探る目と束縛、そして静かな怒り
テーブルをはさみ、私の向かいに初希と、小波……退下と呼んでおいた方がいいか。
湯を沸かし直し、初希と退下には紅茶を、私はコーヒーをもう一杯入れて飲んでいた。
退下は私にバレない様にさりげなく探る目、値踏みの目を向けてきていて、その横の初希に目を向けると、私の視線に気づき、小さく苦笑いしながら声を出さずに口を動かし、ごめんね、と一言。
気にするな、と思念で返してコーヒーを口に運んだ
「で、あなたが初希の彼氏さんなんだよね? 改めて初めまして、初希の友達の退下 小波、初希と同じく海撃隊の一員なの」
「初めまして退下さん、ガゼルです、絵を描いています」
当たり障りないあいさつを心掛け、下手にでる、一応この世界では向こうの方が年上だ。
実年齢では逆で、しかも果てしない位に年齢差があるから、何とも奇妙な気分だが。
カップをソーサーの上に置き、じっとこちらを見る退下の目を見返す。
少しの間、緊張がテーブルの上を走る。
私の目の奥に何を見るのか、心の内を覗く事も出来るが、別に必要ないだろう。
今、相手にあわせて取り繕った所でいつかはバレる。
ならばありのままの私を見せる方がいいだろう、ありのままとは言っても力を見せるわけではないが。
「束縛」
コーヒーに手を伸ばそうかと思った時、退下が不意にそう呟いた。
同時に床が少し揺れ、木の根のようなものが私の背後から伸びてきて私の体に巻きつく。
この世界の人間が使える力、天法、地法、海法の内の地法に分類される術か。
私にとっては拘束とは呼べない拘束だが、この世界の私は一般人、おとなしくしていよう。
「小波ちゃん! 何してるの!?」
驚いた初希が椅子から立ち上がる、さらには風が部屋の中に吹いた。
初希の天法が感情の動きによって発動一歩手前になっているのだ。
しかし、退下は初希の言葉を無視して私の事を見つめていた。
「動揺はあまりないみたいだし、度胸はあるね」
「いきなり何ですか? 私は一般人ですよ」
「あなたが一般人だろうと術士だろうと関係ないわ、それに全然平気そうじゃない、一般人だったら驚くよ、普通」
「初希が天法を使うのをよく見ていますから、それに最近は街の中にも海魔が出てきて、海撃隊のみなさんが戦っているのもよく目撃しますし、意外と見慣れたモノですよ」
依然探る目つきの退下は立ち上がり、拘束した私に近づいてきて、上から見下ろすように私を見始めた。
私を試す為にこんな事をしたのか、家主が横にいるというのに迷いなくやるとは度胸がある。
「ふーん、そうなの初希……初希?」
投げかけた声が返ってこなくて退下は振り返る。
そこに立っているのは無言の初希、これは間違いなく怒っている。
こんなに怒っている初希を初めて見た。
そもそも初希を怒らせたことがあまりない、初希と出かけるとき以外ほとんどジャージでいる事を軽く怒られるだけだ。
退下も自分がやりすぎた事をすぐに察したようだ。
初希の顔を見て膝が震え出している。
「ねえ、小波ちゃん、何でガゼルにひどい事するの?」
「これは、初希がダメ男に引っ掛かっていないか、心配になっちゃて……」
「その話、外で散々したよね、大丈夫って、優しいくていい人だって、何回も」
部屋の中に吹く風が少し強くなった。
抑えていはいるが、出るまで時間の問題だな。
家の中で喧嘩を始めると私の部屋も巻き込まれて、今までのマリィコールズ用の用意がばれる可能性がある。
そうでなくても、初希の持久力から考えれば三日三晩は戦いが続きそうだ。
これは止めなければな、と言ってもこの拘束をどうやって解くか。




