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土下座と説明、そして納得

 土下座、きれいな土下座がどういうモノかはわからないが、すさまじい勢いで床に頭をたたきつけ、それと共に長い髪の毛が空中を舞っている所から、誠意はとても伝わってくる。

「お願いします!お願いします!お願いします!」

「顔を上げろ、説明不足過ぎてワケが分からないぞ」

 何度も何度も地面に頭をたたきつけるココココ子、たたきつけるといっても私の布団が床と額との間に挟まっているので痛むのは私の布団、正直やめてほしい。

「一緒に行ってくれますか!?」

 上がったココココ子の面は喜色で染まっている。 

「説明をしろと言っている、行くか行かないかはそれからだ」

「そうですか……わかりました」

 ココココ子はうつむき、少し落ち込んだ顔をしたが、すぐに顔を上げて説明をしだす。

「その石、未開領域の近くで倒れていた探索者からもらったんです、いわく、未開領域の中にある山の上で拾って来たと、そんでですね、その山に怪物がいて、その怪物に襲われて、けがを負ったそうなんです」

「っ!ほほう、その探索者の腕前はなかなかのモノらしいな」

 未開領域、そこに入って出てきたものはいないと言われているが、極稀に生還を果たす者もいる、と言っても体の大部分を損失していたり、何を見たのか精神に異常をきたし発狂をしたり、唐突に爆散したり、とその後数日も生きられず、未開領域についてしゃべる前に死んでいく、誰一人例外なく、呪いの如く。

 それでも、未開領域の中で行方知れずにならず、脱出できるという事はそれほどの実力と未知へと立ち向かう勇気を持っているという事、単に運がいいだけと言う場合もあるかもしれないが。

 そして、大事なのは、ココココ子に出会ったその探索者が、未開領域の情報を持ちかえり、伝えたという所だ、世界管理官でさえ手を出さない未知の世界の情報を口伝しただけでもその探索者はかなりの功績を打ち立てたと言っていいだろう。

「そうかもしれませんね、頭の左上から右目にかけてと左肩から下をごっそり失くしているのに、それでもわたしに伝えるべきことはしっかり伝えて死んでいったんですから、グロすぎて終始ビビりっぱなしでしてけどねわたし」

 思い出したのか少し顔色を悪くしながらココココ子のの説明は続く。

「それで……その、その山に住む怪物が、見てみたいんです」

「……は?」

 ワケが分からなかった、ココココ子とは結構古い付き合いだが、別に怪物マニアだとか珍しい生物を愛でる趣味は無い事を私がよく知っている。

 それともここ最近目覚めたのか?

 何にせよ、答えは否だ、眠いし、今日は初希とデートした日なのだ、それを思い返しながらゆっくり寝たい、わざわざ命の危険のある場所まで行きたくはない。

 という事で断る旨を口にしようとすると、ココココ子が先に口を開いた。

「ですよね、その反応することは知ってますとも、でも話はここからなんです!」

 ずず……と座ったまま器用に近づいてきて前のめり気味で人差し指を立てながらココココ子は言う。

 ここからが本番とまくし立てようとするココココ子の唇に私は人差し指を立ててあてた。

「もう少し静かに話せ、この世界の人間の大半は夜に寝る、そして今は夜だ」

 もう片方の手で私は窓の外を指さす。

 ココココ子は窓の外を見た後私に視線を戻し、首を縦に振った。

 部屋が暗く、外から差し込む光が太陽のモノじゃない淡いモノの時点で、普通気づくと思うんだが、様々な世界を今も飛び回っているココココ子のような探索者は意識しないと時間感覚がおかしくなるし、夜が朝で朝が夜のような扱いになっている世界もあるのでしょうがない事か。

 私がここに新居を構えてから結構来ていると思うんだが、こいつの頭ではしょうがないと諦めた。

「ん?んんん、んふんんん」

「おっとすまん」

 人差し指をそのままにしたら口を閉じたまま喋り出したので、離す。

 別に顔を引くか、振るかして振り払えばいいのに、変なところで逆らわない奴だ。

「ふぅ、今さっき失礼なこと考えてませんでしたか?」

 そして、変なところで鋭い奴だった。

「いや?それより話を続けろ」

「釈然としませんがわかりました、その探索者が言うに、怪物はとても美しい女性の姿をしていたんです、それはもう美しくて、あまり美しさで棒立ちになって、その動けない所を危うく殺されかけたそうです」

 美女の姿をして人を惑わして食う怪物だとか魔物だとかはよくいる、そしてそれに騙される探索者もよくいる、いわゆる需要と供給、騙される側からすればたまったものではないが。

「その探索者が騙されたとなると相当な美しさだったんだろうな」

「そうです、とても美しかったそうなんです、まるでわたしの母親みたいに」

「成程、そういう事か」

 私は、ココココ子が何故そんな所に行きたがっているか、わかった。

 彼女は、自分の母親の顔を見たことがない。

 人をすさまじく魅了する美しさを持っているココココ子よりも美しすぎる。

「わかったなら、お願いします、一緒に行ってください、ガゼルさん、いや――」

 その母親は人の心を奪い、破滅させる、あらゆる種を絶滅に追い込む、どんな世界だろうと崩壊する、ただそこにいるだけで、その美しさで。

「お父さん、お願いします!」

 そう言ってココココ子はもう一度頭を下げた。

 実の父親ではないが、私はココココ子が一人立ちできるまで世話をした、いわゆる育ての親だ。

 そして、母親は、今も私が連れて行ったあの世界で、眠りについている。

 終焉の美、マリィ、巨眼が文字通り血眼になって探す美女。

 それがココココ子の母親であった。

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