人形と山の中、そして卵
しばらくの間その場で、この山の中へ入っていくための準備をする。
ココココ子にやらせた身体能力の強化と障壁の展開を自分でもやり、また、ビリゥヴァの中から、手のひらサイズの可憐な少女の形をした人形を取り出す。
「それなんです? お父さんの趣味?」
「違う、作った奴の趣味だ」
これは魔力を送り込むことで動き、任務を与えればそれを遂行することが出来る、ただし一体作るのに多大なコストがかかるので二、三体しか持っていない。
これは機械と人間が共存する世界で買った人形で、貴重なのであまり使いたくはないが、ここで出し渋って死にたくないので使っておこう。
魔力を込めると、人形が立ち上がり、私を見てぺこりとお辞儀をした。
「ほえぇ~可愛いですね」
「ああ、作者の力作らしいからな」
この人形を買った店の店主は不健康そうな真っ白の肌に枯れ枝のような体躯をして、常に不気味な笑いを顔に張り付けている奴だった。
そして、これを買う時に狂気をはらんだ目で再三大事に扱うように言われたのを覚えている。
曰く、自分の理想を注いだ我が娘、らしい。
娘ならそもそも売らないのでは? と思わないでもないが、それには、使われてこその人形だ、という返答が飛んできた事も覚えている。
私にも今、目の前に娘がいるので気持ちはわかる、なので大事に使わせてもらう。
「おはよう、早速で悪いがお前の頭の中にこの山のデータを送る、それと山の中の生命の反応を送り続けるから、山の中に入り、生命の反応の所に行き、その中から人間の女性の姿をした生命がいたら通信を送ってくれ、大丈夫か?」
少し長めの指示を出すが、山を一度見た後、私を見上げて首を縦に振った。
賢い、しかも本物の人間と変わらないしぐさ、これほどの技術力は他の世界で目にかかる事は無い。
しかも、一人一人が感情を持ち成長もする、もはや人間と変わらない気がするな。
魔力は随時私が魔力を送って目覚めさせてからつながったリンクで常に送ることが出来、私の魔力が尽きない限りは動き続ける。
動き出した人形が空を舞い、山の中へ入っていく。
直前で一度振り返り、手を振って来たので手を振り返すと、にっこりと笑顔を浮かべて今度こそ山の中へと入っていった。
「か、可愛い……お父さん、あの子、わたしにくれませんか?」
それを見て、私のシャツの袖をつかんで上目遣いで子供のようにおねだりしてくる危機感の皆無な我が娘を見て、私はため息を吐いた。
そうだココココ子よりあの人形の方が賢いから、教育役につけてもいいか。
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コィモがあらかた枯れても、その倒れた残骸の間を普通に歩くのは難しいが、身体能力を詠唱によって強化しているので、さほどきつくはない。
少し経って、他の人形や、探索用の使い魔などをあらかた放ち終わったところで山に入り、私達は生物の反応がある場所を目指し、道なき道を走ってゆく。
私は仮面の間に差し込んだストローで魔力回復薬を啜りながらココココ子に思念を飛ばした。
「お前も伊達に世界を回っていないな、前に会った時よりも魔力を扱う効率が上がっている」
「そうですか? やった、お父さんに褒めてもらっちゃった!」
後ろを走るココココ子の魔力の流れを探知して私は感心する。
なぜこういう所は成長して頭の方は成長しないのか不思議だが、それはおいおい教育しよう。
「えへへ、今のわたしは無敵だな、なんてったってお父さんにお墨付きをもらったんうわったー!」
「うおおっ!?」
現に調子に乗った結果ずっこけて私の背中にしがみついてきた。
そのせいで私も危うく体勢を崩しかけるが、身体能力を強化しているので持ちこたえる。
「すぐに調子に乗るのがお前の悪い癖だ」
「ごめんなさい、反省します」
「ん、次から気をつけろよ」
すぐに意気消沈した声で反省の意を示す、素直な性格なのはいい事だ。
