第19話・ダリウスの輪
皆様、いかがお過ごしでしょうか?木天蓼です。
活動報告でも書かせていただいたのですが、19話以降を大幅に書き直させていただきます。
その理由は「スト魔女RtoB」の第6話を見てしまったからです。あんな熱い(いろんな意味で)のを見せられたらもう書き直ずにはいられません。
それと、ここまで読んで下さっている皆さま、お詫びさせてくだい。本当に申し訳ありません。
18禁版は必ずノクターンノベル様に投稿させていただきます。
なので私のわがままをお許しいただけたらと思います。
順次更新していきますのでしばらくお待ちいただけたら幸いです。
それではよろしくお願いいたします。
〝ビ~っ、ビ~っ、ビ~っ、ビ~っ、ビ~っ″
その時、再び警報が鳴り響いた。
それを聞くや否やメリルはパワードスーツを装着していた。
ブレスレットをはめていない彼女には、それ以外に情報を得る手段がなかったからだ。
外部カメラが捉えた映像がスーツのモニター脇にカットインされる。
そこには、ガリレオを支えるように両腕を突き上げ、全身から黄金の焔を噴き出すハーケリュオンの姿があった。
「なに?ハニぃ、新しい敵?」
「違う、味方の艦隊だ」
「え!?」
その言葉に促されるようにツルギが辺りを見渡すと、艦隊と数え切れないほどのギアがガリレオを遠巻きに囲むように展開しているのが見えた。
そしてその船体に描かれたエンブレムにマイは見覚えがあった。
「あれは、月の艦隊」
月の艦隊。それは、月に避難した地球政府を守るために新設された精鋭艦隊の俗称だった。
「私たちを助けに来てくれたんだ」
マイの顔から笑みがこぼれる。
「ねぇハニぃ、あの艦隊ってお月さまを守ってるんだよね?どうしてここにいるの?」
ツルギが不思議そうに訊ねる。
「もし地球に日本列島ぐらいの隕石が衝突したら地球が木っ端微塵になるって授業で習って、ないか?ガリレオはオーストラリア大陸とほぼ同じ大きさなんだから、もし衝突したらやっぱり地球はなくなって、その重力の加護を失った月も宇宙の彼方に飛ばされちゃうんだよ」
「だから私たちを助けにきたの?」
「だって、他に選択肢はないでしょ?」
「そお?私ならガリレオを壊しちゃうけどな」
「え!?」
その間にも大小さまざまなものがガリレオから剥がれるように地球に吸い寄せられていく。
そしてマイは見た。
それらがある一定の距離まで地球に近付いたところで一斉に光りの粒子となって消滅していくのを。
だがそれは、大気圏に突入しているわけではなかった。
岩々が吸い寄せられていく先に、まるで地球に迫るガリレオの前に立ち塞がるように、2つの超巨大なリングが斜めに交差しながら回転していた。
そしてマイはそれに見覚えがあった。
「あれってまさか、ダリウスの輪」
ダリウスの輪。
この巨大な仕掛けの大元となる理論、通称ダリウス理論を提唱し証明した科学者、ロベルト・フォン・ダリウス博士の名をとってそう呼ばれるようになったそれは、交差するリングによって生み出される重力場によってその内側に存在する全てのものを圧縮するために月で開発された装置だ。
なぜこのようなものが作られたかというと、ブロッケンの侵略によって地球の覇者でいられなくなった人類を火星に移住させるためだった。
火星の平均気温は-25℃で、人類が移住するためには平均気温を上げ地球の氷を溶かし海と大気を作り出す必要がある。
そこで地球政府はダリウスの輪を使って木星を圧縮し第2の太陽にしようと考えていた。
今、マイたちの後方にあるのは、その実証実験のために建造された試作機に間違いなかった。
しかしそれは、試作機というにはあまりに巨大で、移動させるには一度分解して数十隻の運搬船で運び、目的地で再度組み立てる必要がある。
つまりあれは、月艦隊がわざわざここまで運んできたものなのだ。
そしてマイは、月がわざわざこんなことをする理由を一つしか思いつかなかった。
「あれを使ってガリレオを消滅させる気だ」
〝ドガガガガガガガガガガガガガっ″
その時、2人を激震が襲った。
「がはぁ」
「あぁっ」
そして、ツルギとマイは声にならない声を漏らしながら、身体が真っ二つになってしまったのではないかという激痛に見舞われていた。
2人のお腹には身体を刺し貫かれた穴が開いていた。
「くっ、ハニぃ」
ツルギは、飛びそうになる意識を無理矢理繋ぎ止めながら、崩れ落ちそうになるマイを後ろから抱きしめるように支えていた。
一体何が起きたのか?
