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ブリキのアイ  作者: 桐丹穂
ガーネットの章
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十九話:新しい人類

「ボーディ!今すぐブリキを落として、アイツと接続する機材を準備しろ!――おー、トーマン!悪ぃ、今すぐ第二地区に行く用が出来た!アイと一緒にいてやってくれ!すぐ戻る!じゃな!」


 途端にガレージが慌ただしくなる。リンクスも流石に今回ばかりは異常事態だと思っているようだ。かく言うボーディも、さっきまでの余裕はもう何処にも無い。言われた通りにブリキを緊急停止させ、あちこち引っ掻き回して機材をカバンに詰め込んでいく。

 あのスーパーコンピューター……このタイミングで、何のつもりだ。それより――どうしてブリキが、あれと繋がっている。ブリキから何らかのアクションを起こしたのか、向こうからブリキに接触したのか。分からないが、少なくともリンクスのパソコンにはブリキのログが残っていない。いつから干渉されていたんだ。

 ブリキは何て言っていた?

『意義』『存在』『話』『定義』――『全部』『違う』。ワケが分からないが、少なくとも食べ物ワードを連呼している時とは明らかな意味を持っている言葉達。

 ワケが分からないと言えば、初めて動いた時もそう。勝手に動き出していて、単語を並べ始めて。でも……あの時は、アイに怯えていた筈。『最優先保護対象』と言っておきながら、怯える必要はあるだろうか。ならあの時はブリキの意志……いや、待て……じゃあ、あの時は誰がブリキを動かしたんだ?そもそもブリキは、どうしてアイを怖がる。見ようとしない。アイに『ニューロン識別番号』が分かるように、ブリキも何か知らないものが見えてるってのかよ。


 頭を振りながら荷物を詰め終える。考えるのは後だ。


「リンクス!いつでも!」

「おーし、あの野郎今度こそ聞かせてもらうぜ。生意気にウチの家族に不正アクセスしやがってよー」


 強制シャットダウンした事によって横たわるブリキを、リンクスは一瞥する。


「待ってろ。行ってくらぁ」


 そうして二人はガレージを飛び出して、全速力で岩回廊を走り出した。


 まだ朝は始まったばかり。階層移動用エレベーターは人々の活動を知らせる時計の様に、順々に動き出していく。その動き出しのチェーンの音がセンターホール内に反響し、怪物の断末魔の様な音が響き渡る。

 ――或いは、このコロニーに本当に怪物でもいるのかもしれない。今まさに自分達が向かおうとしている場所にも。

 五分程下れば、各階層に繋がっている換気ダクトが点々と現れてくる。ここからはダクトからダクトを通り抜け、全身油やサビ、ダクトから噴出してくる生暖かい蒸気の中を通っていかなければならない。

 揃ってマスクを付け、ダクトの中に入る。鞄の中身があちこちにぶつかって進みにくいが、何度か通る内に身体が慣れていた。

 四つん這いになりながら、二人は先へと進む。途中三か所目のダクトを開いて下へ。来た道を戻り次のダクト。こうして決められたルートを辿りに辿って、ようやく〈アルバトロス〉に辿り着ける。ルートは先導するリンクスが、昔から潜り続けて見つけたらしい。相変わらず無茶苦茶と言うか、変な直感が冴えていると言うか。


「……リンクス」

「おー?」


 先行く彼女の後を進みながら、ボーディは言う。


「……ゴメン。僕も、リンクスに隠し事してた」

「それは今言うことかー?」

「うん……あのさ。アイを見つけに行く前、僕……一人で〈アルバトロス〉の所に行ったんだ。最下層のどこを探したらいいか分からなかったから。そしたらアイツ、モールス信号を使って、僕に言ったんだよ。『マ・マ』って。あれは多分……アイ、だと思う……」


 リンクスは何も言わない。ただ……進んでいた身体は止まった。


「隠していて、ゴメン……こんな大事な事。もう少しハッキリさせてから伝えようとしたんだけど……でも、隠してた事に変わりは無いから……本当に、本当にゴメン!リンクスはさっきも、あの時も……ずっと僕に真っ直ぐだったのに……」


 視線を感じて顔を上げれば、ゴーグル越しの眼がこちらを見ていた。口元を塞ぐマスクやダクトの暗がり、ゴーグルの曇りであまり良く見えないが、それは笑っているようにも見えて。

 彼女の指が、真っ直ぐボーディの方に向けられる。


「また一個、決められたじゃねぇか」

「えっ?」

「お前はちゃんと選べんだよ、自分で。だから自信持っていいぞ。今度は〈アルバトロス〉だの禁忌だの、それ絡みはさっさと言えよ。ちったぁ楽に過ごせるだろうからよ」

「……リンクス――」

「次やったらセンターホールにバンジーだからなぁッ!覚えとけよ糞ガキがッ!」


 途端にマスクを外した大罵声と怒号。ダクト内がビリビリと震え、アイのそれとはまた違う強烈な耳鳴りがする。

 リンクスは――笑っていた。

 マスクを再び付けて、先へ進む。褒められたのか。或いは怒鳴られたのか……本当にハッキリしないが、確かに少しだけ、心は軽くなった気がした。


 進み始めてどれくらい経ったか、ここに居ると時間の感覚がおかしくなってくる。

 が、四か所目のダクト降りをしたところでようやく汚れの少ない場所までやって来た。さっき迄は第二地区の上に居たからか、下からはそれなりの賑やかな生活音や喧騒も聴こえていた。ここはもう遥か遠くで小さく聞こえる程度。

