
心底、フェルマーに謝れ。と酷く憤慨するのと同時に、アダム事件とロリブルマーの最終定理のどちらを検索するか一瞬考える。
結果、アダム事件を選ぶことにした。俺のレベルではまだ早いと思う。
読み始めてみると、中々興味深い内容で、前を歩く二人の会話など一切耳に届かないくらいに集中していた。
それでもちゃんと二人の後を着いて行けるのだから、人間ってすごいな。と自分に新たな可能性を見出してみる。
ズボンのポケットにスマホを入れる。いくつかの疑問点が脳裏に浮かぶ。
『ねぇ、今アダム事件の記事読み終わったけど…何故この記事書いた人ってこんなに詳しいの?』
メディアで報道するはずのない情報が多すぎる気がする。具体的には警察関係者、というより事件担当者じゃない限り知りえない内容が多々ある。
『最初に見た時、僕も春香と全く同じ感想を抱きました。』
二人のくだらない、いや、興味のあるくだらない会話を遮ったにも関わらず、快く矢田部が答えてくれる。
『おそらく偽名だとは思いますが、警察に里舘 葉弥なる人物はいませんでした。そもそも、世界規模の大事件なので、一公務員が簡単にネットに情報を流失するとも考えられません。考えられるのは…』
『のは?』
この際、どのように矢田部が里舘 葉弥が警察にいないと調べたのかは置いておくとして、続きの言葉を早く。と力強く目を見つめ促す。
『始まりの男本人が書いている。またはエスパー能力者がいる。のどちらかと僕は睨んでいます。』
『それなら、俺は始まりの男が書いてる説をおしたいかな。』
理由は簡単。目、耳など、五感で自分が感じたこと以外は信じない主義だ。
都市伝説が好きだと述べはしたが、好きと信じるはまた別の話。
『春香なら、そう言うだろうと思っていました。肯定も否定もしません。ただ、僕の好きな言葉に(いる証拠は、実物を見せるだけ。いないという証拠は無い。)と言ったものがあるので、それだけでも覚えておいてください。』
『良い言葉だね。他にも気になる点があるのだけど。』
『では、後の気になる点は始まりの男本人に伺ってはいかがですか?着きました。ここが噂の場所です。』
上手くかわされた…と、少しだけ感じたものの、勢いよく二人とも走り出してしまったので、出かかった言葉を飲み込むことにした。
『二人ともはしゃぎすぎ。ケガして明日から学校いけないなんて体張ったネタはいらないからね。』
初めに抱いた感想は、家からそこまで歩いていないのにこんな場所あったのかだった。
見渡す限り雑草と林。時々無断廃棄物。舗装された道もなく、誰がここで始まりの男を見つけたのだろうと呆れてしまうくらい人の気配もない。
『確かにここなら別の噂の一つや二つありそうだは。』
何故、二人ともいないのに声に出したかって?人の気配の無い場所に置き去りにされてみろ?あえて言葉にはしないが、足早に二人の後を追う。
踏まれた草花の形跡がはっきりしているおかげで、迷わずに歩けそうだ。それにしても、少しくらい待とうという気持ちは無いものか。
などとムカついていたが、まるで木刀のような枝を見つけて絶対谷口の尻…と、片手で振り回しながらに少しだけにやける。
一人で歩き出して10mもしないで分岐点を迎える。
人が通った形跡が3つあるのだ。
そう。計算が合わない。仮にここで二手に別れたにしても、二つしか道は出来ないはず。いたずらで3つ目を作った?いや、俺が気付くかもわからないうえにそんな時間まではないはず。
そもそも、歩いたり走った程度でこんなに分かりやすい道なんて出来るか?
