白血病
「そこまで調べてくれたんですか。ありがとうございます」
「どういたしまして、この世界の事ならいくらでも協力するわ」
電話の向こうに大西の鼻歌が聞こえた。
亮は大西との電話を切ると美咲に電話を掛け
国城の妹の話をした。
「そう、妹さんがいるの。
じゃあ国城は妹さんの事心配よね」
「ええ、おそらく大学の帰りに寄っていたと思います」
「分かったわ、妹さんの事を話して国城を
自供させる方向に持って行けばいいのね。
この件は警視庁に引き継いだので、直ぐに調べ上げると思う」
「了解です。ご苦労様でした」
「あら、簡単に終わるのね」
「べ、別に・・・」
亮はこれ以上オカマとかニューハーフの世界を覗くのが嫌だった。
「国城の双子の妹さんは美人でしょうね」
「二卵性だから期待しないほうが良いわよ。
そんなに似ていないはず」
美咲はヤキモチを含め冷たく答えた。
「美咲さん、僕が国城の弁護士を雇う事にします。そして妹さんの
入院費も」
「なぜそんな事してあげるの?」
美咲は亮が何を考えているか分からなかった。
「あれだけの物を作れると言う事はかなり優秀な人物なんです。
彼をこのまま落としたら日本の損失かも知れません」
亮は国城をハーバード大学図書館立て篭もり犯のクリスと
ダブらせていた。
「良く知っているわね。国城正章は高校も大学もトップだったそうよ」
「でもどうして浪人したんでしょうか?」
亮はその時の経緯を知りたかった。
「妹さんの病気が絡んでいたんじゃないかしら、それとも女装癖?」
「そうですね。もう少し国城を調べて見ます」
「亮は女性が絡むとやる気になるのね」
「そうですか・・・」
亮は確かに妹と言う言葉に弱かった。
「父と会った?」
美咲から電話が有った。
「はい、受け取りました。塩見の情報をお願いしたら
お父さん自ら来てしまいまって・・・
SPの多さと態度には驚きました」
「仕方が無いのよ。初めて来る場所はSPがチェックするのよ
父は警察組織の中での最重要人物なんだから」
「了解です」
亮は自分の中で警察としての正義、薬学研究家としての人への愛、
ビジネスマンとしての夢、どれを追っていいか悩んでいた。
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「美也子さん、僕はどの道を選んだら良いでしょうか?」
亮は美也子に悩みを打ち明けた。
「今までできた事なら続ければ良いんじゃないかしら、
まだ若いんだから
組織を作ればいいのよ。そして
『将たるもの、方向を指示し、兵たんす』」
「組織がすばらしければ将が
指差すだけで良いと言う訳ですね」
「そうよ。亮が努力すべきはリーダーとなって
良い組織を作れば良いのよ」
亮は美也子が兵法の話しをしたので驚いていた。
「美也子さんが兵法の話しをするとは思いませんでした」
「銀座でホステスとしていると成功をしている
社長さんがみんな同じ話しをするの
人は宝だってそれが本心かどうかは知らないけど
ただ言っている事は本当だと思うわ」
「そうですね」
亮は三瓶や国城を宝にしようとは思って居なかったが
二人の若者にチャンスを上げたいと思った事は
間違いではないと確信した。
「美也子さんありがとうございます、何かすっきりしましした」
「本当、役に立てて嬉しいわ。そろそろ私、美容院に行かなくちゃ
待っていてくれる?」
「ちょうど良かった、久しぶりにマテリアを覗きに行きます」
「うふふ、あなたは便利な男ね」
亮はジュディに頼まれた講演会のネタになるのではないかと
美容の現場を見たくなっていた。
夕方の銀座の美容室は他の場所の美容室と違って
頭のセットの客でごった返していた。
年齢のいった和服のホステスは
ママやチーママが多く
それぞれのキャリアと共に
ヘアスタイルにこだわりが有って
驚くほど前髪を出したり、高く盛り上げたり
亮はそれを見ているだけで十分楽しんでいた。
雨宮裕子は久しぶりに会う亮に
時々目で合図を送りながら忙しく動いていた。
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「亮、今日は帰ってくるの?三瓶さん待っているわよ」
突然かかってきた電話は母親の久美のきつい言い方だった。
「あっ、そうだった。ちゃんと帰りますから
食事させてあげてください」
「もちろんだけど、彼真面目でいい子ね。家の掃除と修理を
一日中してくれていたわ。
明日はクラブハウスをしてくれるそうよ」
「了解です、お礼に美味しい
日本酒を飲ませてあげてください」
「秋田のお酒だと飛良泉があったわ」
「お願いします」
「はいはい」
久美は最近友達を連れてくるようになった亮の変化を
嬉しく思っていた。
待合席に座っている亮は鏡越しに
ホステス達の表情、スタイルを見そして美容師との
会話を聞いていてメモをしていると
「何しているの?亮」
美也子が亮のメモを覗きこんで聞いた。
「歌の上手そうな女性をチェックしています」
「正解!」
「彼女は音大の声楽科出身」
美也子は鏡越しに手を振った。
「知っているんですか?」
「幸子ちゃんは元、蝶で働いていて他のお店に移ったの」
「お店でいじめにあったとか?」
「そういう訳じゃないけど、私達がいくら監視していても
女の子同士が相性の悪くて辞めちゃう事もあるの。
さっきの件あの幸子ちゃんに話しをしておくわ」
美也子は直ぐに幸子のところに言って
話しをすると幸子は振り返り亮に頭を下げた。
「なんて言うグループ名にしようかな・・・?」
亮は嬉しくなって笑っていた。
「亮、国城芽衣の病名が分かったわ」
美咲から電話がかかってきた。
「何ですか?」
「急性骨髄性白血病だそうよ。担当医は松坂医師」
「ありがとうございます。明日行ってきます」
「うん、がんばって」
「はい」
亮はまた、自分の前に白血病が現れた事に
ため息を吐いた。
「亮、どうしたの。さっきから真剣な顔をして」
手が空いた裕子が亮に話しかけた。
「いいえ、ちょっと気になる事が」
「体の方はもう大丈夫なの?」
「大丈夫です。ハワイでゆっくりとしていました」
「ハワイ、いいなあ」
「みんなで行きましょう。友人がハワイに
別荘を買うそうですから」
「本当!嬉しい」
裕子は抱き付きたい気持ちを抑えていた。
「裕子さん、湯治施設を作りたいので
お父さんに相談があります」
「湯治施設?」




