当たる予感と崩壊、そして宣言
突然お願いされたので思わず了承してしまったが、嫌な予感は消えていない、むしろ強くなってきたくらいだ、過信してはいないが私の勘は当たってほしくない嫌な予感の時ほどよく当たる。
緩みかけた気を引き締め、洞窟を元来た入り口へ戻る。
ココココ子の目的の生物、その張本人が連れてゆけと言っているのだから、ここに長居する必要はなくなった、なら、とっとと帰ってしまおう。
「それで、ザバーー、どっしゃりって感じだったんです、ほんとカデツユツミィはもんもんでした」
「へぇ、という事はセウォッモダに燃えてたコンジョヌィ?は飛び降りたワケね」
「そうなんですよ、あはははははははは!!!」
「ふふっ、それは確かに傑作だわ」
私の後ろでココココ子の冒険話で盛り上がっている二人は完全に油断している。
外を知らないエヂィペンはまだしもココココ子、お前はそれでいいのか。
同じ母から生まれた者同士、話が弾むのはいいが、少しは警戒してほしい。
入って来た時と同じく、何かが出る事もなく洞窟のの終わり、外への入り口が見えてくる。
「映せ、我が目に、遥かなモノをを、我、詠唱す」
何もないことに安心しつつ、私は遠視の詠唱をして、外の様子を見てみた。
「っっっ!!………はあぁ、成程な、当たったか」
見て、思わず深いため息が出た。
「どうしまっしたか?ご主じ……えっ!?わかりまっした、そういう事でっすか」
ため息に気付いたアアルも遠視モードを使い、外の様子を見て驚きを隠しきれずに声を漏らした。
相変わらずのんきにお喋りしている二人は全く気付いていない。
どうすればいい、未開領域に入ってから何度目かになる問いを自分に投げる。
頭が痛い、どうしてこんな事になったのだか……
世界が崩壊を始めているなんてな。
振り返り、私はエヂィペンを見る。
お喋りに興じていたエヂィペンは私の視線に気づき、ただ一言。
「あら、気づいたの?わたしがこの世界の核よ、お父さん」
さっきも思ったが私はココココ子の育ての父親だがお前のお父さんではない、と心の中で現実逃避気味に呟いた。
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つまり、この洞窟はこの世界の核たるエヂィペンと世界とをつなげる場所。
そこからエヂィペンが体を引き離したので、世界が現在進行形で崩壊しているという事になる。
マリィの肉片は世界を一つ生成するくらいの力すら持っているのか。
今はそんなこと考えている暇はない、脱出だ、世界の崩壊に巻き込まれたら、死ぬどころではない。
最悪、世界から存在そのものが消える、世界崩壊のエネルギーはそのくらいの力があるからな。
「アアル、ビリゥヴァの中に戻れ、世界崩壊の中ではお前は危険だ」
「わかりまっした、お気をつけて、死ぬことのないように祈っておりまっす」
「死ねばお前もビリゥヴァの中の人形も死んでしまうからな、死なないさ、今回はありがとう」
「どういたしまっして、それではまた外で使っていただけることを心待ちにしておりまっす」
「ああ、また会おう」
アアルが一礼して私との魔力のリンクを解き、活動を停止するのを確認した後、ビリゥヴァにしまう。
「あれ?しまっちゃうんですか?」
おしゃべりに夢中になっていて状況に全くついて行けない不肖の娘が首をかしげる。
その横のエヂィペンは状況を知っているようなのに平然としている。
なので私がココココ子に今の状況を説明した。
「え、え、ええ~」
したがあまりの事に理解が追い付かずに一時フリーズした。
元に戻るまで待てないし、一刻も早く脱出するためにココココ子を背負う。
「とりあえず入り口まで行くぞ」
「あら?てっきりわたしを元の場所に戻すのかと思っていたのだけれど?」
行こうとするとエヂィペンが首を傾げ、私にそう言ってきた。
先程も私に浴びせてきたこちらを探るような目つきで。
何故そんな質問をするのだろうか、考えて、ふと気づく。
エヂィペンは簡単にあの場所から出ることが出来た、なら今までにも脱出することが出来るはずだ。
ここに辿り着いた探索者に外の世界の話を聞いているのだから、ついでにその探索者に頼めばいい。
普通ならそうだ、だが、エヂィペンはマリィの娘、その美しさは並の探索者には毒だ。
そして、実際に毒された探索者を何百、何万、それ以上か、見てきたのだろう、その探索者にすがり、外に出ようとしたはずだ。
だが、世界が崩壊する、という事実に直面した探索者は、精神を毒され消耗をしていることもあり、強いショックを受ける、そんな状態で崩壊の中をくぐりぬけるのは無理である。
なので自分がこの世界を出るために、術も精神も優れた人間を待っていたのだ。
必然、入念に警戒して自分をこの世界から連れ出せる人間か、また、連れ出してくれる人間かを試して、探る必要がある。
私に幻を見せたのも試していたからなのだろう。
この未開領域が出来てからかなりの時間が経っている、この世界が生まれた時から核である彼女がそこにいたのだとすると、外に出ることが出来る機会は、数えるほどしかない。
最大限に注意を払うのは当たり前の事だ。
だとするならば今、平然とした顔をしていて、しかし、その心の中は不安をため込んでいるだろうな。
ならその不安を取り除いてやろう。
世界管理官と友人だが別に私はこの世界が消えても問題はない。
それよりもこの娘の方を取る。
この世界の核がこの世界を出たい、と言って、今、出ようとしている、ならこの世界は私が連れ出さなくてもいつかは滅んでいただろう、ならば多少早まっても問題はない。
それに、勢いに押されたとはいえ、エヂィペンのお願いに了承してしまったのだ、約束は守る。
だから言う事はただ一つだ。
「私はお前を連れ出せる、だから私はお前とこの世界を出る」