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想像と未開領域、そして反吐

 ココココ子は人の形をとっているが、マリィから生まれた生物だけあっていわゆる普通の人間ではない事は当たり前の事である。

 上からの拳骨で陥没した頭を下から叩いて元通りに戻すという曲芸みたいな治療法を行う我が娘は、涙目で私を見上げてくる、こちらの行動の意図が分かっていなかったようだ。

「馬鹿なことを言っていないで行くぞ」

 私はそれだけ言って、未開領域への道をまた飛び立つ。

「照れてる?」

 後ろでまた勘違いした事を言っているココココ子にわずかばかり頭痛を覚えそうだ。

 まぁ、教育は後でと決めたので放っておこう、時間がかかる。

 しばらく飛んでいくと、辺りが、黒いもやのようなものに包まれて、見通しが悪くなってきた。

 ようやっと未開領域の近くまで来たようだ。

「あと少しで、未開領域ですね」

 今まで自分の母親の顔を想像して、空想の海に浸っていたココココ子は一転緊張した顔をしている。

 一歩間違えればすぐ死ぬのだから当然の感覚、ここでも能天気でいたらもう阿呆の頂点と言うべき者だったが、そこまでの阿呆じゃなくて私は安心した。

「油断するな、周りによく気を張っておけよ? 息づく者、そこに在るもの、答えよ、我、詠唱す」

 注意を促しながら、私は周りの地形から物から、生物まである程度の範囲にあるモノを探知して情報を映し出す詠唱を唱えた。

 便利である代わりに多量の情報を処理するために精神と脳がかなりすり減るが、未開領域は本当に何があるかわからないので、このくらいの警戒をしておかなければならない、もしかするとこのくらいの警戒でも足りないかもしれないが、その時は愚か者の常、死、あるのみだ。

 死にたくないので、これ以外にも、ビリゥヴァの中から探査系の道具をいくらか取り出して辺りに放っている、ココココ子はどうやら気づいていないようだが。

 それにしても、マリィに似た何かか、どんな生物なのだろうか。

 マリィに似ているといってもあまりに似すぎているとしたら、それを見た冒険者が棒立ちどころか、あまりの美しさに比喩ではなく本当に魂を抜かれて死ぬので、逃げ切れたところを見るとそこまででもないようには思えるが。

 実際に私も気を張っていないとふとした瞬間に気を失って何日も目を覚まさない事があった。

 もちろん、終焉の美、姿を見なくても、声を聞く、匂いを嗅ぐ、気配を感じる、存在を思い出すだけでも下手をすれば二度と目覚めない、そうではなくても数日は自失し、行動不能になる。

 マリィの美しさは全世界の宝だが、全世界の敵とも言える程のモノなのだ。

 だからこそ、マリィは自ら眠りにつくことを望み、私は誰の目にもつかぬ眠りにつける場所へと導いて、夢の世界で生きていけるように、私の持てる力をすべて費やした。

 ん? よく考えたらココココ子を夢の世界のマリィの元へ連れて行ったら万事解決で、わざわざ未開領域なんて危険な所に連れて行かなくてもいいのではないか? いや、夢の世界で逢ってもマリィの美しさによってココココ子が死ぬか、夢の力で姿を変えたとしたら会う事も出来るが、母の姿を見たいという彼女の願いは半分しか叶わないだろう。

 写真は論外、撮ろうとすると、記録媒体が記録不能を拒否して故障、あるいは爆発する。

 ならば、似ている者で代用するしかないのだろうな。

 う~む、どうにかいい方法はないか、でないと今回のように危険な場所に一人でも行きかねない。

 まあ、それよりも今は未開領域か。

 考えながら飛ぶと黒いもやは一寸先でさえ見通せない程に濃くなってきている。

 あらゆるものを探知する詠唱は、この黒いもやの情報も処理するので、頭痛がひどくなってきた。

 だが、解くわけにはいかない、辺りを警戒しながら飛ぶ。

 ココココ子は、私の後ろについて飛んでいるようだ、気づかない内にビリゥヴァの端っこの方をつかまれていた、別に伸びるとかはないし、互いに位置を把握できるので、特に何も言わない。

 こうしているとココココ子が幼い頃を思い出すな、あの時はまだ体が小さかったので、掴むどころか背中に貼り付いて、しがみついていてビリゥヴァが使いにくくてしょうがなかった、だが離れろというとすさまじく駄々をこね、号泣して、手がかかる子供だったな…………今もか。

「何か失礼な事を考えてないですか?」

「いや、別に」

 勘のいいところはマリィと似ているような気がする。

 勘がいいのは損がないがもっと他のところも似てほしかったような。

 さて、あとどのくらいだろうか、先の見通せない未開領域への世界の狭間は景色を楽しむことが出来ないのでかなり退屈ではある。

 いっそもやを晴らしてみようか、とも考えたが、そんな事をする暇は今はないか。

 そんな事を考えていたら、唐突にもやが晴れた、目の前に広がったのは黒の空、赤い大地、空には銀色の不定形な何かが蠢き、赤い大地からは血肉のようなピンク色の植物、扇の形をした山、見るだけで気分が悪くなるような異様な光景が広がっている。

 風は生暖かく、しかし何故か爽やかな香草の香りなので余計に気色が悪くなる。

 こんな所なのか、未開領域。

 私は景色を見まわしながら、ビリゥヴァに手を突っ込み、外気を吸い込むことを防止する白い面を取り出した、これは仮面を装着して力を引き出して戦う能力者達の世界にて手に入れた量産型の仮面であるが、仮面を装着し魔力を通すと、しばらくの間、吸い込んだ空気を正常なものに変え、ついでに体調も体の欠陥は治せないが最適な状態に保ってくれる便利な物だ。

 複数持っているので、二つ取り出し、自分に装着した後、ココココ子に差し出す。

「ほら、これを着けろ」

「ううっ、わかりま、ちょ、ちょっと待ってくださっヴぉえええええ」

 渡そうとしたが、ココココ子はこの世界に耐えられず、胃の中のものを口から出した、手遅れだったか。

 胃液と共にココココ子の胃の中の物が赤い大地めがけて落ちていった。

 それを見ながら、昔より今の方が世話がかかるかな、と思いながら、ビリゥヴァの中から追加で体調を整える薬を出して、この風を払うために空気清浄の詠唱をする。

「また、失礼な、うえっ、事考えませんでした? うっぷっ」

「いや、さっきも今もそんなこと考えていないぞ」

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