第5話
――――ひたり、ひたり
静かに自分はその深海を泳いでいく。
いや、泳ぐというよりは歩くといった方が見た目的には近いかも知れない。
右手は常に絶壁である岩の壁へと這わせて、左手にはナイフ。
この真っ暗である深海で唯一の光源となるのは己の手首に巻かれた、海光石の腕輪のみ。
そして、視界の先に広がるのは何もない空虚と暗闇、唯一のまともな物体は、横に続くこの絶壁のみだ。
時折、壁に海草や貝が生えてることのみがここが深海であることを示している。
この恐ろしく静かで死んだような世界。
そんな世界で一人になったかのような変な感覚に陥りそうな自分に向かって、それは現れた。
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【NAME】 藻絡みの水霊
【適正レベル】 2
―――――――――――――――――――
―――――ゾ、ゾ!ゾゾゾ!
それは、こちらの頭上方面からやってきた。
僅かに、傾斜になっている石壁の上から、でこぼこの斜面をそれは転げ落ちるように、または這うようにやってくる。
それは自分の腰以上の大きさのなにかの塊であり、それがただの物体でなく、【意思】を持つものであることは、自分の第六感が、自分の【闘技】がそれを告げている。
その巨大な何かは一見ただの海草の塊のようにも見えるがその奥には【目】のように輝く不気味な何かみえる。
それと同時に、それがこちらに近寄るごとに増す威圧感と悪寒が、それが敵意を持ってこちらに近づいていることを如実に示しており……
「よ、よかった―!!俺以外にも生き物いた―!!よ、よかった―!!
君が俺を襲ってくれて、ありがとう―!!!」
おもわず、自分以外のまともな生き物がいた感動で、そいつがこちらを襲いに来たことを理解しつつも感謝の声を上げてしまった。
まあ、その所為で隙ができて、思わずそいつに首絞められるまで反撃できなかったんですけどね。
いて、いてて!ひ、左手を攻撃するのはやめて!そこには海光石があるんだから!
あ、アーッ!!!!
≪これが自分のスク水を着た理由≫
第5話
「……最後の一撃は切ない」
自分の手に持つナイフによってバラバラになって、元化け物現ただの海草の塊になってしまった水霊とやらを見て、ため息を吐いた。
「……君の死は無駄にしない」
スマホに映し出された、増えたソウルと英雄点、そして、こいつの亡骸である海草をスマホに収納しながら、ちょっと涙目でそういった。
さっきまではあんなに元気に動いていたのに、いざ戦いが終わってみるとあっけない物である。
ぶっちゃけ、もう、あんなこっちを半殺しにしようとするやつでも一緒にいてもいいかもとか思ってしまった。
ただし、あいつはダメだ。この深海でこの海光石を壊そうとする鬼畜生は許しておけん。この深海のど真ん中で明かり無しとか軽く発狂できる自信がある。
「……というか、深海やばい。マジやばい。」
まあ、自分でもものすっごいバカっぽい言い方だと思うけど本当にここはやばいところなのだ。
まずはあたりが真っ暗なのは言わずもがな。
その上、周りは壁以外なんもない所為で、周りの目標となるものが何にもないのだ。
……これが何を意味してるかって?
そう、ここ、遠泳しようにも部屋、いや、扉へと戻るための【目印】となるものがほとんどないのだよ。
周りは海水ばかりで、この壁だってパッと見はどの部分一緒に見える、さらにいえば、海流の流れはちょくちょく変わっているからもはや重力すら当てにならないので、時々左右上下もわからなくなるレベルだ。
だから、部屋から進んでいる今は、常にこの絶壁に手を付けながら、その上壁にナイフで一定間隔ごとに星形の目印をつけながら進んでいる。
そこまでしても今本当に自分が迷ってないかが不安になってるが。
ん?もう部屋に戻らない覚悟で遠泳すれば問題ないだろうって?
バカ野郎!明かりとベットがある場所から離れられる訳があるか!無茶を言うな!
