第二十話 「最強必殺GTO」
吉岡清一郎のパンチが真島浩高の顔面に何度も食い込んでいく。
「あれはもう止めた方がいいんじゃねえか?」
「やりすぎだろ…」
会場がどよめく。
「ふぉふぉふぉ…君の弟子、もう少しで死んでまうぞ」
加賀七明は嬉しそうに隣の矢吹晴男に呟く。
「ご冗談を…」
しかし、晴男は冷静に呟いた。
「どこが冗談なのかね?あの吉岡清一郎は日本、いや、世界最強の教師。最早、彼の指導力に叶うものはいまい…」
七明が尚も嬉しそうに呟く。
「だから相手にされんのだ、師匠にも、俺にも…」
晴男がニヤリと笑った。
「どう言う意味だ?」
七明の雰囲気が変わった。彼を中心に冷たい空気があたりを覆う。七明が殺気を晴男に当てているのだ。
晴男はどこふく風と言わんばかりに余裕の表情を見せている。
「まぁ、見ていろ…ど三流」
マットの上では相変わらず吉岡が真島を叩きのめしていた。
片手で真島の右手をしっかりと掴み、逆の手で殴打し続けている。
「これも愛なんだ!!!愛!!!love!!!アモーレ!!!俺はお前が憎いんじゃない!!!愛してるから殴るんだ!!!優しくなれ!!!これぞ教育!!!肉体に刻んだことは忘れなーい!!!」
吉岡が叫び続ける。
完全にトランス状態であった。
何が教育だ。何が教師だ。
薄れいく意識の中、真島は思った。
真島が学校に通えなくなった理由は同級生からの暴力が原因だった。
でも、時間はかかったが、しっかり話し合うことで、そんな同級生とも仲良くなれた。
暴力は憎しみしか産まない。こんなものが教育なわけない。
しかし、真島の意識は彼の体の外から漏れ出てしまっていた。
真島は夢を見ていた。
見ると周りは一面桃色のモヤがかかり、目の前には川が流れている。
この川を渡ればとても気持ちの良い場所に行ける…ぼんやりと頭ではなく体がそれを理解した。
真島は一歩踏み出し、川に入ろうとした。
その時、後ろからその手をがっしりと掴まれた。
振り向くとそこには、3人の男達がいた…
長髪をなびかせ、3年なんとか組で生徒相手に熱血授業をしていそうな初老の男。
問題児ばかりの進学校で型破りな授業をして言いたい事も言えないこんな世の中を憂いてそうな元ヤン風の男。
北海道の大地で一筋縄ではいかない小学生達相手に全力でぶつかっていきそうな革ジャンを着た男。
「あ…あなた達は…俺が引きこもり時代に見てたドラマの…」
「このバカチンがぁ…」
長髪の初老の男が言う
「これくらいで死んでんじゃねえぞ」
元ヤン風の男も続けて言う。
「でも、相手は最強の教師ですよ…中退ヒキニートの俺には敵いっこない…」
「最強の教師なんてくそだ。本当の教師ってのはな…幸せな教師のこと言うんだぞ」
革ジャンの男がいう。
「あんな暴力馬鹿なんて教師じゃねえよ。さっさとぶっ倒してこい」
3人が同時に真島の肩に手を置く。
ボコボコと尚も真島の顔面を殴打する吉岡。
真島がモゴモゴと何か呻いている。
それに気がついた吉岡は真島の耳元まで顔を近づけた。
「…あき…しく…ぞ」
真島は何か呟いている。
「なんで言ってるんだ?」
更に、耳を近づけることで、吉岡はやっと聞き取ることができた。
「千秋ぃ…こんなことやっても…全然俺は楽しくねえぞ…」
吉岡の背筋が凍った。その時、思わず、吉岡は真島の手を離し、後ろに飛びのいた。
真島が、問題児だらけの進学校で生徒たちと全力でぶつかっていく伝説の元ヤン教師が校舎からヤンキー女子を吊るしている様に見えたからである。
俺が…ビビっている…吉岡は今の状況を受け止められずにいた。
遥か格下の男が、一瞬にして格上のレジェンド級の教師に見えたからである。
そんなこと、俺は絶対に認めない…
吉岡は無造作に拳を真島に打ち込んでいた。
それを真島は髪をかき上げる様な軽やかな仕草で手の甲を使い吉岡の手を払い除けた。
「このバカチンがぁ…」
吉岡の目には、長髪の国民的レジェンド級最強クラスの教師の姿とダブった。
吉岡は恐怖のあまり、目が眩みそうになった。
その時、目にも止まらぬ速さで真島は大外刈りで吉岡をマットの上で転がしていた。
その様はまるで、知る人ぞ知る涙なしでは見られない、北海道の地で小学生相手に体当たりで授業をする熱血教師が、日の丸弁当をひっくり返し、世界一のお弁当を見せる様に酷似していた。
吉岡は覚めない悪夢を見ている様であった。
茫然とする吉岡の足を真島は絡めとっていく…
そして、コロンと造作もなく吉岡を裏返した。
これぞ、あの伝説のレスラーであるテラーファンクのフィニッシュムーブであった。
つまりこれは…
「G…ガンギマリ
T…テキサスクローバーホールド
O…大きな志を持つものは小さな屈辱に耐えよ、耐えられる筈だ…」
であった。
もう、こうなっては吉岡に勝ちの目はない。
真島がゆっくりと腰を下ろしていくと、吉岡の足はメリメリと音を立てて、壊れていく…
「君は…砕け散った…」
真島がそう言うと、バキリと音を立て、吉岡の両足は粉砕された。
「吉岡さん…あなたが生徒に与えていたのは愛じゃありません。恐怖です。恐怖で人は動くかもしれませんが…心までは動きません」
真島は倒れる吉岡にそう呟いた。
吉岡は屈辱と激痛で全身に汗をかき、真島を睨みつけた。
観客席で苦々しく加賀七明は顔を歪めた。
「真島はね、引きこもりの時、多種多様な最強の男たちをネットで見てきたんです。彼がそれを無意識にトレースしたらこれほど恐ろしいものはありません」
矢吹晴男は弟子の勝利に胸を昂らせてそう言った。
第二試合 真島浩高対吉岡清一郎!!!
勝者!真島浩高!!!




