第122話 家族
『……野党は竜王島への毒ガスを積んだミサイル誤射問題について引き続き国会で激しく追及するようです。さてでは続いてのニュースにまいりましょう。昨日自衛隊員がまた新たに一人行方不明となりました件です。これで今週だけで自衛隊員の失踪は四人目になります。角野総理大臣と宍倉官房長官と熊谷防衛大臣の失踪と何かかかわりがあるのでしょうか?』
俺のスマホには昼のワイドショー番組が映し出されている。
「あんたで六人目だな」
「や、やめてくれっ……オ、オレは毒ガスが積んであったなんて知らなかったんだっ! 上の命令で発射したに過ぎないんだっ!」
俺の足元に転がるばらばらになった自衛隊員の死体が消えていくのを見て、「ひ、ひぃぃーっ!」と取り乱す若い自衛隊員。
「つまらない嘘を。じゃあその命令は誰がした?」
「き、機密事項で言えないんだっ……た、頼むっ。許してくれっ!」
「なるほど。酒野正明って奴か」
「な、なんでそれをっ……!?」
「それだけわかれば充分だ。死ね」
「わ、や、やめ――」
俺は刃物のように鋭く伸びた爪で目の前の若い自衛隊員の首を切断すると、転移呪文で建物の外へと脱出した。
ててててってってってーん!
『鬼束ヤマトは小日向栄二郎を殺したことでレベルが1上がりました』
『最大HPが2、最大MPが2、ちからが2、まもりが2、すばやさが2上がりました』
『鬼束ヤマトはクバジの呪文を覚えました』
「自爆か……間違えて口にしないようにしないと。そして……酒野正明。こいつで最後だな」
◇ ◇ ◇
「あっ、ヤマトくん!!」
「鬼束さんっ!?」
酒野を始末した俺は一週間ぶりにアパートへと帰った。
すると清水さん母娘とアパートの前で偶然顔を合わせる。
「あ、どうも。お出かけですか?」
「うん、美紗と晩ご飯を食べに――ってそんなことよりどこ行ってたの、ヤマトくんっ!」
清水さんは夜だというのに声を大にした。
「ヤマトくん、それよりあのお金なんなのっ? 郵便受けに一千万円以上も入ってたけど、あれヤマトくんでしょ!」
「あ、いやえっと……」
無人島に出発する前、死を覚悟していたので身寄りのない俺は裏稼業で手にしたお金をすべて清水さん母娘に渡そうと、郵便受けに入れていったのだった。
「お金が入ってて鬼束さんいなくなっちゃってたから、わたしてっきり鬼束さんがどこか遠くへ行っちゃったのかと思ってたんですよっ!」
美紗ちゃんも珍しく声を荒げる。
「どういうことなのヤマトくん、説明してちょうだいっ」
「鬼束さんっ」
清水さんと美紗ちゃんににらみを利かされ戸惑う俺。
二人ともうっすら涙を浮かべているように見えるのは夜の寒気のせいだけではないだろう。
「あの、いろいろありまして説明するのが難しいというか――」
「とりあえずうちに来なさいっ」
「いやでも、二人で晩ご飯食べに行くって――」
「そんなのいいですっ」
俺は清水さんと美紗ちゃんに両方の手を掴まれ強引に清水さん宅に連れていかれてしまう。
そして部屋に入った途端、清水さんは俺が二人にと残しておいた札束の入ったカバンを目の前に差し出してきた。
「これは何っ」
「えーっと、遺言というか形見というか……殺人者同士で殺し合いをしなければならない状況に追い込まれてしまいまして」
「えっ、なんですかそれっ!? 大丈夫なんですかっ?」
「うん、それはもう解決したから平気だよ」
俺の言葉に安堵の表情を見せる美紗ちゃん。
「俺、家族がいないので二人にお金を残そうかなぁと思って……」
「そういうことだったのね。じゃあこれは返すわよ。いいわねっ」
「あ、はい。すいません」
清水さんからカバンを受け取る。
「えっと……じゃあ俺はこれで――」
「待ちなさいヤマトくん」
部屋を出ていこうとすると清水さんに呼び止められた。
その直後、
「ヤマトくんはあたしたちの家族よ」
清水さんにそっと抱きしめられる。
「だから今度から何かあった時は相談してちょうだい。お願いだから」
「清水さん……」
「鬼束さん、ううん、ヤマトさん。わたしもそうしてほしいです」
「美紗ちゃん……」
二人の優しさに触れて俺の凍りついていた心が溶かされていくような感じがした。
無意識のうちに涙が頬を伝う。
「あ、あれ? なんで俺……」
「ヤマトさん。今夜はわたしの手料理を食べていってくださいね。わたし前よりは料理出来るようになったんですよ」
穏やかな顔で微笑みかけてくる美紗ちゃんにつられて、
「う、うん……ありがとう」
俺は自然と笑みがこぼれていた。
今回のお話で物語は完結です。最後まで読んでいただきありがとうございました。
同じくローファンタジー作品で【魔物島】や【ダンジョン・ニート・ダンジョン】といった小説もありますのでよかったらご覧になってください。