「……というか、意外とあっさり倒せたなぁ」
スマホに映し出された先ほどの相手の適正レベルとやらを見つつ、あんまり苦労せずに倒せたことに驚く。
ぶっちゃけ、さっき不意打ちされたのにもかかわらず、自分が受けた被害らしい被害は大体が手首絞めや絡み付き程度で、其れのダメージも手首に軽い跡が残っているだけである。
別にこちらも反撃で特別なことはやってない。
こちらの攻撃はシンプルに手に持ってたナイフでの攻撃、奴がこちらを締め付けた部分をある時は素手で、またある部分はナイフで引きちぎっただけだ。
これでもし、これから先出てくる相手があんなのばかりなら、案外苦労せずにソウルや英雄点をためられるんじゃなかろうか?
「思ったより、この体スペック高いんじゃないかなぁ……なんとなくわかってたけど」
まあ、片手でベットを持ち上げられたからなんとなくは知ってたが。
どうやらこの女の子ボディは軽く自分の知ってる女性の体とは違うようだ。
「さて、この壁にも目印を書き終わったし……もうちょっと頑張って先に進みますか!」
1人だと独り言が多くなっていかんな。
そう思いつつ、自分は再び壁に手を這わせながら先に進むのであった
――――――――――――――――――――――――
初心者用雑談スレ part12
572. 名無しの鐘鳴らし
てれってってってー!
クラスレベルが1上がった!
力が上がった!知力も上がった!素早さも上がった!
HPも上がった!MPもあがった!持てる物の量も増えたし、スキルのレベルも上がった!
……ただし、魅力は下がった(´;д;`)
573. 名無しの英雄
……なんというか……
その、生きろ?
というか、マジ?
574. 名無しの英雄
……これが世界の選択か。
って、ステって下がることもあるんだ……
575. 名無しの鐘鳴らし
俺さ、前世だとさ、本当にモテなかったんだ。
女の子に声をかけてもウエッて顔されたし、どんなに頑張ってもなんかこう……壁作られてたんだよ。
理由はわかるよ。俺の顔も体も臭いも全部ひでーもん。自分でもわかるレベルでだもん。
そして、こっちの世界に来て、みんな体変ってるそうだけど、俺は全く変わってなかった。
皆の変わったって発言聞いて、変わってない自分にむしろ絶望して首くくりかけたよ。
けどさ、せっかく異世界に来た上に環境も変わった。
自分にもどうしてもやらなきゃいけないことができたから、頑張ってみようと思った。
特にレベルが上がるとステータスが変わるって話は俺にとって魅力的だったんだ。
以前はどんなに努力しても、自分のブサメンを治すことはできなかったから。
だから、頑張った。自分のクラスが戦闘に向かないことは知ってたけど、ものすごく頑張ってレベルを上げた。
実際に酷い怪我をしたし、死ぬかもと思ったことも何度もあった。
そして、この結果がこれ。もう俺はイケメンにはなれない運命なのかも。
その事実に絶望した。悲しくなった。
せめてみんなには俺と同じような絶望を受ける前にそのことを伝えたかった。
みんな、俺のようにはなるなよ。
576. 名無しの英雄
楽しい異世界転生 お し り
577. 名無しの英雄
33-4
578. 名無しの英雄
うあ゛ぁあ ・゜・(´Д⊂ヽ・゜・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ
579. 名無しの英雄
うわあああぁぁぁぁぁ!!
そういうのやめろロぉぉぉぉぉ!!!!
俺はちがーう!!!!!
580. 名無しの英雄
い、いや、まだわからん!
それは今回たまたま1回目のレベルアップだけが魅力が下がっただけで
次のレベル上げで反動のように一気に魅力がry
581. 名無しの英雄
せやせや!それにこの世界にはいろんなマジックアイテムがあるんやで?
中には魅力を上げるようなものがあるから絶望するにはまだ早いはず……!!
582. 名無しの英雄
>>581 しかしマジックアイテムは体質によって個人差がry
583. 名無しの英雄
>>582 ちょっと思ったけど、そういうことを言うのはやめろぉぉぉ!!
584. 名無しの鐘鳴らし
……いやさ、うん、多分そういうの使ってもダメだと思う。
もう俺はダメなんだ。ブサイクの運命のもとに生まれた、ブサイク人間なんだ。
きっと姿が変わらないのも神様ですらこの顔を変えられないぐらいの呪いみたいなもんだよ。
もう、一生ブサイクのまま生きていくんだ……
585. 名無しの英雄
バ、バカ野郎!
