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シンクロナイズド・ダイバーズ  作者: 木天蓼 亘介
23/27

第23話・「・・・あ、あのね」

 


 

 本来ならドアの向こうに誰がいるのかブレスレットで確認できるのだが、マイの()()は壊れているらしく、やはり操作を受け付けない。

 ピンポ~ン、ピンポ~ン、ピンポ~ン。

 その間にもインターホンは鳴り続ける。

 マイは仕方なく、

「コンピューター、ドアを開けて」と音声で指示を出していた。

『ドアが開きます』

 音声ガイドに続きドアが開くと、そこには笑顔で小さく手を振るツルギが立っていた。

「ドアを閉めて」

『ドアが閉まります』

 そしてドアが閉まると同時に、

「隔壁閉鎖」

 と命じていた。

『対ブロッケン用の隔壁でドアを閉鎖します』

 天井と床からせりでてきた超硬合金製の分厚い隔壁によってドアは内側から完全に塞がれていた。

『ドアが封鎖されました』

「・・・」

 マイは再びベッドに倒れ込んだ。

 が、そこで彼女は再び尿意に襲われていた。

「もう」

 いや、焦っても仕方ない。

 とりあえず今は用を足して落ち着こう。

 マイは自分にそう言い聞かせるとトイレに向かった。

 貫頭衣タイプの寝間着だけで下着をつけていない彼女は、お尻を申し訳程度に覆う布を(まく)りあげ便座に腰を降ろした。

 用を足すと体温も一緒に下がり身体がぶるっと震える。

 膀胱が圧迫されていたストレスからも開放され、マイは「ふぅ」と安堵の声をもらしていた。

「ハニぃ」

 その時だった。

 どこからともなく聞こえた()()は間違いなくツルギの声だった。

「!!」

 マイは辺りを見渡した。

 だが、彼女の姿はどこにも見当たらない。

「ここだよ」

 けれど、声だけは凄く近くで聞こえる。

「どこ?」

 マイは便座に座ったまま天井を見上げ、換気口の網目の奥をブレスレットのライトで照らした。

 が、そこにもツルギはいなかった。

「そっちじゃないよ、こっち」

「こっちって、どっちよ」

「ハニぃの下だよ」

「え!?下?」

 マイは便座に座ったまま脚を開き下を見た。

 すると、便器に溜まる水の中に、こちらを見上げるツルギの顔があった。

「○△☆◇§◆●★!!!!~~~~???」

 マイは声にならない声をあげながら立ち上がろうとしたが脚が(もつ)れて転びそうになる。

 しかし彼女は咄嗟にくるりと身体を回し、便器の方を向いて尻餅をついていた。

 “ゴボゴボゴボ~~~っ”と自動的に水が流れる便器の中から、にゅっと両腕が出てくるのが見える。

 便座の大きさからいって、その中から到底人間が出てこられるはずがない。

 だが、まるで出来の悪いホラー映画でも見ているかのように、ツルギは全身ずぶ濡れになりながら便器から抜け出ていた。

 彼女は何ともなさそうだったが、貫頭衣はそうもいかなかったらしく、ビリビリに破れていた。

 しかもずぶ濡れになったことで、豊潤な膨らみはもちろん桜色の蕾や、まだ無毛の、つるつるの()()の形までハッキリ分かるぐらい身体に張りつく生地が透けてしまっていた。

「ハニぃ、なんでドアを閉めちゃうの?」

 彼女はそう言いながら何事もなかったかのように、辺りに水を撒き散らしながらマイの前にしゃがんでいた。

「くっさっ」

 その瞬間、彼女のずぶ濡れの身体から漂う異臭に、マイは思わず鼻をつまんでいた。

「え!?くさい?」

 マイにそう指摘され、ツルギが自分の臭いを“くんくん”と嗅ぐ。

「これ、ハニぃのおしっこの匂い・・・」

 “ボカっ”

