第20話・2人なら・・・
その頃、マイとツルギが限界を迎えようとしていた。
「ハニぃ、しっかりして、眠っちゃだめ」
「・・・ツルギ」
「なに?」
「・・・お願い、エンゲージを解いて」
「え!?」
「ツルギが、ハーケリュオンがここから出られないのは、わ、私のせいでしょ?」
「なに言ってるの?」
「あの目を見たら私はまたおかしくなって仲間を殺す。ツルギはそれをさせないために・・・うぐっ、げほっ、こぼっ」
咳き込む度に口元から血飛沫が飛び散る。
「ハニぃ、もう喋らないで」
「だから、お願い」
「できない、そんなことしたらハニぃが死んじゃう」
「・・・大丈夫。私は死なない、死なないから。・・・だから、エンゲージを解いてブロッケンを倒して、その後でまたエンゲージしよ、ね?」
「もう、ハニぃのばか、私にはハニぃしかいないの。ハニぃと一緒じゃなきゃダメなの。ハニぃ以外とハーケリュオンに乗るなんて考えられない。だから死んじゃやだ」
「それは私だって同じだよ。・・・ツルギ」
「じゃあ、なんでそんなこと言うの?」
「今、ガリレオと地球を救えるのはツルギしかいないから」
そう言いながら、最後の力を振り絞り、血まみれの指をツルギの指に絡める。
マイの肩から鎖骨、そして胸の膨らみに、熱い雫がポタポタと落ちる。
それは、ツルギの瞳からこぼれ落ちる大粒の涙だった。
「・・・ツルギお願い、みんなを守って、そ、それから」
マイがか細い声で呟く。
「なに?」
「私がいないからって浮気しちゃダメだめだよ」
そう言いながら、無理矢理笑顔をつくってツルギを見つめる。
「もう、ハニぃのばか」
「いくよ」
もう、聞き取れないほどの小さな声でそう囁くマイに、
「うん」
ツルギは涙を拭いながらそう答えると、マイの手をぎゅっと握った。
「「パンツァー・シュラウド、ハーケリュオン。ブロークン・エンゲージ」」
声を合わせてそう言い終わるのと同時にガクっと崩れ落ちたマイを後ろから抱きしめ、ツルギは顔を上げた。
その涙に濡れた瞳は決意に溢れ、真っ直ぐ前を見つめていた。
ハーケリュオンの全身から噴き出す光りの焔の色が金から赤に変わっていく。
「ああっ、がはぁ」
その瞬間、エンゲージが解け加護の力が及ばなくなったマイは、腹部を貫通する穴からおびただしい量の血が溢れさせながら悶え苦しみ始めた。
その顔から、みるみるうちに血の気が失せていく。
「いくよ、ハーケリュオン」
漆黒の巨人の全身から噴き出す赤い焔がその手に集まりランスを形作っていく。
次の瞬間。
ハーケリュオンは、数えきれないほどの槍状のブロッケンに、全方位から鳥籠ごと串刺しにされ、ランスも砕かれるように消滅していた。
「あああ~~~~~っ」
ツルギの全身にハーケリュオンと同じ穴が開き鮮血が噴き出す。
「・・・こ、こいつら」
〔作戦開始〕
その頃ガリレオでは、サンドラの命令一下、チーム36による作戦が開始されていた。
「了解、ブースター2番点火」
メリルが復唱しながらボタンを押すと同時にエンジンが点火され、ワープブースターが打ち出されていく。
「2番ブースター、あと10秒でワープします。2人共いいですね?」
ブースターには、しがみつく格好で2機のパワードスーツが固定されていた。
〔まかせてメリル〕
〔メリル、やっぱり怖い〕
それにはハルカとリンが搭乗していた。
「行きますよ、5秒前、4、3、2、1、ワープ」
ブースターは青白い炎の軌跡を描いて、吸い込まれるように消えていった。
その刹那、ブースターは漆黒の空間から白銀の世界へと飛び出していた。
氷の大地から遥か天空へと伸びる巨大な柱の根本目掛けて突っ込んでいく。
〔いっけぇ~っ〕
2人が離脱するのと同時にそれは瞬時に再加速し、ブロッケンの根本にワープ速度で激突し大爆発していた。
だがそれは普通の爆発ではなかった。