どうしてそうやってあきらめるんだよ!
別に世の中には女以外にも楽しいことはいっぱいあるんやで?
586. 名無しの英雄
>>585 暗に魅力は無理だっていってんじゃねーよww
いやいや、俺だってこの世界に来たばっかりは軽く絶望してたけど、今この世界に来てガンバってよかったって思うことはいっぱいあったし、多分これからもあると思う!
俺、正直文才がないから、上手く伝えられないけど、鐘鳴らし、お前も絶対にあきらめずに頑張れよ!絶対いい事があるのは俺が保証するから!
587. 名無しの英雄
鐘鳴らし (´;ω;`) 生きろ
589. 名無しの英雄
長い、三行で。
590. 名無しの英雄
さす、空気ww
591. 名無しの鐘鳴らし
1、俺、前も今もブサメン
2、この世界に来てレベル上げしたけど、ブサメン具合は変わらず
3、( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!
592. 名無しの英雄
おいwwwwww何律儀に3行で答えてるんだwww
それに3行目wwwww
593. 名無しの英雄
余裕じゃねぇかwwwwww
594. 名無しのグリフライダー
余裕があるんなら、聞きたいけど鐘鳴らしはどうやってこの短期間にこんなにレベルを上げたの?
なんか秘訣とかある?
595. 名無しの鐘鳴らし
いや、特に秘訣ってほどじゃないけど、とりあえず今住ませてもらってる町で実際に鐘鳴らしをやらせてもらってるからがでかいかも。
とりあえず、時刻通りに鳴らす度にちょこちょこ英雄点溜まるし、俺のスキルもモリモリ上達した。
街を襲ってくる魔物の退治とかも結構たまるし、何よりこの間深夜に町に化け物の群れが来た時に警報の鐘鳴らしたときに一気にググッと点が入ってレベル上がった。
596. 名無しのグリフライダー
ありがとう、参考になった。
俺も倒してる敵の数なら他の人に負けてないつもりだから、なんとなく理由がわかった気がする。
……とはいえなぁ、そればっかりはどうにもならん。
どこかに野生のグリフィンをお持ちの方はいませんか―!!私に譲ってくださーい!
592. 名無しの英雄
無理wwwwここ初心者スレwwww
というかみんな早すぎぃwww
俺はまだまともに動く生き物にすらあってねぇよwwwwww
593. 名無しの英雄
むしろそれは遅すぎだろ
どうやって生活してるんだよwww
594. 名無しの英雄
話はぶった切るけど、まだここに来てからそこまでたってないのに
町のために戦ってる鐘鳴らしはかなりできた人間だね。
もしくは町の人がすごくいい人とか。
595. 名無しの鐘鳴らし
それは完全に後者
俺、見ず知らずの人を助けようと思うほどできた人間じゃないよ。
ぶっちゃけさっきは流れ的に悲劇的に書いたけど、今俺が住んでる町の人はまじでいい人ばっかり。
爺婆多めだけど、それでもどの人も素性の知らない俺に優しくしてくれるし、数少ない若者も人を見かけで判断しない人ばかり。
なにより、ここに来たおかげで俺は一生できないと思ってた彼女ができたからこれは頑張らなきゃ嘘でしょ!
あ、さっきの3行目のおっぱいおっぱいはこの間彼女に治療された時のご褒美です。
グロ面だけど、リア充でごめんwwwうひひwwwww
596. 名無しの英雄
氏ね
597. 名無しの英雄
ふざけんな
598. 名無しの英雄
涙返せ
599. 名無しの英雄
リア充とわかった瞬間この熱い掌返し
流石だぜお前ら。
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「……リア充爆発しろ」
おもわずそうつぶやき、スマホの電源を消す。
なお、このスマホはもちろん海中でも使えるし、念じるだけで出し入れすることができる便利仕様であった。
パソコンの方は無理だけど。
さて、今の自分はすでに扉から結構離れた場所にいる。
うそ、多分思ったより離れてない場所にいる。かなり慎重に進んでいるから。
しかしながら、ここまで進む間に実はすでに英雄点もソウルもそれなりに増えている、
理由は簡単、あの後からも数回、先の海草の化け物に襲われているからだ。
具体的には下の方から2回、後は上から転がってくる感じであり、地味に2匹くらいは色違いであったが特に強さにそこまで大きな違いはなかった。
「……ソウルも点もたまったし、今日は帰るか。」
そう思い、後ろを向いた瞬間、それは現れた。
―――――ゴニャァァァァァ!!!!
