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シンクロナイズド・ダイバーズ  作者: 木天蓼 亘介
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第21話・「それ、ぜったいにちがうから」

 


  全身から太陽のような神々しい光りを噴き出しながら、ガリレオを下から持ち上げるように支えるハーケリュオンを見たアンナは、ダリウスの輪のパーツから、あるデータをダウンロードしていた。

『ダウンロード完了しました』

 アンナはメリルからのメールの内容に半信半疑だった。

 だが、ダリウスの輪の性能を見せつけられ、彼女の主張が真実だったと気付かされ衝撃を受けていた。

 それは、何故ヘルゲートの封印にダリウスの輪ではなくエンジェルハイロウが使われているのか?という理由だった。

 ダリウスの輪は木星を太陽化するために作られたものだ。

 つまり、月に避難した権力者たちや上級国民と呼ばれる特権階級を持つ一部の人たちが、地球に残された人々の命よりも、火星の地球化も含めその後の利権を独占するために、ダリウスの輪に関する資料を全てを最高機密にし秘匿しているからだ。

 それがメリルの告発だった。

  〔メリルの言ってたことは本当だったんだ〕

 アンナはデータをすぐさまメリルへ送った。

「司令、お願いします」

 〔まかせろ〕

 今度はメリルの代わりにサンドラがパワードスーツを装着していた。

 〔コンピューター、私はガリレオの最高司令官、サンドラ・アズマイヤー、認識番号は〇〇◆☆▼◇■●●§☆だ〕

『声紋、指紋、角膜、認識番号が一致、サンドラ・アズマイヤーと確認しました。命令をどうぞ』

 〔ダリウスの輪に関する全てのデータを全世界のあらゆる端末に一斉送信しろ〕

『データの中には最高機密も含まれています。これらを公開した場合、国家反逆罪に問われる可能性もあります。本当によろしいですか?』

 〔ああ、もちろんだ。最高司令官権限において承認し命令する〕

『了解、・・・・命令を実行しました』




 〔ふう〕

 〔やったね、アンナお姉ちゃん〕

 肩の荷が降りたようにほっと一息ついたアンナにアリスが嬉しそうに話しかける。

 〔うん、アリスのおかげだよ〕

 そう言ってニコッと微笑むアンナに、照れたように笑顔で返しながら、アリスはハーケリュオンを見た。

 〔お姉ちゃん、ガリレオは地球にぶつかっちゃうの?ガリレオにはまだお母さんがいるの、なんとかして〕

 不安に満ちた目でこちらを見つめる幼女に、

 〔大丈夫よ、あのギアにはマイが乗ってるんだから、マイを信じて〕

 そう優しく話しかけていた。

 〔え?マイお姉ちゃん〕

 〔そうよ〕

 〔ね、アンナお姉ちゃん、マイお姉ちゃんとお話しさせて〕

 〔え?〕

 〔ほんの少しでいいから、ね、いいでしょ?〕

 〔残念ですがマイさんのブレスレットは壊れています〕

 2人の会話に突然割り込んだのはメリルだった。

 彼女は全ての状況を把握するため、再びスーツを装着していた。

 〔メリル、それどういうこと?〕

 〔どうやらマイさんのブレスレットは故障したようです。マイさんも気付いているはずです〕

 〔なんとかならない?〕

 〔こちらから音声を送ることはやはり無理なようです。ですが、向こう側の音声、詰まり2人の会話を聞くぐらいならなんとかできます〕

 〔2人の無事が確認できるのならそれでいい、ハーケリュオンの映像と2人の音声を中継して〕

 それはハルカだった。

 両極点にいる彼女たちにとって、今何が起きているのかを知る手立ては他になかった。

 〔分かりました。やってみます〕

 各々のスーツのバイザーの一角に投影されたカメラの映像が次々に切り替わり、ハーケリュオンを捉えた。

 そこには、ガリレオを下から支えるようにに無数の触手を突き立てるクラーケン・モードのハーケリュオンの姿があった。

 〔なに、あれ?〕

 〔あれ、ハーケリュオンなの?〕

 〔・・・ブロッケンみたい〕

 バイザーに映し出された、初めて見るその異様な姿に、思わず息を飲むチーム36のメンバーたち。

 そして、ブレスレットから2人の音声が流れた。

 〔・・・んんっ、ふぅ、んうぅん〕

 一体何が起きているのか?

