人格と座標送付、そして別世界へ
「おっ、おおお、おおおおおおおおをおおををおをををを!!!!!」
光に貫かれたソゥヲバーリュが体を揺らして叫び声を上げる。
この禁断の詠唱は人間を一つの世界に見立てて、そこに詠唱による変化をもたらすというモノで、普通の人間に使った場合、変化に自分自身の力がついて行かず、暴走して爆発するか発狂する。
ソゥヲバーリュならば大丈夫かとは思うが、大丈夫ではなかったか?
動けないソゥヲバーリュをまたビリゥヴァの中に入れ直そうかと思ったが、怨念の攻撃でその暇はなく、一度ソゥヲバーリュ自体を世界の外へと飛ばしてから私も別の位置に転移した。
響く怨念が体にのしかかりだいぶ動きづらくなってきた耳の中にうねり声が響き始めて頭痛もしてくる。
もう救世主共を待っている暇はないのかもしれないか。
私が死んだと見せかける案はやめることにしよう、破滅の原因の座標だけは残して去るか。
近づいてくる力の主をさらに解析してみるとそこにはこの世界を出る前とは雰囲気が変わったが見知った顔と知らない顔が、前者三人後者四人の割合でこちらに向かっているようだ。
見知った顔がいるのならちょうどいい、そいつらの脳内に直接座標を送り込めばいい。
思ったらすぐにやる、すぐさま思念を飛ばして探知の先にいる奴らに座標を送り込んだ。
こちらに来るなとも伝えておく、着ても死ぬか、それ以上にひどいことになるだけだからな。
また怨念を躱し、次の策を考える。
『おはようございます、少し遅くなってごめんね』
と、思考に割り込むように静かな声が聞こえてきた。
今までとは雰囲気が変わったが、ソゥヲバーリュである事は確かだ。
『緊急事態だったとはいえすまないな』
『いいよ、今は最高の気分だから、ガゼルが謝るって事は後でひどいことになるんだろうけど、まあ、その時は倍で何か返してもらうとするし』
『それは怖いな』
ソゥヲバーリュにかけた詠唱は人格の強制的な追加。
いつもの情緒不安定な人格に割り込む形で別の人格を作り出したのだ。
なので人が変わったよう、というか実際に変わっている。
『所でいくつか過程をすっ飛ばしたから幾分か脆くはあるけどガゼルとそこのうるさい怨霊くん達の戦うステージを準備したよ、座標は送っておくから自由に使ってよ』
『ありがとう』
『大した事じゃないよ、さっきまで何もかも面倒なソゥヲバーリュがいたけど今はそうでもないし、まるで別人か他人みたいだよ、この身体が、というよりこっちが別人なのか、お邪魔します』
人格が体になじんでいないのか、体の方が人格を拒絶しているのか、お邪魔しますと言っているという事はおそらく和解したのだろうが。
とにかく、世界が別にできたというのならこの世界に怨念をまき散らす必要はない、すぐに転移をしよう。
脳内に座標を映し出し、拘束した怨念と共に転移をする。
一瞬で視界が変わり、畳張りの地平と板張りの空から降りてくる無数の裸電球のちらつく奇妙な世界が現れた。
世界というよりは広すぎる部屋といった印象だが世界としての役割は果たしているようで世界の狭間と隔絶されている。
ここなら存分にやれるだろう。
『存分にはやれないよガゼル、その世界は未完成でね、隔絶されているとはいってもその壁は薄い、なんせ即席だ、加減は間違えないでね、今、壁の構築の真っ最中だから』
『人の心を読むのはやめろ、魂の会話で聞こえてくるのはわかるが』
『警告はしたからね』
ソゥヲバーリュは乾いた態度で魂の会話を切った。
私が変えた張本人だが、友人の性格が突然変わると調子が狂うな。