11 はじめてのにんむのあと
色々と足りない所もあった、はじめてのおつかいならぬ『はじめてのにんむ』をどうにかこなし終えて、それから数日後。
学校帰りの訓練時。
いつも通りの様子で訓練メニューををこなしおえた俺は、足を向けた場所で日常の変化を感じていた。
「お、おおおっ、今日は俺の分残ってる!」
「ああ、はいはい良かったわね」
訓練が終わった後に、食事を作ったり買ったりする手間を省く理由で、組織内にはちょっとした食堂があった。
だが、いつもなら、俺が良く頃には何も残っていない状況だったと言うのに、本日は取り置き分が一つ遺されていたのだ。
「エージェント達が貴方の事、認めている証拠」
棚ぼた的な騒動で、偶然エージェントの座に収まる事になった俺の風当たりは、組織に入った当初からひどかったのだが、ここにきて初任務をこなした事で少しだけ評価が上がった様だった。
「すげぇちっさい事だけど、なんかあれだな」
達成感とか、嬉しさとかそんなもんが半端なく込み上げてくる。
身の程知らずの夢だと思っていたけれど、普通ものの自分でも、努力すれば大きなものでもつかみ取れると言われたような気がして、胸が熱くなる。
「まったく、ほんと単純なんだから」
「私は、そこが長所だと思う」
「そう?」
一歩一歩が小さすぎて、鳴きたくなるような進歩の少なさだが、確かに前を進めているのだ。
「せっかくの取り置きだから、全部食いたいってとこだけどな。ほら」
「……?」
残されていたそれの中から、水菜の好物であるとつい先日聞いたばかりの果物を、差し出す。
「私に?」
赤い皮のついた兎さんの林檎。
フォークに突されたそれを、水菜はまじまじと見つめて小首をかしげるのみだ。
「俺がここに今もいられるのは、二人のおかげだからな」
そうだ、お礼だ。
一人の力でここまで登る事が出来たと考えられるほど、お気楽な脳みそしてないんでね。
「って、それならあたしにも用意しなさいよ」
「お前のは後で、だってお前の好物入ってないし」
「後でって、そこはなくてもあげるもんでしょ」
例によって例のごとく文句をつけてくる理沙は軽くあしらうにとどめる。
最近はこのケンカも、理沙なりのコミュニケーションだと思えてくるから、年月や慣れというものは侮れない。
「過去にどんな事があって、何があったとしても俺には関係ねぇよ。俺の目標は水菜、スパルタ教官は理沙。これで固定だからな」
元気を出せ、なんてまっすぐな言葉は気恥ずかしくてさすがに口にできなかった。
先日の一件で、時々水菜が落ち込んでいる様に見えたから何かしたかったのだ。
「せっかく可愛く生まれたんだから、楽しくして笑ってなきゃ損ってもんだろ」
「あ、こいつまたそんな事言って……」
野獣だとか、狼だとか言ってくる理沙をいなしつつも、俺は確かに見た。
水菜がわずかに笑みをこぼしていたのを。
「ありがとう、牙」
そして、初めて名前を呼んでくれたその言葉を。




