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最強格闘家になろうシリーズ  作者: カカカカカ
真・最強格闘家になろう 第一部「最強強奪編」
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第三話「寿日本プロレス」

寿日本プロレス。

設立から65年の老舗団体である。

過去数年間営業不振が続いていたが、棚伏哲人などのイケメンレスラーが大人気となり、今では名実ともにトップのプロレス団体である。


とある体育館。ここで寿日本プロレスの巡業が行われていた。


会場は超満員である。


メインイベントは

棚伏哲人対前田ヴァギナ。


絶対的なエース棚伏といぶし銀の強さで定評の前田の試合はわきに湧いた。


2人とも鋼のような筋肉の持ち主であった。


棚伏は彫刻の様な美しい逆三角形のボディを持ち、一方、前田はあんこ型と言われる脂肪の乗った圧のある筋肉の持ち主であった。


顔も全く違う。棚伏はアイドルの様な端正な顔つきであるが、前田は髭面に小さな目、ひしゃげた鼻、どう見ても色男には見えなかった。


2人の試合は開始、25分。棚伏のボディスラムからのピンホールドで決着がついた。


マットの上で大の字で転がる前田。

対照的にトップロープに登り、観客にガッツポーズを見せる棚伏。


会場から棚伏コールが湧き上がる。


試合後、控室で前田はタバコを吸っていた。とんでもない肺活量なのだろう。一息でタバコの3番の1が灰になる。

それは異様な光景であった。準備をするレスラー、試合を終えたレスラー、そして関係者でごった返し、足の踏み場もないほどの雑多な空間において、前田の周りだけ誰も通らなければ何も置かれていなかった。


