暇と壊滅した組織、そして生きる世界
二人が世界の中に入っていく、その姿が見えなくなった所で私はソゥヲバーリュに通信を一つ入れた。
魂の通話に距離は全く関係ない、とはいえ向こうは一方的にかけてくるくせにいざこちらから声をかけても気まぐれで答えない時があるが。
「ソゥヲバーリュ、私だ、ガゼルだ」
「ああ、ガゼル、どうしたの? いまわたしはひまでひまでしょうがないから食券乱用してやけ食いでもしようかと思ってたところなんだけど? 乙女の食い路を邪魔しないでくれるかな?」
声をかけると不機嫌な声が帰って来た。
おそらく世界管理官は暇な方が世界は平和という事だからいいと思うのだが、暇で精神が狂って死ぬ動物もいるし、その暇を発散させる方法があるだけいいか。
それにしても、食事に行くのか、それだったらこれから真剣な話をするのは少し気が引けるな、他の奴を頼るとするかな。
「いや、食事に行くのだったらいい、すまないな」
「ちょっと待て待て、いくら何でもわたしは食事と人付き合いで天秤にかけて食事をとるような女じゃないよ、ガゼル、話を聞こうか」
「そうか? すまないな」
「謝る必要は全くないって、やけ食いよりもガゼルの話聞いた方がよっぽどひまつぶしにもなるし」
私の話を暇つぶしに使わないでほしいのだが、今はかなり真剣な話をしようと思っているし。
まあ、とりあえず聞いてくれるだけよかった。
私はこの装置世界の入り口まで来た経緯とガートルハンズから逃げ出してきた二人の話を聞かせた。
一通り話し終えると、ソゥヲバーリュは肩をすくめてため息を一つ吐いたような雰囲気を出す。
「ガートルハンズ、ねえ、あの糞組織、まだ活動してたんだ、かなり懲らしめたはずなんだけど、やっぱり裏で活動してたのか、ちっ! めんどくさい、それにしてもガゼルはよくトラブルに巻き込まれるねえ、そういう世界の運命に生まれてきたんじゃないかと思うほどに、できればこっちで保護して、さらにあわよくばウチの部下にしてしまいたいよ」
「私は保護されるほど弱くないから不要だ、それに隠居してる身だ、世界の中でゆっくりさせてくれ」
「ですよね~、かーっぺっ!」
通信の向こうでソゥヲバーリュが唾を吐く、おそらく今ソゥヲバーリュが歩いている所は食堂へ続く廊下だと思われるのだが怒られはしないのだろうか。
まあ、私が心配する事ではないな。
「それで、私が聞きたいことなんだが」
「ガートルハンズの事でしょ? だとしたらおそらく想像通りだと思うよ、そのガゼルがいる世界の入り口はおそらく偽物だ、第一下層世界で、ただ少し世界を重ねて見つけにくくしているからって見逃すと思うかい? 人によっては見逃すけけど」
「最後の言葉で信頼がガタ落ちなんだが」
「人によってはって話だよ、今ざっと調べたけど間違いなくそんな所にガートルハンズの装置世界はない、というかね、わたしはあの組織をけちょんけちょんのぼっこぼこのがっすがすにのめしにのめしたんだ、そんな世界を作る余力を残さないようにね」
そう言って、ソゥヲバーリュはその時の記録を私に送って来た。
それを見ると、ソゥヲバーリュが雄たけびを上げながらガートルハンズの一員と思われる奴らを一掃している様子と、壊滅した組織の施設複数、そして拘束されたボスや他の重要な人員の姿などがあった。
確かにこの記録を見ると組織は壊滅したようだ。
だが、それなら現に二人がガートルハンズに捕らわれていたと言っているのはどういうことなのか。
と、その時、目の前の世界の入り口に変化があった。
世界の入り口が揺れたかと思うと、形が変わり、揺れ動いてはもう一つの世界の入り口を飲み込んでいく。
こうもりのような、タコのような、そのどちらでもない何かのような形になった世界の入り口だったモノの奥に黄色い光が一つ灯る。
その光はまるで目玉のように動き、私の姿を捉える。
生きる世界、か、どうやら完全に何者からかの罠だったようだ。
とするならば中の二人はどうなっただろうか。
体に障壁と共にかけておいた同調の詠唱で私は二人の姿を脳裏に映し出しながら、向かってくる世界の入り口だったモノを躱す。
「へえ、意思を持って生きる世界か、珍しい、こっちでも調べてみるよ、ちょうどひまだったし仕事が出来てラッキーだ」
「私としてはアンラッキーだがな」




