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後始末と処理、そしてラー

 少し時間が経っても巨人が復活して暴れ出すなんてことは無く、相変わらず大地の上に漂っている。

 本当にあっけなく終わってしまったな。

「開け扉よ、あの世界達よ、我は知る者、我、詠唱す」

 準備していた詠唱を唱えて、世界の狭間への口を巨人の下に開く。

 洗面台にたまった水を栓を抜いて流すように、重力に引かれて街だった物は渦を巻いて流れていく。

 巨人も一緒に流れるように大きな口を開けたので、少しすれば流れきるだろう。

 元々はこの世界になかったものを撒いたので、跡形も残さないように始末をつけなければならない。

 流れていく災いを空高くから、見ながら私はまた、詠唱を唱えようとして、その前にふと思いついた。

 マリィコールズの反応はもうない、とするとビリゥヴァの中に入れっぱなしのマリィコールズの一人がいらなくなってしまうな。

 ビリゥヴァの中に手を突っ込み、ダルマになったマリィコールズを取り出す。

 ちなみに先程やっと右肩から先がすべて再生して、感覚が戻ってきた。

 その右腕をマリィコールズの胴に回して、脇の下に抱えて持つ。

 未だに詠唱の効果で固まって動かないマリィコールズ。

「動き出せ、時を刻め、我、詠唱す」

 その拘束を解いた。

 すると、マリィコールズの身体の温度と心臓の脈動が密着した私に伝わってくる。

 気絶したまま止めたので、拘束が溶けても暴れる事は無い。

 それに仮に目が覚めて暴れても、頂上の巨眼から与えられた創造魔法は封じたままなので大した事は出来ないだろう、手足のない少女に負けるほど貧弱ではないからな。

 さて、これをどうするか、と考える。

 棲海破邪子のような例はごくまれで、大体のマリィコールズの洗脳を解く事は出来ない。

 思念を送り込もうとしたら、拒絶の破裂音が頭の中で小さく響いたので、この少女もその大体に含まれる事になる、本当に無駄だ。

 だからと言ってずっと保存をして置く場合、詠唱が解ける度にかけ直ししなければならず、面倒くさい。

 こんな奴一人の為にそんな労力をつぎ込みたくない。

 ならどうするか、捨てるしかないだろう。

 このまま、放り投げれば一緒に流れて、運が良ければ生き残り、運が悪ければ死ぬ。

 敵だからと言って無慈悲に殺すのは人としてどうかしているので、このぐらいの処置でいいだろう。

 やることが決定したところで、一応本人の意思を確認しておこうか。

 私は、脇に抱えた少女の尻を、きつけ代わりに強めに何度かはたいた。

「……うぅ、ぬぬぬん、ここはどこらんなぁ~?」

 十三回程度叩いたところで、少女が目覚めた。

 目覚めたばかりで、ろれつが回っておらず、また、どこか、独特な発音の喋り方をしている。

「目覚めたか、マリィコールズ」

「けっ!?この声はにっくきガザッル!?どっこら?どこにいりゅ?」

「首をひねって見てみろ、そこにいる」

 指示に従い、奇怪な発音で喋る少女が素直に顔をこちらに向け、驚いた顔をする。

「うなぁ!はなせぇ、はなっすぇぇぇ!触るなぁぁぁ!ぬぬぁあつうか手足ないぃ、いつの間にびっくりのワザなんなん!ガザッル!御貴様んのやったわざくぁあ!ずるい者!奴的には千万の卑怯ならぁ!」

 奇怪な発音どころか意味不明な言語を発しながら、少女は身をよじる。

 ガザッルとは私の事だろうか。

「私の名前はガゼルだ、それと放してもいいのか?首を戻してみろ」

「放してもいいに決定してらったとん……け?」

 私をにらみ、反抗的な言葉を吐く少女は、それでも私の指示に素直に従い、首を戻して、下を向く。

 そして、しばし言葉を失った、状況に頭が追い付かずに混乱したのだろう。

「放してもいいと言ったな?放すぞ」

 私は少し、少女を持つ手を緩めた。

「いがん!とっと待ちっり!実は決定してらないっとな、変ぬく言ったまえのラーを叩き潰しりんな」

 焦り、前言を撤回し、一転、震え始める少女。

「ん?何言ってるかわからないが、しっかり喋ってもらえないか?」

 私はもう少し力を緩める、いじめとか憂さ晴らしでなく、本当に何言ってるかよくわからない。

「ぬにあ、すまないれん、ラーのこれは普通のしみったれついている喋り方で言われれトンって変えられんないっとん、すみないれな、だら落とさんでんにいいぃぃぃぇぇぇぇぇ!!!!!」

 やはり何言ってるのかあまり分からないが、落とさないで、と必死に願っているのと、この喋り方がこのマリィコールズにとって普通の喋り方というのはわかった。

 ふざけてこちらをおちょくるように馬鹿を演じる、とか、何かの小説とかの登場人物になりきって喋る、とか、機密を喋らないように急に世界訛りを持ち出して混乱させようとする、とかではないようだ。

「わかった、今は落とさない、名前を名乗れ」

 返答次第では落とす、という意味を含ませながら少女の身体を持ち直す。

 伝わって来ていた震えが止まった。

「感謝を示しだっしゃいんはっすな、少しのワイセツまで許ー可んっち、ガザッル、意外にも人の横に心を夏に挟んだ物を置く的な温かさらんに、ぬ、ラーの名乗りはラダーッ・コゥンラッツー、他のちゃはラーっと呼ばるん、秘めし名もあるにけいれど簡単にあがるもにゃい」

 やはり何言ってるかわかりにくいが、ゆっくりと頭の中で解読するに、名前と呼び名を名乗ってくれたので、その呼び名、ラー、と呼ぶことにしよう。

 私の事をガザッルと言うように、逆に名乗られた名前もまた別の物なのかもしれないが、正しい物を知れなくても今のところ別に問題はないだろう。

 そのラーの言葉の秘めし名という所で、私はこの喋り方を使っているとある世界の種族に思い当たる。

 黒き異形共と人間とが戦う世界にいる光を生む術法を使う種族がこんな喋り方だった。

 秘めし名、と言うのはラーの言う通り、大事な人間、夫婦関係を結んだ者にだけ呼ぶ事を許された名だ。

 とすると、ラーの行ってる言葉の意味が分かってくる。

 それと同時に困った事にもなる。

 私は死にかけた時、その種族に助けられた恩があり、その時、族の人間が命の危機にあったら逆に助けると約束してしまったのだ。

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