脅迫と救出、そして逃亡
世界がうねり、うなり、その不定形な体のままに私に向かって何事かを伝えるがごとく、ノイズを発す。
そのノイズは私の脳裏に響き、別の言葉に強制的に変換された。
「ふ・た・り・を・か・えし・て・ほ・し・け・れ・ば・お・まえ・も・の・ま・れ・ろ」
脳をかき乱される程のノイズに自然と顔をしかめる。
しかし、そのノイズの向こうに確かに語りかけてくる言葉を確認した。
何者かは知らないがあの二人を人質にして、私を脅しているらしい。
二人に障壁を張る時についでにつけておいた感覚同調の詠唱により見てみると、二人は世界の中で無数の壁に囲まれて身動きが取れなくなり、捕まっている。
障壁が守っているが、二人は今にも壁に押しつぶされてしまいそうで、骨のきしむ音と苦悶の声が聞こえてきた。
さもなくば殺す、という事だろう。
やはり罠、しかし、何者か。
世界自体に恨みを抱かれることはした事は無く、そもそも生きる世界に会った事さえほとんどなく、あったのはかなり昔の事で、しかもその世界は今も元気に生きている。
生きる世界をまるまる一つ飼いならせる程の力はソゥヲバーリュの話によるとガートルハンズにはない。
となると他の組織か、他の何者か、周囲に探知の詠唱をかけてみるが飼い主の姿はうかがえない。
世界自身に解析の詠唱を使うとなると、膨大な情報量の中から必要な情報を探すのに時間がかかる。
下層世界の簡単な造りの世界一つでも人の構成の何倍も複雑な要素しか詰め込まれている。
さらには生きる世界、意思を持つ世界だ、そう簡単には解析を受け付けないだろう。
二人の命は大事だが、それは奴らの自業自得とも言える。
とはいえこのまま見殺しにするのは心が痛むか。
だが、だからと言ってあの世界に飲み込まれてやることはできない。
もしかすると器を砕いて私の力を吸収して災厄をまき散らすやもしれないからな。
それに、奴は脅迫が成功していると思い込んでいるが実はそうでもない。
「その身を我が元へと連れよ、我、詠唱す」
詠唱と共に音もなく私の上に人質になっていた二人が現れる。
下層世界の重力に従って落ちてきた二人を両腕で受け止めた。
「大丈夫か?」
「へっ!? え? ここはどこで……」
「あたし達は確か壁に囲まれて……」
「それが罠だ」
呆然とする二人を抱えて私は詠唱を一つ唱えてその場から転移をする。
世界を相手に二人を抱えながら戦うのはハンデが多い、それにわざわざ戦う必要もあるまい。
ノイズを発する世界から私はとっとと脱出した。
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「ちくしょう! あたし達は騙されてたってのか!? ちくしょう、ちくしょおおおおおお!」
「うるさい」
「ごげん! きゅー」
罠の話を聞かせるとクォリョがくやしさで叫んだのでその後頭部に強めのチョップをいれると、女性があげてはいけないような叫び声をあげながら気絶した。
いかん、力加減を間違えた、まあいいか。
「それで、お前らがこき使われていたガートルハンズはもうほとんどつぶれているようなモノで、お前らを従わせる力ははっきり言ってないという情報があるが、何か怪しい事や気付いた事は無いか」
「う~ん、わたしにはさっぱり、ガートルハンズを潰す事しか考えていなかったので」
モーピォンォは首をかしげる、本当にそれしか見えていなかったようである。
二人して目標以外は見えない盲目か、先程もあっさり罠かもしれない世界に飛び込んでいったし、だから下っ端だったのだろうな。
それなら私が何とかするしかないか。
ちょうどクォリョが気絶している、記憶を探ってみるとするか。
「刻まれし時を、その姿を見せよ、我、詠唱す」
クォリョの頭の中に吸い込まれるような感覚を覚えながら、私は記憶を読み、犯人の影を探った。




