第6話
「……確かにあれは,一見すると貴様にとって不幸な出来事に思えるかもしれないな」
あたりはすっかり明るかった。
上からは太陽の光が、辺りには美しい……とは言い難いがまあ、普通の砂地や岩、海草など,深海の時に比べれば見ることのできる光景が辺りに広がっている。
まあ、それでもここが海中であることには変わらないであろうが、海底にいるのに周りに光が届いているだけでもここまで安心できるものであったのか。
「しかし!それは間違いだと断言してやろう!。
そう,貴様は選ばれたのだ!
いや,確定していた運命支点とでも云おうか……。
どのような道筋であれ,私が生き残ることは確定であったことを考えれば、これは一種貴様自身の運命……いや,存在重力の強さを表しているのかもしれないな」
なんか、後ろでドヤ顔で何かを言っている奴がいるがムシムシ。
手に持つナイフで自分はわれ関せずと、件の猫魚君を解体する。
あ、クラスレベルが上がったからか、これ1匹ぐらいなら、丸々スマホの中に収納できるのか。
けど、細かく分けたほうが元収納できるみたいだし、交換する時もやりやすいから、そうするか。
「だが,驚くなよ!
貴様の存在重力もなかなかだが私のはそれ以上であると断言しておこう!
絶体絶命の危機からの奇跡的な知略!
そして、天文学的確率の出会いと最善の未来を掴み取るというこの栄光の道!
これがこの,驚異の魔道科学者探偵《凶螺》の第3の力といったところだ!
まさしくこれは、神をも超えるだろう選ばれし者の豪運だ!
ふはははははは!称えてもいいのだぞ!!」
……畜生、あれが中から飛び出した時の影響か、内臓がぐちゃぐちゃじゃねぇか。
けど何かに使えるかもしれんし……とりあえず、モツはモツで一通りそろえて、後は、首、皮、骨と肉という感じでそろえるか。
「……む、【ザ・アビス・メッセンジャー】よ、
ちゃんと聞いているか?」
……もしかして、その〈あびすめっせんじゃー〉とやらは自分のことを指しているのだろうか。
いや、きっと、自分ではないな。
うんうん、きっと彼女は自分には見えない、誰かと話しているに違いない。
それじゃあ、邪魔しちゃ悪いからここから去るかと思い背を向ける。
「……な!なに勝手にこちらに背を向けているのだ!!
ちゃんと人の話を聞け!」
が、どうやら、事はそう単純にいかないらしい。
逃げようとした自分だが、移動しようとした瞬間、自分の背後からそれは伸びてきた。
それは自分の腕以上に太い緑色の触手であり、それが自分の胴体にくるくると巻き付く。
そして、それは無理やり自分進行を食い止め、自分の体をぐるりと半回転させた
「ふむ!ようやく、こちらの方を向いたな!
よもや、命の恩人に対してその態度とは、貴様もなかなかの反逆者ぶりだな!」
さて、そこにいたのはある種変態であった。
自分と同じように海中にいるそれは、自分がこの世界に来て初めて見たまともな人間であった。
それは桃色の髪に、自分と同じ……いやそれよりもそこそこ小さい身長。
控えめな胸ではあるものの幼くはあるがそこそこ整った容姿をしている。
そして、さらには自分と同じようにスク水を着用している……所まではいい。
何故かこいつは、それの上に白衣を着ているのだ。海中であるのに。
さらにはゴーグル。ある意味水中では間違っていないといえばいないのだが。
そして、さらにあれなのは、奴の背中あるバッグのような何かと,そこ伸びている左右あわせて6本の触手!
色はライトイエローの透き通っている感じの物であり、今自分に絡みついている触手もそのうちの1本である。
……自分は触手やゲルに対して縁があるのだろうか?いやな縁だなぁ。
「……というか、命の恩人も何も、俺の命の危機を作った原因はお前じゃんかよ。」
おもわず,口から本音がポロリとこぼれてしまったが,その皮肉も目の前にいるやつには通用しなかったらしい。
「っふ!仕方なかろう!
あれはそういう命運だったのだからなぁ!
それに,結果だけを見れば貴様は私と知り合えた上,未来超英雄たる私の手助けができたのだから,いいことづくめではないか!」
……へー,人の海光石の腕輪を壊したり,気絶させたりしたのにそんなこと言っちゃうんですかー……
「……ふふふ、それよりいいのかぁ?そんな口のきき方をしてぇ?
今貴様は自分の立場というものをわかっているのかぁ?
我が魔手はすでに貴様をとらえているのだぞ?私がその気になれば……くくくく!」
おうおう、どうやら向こうはこっちが怒っているのに,なかなか挑戦的な感じらしい。
悪いな、自分は結構大人げない人間だからな、たとえ相手が女子供でも喧嘩を売られたら買う主義なんだ!
