IF4 水菜に任せる?
全方位から押し寄せるナイトメアを見た俺は、瞳お嬢ちゃんを水菜に任せる事にした。
「水菜!」
声を掛けた俺は、彼女の背後に忍び寄る枯谷の姿に気付いた。
俺の中の研究者のイメージをちょっと蹴倒しる事に、奴はそこそこ身体能力が高い。
逃げる時も、俺達が来る前にさっさと家からいなくなってたからな。
「後ろだ!」
水菜は振りかえって、枯れ谷から距離をとった。
それを見た枯谷が残念そうな顔になる。
「あら、気づかれちゃったわね。でも、そんなに警戒されるのは悲しいわ。お母さんがあなたに危害を加えるとでも思ったの?」
いけしゃあしゃあとそんな事をほざく枯谷の言葉を、水菜の耳に入れてしまった事が悔やまれる。
「「どの口が(だよ)!!」」
理沙と俺の言葉がかぶった。
今回ばかりはまったく理沙に同意だぜ。
水菜の両親は未踏鳥といい、どうしてこう人間の屑って感じの奴ばっかりなんだよ。
いや、理沙の親も聞いた話によると、屑だったな。
枯谷は何が面白いのか、水菜を見ながら話を続ける。
とにかくこの場から逃げないと。
「理沙、おこちゃまを頼む」
「分かってるわ」
瞳お嬢ちゃんのフォローは任せて、俺は水菜と共にこの場から逃走。
近藤さんナビの力を借りて、洞窟に逃げ込んだ。
何とか逃げ切ったけど、水菜はいつもより表情が沈んでいるように見える。
これからの事を考えていたら、水菜が小さく言葉を発する。
「少しだけ覚えている事があるの」
「え?」
「ぼんやりとした記憶なのだけれど、赤ん坊の頃に誰かが私の額にキスをしてくれた。それは今まで私の両親だと思っていた……」
水菜がこういうことを言うのは珍しい。
自分で自分の感情を持て余しているのだろう。
見た物を、聞いた物をどうやって消化すれば良いのか分からない。
人の気持ちなんて、絶対分かるとは言えないけどな、俺にはそんな気がする。
何をどうやって言えば良いのか分からないし、へたな慰めをしたら逆効果になる。
だから、俺は自分の事だけを言う。
「水菜ってひょっとしてキス魔だったりする?」
「……」
あ、ちょっと怒った。
無表情だけど、眉がぴくっとした気がする。
ちょっと口元がむっとしてる気がする。
「いや、えっと出会った頃の事を思い出しちまって。あれはご両親のご影響なのかな、とか考えちまってさ」
「……影響されている事は百パーセント否定できない」
そんなに怒んないで!
俺の繊細なハートは破裂寸前よ!
「どんな理由があったとしても俺はあの、その、ちょっと嬉しかったけどな。あ、ごめん今のなしで! き、気持ち悪いとか言わないで! そんな目で見たら死ぬ!」
俺のメンタルが!
わたわたしながら狼狽えていたら、水菜がほほ笑んだ。
「ありがとう。元気づけてくれて」
お、おう。
俺お気持ち伝わったっぽい?
誤爆しかけたけど。
水菜のためにも、枯谷はきっちりとっつかまえてやんないとな。
そう言った傍から、足音が聞こえてきた。
どうやら追いついてきたようだ。
休憩時間終わりだな。
生き埋めにならないように地の利を生かして移動しつつ、なんとか勝てる方法探さねーと。




