結子からの手紙
妻の結子が亡くなった数年後、化粧台の引き出しから見つかった手紙。
元一さんへ
いつの間にか、窓から見える木々の葉の色がだいぶ明るい色になってきたわ。
この季節のなると思い出すことがあるの。
あなたは私が紅葉が好きだと思っているでしょう?
いつも木々の葉が紅くなり始めると、「紅葉狩りに行こう」と私が言うものね。
実は私は春の花のほうが好きなのよ?
でもね、どうしても秋になるとあなたと出かけたくなるの。
最初にあなたとデートしたのはこの時期だったから。
それに、あなたは嫌がるかもしれないけれど、紅葉はあなたに似合う色なのよ。
いつもあなたはシックな色しか着ないけど、本当は赤やオレンジも似合う人。だから、私は紅葉を背景にあなたを見たいの。
でも、あなたは山登りが嫌いでしょう? いつもどこかに行こうと言うと、一緒に行ってくれたけど、本当は車で行けるようなところじゃないと、嫌なのを知ってる。
だから、あなたとの新婚旅行は、秋の京都に決めたの。紅葉の綺麗なところが、いっぱいあるからね。
あなたは私が着物を着て京都を歩きたいって言ったの、形から入ってるって思っているでしょう?
それも少しはあったけど、本当は一番綺麗な私を見てほしかったから。
あなたは結婚が決まったら、お義兄さんにカメラの撮り方を教わっていたでしょう?
それも新しいカメラも買って。
だから、一番綺麗な私を撮ってもらいたくて、着付け教室に通ったの。
着物は成人になったお祝いに母が用意してくれた留袖。成人式がなかった私に母がわざわざ用意してくれたもの。いつか綺麗な風景の前で着てみたいなって思っていたのよ。
京都に着いて、二日目は念願の着物を着て散策したわね。着物で歩くのが少し気恥ずかしかったけど、私を見るたび、ずっと照れ臭そうにしているあなたが見れてうれしかった。
着物を着るのは二日目って決めていた。紅葉の名所をゆっくり散策できたほうがあなたは喜ぶと思ったの。
せっかく買ったカメラで、色々撮りたいだろうし、その姿を見ていたい。
だって、私、あなたの真剣な横顔、好きだったから。
紅葉の綺麗な場所で一枚撮ろうと言ってくれたよね。
その時、風が吹いたの、覚えてる?
いろいろな色の葉っぱが舞い落ちて、とても綺麗だった。
振り返ったら、あなたはそのタイミングで撮っていたでしょう?
私は不細工な顔で写ってしまっただろうから怒ったけど、あの一枚はどうしたの?
旅行から帰った時、見せてくれた写真の中には入っていなかった。
きっと、すごく不細工な顔だったから、見せないように捨ててくれたのかな?
旅行はいろいろなところに行ったけど、やっぱり新婚旅行は緊張もしたけど特別楽しかった。
あれから、ずっとあなたと一緒にいられて良かった。喧嘩もしたけど、私はすぐ理由忘れちゃうの。結局、あなたが先に謝ってくれて、その後よく笑ったよね。
二人の子供は手がかかったけれど、今は落ち着いているみたいで良かった。
特に始は大変だったわね。
初香はもう少し、大人になって欲しいかな。
いつまで、みんなと一緒にいられるかしら?
先が短いのがわかるの。
体が思うように動かなくなってきている。
だいぶ、言葉も出なくなってきてしまったわ。
こうして文字を書くのも辛くなってきたの。
その事にイライラして、あなたに当たってしまってごめんなさい。
でも、どんな時も、どんな事をしてもあなたは優しかったわね。
本当に感謝している。それが言葉にできなくなってしまった事がもどかしい。
あなたの妻になれて良かった。
私は幸せよ。
私がいなくなっても、その素敵な笑顔を絶やさずにいてね。元一さん。
結子
ここまで読んでいただきありがとうございます。
日記と手紙形式で書いてみました。