 そこまで言ったところで、ツルギの頭にマイの拳骨(げんこつ)がおちていた。

「いった~~ぃ。なにするの?」

「あなたこそ、花も恥じらう乙女に向かって何てこと言ってんの?」

「え~、だってぇ」

 マイの拳がよほど痛かったのか、ツルギは叩かれた頭を押さえ涙目になっていた。

「もう。ほら、早くそれを脱いで。洗濯するからその間にシャワー浴びて、風邪ひいちゃう」

 ガリレオでは、マイたちには士官用の個室が支給されていた。

 そのため、彼女の部屋には洗面台、トイレ、バスが1つになった3点式ユニットバスや、小さいながらも乾燥機付きの洗濯機などが完備されていた。

「え!?ハニぃは?シャワーしないの?」

「私?私はツルギがシャワーの間にトイレと床を掃除して、それが終わってから浴びるから・・・」

「え~!!そんなのだめ」

「だめって、なにが?」

 だが、マイがそう言うより早くツルギはみたびクラーケンへと姿を変えていた。

「!!」

 彼女がクラーケンになっても、貫頭衣は申し訳程度ではあるが胸や股間を隠していた。

 だがマイは、その姿を見ただけで“ドキっ”となってしまう。

「な、なにするの?」

「私も掃除手伝う」

「え!?」

 自分でもどうしていいか分からないぐらいドギマギしてしまっていた彼女は、ツルギのその言葉に、

「あ!!あ~っ、そ、掃除かぁ」

 と、拍子抜けしたかのような声をあげていた。

「なんだと思ったの?」

「そんな小さなことは気にしない。じゃあ私が便器をやるからツルギは床を拭いて」

「うん」

 マイにそう言われ、触手で幾つもの雑巾や洗剤の入ったスプレーボトルを持ったツルギだったが、普段掃除などしたことがないのだろう。なんとも不器用に、しかし一生懸命に床を拭いていく。

