二十二話:よろしく
見つかる事を覚悟しながら第二地区を突っ切ってきたボーディ達は、無事第三地区『ハルジオン』へと戻ってきた。〈アルバトロス〉への不正干渉はバレるとまずい為、機材は鞄ごとガレージに放り込んできた。ブリキが死んだように横たわっていたままだったが、今はとにかくダンパーからの放送の真意を聞かなければならない。
と言うより……これは確認行為だ。何がやって来るのかは、既に教えられているのだから。
「——全員、よく集まった。単刀直入に言う。先程十二キロ先で、地上巡回班が活動しているアンドロイド部隊と遭遇。戦闘の後……壊滅した」
嫌に静かだった。この巨大な空間で、五十名近く居るはずの大人達の誰もが、沈黙を貫いている。おかしな話だ。けれど、ボーディは心のどこかでこうなる事を予感していた。
元々第三地区に若者は少ない。居ても産業エリアに移り、わざわざ自警団なんて危険と隣り合わせな職場を選ぶものは少なかった。理由は個々有れど、少なくともラスティ、ナスティは大人が胡散臭いからだと言っていた。いつかボーディが感じていたものと同じものを感じていたようで。
「ダンパー……何で、アンドロイドが居るんだよ」
ボーディの問いに、ダンパーも、大人達も押し黙る。
「全部破壊された……僕は、第二地区でそう教わって育ったんだ。でも地上巡回班なんか作って、定期的に地上を警備してさ――隠してたのかよ」
「……そうじゃない」
「じゃあ――!」
「アンドロイドは下から来るのよ、ボーディ」
制止したのは、どこかから現れたパフィだった。
「戦争時、第三世代以外の自律式AIが人間と戦争を起こしたわ。でもね。開戦が一方的なら終戦も一方的だった。二十年近く争ってたアンドロイド側が、一斉に機能を停止したの。だからその機を狙って、人類側が徹底的に破壊したのは本当の話」
「……何で、パフィが知ってるんだよ」
「あら、これでも医者よ?それなりの学校出てんの。で、戻すわね。それ以来あちこちの地域で同じように破壊行動を続けていく内に、アンドロイド側が地下に製造プラントを持っていた事を見つけたわけ。第一世代と第二世代は発見して壊したのだけれど、残る第四世代、第五世代だけは見つからなかった。はい、ダンパー」
「……戦争を忌み嫌って、地上を捨て、真っ先に地下へ生活圏を見出したのが第一地区と第二地区の人間だ。俺達第三地区は、最初こそ地上で過ごしていたが……結局プラントは見つからずじまい。だからアンドロイド達が地上に出てくるまでここで過ごし、発見次第、逆にプラントを突き止めて破壊する事にした。ボーディ……ここに居るのは、全員死に損ないだ。家族を弔う為だけに生きてきた、そんな連中なんだよ。今まで隠していた事も含めて……すまない」
何も言えなかった。
そんな……そんな生き方、あるかよ。
戦争の引き起こした凄惨な現実が、今になってじわじわと背中にのしかかる。昔話でしか聞いた事のない話。親しい者を奪われた人間達の、死んででもという覚悟。三十年経っても人の心に禍根を残す……いや、三十年ぽっちだから、なのか。ようやく分かった。どうしてあの時、リンクスとジェイクの間に埋まらない溝が出来たのか。
これが、奪われたかそうでないかの決定的な価値観なんだ。
でも……どうしても呑み込めない。これがジェイクの言うガキのお利口な理屈だと言われればそうかも知れないが、その生き方を、絶対に吞み込んでやりたくなかった。
「ボーディ。お前は、アイと部屋に居てくれ」
「はぁ!?なっ、なんで!僕だって――!」
「聞け。お前が子供だからとか、頼りないからじゃない。お前が適任なんだ。アイツの側には人が必要だ。知らない人間の近くに居るより、お前の方が安心出来るだろう。それに、お前なら部屋からでもドローンを使って状況の連絡が可能だからな」
「ダンパー……」
「リンクス、お前も――」
ダンッ、と彼の言葉を断ち切るように、木箱が置かれた。こちらが話をしている最中に、リンクスとトーマンは技術班とあれこれ準備を進めていたらしい。近くでアイが不安そうな顔をしているが、二人は珍しく声もかけずに黙々と作業をしている。
その中央には、一台の固定式ガトリングガンが鎮座していた。
「……リンクス。お前まさか――」
「いつまでベラベラ喋ってんだよ親父。そんな時間あんのかー?」
「だが、お前は……」
「御託なんざ要らねぇだろうが。なー、カブトムシ」
「おうよ!やるからにはド派手にやるだけだよなぁ、フナムシ」
トーマンの顔に拳が叩き込まれた。呆れて物も言えない状態のダンパーを差し置いて、リンクスはガトリングに腰かけながらダンパー以上に呆れた顔で溜息を零す。
「理屈なんか知らねぇよ。敵が来た。やらなきゃならねぇ。あたしらはこの生活の為に。あんたらは家族の為に。それだけだろうが。このままじゃデートすっぽかしたってんで、あそこのカワイ子ちゃんにビンタされちまわぁ」
「えっ……し、しないよ?」
「巡回班の連中だって探してやらなきゃならねぇ。必要なら下の自警団にも援軍要請が必要だろ?こっちの準備もそうだ。やる事なんざごまんと有って、全部分かり切ってる。ちゃっちゃと終わらせてよー――全員でパーッと酒飲んで、バカ騒ぎしようや!」
ハルジオンに声が響く。集まった面々は最初こそ呆気に取られていたが、その顔はどこか楽しそうで。あちらこちらから雄叫びと拳が上がる。ダンパーやパフィも諦めたのか、仕方ないと言った顔で準備を始めた。
対してリンクスは、いつもの様に顎で指示を飛ばしてくる。だから――。
「アイ……行こ。部屋から皆の手伝いをしなくちゃ」
「……うん」
人の波に飲まれないように、壁際を二人で歩く。後ろを振り返れば、リンクスとトーマンは笑いながら手を振っている。
後はよろしく――そう、言いたげに。
「ボーディ、さん……?」
「……何でも無い。行こう」
視界がぼやけた。瞬きをしても、上手く戻らない。
繋がれた手の力が、強くなった。
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