第十二話 「俺の歌を聞け!」
今回の話は性描写とパロディがそこはかとなく入っています。嫌な人は要注意。
ダンプカーの上に飛び乗った晴男を誰もが見上げていた。
往来の人間はもとより、ハロウィン力士達、そして、ダンプカーを運転していた藤浪ドラゴンでさえ、窓から身を乗り出して晴男を見ている。
晴男は全裸であった。
そしてよく見ると、犬に乗っているのではない、犬と交尾しているのであった。
晴男は凛々しく背筋を伸ばし、犬に自らの腰を打ち付けている。その姿はまるでギリシャ神話に出てくるケンタウロスを想起させた。
異様な光景であった。
静まり返るその場を晴男の声が切り裂いた。
「戦争なんてくだらねえ!!!俺の歌を聞けええ!!!」
晴男の声が街に響く
「凸撃ラブ武術」
作詞作曲 矢吹晴男
すべての心にラブ武術
火花が散りそうな拳ダコ
溢れる想いは龍戦拳
凸撃ラブ武術
皆、何が起こったのか分からなかった。
説明しよう、矢吹晴男の身に一体何があったのか…
第九話以降、晴男は山へと向かった。
そこで一から自身を鍛え直すつもりであった。
そこで出会ったのが、とある犬達の群れであった。金と名乗る秋田犬率いる益荒犬が揃う武闘派チームであった。
金と意気投合した晴男はその後、青カブトと名乗る巨大熊との対決や七犬士達との邂逅など、犬界の戦いに身を投じていった。
そして行き着いた答えが
「LOVE&SEX」であった。
そもそも敵と友達になってしまえば戦う必要などないのである。
晴男が行き着いたその答えは合気道の最終解と同じであった。
晴男は山で雌犬達を囲いハーレムを作り、幸せに暮らしていた。
その時、晴男は思ったのだ。
「歌で山を動かしたい」と…
犬達の遠吠えには不思議な効果がある。
それは仲間との連絡のみに使われるのではなく、自分はここにいると群れ以外の犬に伝えることで、接触を避け、無用な争いを避ける為にも使われるのである。
人は犬のように鳴くことは出来ない。
ならば、歌えばいい。歌で敵と戦わなければいい。そう思いたったのである。
晴男流合気道なら誕生である。
そして、久しぶりに街に降りてきたならば、往来の真ん中で格闘家達が乱闘騒ぎを起こしている。
これを止めない手はないと止めに入ったのである。
晴男の歌に皆聞き入っている。戦意と言う戦意が身体から抜け出ていくのをハロウィン力士は感じていた。
その時である。
「んなんづんまがぁ〜!!!んやぁあみをさいて!!!おぉおでをよんでるぅうう!!!」
耐えがたい騒音が晴男の歌をかき消した。
見れば藤浪ドラゴンが運転席から身を乗り出し、声高らかに歌っている。
酷い声であった。
その歌は、核兵器、ホロコースト等、人の負の遺産をすべて詰め込んだような歌声であった。
これはドラゴン族に伝わる伝説の歌「Aマッソ・ドラゴン」であった。
これを聞いた人間は生まれたところや皮膚や目の色で人の事を分かりきったような、そう言った人の中の憎しみを呼び覚ます歌なのであった。
「ああ!!!せっかく止まりかけていた戦いが!!!」
DJポリスが叫んだ。
見ると、ハロウィン力士達とダンプカーがまた押し合いを始めそうになっていた。
やはり人は争いなくして生きることは出来ないのか、歌の力はこの程度だったのか、人々の胸に絶望が去来した。
その時、優しい歌声が人々の心に染み入ってきた。
その歌声にまたハロウィン力士、藤浪ドラゴン達は聞き入り、争いをやめた。
歌声のする方向を見る。そこには1人の黒人がいた。
サングラスをかけ、長い髪を後ろでまとめている。
スティーピーワンダーその人であった。
彼が歌うのは名曲「ウィーアー座ワールド」
皆、歌に聞き入った。
なぜこの大きな地球で人々は争うのか?
空はこんなにも広いのに、世界に国境の線なんてない。たった一つの地球。
人々は涙を流した。中には膝をついて肩を震わせている者もいる。
晴男もその1人だった。手で顔を覆い、溢れる涙を抑えようとした。
その肩に優しく手が置かれた。
晴男が見上げると、そこにはスティーピーワンダーがいた。
いつのまにかダンプカーの上まで登ってきていたのだ。
「HEY、BOY…」
晴男にささやきかける。優しい口調だった。
次の瞬間であった。
スティーピーワンダーの右ストレートが晴男の頬を捉えていた。
もんどりうつ晴男、その口からは血と折れた歯が吹き出る。
「I MUST KILL YOU」
スティーピーワンダーはそう言い、高らかに笑った。
そこにいた誰もが目を疑った。誰もが余りの驚きに動かなかった。固まる人々の中をスティーピーワンダーが高笑いを轟かせながら歩き去っていった。
その刹那、ダンプカーが大爆発を起こした。
ハロウィン力士の締め付けに耐え兼ねた、この鋼鉄の処女は遂に体を震わして達してしまったのであった。
爆発音を背中で聴きながらスティーピーワンダーはまだ笑っていた。
「マサカコンナトコロデ、ミスターはっちゃんノデシニアエルトハ…トーナメント…タノシメソウデスネ…」
1人そう呟き、スティーピーワンダーは夜の闇に消えていった。
注)今回の話には色々な固有名詞が出てきましたが、一切実在の人物には関係のないフィクションです。




