念と海、そして切断
巨人の頭の上に作り出した念の刃、その鋭さを最大まで高めるために集中する。
遥か見下ろす地面近くではオンジェヤが自分の役目を果たさんと、私からの合図を今か今かと待っているのだろうが、念力を形成するのはかなりの集中力と少しの時間がかかる。
少しでも気が散れば念の力は朝霧のごとく消えて、無駄になってしまう。
精神的にも時間的にも無駄はやめておきたい、消耗した状態では頭は回らない。
消耗というならば、私はコーポィアスに呼ばれるまでは少し居眠りした後、初希とおしゃべりしていたワケで、そこからここまで、休んだところと言えば棲海破邪子にやられた傷を治している時のみ、私がいつもなら眠りについている時間を大幅に越している、一日以上寝ずに戦闘やら世界の飛行するのはかなり体に負担がかかる。
一日二日連続で起きっぱなしで体調を崩すほど弱い体を構築していないが、それでも疲労は蓄積している、災いを何とか出来るまでは緊張感と集中力で疲れなど感じないが、消耗はしているだろう。
つくづく平穏な生活を送りたいと思う。
少し長く生きすぎたせいでそんな生活を送るには困難な多くのしがらみがあるから特に。
だからと言って、面倒と全てを投げ出すのは今まで出会った者達に失礼だろう。
そんな事が脳裏をよぎるが今すべきは念力の形成、もうすぐ終わりそうだ。
相も変わらず巨人はどこかに向って歩いている、目も口も鼻もないのっぺりとした顔は何も見えていないし感じていないはずなのに、明確な意思を持っているかのように一歩一歩、歩く、歩く。
その目的はどこなのだろうか。
私がいた頃から、かなり時間が経ったこの世界の地理はさっぱりわからないので、皆目見当つかない。
オンジェヤだったら何かわかるだろうか、後で聞いてみよう。
さて、もう一息、思ったところだった。
「ガゼルさん、ガゼルさんっ!」
思念をつなげっぱなしにしているオンジェヤが呼んでいた。
しかもとても焦った様子。
何かあったようだ。
そこでふと私は、念のためにやりっぱなしにしておいたマリィコールズへの探知魔法の反応に少し意識を傾けてみた。
ちりぢりに逃げていなくなったマリィコールズの反応が巨人の足元辺りに5、6人程度あった。
残党か。
「オンジェヤ、マリィコールズか?」
「がぜっ、っつうぇ、そうです、マリィコールズですっ!」
いきなり言ったので、少し驚いたようにオンジェヤが返す。
見えなくなっているのは身体だけで、渡した球と耳栓は見える。
それに気づいたマリィコールズの残りかすが集まってきて、最後の悪あがきでもしようとしているのだろうな、最後の最後まで邪魔をして。
「どうしましょうっ!、ガゼルさん、マリィコールズがこっちに攻撃しようとしてます!」
焦るオンジェヤ、災いのせいで詠唱が使えない彼女は、飛行する的だ。
もう少し練ってもいいが、もう十分か、やりすぎてもしょうがない。
「焦るなオンジェヤ、準備は出来た、もういいぞ」
「っ!わかりました、ていっ!」
私の言葉に反応してオンジェヤの掛け声。
渡した球を地面に向かって投げたのだ。
オンジェヤに渡した球、それは土の中の世界で、埋まった空を飛ぶ鳥が飛行のために分泌する土を溶かす体液、それを凝縮に凝縮し、さらに縮小化の球の中に大量に封じた物。
それを地面に投げたらどうなるのか。
球が割れて飛び出す液体。
それが飛び散った土は溶ける。
つまり地面は液体へ、大地は海へ。
一時的なものだが十分に効果はある。
巨人はその両足を地面についている。
つまりは沈む。
街も巻き込んでしまうことになるが、それはしょうがない。
体勢を崩し、前に倒れていく巨人。
その隙を逃さない。
打ち下ろす、念の刃を。
不可視の力は災いに向って落下していく。
巨人の身体が割けていく。
防御する障壁やら強靭な皮膚は持っていないようで、あっさりと切れる。
紙にはさみを入れるよりも抵抗は返ってこない。
念の力は巨人を通り過ぎて地面に飲み込まれていった。
二つになった巨人はそのまま倒れて、海となった大地に沈む、と言っても一回沈んだ後浮いてきたが。
その後、動かずぷかぷかとその場に浮いていた。
「やった……ですか?」
「さあ、まだわからないな」
動きのない巨人、詠唱をかき消す轟音は鳴りやんでいる。
だからと言って油断はできない。
唱えられるようなったなら、唱えておく。
辺りを包む静寂、風の音は不気味だった。




