閑話 : お前と俺と
「ねぇ、ダンパー?ちょーっと最近子供使いが荒いんじゃない?」
「……おー」
「ボーディはまだしも、リンクスが二回も担ぎ込まれるなんて前代未聞よ。まぁ、バカだからゲラゲラ笑いながら帰ったけど」
パフィの言葉に、ダンパーはいつもの様に白髭をいじりながら声を出しあぐねている。
「……ジェイク、酒が進んでないな。遠慮しなくても――」
「俺は避難先じゃない。勘弁してくれ」
辺りでバカ騒ぎしてる若い連中や、やれ女房がどうだの賭けでスッただの愚痴比べをしてる中年達に比べれば、今もなお困り果てた顔をしている男は、ただガタイのいいだけの年寄りにしか見えない。未だ娘の扱い1つ出来ない父親だった。
対してそれと向き合いながら頬杖をついている性格の悪いオカマも、正直何を考えてるのかが分からない。ある日突然ダンパーが連れてきて、医療面の設備を整えたり薬を用意してやったり……正直に言えば、うさんくせぇ。何から何まで。
「ちょっとヤダぁ、アタシを値踏みしてる男が居るんだけど?」
「黙れ。お前には言いたい事、聞きたい事が腐るほど有る」
「何でもは無理よ?アタシ、安くないもの。それから……男か女かは、ノーコメントで」
ウィンクをするな。
ジェイクはグラスをクッ、と呷りパフィを睨むように視線を送る。
「……何を隠してる」
「何よ怖いわね。アタシの事かしら?それとも――」
「アイツに決まってるだろうが!」
「ジェイク」
ダンパーが抑えろと、眼で言っている。分かっている。だから今この瞬間まで、あのうるせぇガキ共が運ばれてきた時でも我慢をした。どう考えたって異常だろうが。何より……家族面しておきながら隠し事してるコイツがとことん――。
「気に入らない?」
「っ……!」
「顔に出てんのよお馬鹿さん。でも隠し事されるのだって確かに気持ち悪いわよね。だから先ず、教えてあげる前に聞かせて頂戴。ダンパー、ジェイク。アンタ達の知ってる忌々しいアンドロイドは……覚えてるわよね。流石に」
グラスを割りそうになる。コイツはケンカを売っているのか。俺の……いや。ダンパーの前で。
「単刀直入に言うわ。あの子、自律式AIを《《飼ってる》》——第六世代を、ね」
喉を潰された気分だった。言葉よりも先に空気が漏れる。目の前で突拍子もない、馬鹿げたことを言うこのふざけたやつは笑っていない。
「領土戦争終結まで製造された自律式AI搭載型アンドロイドは全部で第五世代まで。それぞれ役割があるけど、あの子のそれは全く別物で——」
「馬鹿言うのもいい加減にしろよテメェッ!」
ジェイクにはもう我慢ならなかった。
コイツは、何を思って、それを……今の今まで隠して。あまつさえ、あんな状態にまでなったガキ共を前にしても軽口で済まして。ギャーギャー外野がうるせぇがどうでもいい。一発殴ってやらなきゃ気が済まない。
「良いわよ、別に。アンタ達の気持ちは痛いほど分かるもの。アタシが逆の立場なら殺してやってるわ」
「だったらッ!」
「でもね……アイちゃんが何したのよ。あの子は戦争なんて見ていない。テロリストの娘なんて百も承知。それでもこの時代で目が覚めたのなら、意味があるでしょうよ。何より――子供が生きてるだけで殺せなんて言われる世界の方が、よっぽど終わった方がマシ。ねぇ……ジェイク」
胸倉を掴んだジェイクの手をパフィが握る。その細腕のどこに力があるのか、ゆっくりと自分の手がパフィから剝がされていく。
「残酷な判断だって分かってる。でも、お願い。あの子達に、未来を決めさせてあげて。それでもだめなら、どんな手を使ってでも――アタシがあの子を殺してあげるから」
「っ……テメェは……!だぁッ!糞がッ!」
何も言えなかった。少なくとも、未来などとうに見る事を止めた自分にとっては……飲み込むしか、無い。
「おー、お前らぁ。この場は俺が持つ。今日は気分がいいからな。好きなだけ飲み食いして帰れぇ!」
「ひゅー!流石ダンパー!」
「おっしゃ飲め食え!元取るぞ!」
ダンパーの一声で、外野の馬鹿さ加減と煩さが一層増えた。
冷静になれば、こんな話を自分から聞いておきながら大衆の前で揉め事を起こせば、内容を聞かれていたかもしれない。何事も無かったように飄々とした態度で、オカマ野郎はあくびをして見せた。
「じゃあアタシ寝るわね。その前に調べ物もしなくちゃ。あんな事言った手前、何も分かりませんでしたーじゃ、アタシが彼に殺されちゃうわ」
「いつでも言えよ。介錯はしてやる」
「やぁん、こっわーい!じゃあお休み~」
体をくねらすな薄気味悪い。
半ば不貞腐れながらグラスを煽れば、何かを言いたいのか、チラチラとこちらを見ては逸らすを繰り返す親父が一人。
「……何だ」
「酒が大分回ったな。周りも見ずに激昂なんざ、らしくもない」
「黙ってられるか。そもそもアンタが拾ってきた劇物だろ、あの変態は」
「何も言えんな。すまん。だがあれでも責任感はある。信じろとは言わんし認めろとも強要しない。お前は……お前だけは、そのままで居てくれ」
ダンパーは笑うだけだった。戦争の時から片時も離さず身に着けているペンダントを握りながら、疲れたように。それを誰が送ったのかは知っている。送ったやつがどうなったのかも。全部、全部、覚えている。
第六世代の禁忌——未知の自律式AI。
酩酊した頭で、ジェイクは1人思う。
アイリス。お前の親父さんとお袋さんは、俺を責めちゃくれない。
俺にも選べって言うのかよ⋯⋯お前を忘れて――。
グラスの中で氷が割れる。お前と俺と、同じように。
よろしければコメント等頂ければ幸いです。




