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最強格闘家になろうシリーズ  作者: カカカカカ
最強格闘家になろう第一部「目覚め編」
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第三話 「道を極めろ」

地獄の日々であった。


加賀に弟子入りした日から、毎食吐くほど食べた。そして、仕事が終われば例の天然理心流の剣士達と加賀が死闘を繰り広げた公園に向かった。


そこで加賀の元、修行を積んだ。


まずは10キロのランニングから始まる。


その後は腕立て伏せを100回、腹筋を1000回、懸垂を30回、スクワットを100回行った。


鍛錬を積んでいない人間には無限とも思える回数だ。


何時間かけてもその量をこなした。


鍛錬の途中、晴男が苦痛に耐えかね、倒れると、加賀は容赦なく蹴った。


晴男が起き上がるまで蹴り上げた。


「お前は負け犬でいいのか?お前は弱い。誰も歯牙にかけない、路傍の石だ。悔しいか?悔しければ立ち上がれ。立ち上がってみせろ」


そう言って晴男を蹴った。


ボロボロになっても立ち上がる。


それを毎日繰り返した。


家に帰り倒れ込むように眠る。そして、また会社に行き、仕事が終われば鍛錬を積む。


その繰り返しであった。


そんな日々が半年続いた。


晴男の身体は見違えていた。一回り身体は大きくなり、全身の筋肉が隆起している。


それでいて無駄がない、余計な脂肪がなく、その身体には以前の弱々しさのかけらも残っていなかった。


ある日、いつもの様に公園に行くと、加賀は言った。


「まだまだ、だが、だいぶ仕上がったな…お前に戦い方を教えてやる」


遂に武術を学ぶ日が来たのだ。


「パワハラレスリングが如何に強力な武術であろうと、対処法さえ分かれば怖くはない…」


晴男は唾を飲み込んだ。


「お前には対課長用、もとい、オフィス環境利用闘法である『オフィス流柔術』を叩き込んでやる…」


「オフィス流柔術!?」


「これから先は、今までの鍛錬が遊びの様に思えるほどの地獄だぞ。それでもやるか?」


「はい、お願いします」


晴男に最早迷いはなかった。


「ならば追加で10万円だ」


「え、金取るんですか?」


「当たり前だ」


それが3ヶ月前のことであった。








晴男は般若心経を唱えていた。


それはオフィス流柔術の奥義の一つであった。


パワハラレスリングの使い手は言葉で相手を威圧する。言葉で人を締め上げるのだ。ならば聞かなければいい。オフィス流柔術は戦いへのボルテージを上げる為と敵の言葉による揺動を防ぐため、戦闘の前に般若心経を唱える。


剛田の言葉は1つも晴男の耳には入っていなかったのだ。






これを体得するだけでも血の滲む努力をした。


休日になれば、加賀と共に山へと行った。


山の奥深く、滝がある。そこで一日中滝に打たれながら般若心経を唱えるのだ。


「辛いか?」


加賀は晴男に問うた。


辛くないわけがなかった。次から次に襲いくる冷水に気がおかしくなりそうだった。


「狂いそうか?狂いそうなのはお前が水を感じているからだ。全身で感じているからだ。集中していないからだ。水のことを忘れろ。水を感じるな。般若心経に心を集中させろ」


ひたすら般若心経を唱え、般若心経にすがった。


それを毎週繰り返し、ある日般若心経を唱えると全ての事象が頭から消え去ることに晴男は気がついた。




「なんとか言ったらどうなんだ?ああ?」


剛田が語気を更に強める。


「見せてやるよ…オフィス流柔術を…」


晴男は呟いた。般若心経により、心身共に戦いの準備が整ったからだ。


「なんて言った!?」


剛田は既に冷静ではなかった。明らかに自分よりも下に見ていた相手に無視され、反抗的な態度を取られる。剛田のように自らの膂力で全てを圧してきた人間にそれは耐えられないことだった。