一瞬でワープ速度に達したブースターは、激突した瞬間に内蔵されたワープコアが爆発し、放出されたエネルギーが、周りの空間を飲み込んでデタラメにワープさせていた。
【ギャギャギャ~~~っ!】
身体の一部を無理矢理えぐられ、ブロッケンが叫び声をあげながら傷の修復をはじめる。
〔今だっ〕
ハルカがブロッケンの周りをぐるりと回るようにホバリングで移動しながら、背中に装備されたガンシステムを使って何かを撃ち込んでいく。
そしてリンも、後方から援護射撃しながら彼女と一緒に柱を周回していく。
〔メリル、今よ〕
〔了解、アンナさんいきますよ〕
〔メリル、こっちはいつでもOKよ〕
彼女にそう答えるアンナは宇宙空間にいた。
彼女もまたワープブースターでここに打ち出されていた。
それだけではない。
〔アリス、大丈夫?〕
〔うん〕
スーツは合体したままで、彼女の背中にはアリスがいた。
本来なら幼い少女を戦場に連れて行くことなどあってはならないし許されない。
だが、地球に衝突する危険があり、いつまたブロッケンの襲撃を受けるか分からないガリレオにいるより安全だというメリルの意見と、アリス自身がどうしてもアンナと離れたくないとワガママを言ってきかなかったため急遽このような措置がとられていた。
月の残存艦隊とギアたち、そしてハーケリュオンがブロッケンとの死闘を繰り広げる中、1番ブースターでここにワープアウトした彼女は、目の前に浮かぶダリウスの輪の残骸にコネクターを接続していた。
プログラムを送信するとジョイントがはずれ、ダリウスの輪がバラバラになっていく。
「本当にこんなことができるなんて」
「損傷したパーツを切り離し別のパーツと結合させる。これ、こういうタイプの兵器の基本ですから、それよりアンナ急いで」
「まかせてメリル」
アンナはそう言うと、パージされた中から無傷のパーツを選び、次々に青い半球型のカプセルを取り付けていった。
それはスタートキャリアだった。
「装着完了」
ハルカから通信が入ったのが、まさにこの時だった。
「了解、アンナ離れて、CWDSスタート」
すると、ダリウスの輪のパーツが次々に消え、次の瞬間にはハルカが何かを撃ち込んだ場所にワープアウトしていた。
それがつなぎ合わさってダリウスの輪が形造られていく。
彼女が撃ち込んでいたのはゴールキャリアだったのだ。
その頃全方位から刺されたハーケリュオンは、新たに出現した槍状のブロッケンによって、追い討ちをかけるように四方八方から串刺しにされていた。
「あぁ~~~~~~っ」
ツルギの絶叫がコックピット内に響き渡る。
「・・・つ、ツルギ」
その、あまりの声にマイはうっすらと目を開けツルギを見た。
「・・・ハニぃ」
“グサっ、グサっ、グサっ、グサっ、グサっ、グサっ、グサっ、グサっ、グサっ、グサっ、グサっ、グサっ、グサっ”
その瞬間、ハーケリュオンは、諦めろと言わんばかりに更に全身を串刺しにされていた。
「があぁぁぁぁ~~~~っ」
ツルギは全身から血を撒き散らしながら、が壊れたバネ仕掛けのように痙攣し、崩れ落ちそうになる。
「ツルギいぃぃっ」
そして、またも新たにあらわれたブロッケンがトドメとばかりに全方位からハーケリュオンを串刺しにした。
“ドドドドドゴゴゴゴゴオォォォォォォンっ”
いや、串刺しにしようとした瞬間、轟音の連鎖と共に全ての槍が爆発に飲み込まれていた。
槍状のブロッケンが至る所で内側から爆発し、しかも、その周りを巻き込んで空間ごと渦に吸い込まれていく。
「ワープブースター装填完了、いいぞメリル」
〔撃ちます〕
それはサンドラとメリルだった。
2人は実験棟にある試作、または改良中のワープブースターを撃ち続けていた。
だが、
〔司令 、もうブースターがありません〕
「なに?他に何かないのか?」
〔あとは、あれぐらいしか・・・〕
「なんだあれは!?」
メリルが指差す先にあったそれを見たサンドラが驚きの声をあげた。
