洞窟の奥とエヂィペン、そして予感
奥の奥まで、詠唱を使って飛ぶ。
今度は幻にとらわれないように十分に警戒を払い、防止の詠唱や術式をいろいろと施しておいた。
それでも油断ならない所はさすが未開領域と言ったところだろうか。
今度、世界管理官の友人が探索に行きたいと言い出したら私は辞退しておこう。
もう少し若い頃であったらともかく、今はさほど世界への探究心はない。
あと当たり前だが死にたくない、初希を悲しませたくないからな。
脳内のマップに映し出されたココココ子の位置が近づいてきて、ココココ子の後ろ姿が見えてきた。
洞窟の一番奥、ココココ子はそこに立って、壁の何かに向って話しかけているように見える。
「アアル、あれは何と話しているか見えるか?」
「遠視モードに切り替えまっす、………壁に人型と思われるものがついていまっす、生体反応なし、姿は何故かココココ子さんに似ていまっす」
アアルからの報告を聞き、私も遠視の詠唱を使う。
確かにココココ子の向こう側の壁から突き出している人の姿があった。
その姿を見て私は驚いた。
光を放つ神々しい体、穢れのない肌、容姿は見る者を数日は呆けさせるくらい美しい。
ココココ子と同じく、マリィによく似ていた。
まるで洞窟と一体化しているかのように手首から先と膝の先が壁とつながってぶら下がり、その体の光こそがこの洞窟が光っている原因だと把握することが出来た。
あれが目的の生物、なのか。
脳内のマップにはそこに生体反応はない、しかし、現にあの人型の口は動いてココココ子と喋っていた。
何にせよまずは近づいてみよう。
私は距離を詰めた。
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「それでですね、ぐわぁって来て、食べられそうになっちゃいまして、思わず腰につけたウィルス核融合炉をぶん投げちゃったんですよ」
近づくとココココ子は壁の人型に何かの話を聞かせているようだった。
「ココココ子、無事だったか」
「あっガゼルさ~ん、遅いですよ、何やってたんですか?」
私が声をかけるとココココ子は振り向いた。
表情は明るく、楽しいおしゃべりをしていたようだ。
「いや、少し色々あった、それで、そちらが……」
「ああ、そうでした、エヂィぺンさん、この人が私のお父さんですよ」
「へえ、そうだったの、さっきはごめんなさいね」
人型、エヂィペンは私を見て、さして悪気なさそうなすまし顔で謝った。
どういう事だ?……ああ、幻で私たちを惑わした事か。
「いや、気にしていない、こちらこそ勝手に入ってすまないな」
「……ふ~ん、こっちも気にしていないわ、久しぶりの来客だもの、むしろうれしいぐらいだわ」
「そうか、それならよかった」
エヂィペンは私を探るような目で見て、その後に微笑んだ。
心を奪われそうになる笑みだ、ココココ子と同じようにマリィの身体の一片から生まれたと思われるが、その美しさからして、マリィの遺伝子がよく受け継がれている。
探索者がマリィと間違えるのも無理はない。
私から見ればエヂィペンの美しさはまだまだマリィには及ばないと思う、もっともあの美しさに及んでほしいとは思わないが。
「どうです?ガゼルさん、お母さんに似ていますか?」
「ああ、よく似ている、そっくりだ」
「そうですか、お母さんはこんな感じだったんですね~、わたしにも似てますね」
「それはそうだろう、共にマリィから生まれているのだから」
同じ肉体から生まれたのだから当たり前の事だろう。
しかも生物でいう交尾等なく、マリィの一つの身体から生まれたのだから。
「あら、お母さん、というのは?」
私とココココ子の話にエヂィペンは首をかしげる。
ココココ子が話し込んでいたのでてっきりもうその辺の話はしたかと思っていたが、まだだったようだ。
私はエヂィペンにここに来た経緯とココココ子が何者であるか、そしてエヂィペン自身が何者であるかを説明した。
「へぇ、わたしは外の世界?という所では美しいという感情をもって見られるワケね、生憎生まれてこの方ここ以外の場所に行ったことがないのよね」
「ええ!!そうなんですか!?」
「そう、今まではここにたまに来るあなた達みたいな人に話を聞いて想像してたわ」
「今までは……というのはどういうことだ?」
聞くと、エヂィペンは笑顔を浮かべた。
その笑顔は私にとても嫌な予感を与える。
マリィには申し訳ないが、マリィの身体から生まれたココココ子が厄介なのでこのエヂィペンもろくでもない事を起こすんじゃないか、と。
「わたしも世界の外へ出るわ、え~いやっとさ」
気の抜けた声でエヂィペンが壁と自分をあっさり切り離す。
きれいに着地した時には、人の手と足がついていた。
抜け出せたのか、いや、そのことはどうでもいいこの嫌な予感は何なんだ?
「という事で、連れてってね、お父さん」
「あ、ああ、わかった」
エヂィペンは私にそう言って不敵に笑った。