そう決意をして、俺は自分の手を自分の腰と触手の間に無理やりもぐりこませ……
「……っふ!」
無理やり力任せに自分にまきついていた、触手を引きはがした。
「……んなっ!」
目の前の少女はそれが予想外だったのか、ぽかんとした口をあけ驚いていた。
ちょっとかわいいけど、それ以上にすっきりしたというのが本音。
一瞬、引きちぎってやろうとも思ったが、そこは自分の中に残された、米粒ほどの良心でやめといてやった。
「……ふ、ふは、ふはははは!そ、それくらいできなければ貴様には資格は与えられないというもの……
って、まて!」
目の前の少女は基本的に懲りない娘のようだ。
なんかあほなことをのたまってるもでそもままスルー・
眼の前の痛い娘とは反対方向へと泳いでいく。
「ふ、ふん!私はお前の装備のスペックをすでにコピーしているのだぞ!
それなのに逃げ切れるとでも……
って、はやっ!」
そういえば,今までは帰り道云々を気にしていたから、全力で泳いだのは初めてだなぁ。
どうやら,自分は予想よりもかなり速く泳げたようだ。
空気の泡が、線のように見えるほどっていうのはさすがに言いすぎかもしれんが。
「っく!ちょ、ま、まて!
わ、分かった!貴様が私より多少は優れている所があるのはわかったから!
い、いったん、私と話をだなぁ……」
後ろから件の少女がおってきているが,どうやら自分の方が泳ぎは早いようだ。
声がどんどん遠くなっていってる。
あ、小魚発見!
ム?逃げるか、ならば競争だな!
位置について……よいどん!
「ま、待って――!!
は、は、話を聞け――聞いてくれーー!!!!」
ふはははは!聞こえんなぁ!
≪これが自分のスク水を着た理由≫
第6話
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初心者用雑談スレ part14
291. 名無しの英雄
そういえば、異世界に来てから掲示板を通してお前らとは話しているけど
実際にはまだあってないなー。
お前らどの辺にいるの?ちょっと様子を見てみたい。
292. 名無しの英雄
俺は【これは規制されてます】て場所にいるよ。
噂だと黄金の都って呼ばれてるかっちょいいところだよ。
……まあ、しゃべれる住民は俺以外にはゾンビしかいないという大きな欠点はあるが。
みんな、気軽に来てもいいんじゃよ?とくにおにゃのことか。
293. 名無しの英雄
こっちはあんまりよくわからんけど、ここの表記だと【鷹壺】とかいう場所らしいよ~。
周りの生き物を鑑定した結果の推察だから不安だけど。
というか、ここ無人島だよー!歩いて半日ぐらいで1周できちゃうよ!
鳥さんしかお友達がいないの(´・ω・`)
294. 名無しの英雄
自分は普通に首都である【これは規制されてます】の巨人の地鳴り亭で冒険者やってるでー。
微妙にパーティにヒーラーが足りないから、回復系スキル持ちの人が来てくれるとうれしいです。
あ、別に前衛か回復系の魔法に適性がある人でもいいよ。【これは規制されてます】があるし。
295. 名無しのローランドゴリラゴリラ
全部規制wwwwww
ダメじゃねぇかwwwwwwww
296. 名無しの英雄
こっちは問題なくすべて読めるで?
ちょっと、知力のステ足りないんじゃない?
って、ゴリラじゃねーか!
297. 名無しの英雄
ゴリラじゃ仕方ねぇなぁwwww
なお、自分は>>294だけは読めたから、セーフですよね?(震え声)
298. 名無しの英雄
ウホッ?ウホウホ?ウッホホホホ?
299. 名無しの英雄
>>295 >>298 バナナ食べる?
300. 名無しのローランドゴリラゴリラ
ゴリラ扱いするのやめれwwww
というか、勝手に名称が変換されてるwwwこれが【これは規制されてます】
の効果かwwww
というか、場所や固有名詞が読めないのは知力ステだけでなく、今現在のそいつの現在地や知っていることとかにもよるらしいで?
だから決して俺が馬鹿だから、この名前なのではry
301. 名無しの英雄
というか、みんなよく場所晒せるな、俺なんて相手軍にもおまいらが存在してるみたいだから、怖くて場所晒せないよ。
まあ、今は停戦中だから雑談ぐらいはするけど。
>>300 ゴリラなのに……知的……だと?
302. 名無しの英雄
>>301 あー、そういう可能性もあるのかぁ。なんか戦争中の場所の奴らはつらそうだなぁ。
>>300 ゴリラは森の賢者だからね。さすがやね。
303. 名無しの英雄
>>302 森の賢者はチンパンの方だろ
304. 名無しの英雄
え?違ったっけ?