 それを見ながらマイも便器の掃除に取りかかった。

 そして便座を拭こうとして、中に溜まった水に映る自分と目が会った瞬間、

「あ~~~~~~~~っ」

 彼女は大声をあげていた。

「どうしたの?ハニぃ?」

 その、あまりの声の大きさにツルギが慌てて顔を上げると、目の前に物凄い形相で彼女を見つめるマイの顔があった。

 彼女はそのままツルギの胸ぐらを掴み、

「ま、まさか、見た?」

 と訊いていた。

「見たって何を?」

「え!?そ、それは、その・・・」

 逆にそう訊かれ、マイは返事に困り口ごもってしまう。

「だ、だから、その、ほら、私の、・・・わ、私が・・・するところ」

「え!?」

「だから、・・・ね?」

「うん?」

「見た?」

「なにを?」

 いつまでたっても要領を得ない、というか話しが通じないツルギに、マイは観念したかのように、そして意を決した様子で、顔を耳まで赤く染めながら口を開いた。

「わ、私が、あの、その、お、・・・おしっこするとこ見た?」

「うん。見たよ」

 だが、それに対するツルギの返事は拍子抜けするぐらいあっけらかんとしていた。

「も~、最悪」

 そう言いながら、思わず便座に突っ伏すマイの背中にツルギは、

「大丈夫だよハニぃ」

 と声をかけていた。

「何が大丈夫なのよ」

 怒りにまかせ振り返った彼女を待っていたのは、想像を絶する言葉だった。

「だったら今度は私がおしっこしてるところを見せてあげる」

「いらんわ」

「なんで?見たくないの?」

「見たくないわ」

「え~っ、どうして?」

「どうしてって、見てどうすんの?てかそれ、どんなプレイよ」

「プレイ?それなに?」

 そう言いながら興味津々の瞳で自分を見つめるツルギにマイは、

「・・・も、もう、いいから。とにかく今は掃除して」

 そう話を逸らそうとした。

 だが、

「もう終わったよ」

「え!?」

 ツルギにそう言われ改めて見ると、びしょ濡れだった床はきれいに拭き取られていた。

「早っ、それにこんなに綺麗になるなんて・・・」

 それを見たマイが思わず感慨の声を洩らすと、

「ほんと?ほんとにそう思う?」

 ツルギは驚きと嬉しさが入り交じった声でそう返していた。

「うん。じゃあ、こっちの掃除も手伝って、お願い」

「うん、まかせて」

 ツルギが嬉しそうに、マイと一緒に便器を拭いていく。

 ほどなくして()()はピカピカになっていた。

「よし、お掃除終わり」

「やったぁ~、お掃除終っわり~っ、次はシャワーだぁ」

 ツルギは、まるで子供のように無邪気にはしゃぎながらボロボロの貫頭衣を脱いでいた。

「ねぇ、ハニぃも一緒に入ろ」

「だ~め」

「え~っ、なんで?」

 精一杯甘えた声で誘ったのに呆気なく断られ、ツルギが半分拗ねたような声をあげる。

「だってこのお風呂ひとり用だもん。2人じゃ狭いよ。

 それにツルギも大変だったから湯船にゆっくりゆったり浸かりたいでしょ?」

 そう言いながら受け取った寝間着を洗濯機に放り込んだ瞬間、マイの身体に無数の触手が巻き付き、彼女はあっさり持ち上げられツルギの前に下ろされていた。

 そして、触手に貫頭衣をあっけなく引き剥がされたかと思うと、有無を言わさずぐるぐる巻きにされ、2人の身体が隙間なく“ぎゅっ”と密着する形になっていた。

「な、なに?」

 あまりに突然の出来事にマイが戸惑いの声をあげる。

 だが、触手にぐるぐる巻きにされた身体は逃げるどころか身動きひとつ取れない。

 2人の身体が密着することによって、果肉のたっぷり詰まった豊潤に実る果実のような4つの膨らみが、圧し潰し合う互いを押し返さんと“ぷるぷる”震える度、その頂点で“つん”と自己主張する桜色のちっちゃな蕾も、その中に埋もれるように圧し潰されながら“こりこり”擦れ合う。

 勿論、自分の意思でそうなったワケではないのだが、“ぎゅうぎゅう”に縛られているせいで胸だけでなく腹筋、そして()()()から下腹部、更には互いの太股が相手の脚の間に潜り込み、その付け根に密着する形になってしまっていた。

 互いの()()の形と柔らかさと温かさが太股越しに伝わってくる。

「ど、どうしたの?」

 先に口を開いたのはマイだった。

「あ、あのねハニぃ」

 鼻の頭同士がくっつくぐらいの近さだけあって、ツルギが動揺しているのがよく分かり、

「な、なに?」

 マイも思わず声が上擦ってしまう。

「わ、私、どうしてもハニぃに言わないといけないことがあるんだど、・・・言ってもいい?」

「え!?う、うん。いい・・・けど」

 その、あまりに只ならぬ雰囲気に押され、マイは思わずそう言ってしまっていた。

「じゃ、じゃあ、言うね」

 凄く緊張した面持ちでそう言うと、ツルギは意を決したように話し始めた。

「ハニぃ、あ、あのね、・・・あ、あ、あ、」

(な、なにこれ、まんま告白じゃん。え!?てことは何?もしかして「あ」の続きって「あいしてる」???)