そんな中で1人パイプ椅子に座り、タバコを吸う前田である。


前田の前に棚伏が現れた。


「前田さん、試合ありがとうございました」


そう言うと、棚伏は深々と頭を下げた。


「おー、棚伏ちゃん、いやー、よかったよ、ボディスラム。でもな、少しだけタイミングがわりぃ…もちっと練習積みねぇ…」



そう言って、前田は棚伏の肩をポンと叩いた。


棚伏が恐縮し切って、ハイッッと大声で答える。


団体のスター選手がである。


その場にいた人間たちに緊張が走る。誰も前田の方をジロジロと見るものはいないが、全員が前田と棚伏のやり取りに注目していた。



前田ヴァギナ。齢40歳。中堅レスラーである。

技はあるが花はない。そう言われ続けて20年。

女性人気はないが、男性プロレスマニア達には知る人ぞ知る名選手として人気である。


そんな彼には団体のレスラー達しか知らない異名がある。決して外部に漏れないその異名。誰もが震え上がるその異名は…


真剣(セメント)最強の男』


昔、プロレスがゴールデンタイムで放映されていた頃、プロレス道場に道場破りがよく来た時期があった。


街の喧嘩自慢がくるのだ。


やれ、プロレスは八百長だ。

本当に強いわけがねえ

台本がないと奴らは戦わない…と


そんな輩が当然寿日本プロレスにも現れる。

そいつらを半殺しにしていたのが、当時若手であった前田ヴァギナである。


寿日本プロレスと揉めると前田が出てくる。

これは裏社会では有名な話である。

前田にはこんな伝説がある。


寿日本プロレスが暴力団とみかじめ料で揉めたことがあった。

そんな折、寿の社長であるアントキノ猪狩と共に暴力団を相手取り大立ち回りを見せたのが前田である。


前田はヤクザに拳銃を突きつけられても笑っていたと言う逸話が寿日本プロレスには残っている。


寿日本プロレス最強は?と言う問いに対して関係者は口を揃えて『棚伏』と答えるが、裏での見解は違う。『前田こそが寿最強である』ことは揺るぎない事実であった。


「前田さんッッ!!!」


緊張し切った面持ちで研修生のジャージを着た若手レスラーが前田に話しかける。

彼は直立不動で気の毒なほど背筋をピンと伸ばしていた。


「楽にしねえ…」


前田がそう言うと、少しだけ若手の緊張が解けたようであった。


「前田さん…社長がお呼びです…」


「ほぉ…」



デカイ男だった。2mはあろうかと言う大男だ。

髪の毛を全て後ろに流している。野性味溢れるその顔はどこか愛嬌もある。

寿日本プロレス社長アントキノ猪狩その人である。

アントキノと前田は会場内にある応接間にいた。

アントキノが立って外を眺めている。入り口でゆったりと前田が立っていた。


「棚伏のおかげで今日も超満員だったな」

アントキノが口を開いた。


「ですね。奴は日本で一番客呼べるレスラーですわい」


「最強ではないがな」


「何言ってんですかい、奴は寿のヘヴィー級チャンプですぜ。つまり最強って意味ですわ」

前田がヘラヘラと笑った。


「1231事件」

アントキノ猪狩が外から目線を外さずに言った。

前田の顔から笑みが消えた。


1231事件。それは数年前の大晦日に格闘技界を震撼させた事件である。

格闘技の祭典「SUNSET」大会における最強レスラー棚伏と最強ボクサー生田省吾の最強決定戦。


その結末たるや、なんと棚伏、生田ともに乂門と言う格闘技テロリスト集団によって打ち倒されると言うものであった。


「世間は知ってしまった。プロレスが最強ではないことをな」

アントキノは尚も目線を外さずに言った。


「で、どうするおつもりですか?」


「簡単なことだ。プロレスは乂門に負けたが、その乂門は加賀流に負けた」


「加賀流潰してこいってことっすか?」


やっとアントキノは視線を前田に移した。

その顔は口の端が切れんばかりに笑っていた。


「そこまでがそこいらの格闘家の思考回路だろうな。でも俺たちはプロレスラーだ。プロレスラーならこれをビジネスチャンスだと考える」


「ほぉ…」


炎山(えんざん)キヨシ。知ってるだろ?」


炎山キヨシ。元アマレス高校生日本代表にして寿日本プロレスの若手研修生である。

綺麗な逆三角形の筋肉に、金髪の長髪をなびかせた色男であり、デビュー前にも関わらず、マスコミやファンから注目されている選手である。


一説には棚伏二世とまで呼ばれている。


「あの棚伏二世って言われている坊ちゃんですよね」


「奴は棚伏二世になんてする気はねえ…」


「と言いますと?」


「奴はアントキノ二世だ」


これには前田も言葉を失った。デビュー前の新人を社長の後継者として指名している訳である。


「炎山のカリスマ性、実力、話題性は凄まじいものがある」


「なるほど、分かってきましたよ。社長。俺が加賀流半殺しにして、炎山が加賀流ぶっ潰したってことにするつもりでしょ」


「さすが前田…優秀なプロレスラーだ」


「でも、世間を騙せますかね?加賀流の奴らが炎山ではなく、俺がやったって言う可能性もありますぜ」



「敗者の弁には昔から誰も耳を貸さんものさ。それにそれならそれでいい。うちは『加賀を倒した炎山』と『黒幕かもしれない前田』を手に入れられるわけだからな」


そう言うと、アントキノは財布から札束を取り出した。

なんと帯がついた100万円である。

それをドンと机の上に置く。


「炎山と共に飛べ、前田。これでしばらくはやりくりしろ」


「…吸っていいですか?」


前田の問いにアントキノは頷いた。

前田はタバコに火をつけて、一口二口吸い込んだ。そして紫煙を吐き出す。


「加賀流ってのは半端じゃねえですよ」


「前田ヴァギナが弱音か」


「言え、そうじゃねえ、やるって決めた事を俺は成し遂げなかったことがねえのはご存知でしょう?でも、今回は1人じゃ手に余りそうでね、炎山以外にも駒をもう一つ用意して下さるとありがてえ」


「ほう…誰だ」


「桜井ですよ…桜井数也です…」


なるほど、そうきたか…とアントキノは嬉しそうに笑った。

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