それは水の中である現在でもはっきり音として聞こえてくる、怒りのような悲鳴のような鳴き声であった。
自分の後方からそれは聞こえ、自分の第六感がそれをとらえたと思った瞬間には、それはすでにかなりこちらへと近づいており、こちらがほとんど準備するまもなくそいつはつっ込んできた。
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【NAME】 ヴァルランクス
【適正レベル】 4
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それはかなり奇妙な姿の生き物であった。
それはまるで暴れるように泳ぎ、一直線に此方に向かって突っ込んでくる。
そいつの顔には目はないが、耳はあり、鼻も見える。
体は魚のようで尾びれも見えるが、なぜか体の多くには毛が生えており、2本の爪と毛が生えた前足が確認できる。
何よりそいつの口には、まるでこちらがもっているナイフほどもある牙を携えており……
「な、なんだ、あの目無し猫魚……いや、あれはサーベルタイガーか?
めっちゃきもい。」
思わず、そんなことを口から漏らしてしまった。
というか、マジであいつきもい。無理に深海生物と獣を混ぜたようなビジュアルをしおってからに。
しかも、ほとんど顔の造詣が整っているのに、その中で目だけなかったり、体のビジュアルが一部魚だったり、大きさがこちらの体格よりでかいがそれにさらなるキモサを追加してる。
一瞬、あいつがこちらに突っ込んでくるなら、上か下かに避ければ突進を回避できるかなーとも思ったけど却下。
下手に避けて、足元や頭上から攻撃される方が遥かに厄介なのは、目に見えている上、ここでがむしゃらに逃げて迷子になるのはもっとごめんである。
―――――ゴキャァァァァァ!!!!
さて、さてさて、そんなことを考えている合間にあいつはあっという間にその姿がはっきり見える場所まで接近していた。
冷静にしてはいるように見えるが、これはものすごいピンチである。
此方はナイフ1本、相手は縦横無尽に動ける豹のような生き物であり、おそらく、こちらの下手な攻撃は意味をなさないのに、相手からあの爪や牙での攻撃を食らえばこちらには致命傷。
こっちは第六感と光で感知してはいるが、相手はこちらがそれに気づく前に突っ込んできたいうことは相手の感知能力はそれ以上。
大体、相手と自分の身体能力という点に関してはこっちが負けてるんじゃなかろうか?
で、だ。それらで導き出す結論は……
「……今!ここで!絶対に!お前を仕留めなきゃいけないってことだよなぁぁぁぁ!!」
―――――ギギャアアアアァァァァァァァ!!!!
奴の咆哮とその迫りくる水圧が肌をさわる、
獣のような前腕がこちらの方へのび、こちらをつかみかからんと伸ばしてくる。
その腕に伸びていた爪は鋭い鉤状で、もしそれが自分の体に刺さったらと思うと、いやな汗が背中に走る。
しかし、幸い相手はこちらの大きさをまともに測れないほどの馬鹿のようだ。
少しこちらの身を横にすればその爪での攻撃をあっさりかわすことができ……
「……そこだああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
――――――あ、あぎゃあああらららぁぁぁぁぁ!?!?
奴の牙がこちらの首に届く前に、こちらは奴の脳天めがけて、ナイフも持った腕を伸ばした。
ごりっといういやな感触の後に、それが砕けるような振動。
そして、そのままそのナイフの刃がすべてやつの額の中に納まった。
自分の力だけではない、相手の突進の力をも利用したナイス連係プレーだ。
ただし、連携相手は死ぬ。
―――――――…………!!…………!!!!!