その直後だった。
〔司令、ブロッケンがこちらに向かってきます〕
「なに?」
見ると、ハーケリュオンを串刺しにしている槍の幾つかが外れ、こちらに向かって伸びて来るのが見えた。
「メリル、逃げろっ」
〔司令〕
メリルがサンドラをかばうように抱きかかえたその刹那、大爆発が起きていた。
だがそれは、2人がいるエリア51がブロッケンの攻撃を受けて爆発したわけではなかった。
ブロッケンはエリア51に突っ込む直前に爆発していたのだ。
〔!?〕
そして彼女が見たのは、ブロッケンの至る所で起こる大爆発の連鎖だった。
「どうしたメリル?2人は無事か?」
何が起きたのかを確認する術を持たないサンドラが心配そうに問いただしてくる。
だがメリルは、そんな声など聞こえていない様子でカメラを切り替えていた。
そして、遥か遠くの人工衛星からの、ガリレオ全体を捉えた映像を見て彼女は言葉を失った。
オーストラリア大陸ほどもあるガリレオには、軍用や貨物用の搬入港、メンテナンス作業用の点検口や兵器の発射口など、数十万もの人工的に作られた穴がある。
その全てからブロッケン目掛けて、ミサイルや荷電粒子砲やレールカノンやワープブースターなど、とにかく撃ち出せるもの全てが一斉に発射されていたのだ。
しかもそれに月の残存艦隊の攻撃も加わり、いくらブロッケンでも、その全てを同時に潰すことなど不可能だった。
〔司令、ガリレオのみんなが脱出することよりも2人を助けることを優先してくれて・・・〕
「うん」
2人は泣きそうだった。
その頃南極点では、転送されてくるパーツが次々に繋がりダリウスの輪を形造ろうとしていた。
が、その間にもブロッケンの身体がみるみる再生されていく。
〔時間がない〕
〔早く、もっと早く、急いで〕
2人が祈るように呟く中、最後のパーツが転送されてきた。
〔これでラスト〕
その刹那、再生し終えた柱から急カーブを描いて伸びた槍が、あらわれた直後のパーツを串刺しにしていた。
「!!」
それだけではない。
残りのパーツも1つ残らず破壊されて大爆発していた。
そのあまりの破壊力に大地が揺れ、氷の大地に無数のクレヴァスが亀裂となって広がっていく。
爆風に飛ばされないよう抱き合っていた2人見たのは、無傷の柱から伸びる、自分達に狙いを定める無数の槍だった。
そして槍が2人目掛けて一斉に振り下ろされた。
「!?」
思わず目をつむった2人だったが、いつまで経っても何も起きなかった。
そっと目を開けると、スーツのバイザーのほんの1センチメートル手前で槍は止まっていた。
周りを見渡すと、破壊された壁の内径程もある巨大なダリウスの輪が浮いていた。
それは、リンがハルカの援護をしながら、背後の壁の残骸に向けてバックパックから撃ち込んでいたゴールキャリアに誘導されて転送されてきたものだった。
〔二人とも逃げて〕
メリルの叫び声に、ハルカは思わずリンを抱き締め目の前のクレヴァスに飛び込んでいた。
次の瞬間、ダリウスの輪が起動し、ブロッケンの根本が、まるで雑巾のよう絞られていくのが見えた。
【ギャギャギャギャ~~~っ!】
ブロッケンはすかさずダリウスの輪を破壊するために北極のヘルゲートから槍を伸ばそうとした。
が、できなかった。
北極のヘルゲートもアヤとエマの誘導で設置されたダリウスの輪によって封じられていたのだ。
するとブロッケンは、ハーケリュオンを篭に閉じ込めたまま、巻き戻されるリールの如く凄まじい勢いでヘルゲートに向かって降下を始めた。
「あいつら何を?」
〔ハーケリュオンをヘルゲートの向こう側へ連れ去るつもりです〕
サンドラの疑問にメリルが答えた。
「なに?」
〔マイさんツルギさん、応答してください〕とメリルが、
〔マイ、ツルギ〕とハルカが、
〔マイさん、ツルギさん〕エマが、
〔マイ、ツルギ、返事して〕アヤが、
〔マイちゃんツルギちゃん〕リンが、