ハーケリュオンは、南極のヘルゲートから伸びる巨大な槍のような、新たなブロッケンに背後から腹部を刺し貫かれていた。
しかもその先端が錨のように開き、限界まで伸ばしたゴムが一瞬で縮むような勢いで戻るそれに引っ張られ、ガリレオから引き剥がされていた。
その時ツルギは見た。
槍の切っ先そのものが、複数のコアが融合して形作られているのを。
そうでなければ、エンゲージしたハーケリュオンがブロッケンに腹部を貫かれることなどあるはずがなかった。
この槍自体が、複数のブロッケンの融合体だったのだ。
そして人類の努力を嘲笑うかのように、ヘルゲートから更に無数の槍が伸び、ダリウスの輪と月の艦隊、更には艦隊を取り巻くギアたちまでもを次々に串刺しにして破壊し、再びガリレオにその切っ先を突き立てていた。
〝ズズズズズズズズズズズズズズズウウウウウウゥゥゥゥゥンっ″
轟音と共に、衝撃と振動がガリレオを襲う。
〔あいつら、またガリレオを・・・〕
アンナが悔しさを滲ませながら唇を噛む。
〔ガリレオがブロッケンに引っ張られ地球に向けてまた加速を始めました。マイさん、ツルギさん、聞こえますか?〕
だが、当然ながらその声は2人には届いてはいなかった。
たとえ届いていたとしても、2人はそれどころではなかった。
「くっ」
ツルギがマイの傷を治癒すべく、自らの唇を爪先で斬り彼女にキスしようとした瞬間、四方八方から襲い掛かった別の槍の、コアが変形してできた穂先が両方の手の平と足首を刺し貫き、ハーケリュオンは十字架に架けられたかのような格好にされてしまっていた。
刺し貫かれた箇所から、ブロッケンが侵食するように融合してくる。
「があああああぁぁぁぁぁっ」
マイとツルギの腹部と無理矢理真横に広げられさせられた両の手の平、そして足首に開いた穴から身体が何かに侵食されるように、皮膚がドス黒く変色していく。
「あああ~~~~~~~~~~っ」
その、真っ赤に焼けた金属の槍を突き刺され掻き回されるような激痛に、マイが身体が壊れたバネ仕掛けのように暴れ回る。
「ハニぃぃぃっ」
歯ぐきから血が滴るほど歯を食いしばりその痛みに耐えながら、ツルギはマイの手を握り、2人の指輪を重ね合わせた。
ハーケリュオンの全身から、全てを焼き尽くす神々しい光りの焔が噴き出す。
が、ヘルゲートから伸びる槍はすぐに再生され、しかも四方八方から迫りくる別のブロッケンと融合しながら傘のように広がり、ハーケリュオンを閉じ込める巨大な鳥籠になっていた。
しかも、籠の内側の壁全面を瞼が埋め尽くしていて、それが開くと、血のように真っ赤な白目の中に浮かび上がる金色の目玉が一斉にこちらを見つめていた。
「「パンツァー・シュラウド、ハーケリュオン。クロス・エンゲージ」」
2人が最後の力を振り絞りそう叫ぶと、ハーケリュオンが超新星爆発に匹敵するほどの神々しい輝きを放ち、その眩い光りに耐えきれず瞼が次々に閉じていた。
光りが目玉を、いや、籠そのものを焼き尽くすように熔かしていく。
いや、籠は熔けてはいなかった。
鳥籠の外側に放熱フィンのようなものがあらわれ、ハーケリュオンが放つ膨大なエネルギーをそのまま逃がしはじめたのだ。
「がはぁ」
そして、コックピットの中では息も絶え絶えのマイが大量に吐血していた。
「ハニぃ、大丈夫?」
そう言いながら後ろから彼女を支え、その顔を心配そうに覗き込むツルギも明らかに限界が近付いていた。
放出する力の全てを外部に逃がされてしまうため、ハーケリュオンは目玉を焼くために常に全力でエネルギーを放出し続けなければならず、しかも十字架にかけられたかのようにされキスを封じられたうえに、ブロッケンからの侵食に曝されている箇所の治癒を最優先させなければならず、ツルギはマイの傷はおろか自身の傷を治すことさえ出来ないでいた。
ハーケリュオンはまさに袋のネズミだった。
その頃ガリレオでは、残されたチーム36のメンバーが、2人を助けに行くことも出来ず、悔しさを滲ませながらその様子を見つめていた。
〔メリル、どうしよう?このままじゃマイが・・・〕
〔ハーケリュオンがやられちゃうし、ガリレオが地球に落ちちゃうよ〕
アンナ、そしてリンが悲痛な声をあげメリルを見た。
〔皆さん落ち着いて。私に考えがあります〕
〔メリル、どうする気なの?〕
〔月の司令部に傍受されないよう作戦は特殊暗号にして送ります。解凍して読んでください〕
〔メリル、ここに書いてあることは本当なのか?〕
ハルカが戸惑い気味に訊ねる。
〔本当です〕
〔・・・こ、こんなこと、本当にできるの?〕
〔・・・て言うか、こんなことしていいの?〕
アヤとハルカも戸惑いの声をあげる。
〔ですがもう時間がありません。もうこれしか手が残ってないんです。そして、今ならこれができます。作戦内容と必要なプログラムを送信します。皆さん、覚悟を決めてください〕
〔・・・わかったわメリル。みんな、無理強いはしない、残りたい人は残って〕
ハルカは皆を諭すようにそう語り掛けた。
が、
〔仲間を見捨てるなんて出来ない〕とアヤが、
〔2人もガリレオも地球も私たちで救います〕とエマが、
〔帰ってきたらみんなで、マイちゃんやツルギちゃんも一緒にお風呂入って、その後でコーヒー牛乳飲むんだ〕
〔私はフルーツ牛乳〕と、リンとアンナも返していた。
〔よし、やるぞみんな〕
ハルカが檄を飛ばすと、
〔おう〕
皆も一斉にそう声を上げていた。
〈つづく〉