娘と生い立ち、そして教育
父と呼ばれては行かないワケにはいかなくて、私はココココ子と共に世界の狭間へと入った。
私の元を離れてからは一人で生きていくと心に決めていたココココ子が私に頼るという事は、それだけ胸中に思いを抱えてるという事に違いない。
なら育ての親としてはそれを手助けするのが当然だろう、くだらないお願いだったら突っぱねて追い出して眠ろうと思っていたが、しょうがない、寝るのは後だ。
私が、行く、と言ったら、ココココ子は飛び跳ねんばかりに喜んだ、実際に飛び跳ねられると部屋が揺れて階下階上お隣の人に迷惑なので、全力で組み伏せてねじ伏せたが。
パジャマのままだと汚れるし、初希とのペアルックのパジャマは大事にしたいので、私は着がえる。
ポロシャツの上からいつものジャージの上着を着て、下にチノパンを履く。
上下ジャージでもいいが、ズボンの方は生憎洗濯中だったので、こっちを履いた。
そして、詠唱を唱えて、世界の狭間に入り、未開領域に向かっている。
「お母さんに似てるってことはさぞかし美しすぎるんだろうなぁ」
ココココ子は飛びながら、まだ見ぬ未開領域の怪物に思いをはせている。
私としてはそこにたどり着くまでに死なないかを心配して欲しいのだが。
何せ未開領域、入って帰ってくるものはごくわずか、そのごく僅かもすぐ死ぬ、危険な場所。
下手しなくても死ぬかもしれないのに暢気なものだ。
それだけ親である私が信頼されているのもあるのかもしれないが、基本こいつは頭が悪いので、あるいは自分一人でもなんとかなるだろう間で思っていそうだ。
とすると私が断ったら一人で未開領域に行って最悪のたれ死んだだろうと容易に想像できる。
死んでも死なない奴ではあるが、それでも死ぬかもしれないとなるとついてきて正解だったと思われる。
頭を割ろうが身体を灰にしようがよみがえるがそれでも心配になるのは親心というモノか。
未開領域へと行く世界の狭間は、何もなく、ただ漏れ出した黒い霧状の何かが薄く道を覆っていて、視界が悪く、そこまで遠くを見通す事は出来ない。
未開領域に近づくごとに視界は暗くなる、そして完全に真っ暗になった後もさらに進み、視界が明るなった所が未開領域らしい、噂だからあまりあてにはならないが。
ところで、私はココココ子の育ての親であるが、マリィも正確に言えばココココ子の母親ではない。
どういうことなのか、それはココココ子の生い立ちにある。
こいつはマリィの子宮から産道を通り生まれたワケではない、マリィが目覚め、破滅をまき散らし、世界を終焉させながら徘徊していた時、ふとした拍子に地面に足を滑らせ、尻餅をついた。
目覚めてから痛みを全く知らなかったマリィは、運悪く尻の下にあった尖った石に尻を刺され、あまりの痛みに失禁し、涙を流して絶叫した。
しばらくそうした後に立ち上がった時には、傷は再生していたが、石には、マリィの臀部の皮膚と血液、そして尿、その近くの地面に流れた涙、よだれ、鼻水、その他諸々の体液が残った。
世界が滅びゆく中、それらは混ざり合い肉となり、マリィの世界を崩壊させるエネルギーを受けて生を受けた、マリィコールズと戦いながら、マリィを安全地帯へ導いていた私は、新たに生まれた生命を保護し、育てていく事を決めた、そして、ココココ子は誕生した。
名付けたのは私ではない、マリィに眠りに着く直前に名付けてもらった。
つまりはココココ子はマリィの身体から産まれた生命といってもマリィが作ったワケではなく、偶然に奇跡が重なってできた、マリィにはもちろんまだ劣るが、美しい少女という事だ。
本当の親は存在しないが、父代わりに私、母代わりに体の元となったマリィ、両親とする存在はいて、私が愛情をこめて育てたので、いい子には育ってくれた、頭脳以外はだが。
子供の頃と比較するとずいぶん体つきが女らしくなったココココ子をみて、なんとなく成長したんだなあと思い、嬉しかったり、寂しかったり、色んな感情を抱きながら飛んでいたら、未開領域へと思いをはせていたココココ子が私の視線に気づき、無邪気に笑った。
「どうしたの?ガゼルさん」
もう今では恥ずかしいのか、それとも探索者として独り立ちして背伸びをしているのか、お父さんとは呼んでくれず、同じ探索者として名前で私を呼ぶココココ子、だが、その笑顔は、子供の頃から変わらない純粋なモノだった。
「いや、特に何でもない、ちょっと考え事をしていただけだ」
「考え事? はっ!」
何かに気付いたようにココココ子は自分の身体を抱く。
「いくら血が繋がっていないからって駄目ですよガゼルさん、わたしまだ心の準備が……しかもこんな時に」
「は?」
何かを勘違いし、ワケが分からないことを言い出すココココ子に私は首をかしげるがココココ子は気づいていないようで言葉は続く。
「でも、もしかしたら死ぬかもしれないんですもんね……だったら、いいですよ、でも初めてだから優しくしてね、お父さん……、いや、ガゼル!」
言って、恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしてうつむくココココ子はもじもじと太ももをこすり合わせたり、緊張しているように身体を震わせた。
どうやら、私が下衆な野郎と同じような目、ココココ子の女性的で魅力ある肢体を舐めまわすように見ていて、淫猥な妄想をしていたと勘違いしたようだ。
私の顔はそんなにやらしいモノだっただろうか、いや、違う、娘の脳みそが残念なだけだ。
もじもじを通り越してくねくねし始める美少女に近づき、ため息を一つ。
どうして、こんな風になってしまったのか、もう少し教育してから送り出したらよかったか。
そんな事を考えながら、見ると、顔を真っ赤にしながらも潤んだ目でこちらを見上げ、
「いい……ょ」
とか細い声を上げながら、目をつむり、唇を突き出してきた。
しっとりとしてつやつやなリップを差し出しながら胸の前で握った拳にはかなり爪が食い込んでいる。
決めた、これが終わったら、機会を作って何度か教育をし、常識をもう少し叩き込もう。
そう思って、ため息をもう一度吐く。
その後、目の前の阿呆の頭が陥没するくらいの力で拳骨を落とした。