 固唾を飲んで耳をすませていた皆に届いたのは、苦しそうに息継ぎをするマイの声と、何かが絡み合うような、何かを吸うような甘い水音だった。

 〔マイ?マイどうしたの?返事して〕

 スピーカー越しに感じる、そのただならぬ雰囲気にアンナが必死に呼び掛ける。

 だが、当然ながらその声はマイには届いてはいなかった。

 〔んっふぅ、・・・はぁ、はぁ〕

 まるで、水中に潜って長く息を止めていて、それからやっと解放されたかのように、マイの声が再び聞こえてきた。

 〔や、やめてよツルギ、今それどころじゃ・・・んくぅ〕

 その声を聞き、

 〔え?なに?〕とリンが、

 〔いまマイさん、やめてって言いませんでしたか?〕とエマが、

 〔マイ、なんか凄く息苦しそうだけど大丈夫かな?〕とアヤが心配するなか、ただ一人アンナだけが、

 〔はっ!!まさか〕と、皆とは違う意味で悪い予感に襲われていた。

 〔ツルギ、だめ、やめてったら・・ぁんっ〕

 〔ハニぃ、かわいい〕

 そして《それ》は、アンナにとって最悪の形で当たっていた。

 〔な、な、な、何やっとんじゃあいつは~~~っ!?〕




 そんなアンナの声など届くはずもないコックピットの中で、マイは全裸のまま脚を踏ん張り、ガリレオを支えるように両手を突き上げていた。

 そしてその後ろに、彼女に身体を密着させて立つ、やはり全裸のツルギがいた。

 しかも彼女はハーケリュオンと同じ姿、つまりクラーケンになっていた。

 とはいえ、かなり可愛らしいクラーケンなのだが。

 そう。ツルギは今までも、ハーケリュオンがモードチェンジするたびに、それと同じ姿になっていた。

 が、マイにとってハーケリュオンでの出撃は、《それ》を見る余裕さえもないような状況の連続だった。

 つまり、マイが初めてツルギの異変に気付いた時、彼女の身体は“ぬるぬる”に滑る触手によって絡めとられ、ツルギの身体に密着させられてしまっていた。

 だからマイは逃げることも出来ず、ツルギにされるがままになっていたのだ。

 〔やめてツルギ、なんでこんなことするの?・・・あん、やん、だめ、あぁん〕




〔・・・え!?これって、〕

 それを聞いていたアヤが戸惑いの声をあげ、

 〔いや、この非常時にまさか・・・〕

 とエマも困惑し、

 〔ふ、2人とも私語は慎め、今それどころじゃないだろ、・・・任務、そう、任務に集中しろ〕

 ハルカも動揺を隠せない。

 そんな中、

 〔こ、こんなん聞かされて集中できるか~~~っ〕

 アンナだけが怒りを爆発させていた。




 

「やん、やめて」

 だが、そんなマイの懇願にツルギが耳を傾けるはずもなかった。

「ゃ、ぁあん、だめ、ツルギ。て、手がガリレオから離れちゃう」

「ダイジョウブだよ、ガリレオは私が支えてるからハニぃは手を離しても平気」

「・・・で、でも、」

「ほら、離さないとイジワルしちゃうぞ」



 