というか、森の中でゴリラがスマホをいじっている姿を想像したらものっすごくシュールなんだがwww
305. 名無しの英雄
ウホッ!ウホウホっ!ウッホ―!アーッ!
(約・もしかしたら、テングザルかもしれんぞ?やらないか?)
306. 名無しの英雄
何だこのバナナ臭いスレは!(驚愕)
307. 名無しの英雄
なんということだ……
ここはゴリラスレだったのか
308. 名無しの英雄
行こう……ここもじきにジャングルに沈む
309. 名無しのローランドゴリラゴリラゴリラ
やめーやwwwwww
310. 名無しの英雄
ちょwwwwwwww言ってるそばからwwwwww
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「……【クラス・ゴリラ】って存在するのかなぁ?」
とりあえず,手ごろな岩を見つけたのでそこに座りながら,休憩をとる。
一応,片手でスマホをいじりながら,もう片方の手で食事をとるという最強スタイルだ。
なお,ここは海中なため,食事は味気ない液体ゼリーの食事である。
……この人参味とやら,マジでまっずいなぁ。
今度はちゃんとした味のやつにするか。たしかもうちょっと割高だけどハチミツ味もあったはず。
「はぁっ……はぁっ……」
……途中から加減して泳いでいたが,どうやらこの娘にとってみれば少しばかり自分の泳ぎは早すぎたらしい。
一応,自分はぎりぎり第6感で感知できる距離で泳いでいたわけだが。
「……で,結局用件はなんだ,この変態軟体凌辱少女。」
「……わ,わたしは……はぁ,はぁ,……変態ではない!
はぁ,はぁ,例え……変態だとしても……はぁ,はぁ,変態という名の……マッドサイエンティストだ!
ハァ……ハァ……!!」
マッドサイエンティストは変態の一種ではないのだろうか?
まあ,そんな疑問はさておいて,さすがに(少なくとも今の見た目は)年端もいかない少女が息を切らしているのに何もしないのは自分の良心が許さないので,残り個数に余裕がある液体食料を投げ渡す。
「……いいのか?」
「別に。
あと,うまくはないから,嫌なら無理に食わなくてもいいぞ」
なんか,こちらが食料を投げ渡した事に意外そうな反応を返してきた。
まあ,確かに目の前にいる少女が変人で意味不明な存在とはいえ,まあ,今は理性があるっぽいし。
自分でもかなり甘いということはわかってはいるが。
「……くくく,これが噂に聞く【つんでれ】とかいうやつか!
なかなか,初々しい奴め!」
なんかあほなことを言いながら,嬉しそうに液体食料を飲み始めた。
とりあえず戯言の方は,幼女の言うこととして聞かなかったことにしておく。
うん、そうこいつだよ。
こいつこそが、自分が深海で最後に遭遇した、あの魚猫の腹の中にいたスライムの正体だ。
今はこうして、のんきな顔で液体食料のパックをちゅるちゅる吸っているが、さっきまでこいつがちゅるちゅる吸っていたのが液体食料ではなく自分の前身だったと考えるとなかなか怖気が走るというものだ。
もちろん、形状はスライム状態で、全身穴の中まで。
「とりあえず,自己紹介でもしておくか,おれは……」
「私はすでに知っているぞ!
貴様は【ザ・アビス・メッセンジャー】!
クラスは【海狩人】であろう!
確か,真名は【ニケ】とやらで,確か某所ではスク水の人とか呼ばれているのも貴様!違うか?」
そのすがすがしいまでのドヤ顔に思わず違うと言いたいもののあっているだけに反論できない。
というか,アビスなんちゃらはまだしも、そっちの名前を知っているということは……
「……というか,そのことを知っているということはお前も……」
「そう!私も貴様と同じ,神に選ばれた英雄とやらだ!
まあ,残念ながら,私は神の存在を信じているが信仰はしてないがな!」
異世界で出会った同胞兼知的生物第一号がこいつかぁ……
なんだか,頭が痛くなってきたぞ。
「そうだ!心して聞け!そして平服せよ!
我こそが究極の解答者にして運命の螺旋の厄災であり探求者!
魔道科学者探偵【眼龍院・凶螺】とは私のことだ!!
ふははははははははははははは!!!!!」
思わずこめかみを抑えてしまう。
とりあえず、言いたいことはいろいろあるが、魔道か探偵か科学者どれか一つにしろ。
あと、そういうことを言ってると数年後に公開するぞ。
後は……
「そういう厨二ネームはいいから,本名を教えてくれ。」
「失礼な奴だな!これが本名だ!