剛田の手が晴男の胸ぐらを掴もうと前に出る。


手は虚しく宙をかいた。


晴男が半歩後ろに下がっていたからだ。


一瞬、虚を突かれ剛田が驚愕の表情を顔に浮かべる。しかし、次の瞬間には晴男を捕まえんと動いた。


自らの机を飛び越え、晴男に突進した。


晴男の動きは流れるようだった。晴男はコピー機を目にも止まらぬ速さで操作し、その蓋を開けた。


コピー機が内側から強い光を発する。


オフィス流柔術の1つ『固日威機』であった。


その光で剛田は目をやられた。光で目をやられた人間が取る行動はひとつだ。


両手で顔を覆う。剛田はすぐさま手を前に突き出し晴男を捕らえようとした。


しかし、手は思うように突き出せなかった。


晴男は剛田が両手で顔を覆ったと同時に、剛田のシャツの両袖をホッチキスで止めていたからだ。


オフィス流柔術の1つ『法血鬼巣固め』であった。


剛田が我に帰った時、目の前に晴男はいなかった。


「死ぬなよ」剛田の耳元で声がする。


晴男は剛田の後ろに瞬時に回り込んでいたのだった。


「オフィス流柔術、究極奥義…『PCDAサイクル』」


そう呟くと同時に、剛田は激痛に顔をしかめた。汗が全身から吹き上がる。


倒れ込みたかったが、倒れることも出来なかった。後ろから晴男が剛田の両脇を万力で抱え込み、無理やり立ち上がらせていたからだ。


何が起こったのか。


晴男は後ろから剛田を押さえつけ、剛田の股間を後ろから蹴り上げていたのだ。


「P…ペニス」


晴男が呟く、またもや、晴男の左足が跳ね上がり、剛田の股間にめり込む。すると剛田の顔がまた苦痛で歪んだ。あまりの激痛に口の両脇から泡を拭いている。


「C…ちんちん」


晴男の足が剛田の股間にめり込む。剛田の股間から小便と血が漏れ出す。剛田が叫んだ。両方の陰嚢が潰れていたからだ。それでも倒れることすら晴男は許さなかった。


「D…ディック」


晴男は剛田の両脇から手を抜いた。


それを合図に剛田の身体は前へ倒れ込んだ。


両膝を着き、尻を高く突き上げる姿勢でその場に倒れ込んだ。


「仕上げだ」


晴男は静かにそう言った。その表情には少しの興奮も憎しみも浮かんでいなかった。ただ、自分の技を相手に叩き込む。それだけしか頭になかったのだ。


晴男の右足がすらりと持ち上がる。


次の瞬間には右足は剛田の肛門に向け、蹴り出されていた。


剛田の尻に足が当たる。その一撃は剛田の校門を完膚なきまでに破壊した。


「A…アナルだ…」




オフィス流柔術究極奥義が初めて人前で披露された瞬間であった。


そして、これが矢吹晴男の最後の出勤日となった。




矢吹晴男、懲戒免職!!!




剛田は病院に運ばれ、そして、晴男は職を失った。


しかし、心は晴れやかであった。


生まれ変わった気分だった。思えば、幼少の頃からいじめられていた。自分を通した事がなかった。そんな自分が初めて人を打ち負かしたのだ。


すぐに加賀に報告したい。


そう思い、夕焼けの中あの公園へと足が向かった。




加賀は警官2人に押さえ込まれ、パトカーに乗せられているところだった。


「この詐欺師が!!!さっさと乗れ!!!」


「格闘技教えるとか言って、そこらのガキから金巻き上げてたのは分かってるんだ!!!」


警官が口汚く加賀を罵る。


頭に血が沸いた。


「先生に何をする!!!」


晴男が叫び、警官2人に立ち向かおうとした。


「まて、晴男!!!」


加賀が叫ぶ。


「先生!!!俺、勝ったんだ!!!勝ったんだよ!!!また格闘技教えてくれよ!!!」


晴男は自分の声が震えていることに気がついた。泣いていたのであった。


「晴男、もう、お前に俺は必要ない。お前は強くなった。お前はお前の…矢吹流武術を見つけろ…」


「さっきからうるせえぞ詐欺師!!!さっさと乗れ!!!」


警官に促され、加賀はパトカーに乗せられた。


晴男はその場に崩れ落ちた。


パトカーの窓が開く。


「あと、保釈金を頼む…」


加賀は笑った。口だけが怪しく吊り上がっていた。


「先生ぇええ!!!」




夕焼けの中、晴男の声が街に響いた。





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