教育と反省、そして仕置き
いつドラゴンが来るかわからないので、洞窟の入り口に目玉の形をした使い魔を召喚して置いておく。
そしてこれから入っていく洞窟の奥を見る。
どうか目当ての生物がいるように、と思いながら私はビリゥヴァの中から茶の入った水筒を取り出す。
「あだだだだだだだ~~~~」
足元には頭を押さえて転げまわるココココ子がいるが、無視して私は茶を飲んだ。
全く、心配して損した。
まさか何が起こるかわからない未開領域で、何かよくわからない得体のしれないモノを拾い食いしているとは全く思わなかった。
本当にこの異常な生命力が無かったら早々に死んでいる。
現に常人ならば頭蓋骨が陥没するであろうくらいは力を込めた私の拳骨を受け、実際そうなったのにのたうち回っている内に頭の形状は元に戻っていた。
だからと言ってだ、死なないからと言ってもそんなに警戒心のない事をするとは思っていなかった。
これは本格的に教育役の人形を一人ぐらい渡しておいた方がいいかもしれない。
もちろん私も教育する。
だとすればどの人形を渡そうか。
考えながら私は、転げまわる我が愚娘をじっと見ているアアルに思念を送る。
「アアル、未開領域から出た後に、ココココ子の教育の為に人形の中から誰かを持たせたいんだが、誰が適任だと思う?」
私に思念を送られ、アアルは一瞬驚いたように震えた後、私の方を見上げて首を傾げた。
「う~~ん、ココココ子さんに教育となるとまず一人では手に負えない気がしまっす、せめて三人から四人くらいいないと、何をするかわかりまっせんから」
アアルはココココ子と会ってからそれほど時間が経っていないはずだが、それだけでもココココ子の教育の大変さをわかったようで、そんな答えが帰って来た。
「それにみんな命令されたらやりまっすけど、やりたがらないでっすよ」
「お前もか?」
「言いづらいでっすが、はい、わたしの手にも負えそうにないでっすので、死にたくないでっすし、よくご主人様はココココ子さんを大きくなるまでお世話できたと思いまっす」
そこまでか、確かに明らかに死んでしまうと思われる道でも知らずに入っていってしまうようなココココ子の世話なんてしたがらないか。
ココココ子は小さいころからこんな調子だったが、当時はここまでではなかったからな、教育が足りなかっただけだ。
正直、人にものを教えるのは苦手なのだが、長く生きてきてもなかなか不得意を改善することはうまく出来ないモノだから。
さて、考えていると、転げまわっていたココココ子がやっと立ち上がった。
「いっててて、いきなり拳骨なんてひどいですよガゼルさん、乙女に手を上げるだなんて」
「拾ったなんだかわからないモノを食う奴は乙女ではないしましてや人間ではない、ただの畜生だろ?」
抗議の声を上げるココココ子に私は極めて怒りを面に出さないように言いながら視線を向ける。
すると、ココココ子は私の顔を見て青ざめた。
「ち、畜生? あの~もしかしなくてもガゼルさん怒ってますよね?」
娘だからか、怒りを抑えていてもココココ子は私が怒っているのが分かったようだ。
何故かココココ子の膝が震え出す。
「うん? 逆に怒っていないと思うか?」
「おおお、思ってないです、断じて、はいぃ」
ココココ子が少し後ずさりしたので、その分私は足を進めた。
「何で怒っているかわかるか?」
「え、え~っと、拾い食いのせいですか?」
少し間が開いたが答えるココココ子。
その間にも後ずさるが私もその分距離を詰める。
「今まで、未開領域はどんな危険が待っているかわからないから迂闊な行動はしない方がいい、と実際に体験してみて痛いほどわかっているはずだな?」
「は、はい」
「では何故、拾い食いをした?」
聞きながら、開いていた距離を詰める、ココココ子が後ずさるより早く、隙を与えずに。
「……すみません、どうしてもおなかが空いてしまって、ごめんなさい!」
私の顔を上目遣いで見ながら、ココココ子は謝る。
青ざめたその顔には脂汗が浮かんでいる、この後に私に仕置きされるのを恐れているのだろう。
ココココ子を育てているころから、彼女が悪い事をした時には仕置きをしてきたので、その恐ろしさをよくわかっているのだ。
「反省しているのならそれでいい」
「はい、ありがとうございます!」
それでいい、と言った私にココココ子の表情は一転明るいモノになる。
許してもらった、という事実はココココ子の心に安寧をもたらしたのだろうな。
「だが、仕置きはする」
「…………へっ?」
次の瞬間には壊される安寧を。
ココココ子の顔が間抜け面している内に私はビリゥヴァの中から道具を取り出す。
早く洞窟を探索するために、私はさっさとココココ子に仕置きを開始するのだった。