出来るわけがない。仮に可能だとしたら遭難者なんてほとんどいないだろう。
何かがおかしい。
急いでポケットからスマホを取り出し、着信履歴から先に見つけた谷口に電話をする。
『プルルルルー…』
時刻は13時頃。今が春だとしてもこの時間は北海道でもそれなりに暖かい。俺の額に流れる汗は暖かさからくるものだと信じたい。
『現在おかけになった番号は~』
くそ。次は矢田部だ。
『プルルルルー…』
今も走り続けていたとしても二人の名を叫べば届くかもしれない。
ただリスクも高い。今もなお第三者がこの近くにいるかもしれないのだから。
『現在おかけになった番号は~』
応答のないスマホを再度ポケットにしまい、一度深呼吸をする。
とにかく合流しよう。二人の無事を一刻も早く確認したい。
何かが起こる。と決まったわけではないが、これだけ違和感が揃っていること事態に気持だけが先走る。
俺は真ん中の道を進むことにした。理由は二つ。
ちんたら考えている時間が惜しいこと。
バカだから曲がらず真っ直ぐ進むだろう。
先ほど見つけた枝を持つ手に力が入るのがわかる。
いつ、誰が…最悪、人以外に遭遇してもいいよう足音など細心の注意を払いながら進む。
体感10分。おそらく1分もあるかずに、あきらかに学校の指定制服ではない服装の人物を見つける。
後姿だが、髪の長さはミディアム。上下黒の服装でまるでホストのような印象。
あきらかに男性であろうその人物は、俺に気付きもしないままその場から微動だにしない。
あれが…始まりの男なのか?誰にも分からない上に、あのサイトしか見ていない俺にとって、決定的なものは何もない。
この時間に、学生でも不自然なのに、私服の男性が林で微動だにしないこと自体は不自然なのはわかる。
何故こんな時に矢田部はいないのだ…
仲間がいるかもしれないし、一人でいるときに意を決して、話しかけてみることに。
『すみません…道に迷ったみたいで…街中に出るにはどうしたらいいでしょうか?』
我ながら下手くそな嘘なのは否めない。
こんな所で迷子って…しかも凶器のような棒切れまで所持して…
『え?』
俺の声に反応して男は振り返る。全身真っ黒な服装なだけに、ある一点に目が行く。
真っ赤なパンツ…社会の窓全開…ぁあ…
何故動かなかったか。それは立ちし○ん。大自然の中、自然現象を…
必要以上に集中していただけに、男の一点を直視してしまう。
ふと我に返り、視線をそらしながら再度問いかける。
『道に迷って。いい天気ですね。』
『確か…噂の検証だよね?春香君。あと、僕は始まりの男ではないよ♪』
決め顔で本当に欲しい答えをくれた男。
男との距離を一気に詰め、胸倉を掴みかかり怒鳴り散らす。
『どうして俺の名前を知っている?俺たちの目的まで。二人に何かしたのか!?』
『今日ここで、春香君と俺が出会うのは必然だっただけのこと。』
何が必然だ。バカにしやがって。ふざけるのは下半身だけにしろ。
『ちなみに矢田部君と谷口君はこの先で嬉しそうにエロ本読んでるよ。』
この野郎…あいつらのために熱くなった時間を返してほしい。
『目的は?』
普通なら、この男がここで何をしていても個人の自由だ。俺に言う必要などない。
普通なら。そう、あきらかに普通ではないからこそ俺は胸倉を掴んでいるのだ。
『それは春香君自身が一番わかっているのでは?とにかく、チャックだけ閉めたいな♪』
この露出狂が…知っていたならさっさと閉めろ。高校生に気を使わせるな。
『誰も来ないだろうが、確かにチャックだけは許可する。』
怪しい行動をとったらいつでも殴りに行けるよう約1mほど距離を取り、男を見守る。
『ありがとう。とにかく、やっと会えた。待っていたよ♪』
『待っていた?』
『そう。人生は一本の道。その途中で春香君を待っていたら、会えるのは当たり前でしょ?』
まるで顔が物語っている。何故理解できないのと。
俺がバカだからと言った点を差し引いても、この男の説明不足が大半を占めていると思う。
『仮に、そうだとして…その場合、何故俺を待っていた?』
『簡単にいうと、PWCに選ばれたの。日本地区は俺の担当だからかな♪』
『もうね…考えるの止めてこれで思いっきり殴り飛ばして二人の安全確認したい。』
『本当に最近の若者は忍耐力がないし、上手くいかないと暴力…怖いは…』
『お前が回りくどい言い方ばかりするからだろ。一切信用はしてないからな。』
『これで理解してもらえるかな?』
パチン。と乾いた空気の中、男の指を弾く音だけが鳴り響く。
五感で自分が感じたこと以外は信じない主義だ。
正確には信じない主義だった。見てもなお、信じられないのだから。
『理解できません。』
身長170cmでお世辞にも背が高いとは言えないものの、台座などもなしに俺の頭よりも上に足があるなんて。
そう、目の前の男が浮いているのだ。
ここがステージ上で、マジシャン相手に話をしていたのなら、素直に拍手を送りたい。
『どう?これがPWCでもっとも必要な力♪』
『あの~…余計に分からなくなりました。』
『一から?一から説明しないとダメかな?いつもこうだ。』
いつもこうなら最初から一から説明しろよ。
冷静な突込みを脳内で展開させながら、冷静さを取り戻したことに少し驚く。