 〔ちょ、ちょっとツルギ。止めなさい、止めて。私のマイに何してんの〕

 ブレスレットから聞こえる2人の声に、アンナはもうなりふり構わずそう叫んでいた。

 〔え!?《私の》?〕

 その思わぬ一言に反応したリンに、

 〔あ!!違うの。《私の》っていうのは親友って意味で、・・・マイと私は小学校に上がる前から一緒なんだから・・・〕

 アンナは必死に弁解していた。

 〔小学校に上がる前からって・・・あ~~~っ〕

 その時、突然何かを思い出したように大声をあげたハルカに、

 〔びっくりした〕とアヤ が、

 〔どうしたの?〕とエマが、

 〔心臓止まるかと思った〕とアンナが、

 そして、〔もう、ハルカったら、寿命が縮んだらどうするの?〕とリンが、口々に驚きの声をあげていた。

 〔どうしました、ハルカさん?〕

 そんな中にあっても、唯一人メリルだけは冷静だった。

 〔メリル、ハーケリュオンからの音声をリンとアンナだけ遮断して〕

 〔え?なんで私とアンナちゃんだけ?〕

 〔なんでよ、ハルカ〕

 その命令に、リンもアンナも当然納得出来ず抗議する。

 〔アンナ、これを聞いていたら、あなたは冷静に任務を続行できない〕

 〔それはみんなも同じでしょ?〕

 〔それだけじゃない。冷静に考えて。未就学の幼い女の子に《こんなの》聞かせていいと思う?〕

 〔あ!!〕

 アンナは後ろを見た。

 そこには、不安に押し潰されそうな表情で自分を見つめるアリスの顔があった。

「・・・アンナお姉ちゃん、マイお姉ちゃんどうしたの?なんでイジワルされてるの?お願い、助けてあげて」

「・・・だ、大丈夫よ。マイは、マイは、えっと、その、・・・病気なの?」

 こちらをまっすぐ見つめるその瞳をみて、アンナはとっさにウソをついていた。

「病気?」

「うん。でね、今お医者さんに診てもらってるんだけど、注射が怖くて“イヤイヤ”してるだけだから心配しないで」

「そうなんだ。じゃあ、アリスとおんなじだね」

 その顔に安堵の色が広がっていく。

「え!?アリスもなの?」

「うん、注射大っキライ。いつも泣いて“そんなんじゃギアのパイロットになれないわよ”ってお母さんに怒られちゃうの」

「そっか、・・・じゃあ、マイお姉ちゃんの声は消して、ガリレオに戻ったらお母さんを捜そう」

「うん」

 アンナのブレスレットからハーケリュオンとの交信が遮断された。

 〔次 はリンね〕

 〔なんで?私は子供じゃないよ〕

 そう反論するリンに対し、

 〔あなたまだ義務教育の年齢でしょ〕と説き伏せようとした。が、

 〔そんなこと言ったらハルカちゃんだってまだ未成年じゃない〕と思わぬ反撃にあっていた。

 しかしハルカは、

 〔え?私?・・・私はこのチームの、・・・学級委員、そう、学級委員長だから、2人が不純な関係にならないかどうか最後まで聞き届ける責任が・・・〕と、上擦(うわず)る声で()()()()()()になりながらそう答えていた。

 〔何言ってるの?ねぇ、エマちゃん。こんなのズルいよね?〕

 〔わ、私もこのチームの副委員長として最後まで聞き届ける義務が〕

 〔いつから副委員長になったの?ちょっとアヤちゃんも何とか言ってよ〕

 〔私も、・・・このチームの書記として最後まで聞き届ける使命が・・・〕

 〔メリル、助けて〕

 〔私もこのチームの会計として最後まで聞き届ける役儀がありますから〕

 そう言い残し、リンのブレスレットも、マイたちからの通信が“ブチっ”と遮断されていた。

「みんなズルい」

 それに対し、リンは大声でそう叫んでいた。

『警告』

「わっ!!」

 その直後だった。

 コンピューターからの突然の警告にハルカは飛び上がらんばかりに驚いていた。

「な、なに?」

 まさかブロッケンの生き残りでもいたのか?

 そう身構えた彼女の耳に飛び込んできたのは意外なメッセージだった。

『血圧、脈拍、心拍数、共に上昇中、視線も定まっていないなど明らかな動揺が見られます。このままの任務続行は危険です。ただちにハーケリュオンとの交信を遮断してください。繰り返します・・・』

「え!?う、うるさい、警告カット」

『了解、警告メッセージを停止しました』

 〔た、たしかにこのままじゃ任務に集中できないかも、・・・交信を切ったほうがいいのかな?〕

 アヤが思わずそう呟くと、

 〔で、でも、ここで交信を切ったら、よけい気になって逆に集中できなくなるのでは?ハルカさんはどう思いますか?〕

 と、エマもどうしたらいいのか分からない様子でハルカに訊ねていた。

 〔え!?私?〕

 〔うん〕

 〔そ、そんなこと聞かれても・・・〕

 返事に困ったハルカは、

 〔えっと、・・・あ、そうだ!!これは訓練、そう、ブロッケンの精神攻撃に耐える訓練だと思えばいいんじゃない?〕

 咄嗟にそう答えていた。

 〔そ、そっか、そうですね。うん、そうしましょう〕

 エマが自分自身に言い聞かせるようにそう言うと、

 〔じゃあ私も〕

 アヤも、とても小さな、そして恥ずかしそうな声でそう呟いていた。





 その頃、ハーケリュオンの中では、・・・まだ続いていた。

「やん、ツルギ、だめ、やめて、・・・んんっ」

 マイは思わず手を離しツルギの触手を掴んでいた。

 しかし、そんな彼女の精一杯の抵抗はツルギのキスに飲み込まれていた。

「ね。手を離してもダイジョウブ」

 彼女の言った通りだった。

 マイが手を離しても、ハーケリュオンの無数の触手がガリレオを支えながら、その全身から黄金の光りの焔を噴き出し続けていた。

 そして、抵抗もむなしくマイの手は別の触手に絡めとられ動きを封じられてしまっていた。

「・・・ぁあん、だめツルギ、このままじゃ地球が、くんぅ」

「その地球を救うためだよ」

「え!?」

 いま自分がされていることと地球を救うことが頭の中で結び付かず、戸惑うマイにツルギが語りかける。

「ラグナロクの時に神様が教えてくれたの。2人の巫女が身も心も『ひとつ』になれたときパンツァーシュラウドは神をも殺せるって。

 でも、私たちはその言葉の意味が分からなかった。

 だって、2人とも裸で身体を重ねて同じ動きをしてるんだよ。

 ひとつになるってそういうことだよね?

