第121話 最期の日
『この細谷和美くんはきみたちと同じく殺人者なのだが、なんと殺人者の名前と顔と居場所を正確に探知できる呪文が使えるのだ。彼女が我々にこころよく協力してくれたおかげで、今その竜王島には全国の殺人者全員が集まっている』
『な、何がこころよくだっ! 協力しなかったらおれたちを殺すと脅したくせにっ!』
宍倉官房長官に噛みつかんばかりの勢いでそう怒鳴るのは冴木だった。
よく見ると冴木も細谷さんも両手を後ろ手に縛られている。
『黙っていろっ』
防衛大臣がそんな冴木を軽々と組み伏せてみせた。
確か今の防衛大臣は昔自衛隊にいたことがあるとテレビで耳にしたことがある。
さすがに元自衛官相手に両手が不自由な冴木では話にならない。
だがそれでも冴木は必死にもがいて叫び続けた。
『そこにいるんだろヤマトっ! すまないヤマトっ! おれと和美さんはこいつらに脅されてそこにいる殺人者全員の情報を教えちまったっ!』
『黙れと言っただろうがっ』
『ぐあぁっ……!』
防衛大臣に腕の関節を曲げられ冴木は苦痛に顔をゆがませる。
『……ヤ、ヤマトっ! 本当にすまないっ! 死んだふりまでしてお前の前からいなくなったのにまさかこんなことになる――』
バンッ!
その時だった。
床に倒されていた状態の冴木の頭に向けて防衛大臣が拳銃を放った。
「冴木っ!」
『きゃああぁぁぁー!! 冴木く――』
バンッ!
悲鳴を上げ取り乱した細谷さんに対しても防衛大臣が拳銃を撃つ。
『馬鹿な奴らめ。我々に従っていればもう少し長生き出来たものを』
『熊谷防衛大臣、撃つなら撃つと先に言っておいてくれませんか。鼓膜が破れたらどうするんですか』
『まったくだ』
『いや、これは失敬』
角野総理と宍倉官房長官にたしなめられ頭を下げる熊谷防衛大臣。
冴木が死んだ……。
「そんな……」
『殺人者なんて物騒な連中にはこの際全員死んでもらう』
目の前で冴木と細谷さんが死んだのに、宍倉官房長官は憮然とした表情のまま何事もなかったかのように話を戻した。
『きみたちがいるその竜王島には正午きっかりにミサイルが発射される……あー、あと一分半てところだな』
腕時計をちらっと見て言う宍倉官房長官。
「なっ、ミサイルだってっ!?」
「一分半っ!?」
「嘘だろっ!?」
「どういうことだよっ!」
殺人者たちが声を張り上げるが向こうの三人には聞こえていないらしく反応はない。
『極秘演習ということにしてあるからミサイル発射についてはごく一部の隊員しか知らんことだ』
と熊谷防衛大臣。
さらに続けて、
『ミサイルには化学兵器を積んでいるから万が一直撃を免れても生きてその島を出ることは出来んぞ』
とんでもないことを口にした。
「化学兵器っ!?」
「ふざけんなっ!」
「早く逃げるぞっ!」
「駄目だっ、船がないっ!」
「構うもんかっ、海に飛び込めっ!」
殺人者たちの怒号が舞う中あきらは落ち着き払っていた。
「おい、あきら。俺たちも逃げようっ」
他の殺人者たちは海に走り出している。
俺もそれに倣おうとするが、
「ふふっ、無駄だよ。あの人たちだってそれをわかっててすべて話したんだろうからね」
あきらはただ笑って返した。
「あきら……」
「でも僕の呪文を全部知ってるつもりだったんだろうけど手の内を隠していたのはお互い様だよ」
そう言うとあきらは角野総理と宍倉官房長官と熊谷防衛大臣を冷たい目で見据える。
そして、
「シクソ」
と唱えた。
すると次の瞬間、
『っがぁ……!?』
『……うぐっ……!』
『ぐぇっ……!?』
角野総理たちが胸を押さえてその場に倒れ込んだ。
苦悶の表情を浮かべたまま動かない。
「あきら、お前……」
「僕のとっておきの即死呪文だよ。顔と名前と血液型がわかっていればどこからでも確実に殺せるんだ」
「消費MPは三人分で150だけどね」と付け加える。
「さてと、ヤマトさん。これで僕たちさよならだね」
「……ああ。そうだな」
あきらと俺は揃って空を眺めた。
ミサイルが轟音とともにやってきているのが見える。
あきらと一緒だからか死を前にしても不思議と俺は穏やかな気持ちになっていた。
だが殺人者として生きてきて唯一の後悔は山崎三郎を亡き者にしてしまったことだ。
俺は山崎三郎が冴木と細谷さんを殺したのだと思い込み悪人でもないのに殺めてしまった。
今考えれば山崎三郎も俺となんら変わらない人間だったのかもしれないのに……。
……あの世で会ったら詫びないとな。
「ヤマトさん。最後に僕と手を繋いで――