ちゃんとスキャンをして確認してからそのような発言をするのだな!」
マジで?
とりあえず、そう思いつつも言われるがままにスマホをそいつに向けてみると……
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【NAME】 凶螺
【クラス】変身術士Lv3 【称号】絶好調
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「マジで【凶螺】っていう名前なんだ。
……というか,神様を何を考えてこんな名前を……」
自分との名前の差にビビる。
ニケと凶螺,ネーミングセンスが変わりすぎだろ。
「なぁに!実は初めはもっとセンスかけらもない名前であったがな!
こちらで勝手に変更してやったわ!」
「え?名前って変更できるの?」
「おう!取引額3000ソウルぐらいの魔道具使えば,貴様ももっとクレイジーでマッドな名前になれるであろう!!
そうだ!北斗七星と荒ぶる龍からとって【ドラグノス・七星・ニケ】なんてどうだ!」
……こいつあほだ。
それだけのソウルあれば,もっと有意義なものや武器が買えたであろうに、何やってんのこの娘。
というか眼龍院といい,ドラグノスといい,龍が好きなのだろうか?どうでもいいことだが。
「……あ,変身術師っていうのは?」
「まあ,簡単に言えば,相手や自分を動物やら道具やらに変身したりさせたりできるクラスらしい。
今私が着ているこの水着しかり,背中からの魔手しかり,そして,深海でお前を丸呑みにした軟体状態しかり……な!」
なんとなくは察していたが目の前の娘は魔法使いっぽい感じの娘らしい,しかもかなり際物の類の。
まあ,自分が憧れるのは手から稲妻や炎を出す感じの魔法使いなのでそこまでうらやましくもないが。
「この世界についたときは,水中適性がないのに海中のど真ん中でな。
とっさに,魚やら寄生虫やらなんやらに変身して難を逃れていたのだが……
いかんせん,魚や虫に変身すると知力が下がってしまうらしく,思うように頭が働かず,難儀していたところだったのだ
まあ,そのような状態で運よく深海という場所であるにもかかわらず,お前の水着の情報……人型のまま水中適性を得られる術を得られたのは行幸だったな。」
ついでに言うと変身対象にはよく接触したり、詳しく知っているものでないと変身できないらしい。
だからこそ、あんな深海でいきなり自分に向かって覆いかぶさって来たんだとよ。
「……けど、わざわざ、それなら全身覆う程度で穴にまで侵入する必要なかったねーか。
それさえなければ俺が気絶して、ここまで流されることも。
肺にスライムが入ってくる恐怖にさいなまれることもなかったじゃん!」
「仕方ないであろう!あの形状だと知力はほぼ最低値に近いのだ!
間違って、繁殖や寄生、捕食しなかっただけ、私の知力の高さに感心するところだぞここわ!」
おい、捕食はまだしも、寄生に繁殖ってなんだよ。
どう見ても【見せられないよ!】になっちゃう一歩手前やん。
「それに、確か掲示板の情報だと貴様は元男なのだろう?
なら,セーフではないか,私はちゃんとした前世も今世も女だ。
それに,あれはあくまで私が貴様の体データと水着のデータを取るためだ。
ホモにはならない。」
「そういう問題じゃないんだよなぁ……」
なんかずれたことをことを言っているよこいつ……
ちょっと掲示板に変態に絡まれたとかいうスレを立てたくなってくるレベルで。
内心ちょっとだけ元男の変態に絡まれたよりは女の娘相手でよかったと安心してる自分の思考が憎い。
「で,だ。そろそろ本題にはいるぞ!」
え,お前の方からそれ云うの?
「ありえないくらいの幸運で貴様は私と出会ったわけではあるが……
貴様は本当に運がいい!!
なぜなら,お前は私に貸しを作ることができたのだからな!」
「で,なに?それなら,まずは壊した海光石の腕輪の弁償と帰り道の確保をしてほしいんだが。」
「う……い,いますぐは……
今はつい先ほどこのゴーグルを買ってしまって1ソウルも残ってないのだ。
食事すら買えん。」
なんというダメな娘,無計画ってレベルじゃねーぞ!
というか,さっき渡した液体食料は地味にまずいのに容器がペタンコになるまでキレイに食べきったのはそういうわけか。
「そ,そんなものはどうでもいい!
それよりも!そんな些細なものよりももっと素晴らしい物を貴様にやろう!
そう!貴様には特別に私の【助手】になる栄誉をやろう!!」
彼女はそう高らかにポーズを決めながら、こちらに向かって叫んだ!
……が,ある意味その言葉は自分にとって予想通りであり、当然自分の口から洩れたのは……
「……はぁ」
そんな感じの気の抜けた溜息だけであった。




