幻と目覚め、そして乙女
「いつの間にか私たちは幻術の類をかけられていたようだな」
「そうでっすね、どうやって破りましょう」
私たちの周りを覆うもやが幻と分かったところで、辺りを見回してみるも、依然としてもやは周りにあり、前には影が蠢いている。
認識が変わった事で敗れる類のものではないのか。
しかも私達は移動しているはずだったのに動いていない、となると、意識が体から引き離されているという事になる、試しに地面を蹴って跳躍してみたが、脳内に映る私の位置はさっぱり変わらなかった。
「アアル、再起動は出来るか?」
「試してみます………システム、再起動開始しました」
アアルの瞼が落ち、頭が立ったまま眠るようにガクンと下を向く、そして少しすると目を開けて顔を上げ、少しあたりを見まわした後、
「もやがどこにもありませっん、幻が解けたみたいでっす」
と思念を送って来た。
どうやら一度意識を切ったことで、幻が一時的に消えたようだ。
「体に何か異変はあるか?」
「身体スキャン開始……特にはないでっす」
今は特に異変はない、というならば、私達がこの洞窟に入る時に、入り口で何らかの幻を見せる術をかけられた、という事か。
何故ココココ子に効かなかったのか、謎だが。
今はそこは考えない。
「私はどうなっている?」
「スキャンしまっす……脳からの信号が何らかの妨害を受けているようで遮断されていて、感覚が狂っているようでっす、治療はしてみまっすが治るか微妙でっす」
視覚から触覚から完全にやられているのか、厄介だな。
ここからどうやって感覚を戻すか。
アアルのように意識を切りたいが、あれは人形だからできるのであって私にはできない。
魂だけで身体から抜け出したり、一時的に別の身体を作り出して思念体で乗り移る事は出来るが、ここでそれをやるにはなかなか危険だ。
「アアル、頼みたいことがある」
「なんでっすか?ご主人様」
だとするならばこの方法に限られる、一人ではできない方法が。
ちょうど感覚はやられているんだ、気兼ねなく頼もう。
「私の頭を殴って意識を飛ばせ」
「はい、わかりまっし……ええええええ!!」
・
「起きて!!起きてくださっいご主人様!!」
意識が戻ると、唇に柔らかい感触と、頭をたたきつけるように響くアアルの思念があった。
目を下に向けると、アアルのモノらしき頭頂部が見える。
とするならばこの感触はおそらくアアルの唇だろう。
「なんで口づけしているんだ?」
アアルから降り注ぐ私を呼ぶ思念の間を縫って私が送り返すと、アアルは勢いよく顔を上げて私の目をのぞき込んできた。
ちなみに私は地面にあおむけに横たわっており、アアルは馬乗りになっている。
「目覚めたんでっすね!?よかった、よかったでっす!」
かなり興奮しているようで、私の上で飛び跳ねんばかりに喜んでいた。
喜びがすごすぎて目に涙さえ浮かんでいる。
「私が意識を失ってからどのくらいたった?」
「三十分程度でっす!よかった、治療した後も意識を取り戻さなかったので死んでしまったかと思いまっした、あっ、死んだのならわたしが動いてなかったでっす、忘れてまっした!!」
どうやら、私がどうにか説得して頭を殴らせた後に意識が戻らないので心配でおかしくなっていたようだ、ご主人様思いなのはいいが、ここまで思われていたとは意外だな。
「人工呼吸までするとは焦りすぎだ」
言いながら私は馬乗りになっているアアルの背中を支えながら起き上がる。
身体に特に異変はない、殴られた後にアアルが治療したようで頭の傷もない。
さて、辺りを見回してみる、もやは晴れて、洞窟の奥までの道は見えた。
頭の中のマップではドラゴンの姿はなく、それも幻だったようだ。
これならいけるな、アアルを持ち上げて降ろし、立ち上がる。
「さて、行くぞ!」
「はい、わかりまっした、あの、その前に一つ言いたいことが」
「何だ?」
三十分寝た分を取り戻すために一気にココココ子の元に飛ぼうかと思ったところで、アアルが少し言いにくそうにしながら切り出す。
「人工呼吸じゃなくて童話のような目覚めのキッスでっす」
言って、顔を赤くするアアルは乙女以上に乙女だった。




