第二十二話 「外道の生きる道」
「きゃあー!!!」
琴春菊の声が場内に響く。
その甲高い声は男の声とは思えなかった。
それもそのはず、琴春菊は加賀に敗北したその日、もう1人の自分、女としての自分に目覚めたのであった。
加賀に負けるまで無敗だった。
人生ではじめての敗北は屈辱的であった。
加賀に負けた琴春菊はブラとパンツを履かされ、電柱に吊るされた。
しかし、締め付けるブラの感覚、自分の下半身を覆うには頼りない女性もののパンツ。
そして何より、こんな姿を見られたらという心地よい恥辱が、琴春菊を完璧なメスへと変えてしまっていたのであった。
琴春菊はそれからと言うもの、メスとして美を追求し、メイクアップアーティスト兼モデルになる為、自分磨きに余念のない生活を送っていた。今日のトーナメントも「パリコレの前哨戦」と勘違いして参加してしまっていたのであった。
「ううう、ひどい…ひどいんですけど…いきなり襲ってくるとか、トラウマ確定」
琴春菊は膝をおり、さめざめと泣いた。
こうなったら原はどうしていいか分からない。
差し詰め、自分は悪くないのに、女子が泣いたから悪者にされてしまった男子中学生の気分であった。
「ちがっ!!!だってお前、男だろ!!!立って戦え!!!」
原は振り絞るように琴春菊にそう言った。
これを聞いた観客達から罵声が飛んだ。
「原!!!てめえ、LGBTに配慮しろよ!!」
「前時代的な考えを捨てろ!!レイシスト!」
「お前みたいな差別主義者が世界を悪くしてることに気づけー!!!」
散々な言われようであった。
原は困惑していた、もともと、ハロウィンではなく、大晦日に戦うと言う不安が彼の胸を締め付けていたのに、そこに対戦相手の予測不可能な行動。
彼はただその場に立ち尽くし、罵声を浴び続けるしかできなかった。
「破ッッッ!!!」
突如として大声が場内に炸裂し、罵声をかき消した。
皆、その大声の主はどこかと探した。
その主は客席にいた。
第四試合に出場予定の「藤浪ドラゴン」であった。
「原よ!!!我がライバルよ!!!何をもたついている!!!ハロウィンで爆発の為つかなかった決着をつけるのは今日ではないのか!?」
「ハロウィンではないからと言って、何を戸惑っている!!!我が恋人、軽トラックを転がし、嬲り尽くした時のお前はどこにいった!!!女だからなんだ!!!試合場で立ち会ったからには相手が子供だろうと叩きのめす!!!それがハロウィン相撲だろう!!!」
そう、一息で言い切り、藤浪ドラゴンは腕を組み、原を見つめる。
一瞬の後にまた罵声が会場内を覆った。
「ふざけんな!!!暴力男!!!」
「試合だからって女殴っていいわけねえだろ」
「ぶっ殺すぞ!!!」
しかし、そんな罵詈雑言も、すでに原の耳には入っていなかった。
原もまた藤浪ドラゴンを見つめ返していた。
このクソ馬鹿、敵に塩送りすぎだぜ…
そう、俺は、俺こそは傍若無人、人様に迷惑かけてナンボ、東京で暴れ倒す、歩く騒音装置、ハロウィン力士様だ!!!
「あー、なんか、今日は女装してえ気分だな…」
原は1人そう言うと、作業着を脱ぎ捨て、全裸になった。
「ひいいい!!!変態!!!あっち行って!!!」
琴春菊が泣き叫び、会場が騒然となる。
観客達は思い思いに原を詰るも、原はどこ吹く風だ。
いつだってそうだ、いつだって俺に浴びせられたのは声援なんかじゃねえ、罵声だ!!!
原はゆっくりと琴春菊に近づき、彼のブラジャーを力任せに引き剥がした。
「いや、誰か!!!誰か助けて!!!」
琴春菊がブラジャーを取り返そうと抵抗する。
「ウルセェ!!!」
その顔に原は一撃を見舞った。
琴春菊は顔から血を吹き出し、その場に倒れ込んだ。
そして、原は遂に奪い取ったブラジャーを身につけた。仮装完了である。
この男、ハロウィン横綱はなんと、大晦日をハロウィンに変えてしまったのであった。
怒り狂った観客の何人かが、観客席からマットの上に雪崩れ込み、原をぶちのめそうとした。
その観客を会場スタッフが押さえ込み、マットの上は大乱闘となった。
しかし、原は微動だにせず、その目は観客席にいる宿敵、藤浪ドラゴンを見据えていた。
第三試合、勝者、原龍徳!!!