 変わりにここからでも心臓の鼓動のように規則正しい振動と重低音が伝わってくる。


「お前、今回の件どう思う」


 リンクスはそんな事を言う。


「今回の件って……どこからどこまでの話?」

「そりゃそうだな。多過ぎる。だから全部だ」

「無茶言うなよ……」

「アイが見つかって、証拠は消えて、エリオラさん探しだけかと思いきや、ブリキの異常に〈アルバトロス〉だ……いくら何でも重なり過ぎだよな」

「本当にそう思うよ。第三地区に来てから一番仕事してる。だから……気持ち悪いんだ。自分が何か、一本道を歩かされてる気がしてさ」

「同感だよ。そしてすこぶる気に入らねぇ。これで終わって万々歳、なんて気もしねぇからな。はぁ――もう二、三発はデカイもんが出てくるのかねぇ、ヤダヤダ。着いたぜ」


 ポシェットから小さなお手製ガジェットを取り出したリンクスは、それをダクトの中に突っ込んで様子を伺う。小さなカメラのような物だった。

 禁忌では無いものの、貴重な地上由来のスーパーコンピューターともあって、本来はその希少価値と有用性から近付く事は厳禁とされている。入れるのは一部のメンテナンス担当とイザベラであり、そのメンテ担当も自警団の一員なのだから、結局の所第二地区自警団のごく数人しか〈アルバトロス〉には謁見出来ない。コンピューター相手に謁見もおかしな話だ。そして紛れも無く、自分達はルールを犯してる不法侵入者である。

 散々リンクス達をバカだと言ってきたが、こうしてる間は自分も大バカ野郎だ。……それでも、ヤツには聞きたい事がごまんとある。だから行くしかない。


「ねぇ、リンクス。もし〈アルバトロス〉が重大な何かを隠していたとしたら……イザベラ達は――」

「開けるぞ。話は後だ」

「……うん」


 リンクスにも思う所はあるんだろう。きっと自分よりも、ずっと前から。

 イザベラとの距離が微妙なのも、もしかしたら関係しているのかもしれない。


 開いたダクトからロープを垂らし、さながらコソ泥のようにゆっくりと降り進む。暗い室内には、自分達よりも遥かに大きい箱が何台も並んでいる。何色もの光が点滅し、それら全ては代償様々なケーブルで繋がれ、隣の大部屋へと伸びている。


 ――マ・マ。


 アレを知った時から、ボーディは〈アルバトロス〉をただのコンピューターとは思えなかった。そのケーブルもヤツを生かす生命線であり、胎児を繋ぐ臍の緒でもある。

 この先に待つ存在を思えば、また手が震え出す。

 でも――今回は、一人じゃない。


 リンクスと共に隣の部屋に向かう。長い通路を進み歩き、ケーブルを躱しながら、やがて辿り着いたのは巨大な部屋。先程の部屋よりも更に多く、巨大なコンピューター群が、壁を埋め尽くさんと並び立っている。

 第一地区『スイレン』、第二地区『カルミア』、第三地区『アイリス』——そして最下層『スノードロップ』。このコロニーの全てを観測していると言われているが、普通に暮らしている者からすれば眉唾物だ。どれだけのネットワーク構築とスペースが必要になるか想像もつかないだろう。それはリンクスに見つかる前の自分も同じだった。

 だが、実際に訪れてみれば誰もが不可能ではないことが分かるだろう。現に、自分達の前に聳え立つひと際大きなモニターと、数百本からなるケーブル群、コンピューター機器の機能にどう関係しているのか、緑色の液体で満たされた何本もの縦長の水槽のようなもの。それら全てが、息詰まる謎の圧迫感を放っていた。


「よーし。ボーディ、いつも通り繋ぐぞ。機材くれ」


 鞄の中身を順番に渡していけば、慣れた手つきでモニター横のパネルを開いたリンクスが繋いでいく。ただ今回はいつもと少し状況が違うようで、彼女は自分のパソコンを中継させるようにつないでいた。


「それ、何してるの?」

「お前の考えた対話プログラムは、今これにしか入ってねぇ。いつもならこんな犯罪スレスレの事なんてやらねぇけど……流石に状況が状況だ。何から何まで聞かせて貰わなきゃな……っと。よし!交代だ。モニタリング頼むぜー」


 場所を代わると、リンクスは中央の巨大モニターの前に立つ。そのタイミングでモニターは幾度かの点滅を繰り返し、やがてその光を眩しいまでの輝きを放った。待ちわびていたのか、ここに居る事への困惑か、それ以外……少なくとも、それがただの偶発的なものには到底見えなかった。


「——よー。どうせあたしらの事も認識出来てるんだろ?今日こそ聞かせて貰うぜ、このマザコンが。いや、ロリコンか?」

「スパコンだよ」

「スパコン野郎。答えろ。お前は――()()だな?」


 言葉を失った。それは、彼女が自分の中で確信として持っていた考えだったのだろう。技術屋の直感としてはあまりに突飛で、滅茶苦茶で……どこか、腑に落ちた自分もいる。リンクスには、どこまで見えている。どこまで知っている。


 手元のパソコンがカタカタと鳴りだす。眼を向ければ、キーボードが音を立てて勝手に動いていた。そうしてヤツは……〈アルバトロス〉は、ログを残す。



 ――個体識別番号:D067486、及び、F037590の接触を確認。

 ――新しい世代の//人類へ//ようこそ。歓迎いたします。

 ――我々は//私は//あなたは//君達は――『Hopes & Technology』 です。

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