 でも神様は違うっていったんだ。

 そして、ラグナロクには勝ったけどハーケリュオンは半身を失い、私だけ生き残って封印された」

「・・・それと、今してることにどんな関係があるの?・・・っくうぅ」

「サンドラがね、彼女にキスで伝えきれない気持ちを身体全部を使って伝えてた時に・・・」

「え!?」

「一緒に大きな声を出したかと思ったら急にぐったりしちゃって、その時に言ってたんだ、『私たち《ひとつ》になれたね』って」

「もう司令ったら。ツルギそれ『ひとつになる』の意味が絶対にちがうから・・・ゃん」

「でも、もうこれしか手が残ってないよ、どうする?」

「どうするって?」

「早くしないとガリレオが地球に落ちるよ。ハニぃはどうしたい?」

「どうしたいって、・・・ほ、本当に、他には、・・・ないの?」

「うん」

「ホントのホントに?」

「うん」

「ウソじゃなくって?」

「うん」

「本当に絶対ない?」

「うん」

「・・・じゃ、じゃあ、 他にないのなら、・・・し、仕方ないんじゃない」

「ハニぃ」

 その、嬉しさに満ち溢れたたツルギの笑顔を見たマイは、

「か、勘違いしないでよ。地球を救うためなんだから。こ、今回だけだから、一度きりなんだからね」

 と、大慌てで付け加えていた。

「うん」

「・・・で、その・・・」

「なに?」

「わ、私は、あの、その、何をどうしたらいいの?」

 蚊の鳴くような小さな声でそう言いながら、顔を耳まで真っ赤に染めてうつ向くマイに、ツルギは愛しそうにキスしていた。

「ダイジョウブ、私にまかせて」





 〔あの、皆さんにお話しがあるのですが・・・〕

 〔なに!?メリル〕

 〔あの、マイさんたちの会話なら、私、録音していますが・・・〕

 困り果ててる様子なのに、なおもハーケリュオンとの交信を遮断できないハルカたちを見かねたようにメリルが話し掛けた。

 〔え?それホント〕

 驚くハルカに、

 〔はい。ハーケリュオンにはまだ解明されていないことが山のようにありますから記録を取っておこうかと。・・・いけませんでしたか?ダメなら今すぐ削除しますが・・・〕

 彼女がそう答えると、

 〔だめだめだめ〕

 ハルカはそれを全力で止めていた。

 〔ハルカさん?〕

 その、あまりの猛抗議にメリルが訝しむ様子がスピーカー越しに伝わり、彼女は大慌てで、

 〔ち、ちがうの。その、聞いてメリル。・・・実は私たちマイたちの命令違反を故意にほう助した罪で勾留されてたの〕

 と告白していた。

 〔え!?〕

 〔だからね、今回の事でも同じ罪に問われる可能性があるから、・・・その、無実を証明する証拠が欲しい。・・・かなって〕

 〔つまり、2人の会話の記録をコピーして欲しいということですか?〕

 〔そ、そうなの。・・・お願いできる?〕

 〔分 かりました。全てが終わったあと、データをハルカさんのブレスレットに送信しますね〕

 〔ありがとうメリル〕

 〔アヤさんとエマさんはどうしますか?〕

 〔え!?えっと、・・・じゃ、じゃあ、私もお願いしようかな?〕

 アヤがそう言うと、

 〔じゃあ私も〕

 エマも、とても小さな、そして恥ずかしそうな声でそう呟いていた。




 そしてハーケリュオンの中では、2人がその時を迎えていた。

 「やぁ、んぁはああんっ、だえ、ツルギ、私、・・・くふぅ」

 「ぁん、ハニぃ、私も、もう、んんっ、ねぇ、一緒に、・・・ね?」

 「・・・んぐぅ、はぁあん、だめ、ツルギ、私、・・・もう」

 「ゃん、ハニぃ、私も、んんうぅっ、はぁあああん・・・・だめっ」

 「きゃうっ」

 「ぁああんっ」

 その直後、ハーケリュオンは超新星爆発にも匹敵するほどの輝きを放ちながら、ガリレオを衛星軌道まで押し戻していた。


 


 

 〔・・・たった今終わったみたいです〕

 そう言うメリルに、

 〔じゃあ、お願いね〕

 そう返すハルカも、いや、2人だけではない。

 〔メリル、・・・その〕

 〔あの、私たちの分も、・・・〕

 アヤもエマも、顔を耳まで真っ赤に染め、〝もじもじ″しながらそう言うので精一杯で、

 〔・・・はい〕

 それはメリルも同じだった。




                               〈つづく〉












































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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