「あっぶねぇ!!!!」
奴はナイフが頭に刺さったにもかかわらず、それはそいつの動きを一瞬硬直させただけで、またすぐに動き出した。
その動き出す一瞬前に、こちらは奴の爪も牙も当らない安全地帯……すなわち奴の背後にナイフを握ったまま乗り移ることに成功した。
……というか、さらっと成功できたけど、今自分、かなりアクロバティックな動きをしたよね。
まじすげぇ。
―――――――……ガ……!?!…………ガガ!!?!!?!
「って、てめぇ!暴れんな!!
って、背びれ痛っ!マジ痛っ!!!」
それはまるで、ロデオマシーンのように、いや、陸に上がった魚のように跳ね回った。
自分はそのナイフを離さないように、奴の背中に張り付き、相手の方はこちらを振り落とそうと暴れまくり、その爪をこちらにかきたてようする。
その攻防は、奴の動きが鈍り、こちらが奴に突き刺さったナイフを捻りあげて、奴の脳を捩じり潰すまで続いたのであった。
―――――――ビクン!ビクン!
「……っつああ!!!!つかれた!マジで疲れた!
死ぬかと思った!」
奴がもう、まともに抵抗できなくなったことを確認して、奴の背中から降りる。
奴の額からナイフを引く抜き、一息をつく。
というか、さっきの自分、敵が接近してきたのに、やけに冷静な上にものすごい好戦的な思考だったな。
口調もかなり汚くなってたし。
これが英雄補正か、はたまたは別のか。
そして、奴の背中に張り付いていた際に、その背びれでこちらの顔や腕は皮膚が裂けたのに、一番奴の背びれが当たった場所であるお腹の部分は、スク水のおかげか傷一つつかなかった。
というか、スク水自体も傷一つついてないし、このスク水なにでできているんだ。
いやさ、普通のスク水が何でできているかも知らんけど、このスク水の肌触りだけなら普通なんだけもさぁ。
―――――――ビクン!ビクン!ビクン!
「……というか、これ、まだ生きてんのかよ……タフだな。」
奴の額から、そこそこの量の紫色の血が流れ、奴はその前足ですら動かせないであろう状況なのに、それでも未だにヴァルランクスとやらは生きていた。
う~ん、スマホを見るに英雄点もソウルも追加されているから、もう放置してもいいんだけど……
「まあ、きっちり、とどめを刺してやりますか!」
そして、奴に改めてナイフを突き立てようとしたときにそれは起きた。
【ゾクリ】
いやな予感がして、自分はその死体から、急いで身を引こうがそれはもう気付いたときには遅かった。
そいつは、その亡骸の腹を裂いて現れ、辺りに内臓と血を振りまいた。
それに驚く間もなく、それはこちらにとびかかってくる。
自分もただやられるだけではなく、反射的に手に持つナイフをふりあげ、そいつに向かって突き立てたが……
―――……ぐずり
それは無駄であった。
まるで液体のような、ゲルのような、そう、それはまるでスライムのような不定形な緑の体には、ナイフを突き立てるだけのような単純な攻撃ではダメージが与えられなかったのであった。
「……あ。」
自分の攻撃が効かない。
その事実に呆けた隙をそいつは見逃さなかった。
そいつはまずは手から、そのまま腕を伝って、胴体、下半身、そして頸へとまとわりついていった。
「……!やめっ……がぼっ……!!」
それは自分の口の中へと侵入してきた。
次に耳、鼻、そのまま自分の全身を覆すのもあっという間の出来事であった。
―――――……!!……!!
さっきまで、普通に水中ですらできた呼吸ができない!
その事態に半ばパニックを起こしつつ、暴れるがそれは自分の全身を綺麗に覆い尽くしているのだ。そんなことをしても無駄であった。
自分の手からナイフが離れる。
視界のすべてが緑に染まる。
そして、それはとうとう最後の砦と内心期待していたスク水すら、そのスク水と皮膚の間からもぐりこみ、布に覆われていたはずの皮膚でさえ、その粘液の感触が全身を走った。
下半身の前と後ろ、そして、臍という穴でない穴でさえもそいつは躊躇することなく侵入してきて…………
(……これが……自分の最後……か)
僅かの緩んだ涙腺。
力の抜ける四肢。
霞んでゆく思考に絶望を感じながら、自分の思考は闇の中へと沈んでいったのであった。
それに全身覆われながら……