〔マイおねえちゃ~~ん〕アリスが、
〔2人共起きろ~っ〕
そしてアンナが叫ぶ。
ブレスレットから聞こえるそれらの声に、マイは微かに瞼を開いた。
「・・・みんな」
彼女は激痛にもがき苦しながら首をなんとかひねり、ツルギの顔を覗き込んだ。
「ツルギ、しっかりして」
だが、そう言うマイも、もう虫の息だった。
「・・・ハニぃ」
2人は飛びそうになる意識を辛うじて繋ぎ止めながら、鼻の頭どうしがくっつくぐらいの近さで見つめ合い、ツルギがマイの手を“ぎゅっ”と握った。
「上手くいくおまじない」そう言いながら顔を近づけるマイに、
「うん」
ツルギも応えるように瞳を閉じ、そして、2人の指輪と唇が再び重なった。
「「パンツァー・シュラウド、ハーケリュオン。クロス・エンゲージ」」
その瞬間、漆黒の機体から噴き出した、神々しいまでに光り輝く黄金の焔が籠を飲み込んだかと思うと、ハーケリュオンはそれをあっけなく突き破り宇宙に飛び出していた。
〔いっけ~~っ、マイ、ツルギ〕
その様子を残骸の影から見ていたアンナが叫ぶ。
上昇したハーケリュオンは反転急降下すると、そのまま眼下の、柱のようにそそりたつブロッケン目掛けて突っ込んでいく。
そこに、全方位から槍が襲い掛かる。
〔2人共、これを使って〕
メリルの声が聞こえたその瞬間、視界を埋め尽くすブロッケンをなにかが刺し貫き、しかもそれをハーケリュオンは受け止めるように掴んでいた。
「なに、これ?」
「ランス?なの?」
〔そうです。私が組み立てました〕
そう。メリルが興奮気味に紹介するそれは、ハーケリュオンの身の丈ほどもある巨大なランスだった。
そこに更なる槍状のブロッケンが迫る。
が、ハーケリュオンは黄金の光りを噴き出しながら加速すると、大きな口を開けて再び自分を飲み込もうとするブロッケンに、構えたランスの切っ先を向けて突っ込んでいた。
「「いっけぇ~~っ」」
“ズジャジャジャジャジャ~~~~~~~~っ”
ハーケリュオンが超巨大な柱
を切り裂きながら凄まじい速さで降下していく。
その視線の先には、切り裂かれる柱の内部をヘルゲート目掛けて一目散に降下していくコアが見えた。
「絶対に逃がさない」
ランスに取り付けられた6基のスラスターから青白い炎が噴き出し、ハーケリュオンが爆発的な勢いで更に加速したかと思うと、ランスの穂先に取り付けられたリングが回転し始めた。
しかし、コアはその切っ先が届くより一瞬早く、ダリウスの輪によって狭められたヘルゲートの穴に逃げ込だ。
その瞬間、回転するリングによって生み出されるエネルギーに、ダリウスの輪が作り出すエネルギーフィールドがこじ開けられ、ゲートの向こう側に逃げようとしたコアにランスの先端が突き立てられていた。
“バシュっ”
穂先の根元にある6基のスラスターから一気に炎が噴き出し切っ先が打ち込まれると、コアは跡形もなく砕け散り、ブロッケンも支えを失ったかのように崩壊していた。
それだけではない。
再びエンゲージしたことで2人は傷も治っていた。
「やったねハニぃ」
「うん、ありがとうツルギ」
その、涙でぐしゃぐしゃになったマイの笑顔を見た瞬間、ツルギは“ドキっ”となっていた。
だが、彼女はその初めての感情を理解することが出来ず、戸惑いながらマイの顔に見とれていた。
「どうしたのツルギ?」
「え?」
「大丈夫?顔が真っ赤だよ」
「え?な、なんでもない」
〔2人共聞こえますか?〕
「メリル」
〔このままだとガリレオが地球に落ちます。マイさんツルギさん、お願いします。地球を、ガリレオを救ってください〕
「まかせてメリル」
そう即答したのはツルギだった。
「ツルギ」
「ダイジョウブだよハニぃ、今のハーケリュオンなら、ううん、今の私たちならできる」
「・・・うん」
2人は見つめ合うと互いの手を“ぎゅっ”と握りキスしていた。
〈つづく〉