 あまりの緊張に頬を赤く染めながら「あ」の続きの言葉が出てこないツルギを見てマイはそう思った。

「・・・あ、」

「ちょ、ちょっと待ってツルギ」

「あ、ありがとう」

「私まだ心の準備が、・・・え!?ありがとう???」

 マイは、ハトが豆鉄砲くらったような顔でツルギを見た。

「うん。

 ・・・私ね、あのまま、・・・十字架に張り付けにされたまま封印されるんだって思ってた。

 また何億、何十億年も一人ぼっちで閉じ込められて、もう一生ハニぃに会えないんだって思ってた。

 だから、ハニぃが助けに来てくれたとき本当に嬉かった。言葉で言えないぐらい嬉かった。

 ねぇハニぃ?」

「なに?」

「ありがとうって、これでいいんだよね?」

「え!?」

「私、今まで誰かにありがとうって言ったことがなくて、この前ハルカに言われたのを真似してるから、これで本当に合ってるのか分からなくて、・・・」

 そう言うツルギの顔は耳まで真っ赤になっていた。

「私の“ありがとう”、ハニぃにちゃんと伝わってる?」

 、期待と不安が入り交じったような顔でこちらを見つめるツルギに、

「・・・うん。ツルギの気持ち、ちゃんと伝わってるよ」

 マイは笑顔でそう答えていた。

 それを聞いてツルギの表情がぱっと明るくなった。

「ありがとう」

 彼女は喜びを爆発させるかのようにマイにキスしていた。

「んんっ」

 ぐるぐる巻きにされているマイに()()から逃れる術などあるはずもなく、唇が重なり合うと同時にツルギの舌がマイの舌を捕らえていた。

「んぁ、んふぅ」

 2枚の()()がまるで別の軟体動物のように艶かしい水音を立てながら絡み合う。

「くうぅ、んふぅ」

 さっきの余韻がまだ残っていることをツルギに悟られたくないマイは、首を動かし唇を離そうと最後の抵抗を試みる。

 が、ツルギに頭をがっちりと押さえられどうすることもできない。

 そして、マイの舌を思う存分堪能しツルギが唇を離した。

「・・・ハニぃ」

「・・・なに?」

「あ、あのね、それで、その、助けてもらったお礼がしたいんだ」

「お礼?」

「うん」

「お、お礼って、何するの?」

 《お礼》

 普通に考えればそれは、ご馳走するとか何かプレゼントするとかになるのだが、ツルギにそう言われると、いやツルギだからこそ、そう言われただけで心が勝手に()()()()()を考え“どきっ”となってしまう。

「ハニぃ、声が裏返ってる」

「え!?な、なに言ってるの?」

 ツルギに心を見透かされたようでマイは取り繕うのに必死だった。

「そ、それよりお礼って何?」

「えっとね、私がハニぃの髪を洗ってあげる」

「え!?髪?」

 想像もしてなかったその答えに、マイは思わず驚きの声をあげていた。

「サンドラがね、いつも仕事が終わるとスッゴい疲れた顔で帰ってきて・・・」

「あの司令が?」

 マイは信じられないといった表情でツルギを見た。

「いつもは帰ってくると、そのままお風呂にも入らずベッドに倒れて寝ちゃうんだけど、彼女が遊びに来てるときは、その彼女が『私が頑張ったご褒美に髪を洗ってあげるから一緒にお風呂入ろう』って言うの。

 そうするとスゴい嬉しそうにお風呂に入るんだよ」

「あの司令が?」

「うん。髪を洗ってもらうと癒されるんだって。だから私もハニぃの髪を洗ってあげる」

 そう言われたマイは、

「じゃあ私もツルギの髪を洗いたいな。いい?」

 そう言っていた。

「え?なんで?」

「私からの感謝の気持ち」

「え?え!?でも、そんなの・・・」

 それはツルギにとっては想像もしていなかった言葉らしく、その動揺ぶりは尋常ではなかった。

「わ、わたし、お礼なんて・・・」

 その話しぶりからも、戸惑いを隠せない様子が伝わってくる。

「何言ってるの?ツルギがいてくれなかったらダリウスの輪もブロッケンに破壊されて、ガリレオは地球に衝突してた。今頃地球もガリレオも木っ端微塵、月もどこかに飛ばされてた。

 ツルギはそれを阻止したの。35億もの人を救ったんだよ」

「そ、それは、ハニぃが一緒だったから・・・」だが、自分を真っ直ぐ見つめるマイの瞳にツルギは、

「・・・うん」

 頬を赤らめながらそう頷いていた。

 “ドゴオオオオオオォォォォォォォオオオオオオンっ”

 その瞬間、耳をつんざくほどの爆音と激震がマイの部屋を襲っていた。




                     

                               〈つづく〉



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