ただ、この調子に乗る事が治ったためしはないが。
「ところでこのまま乗りっぱなしの方が楽なのでこのままでいいですか?」
前言撤回、素直すぎるのも考えモノだ。
「もちろん駄目だ」
「やっはーーん、いだっ」
振り落としたココココ子が頭から落ちて地面とぶつかり、重い音を立てる。
普通の人間であれば頭が割れているが、実際割れているが、体が丈夫なので平気な顔で起き上がり、血の流れる顔で頬を膨らませ、
「ちょっとくらい乗せてくれてもいいじゃないですか!」
と怒る、だくだくと流れだす血が地面に落ちるが全く痛そうにはしていない。
痛覚がないのではなく慣れているのだ。
「昔はよくおんぶしてくれたのに」
「昔は小さかったからな、今は自分の足で歩いていけるのだから自分で歩け、と言うかお前には危機感が足りない、ここは未開領域だぞ、警戒しろ、何が起こるかわからっ!避けろ!」
と言ったそばから、私は上から何かが落ちてくる気配を感じ、その場から飛びのく。
ココココ子も転がっていくのが見えたので避けただろう。
落ちてきた何かは、その勢いのまま地面にぶつかり、めり込んだ。
轟音と共に、足元が少し揺れる。
障壁を張っていなかったら吹き飛ばされているであろう衝撃波が起こり、周辺のコィモが吹き飛ぶ。
落ちてきたものは光を放ち、鳥の卵のような形をしていた、私の背丈と同じくらいの大きさを除いてだが。
一応全方向に警戒をしていたが、空に何者かがいた気配はなく、虚空に唐突に出現したこれが突然降って来たような感覚だ。
という事はこれは生き物なのか?
衝撃が収まって少し待ってみるが、動きはない。
「何ですかね、これ」
ココココ子が立ち上がって近づいて観察し始めたので、私も近づいてみる。
「何かの卵のようだが……わからんな」
「でもぴかぴか光っててきれいですね」
「あまりむやみに触るなよ」
ココココ子は好奇心からかその物体に手のひらをぺたぺたとつけて感触を見始めた。
「あったかいですね、それでいてなんか少し震えてる、中に何かいるのかな?」
「卵、中に何がいるかわからないな」
「じゃあ割って見ますか」
「いや、なんでそうなる、怪物が出てきたらどうするんだ、放っておけ」
こぶしを握り締めるココココ子に制止をかける。
この大きさだ、中身が怪物だとしたらかなりの巨体だろう。
わざわざ中身を確認する必要はない、無視して進めばいい。
「でも気になりますね、もしかしたらこの中身が探しているお母さんに似ているヤツかもしれないですし」
「う~ん、確かにその可能性も捨てきれないな、少し待て、透視をしてみる、透かし、透せ、我、詠唱す」
ココココ子の言葉にも一理あるので透視の詠唱をして、中を除こうとしてみるが、中は真っ黒で、何も見ることが出来なかった。
中を見ようとしているのを殻が防いでいるようだ、厄介だな。
「中が見えない、どうするか」
「じゃあ、割るしかないですね!」
「待て」
「えいやっ!」
今度こそと言わんばかりに制止を聞かずにココココ子の拳が卵を叩く。
身体強化によって威力の上がっている突きはあっさりと卵の殻にひびを入れた。
できた隙間から白い煙が立ち上る。
殻が割れたからか、透視が働いて、中身が見えた。
その中身は明らかに目的のマリィによく似た怪物とは程遠い容姿をしている。
「中が見えた、全く違う生物だ、ココココ子、離れていろ」
「はずれですか、ちぇっ」
飛びのくココココ子、それを確認して揺れ出した卵に両手をつく。
ひびが段々と大きくなるが、生まれるまで待ってやる必要はない。
両手に魔力を集中させると熱いくらいまで熱を帯びてくる。
「光輝け、業火よ燃えよ、塵一つ残さず消せ、我、詠唱す」
その詠唱は対象を焼き尽くし、この世から消し去る詠唱。
肉片一つでも残したら復活して来るかもしれないので加減はしない。
卵はコーポィアスの炎に似た黒い炎に包まれ、殻に中も外も燃え上がる。
鳴き声一つ上げずに卵の中身の怪物は炎の中に消えた。




